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2021.03.08
【2021秋冬NYコレ ハイライト2】「アメリカン・コレクションズ・カレンダー」世界各地のイベントに合わせて開催
(左から)「トム フォード」「コーチ」「3.1 フィリップ リム」
CFDA(アメリカファッション協議会)は、「ニューヨーク・ファッションウィーク」の名称を「アメリカン・コレクションズ・カレンダー」に変更すると発表したが、実際にニューヨークコレクションの時期(2021年2月12〜18日)からずれて、ミラノコレクションやパリコレクションの時期に合わせて配信するアメリカンブランドも複数あった。
今季のコレクションで各ブランドが賢明に策を練ったのは、コロナ後の未来予想図だろう。人々がまた出歩けるようになった時に、どのようなファッションを手にするか。はたして今年後半にはリベンジ消費で、人々が着飾りたい欲を満たしてくれるファッションを手にするのか。あるいは自粛で慣れたリラックスモードが主流となるのか。
2021秋冬コレクションには、各ブランドが描くビジョンがはっきりと映し出されているのが興味深いところだ。ここでは、ニューヨークコレクションの期間外に行われた「アメリカン・コレクションズ・カレンダー」をハイライトでご紹介しよう。
トム フォード(TOM FORD)
「バッドアス(飛びぬけたカッコよさ)に魅かれない人はいるだろうか?特にこの1年間の自宅監禁後に」トム・フォードは3月1日にCFDA360のサイトで、2021秋冬コレクションをオンラインで発表したが、創作ノートにはこのように記されている。バッドアスというのは、英語で「最高」「カッコいい」といった意味だが、タフで手強いといったイメージになる。まさにその言葉通り、今季はセクシーなパワードレッシングが花咲いた。
柱となるスタイルのひとつが、チュールなど手の込んで繊細なジャケットやトップスに、ブリーチウォッシュのカットオフジーンズを組みあわせる着こなしで、ラグジュアリーとカジュアルさを混在させてみせた。今季のミューズに、60年代のアイコンであるイ−ディ・セジウィックを挙げているが、レングスはミニが圧倒的で、ぎりぎりまで短いミニスカートやショートパンツ、カクテルミニドレスが並ぶ。
カシミアのピーコートやポロコートの下にカシミアのランジェリーだけつけるという挑発的なスタイリングも披露した。タイトなミニやショーツに合わせるのは、上半身をビッグにしたシルエットで、ベルベットのダウン、ボマージャケット、フェイクファーのフードパーカ、モヘヤのゆったりしたセーターなどが登場する。シャンテリーレースをトップや体にフィットしたマイクロミニドレス、レギンスなどに使用して、セクシーさを打ち出す。
一方、「トム フォード」らしいシャープなテーラーリングは、ジャケットに存分に生かされた。ダブルブレストでピークラベルのジャケットは金ボタンが飾られ、モアレベルベットのジャケット、タキシードジャケット、ラメのピークラベルジャケットが目をひく。元はスティロットパンプスやブーツと、攻めのセクシーを打ち出す。
60年代〜70年代のテイストを色濃く出しながら、ミニスカートやパンツの前面、あるいはパンプスやバッグに80年代風にゴールドチェーンをあしらい、ビッグなイヤリングを合わせた。パンデミック後の暮らしに、パワフルなセクシーさを掲げた「トム フォード」の世界観がいかんなく発揮された。
コーチ(COACH)
「コーチ」は2月23日、スチュアート・ヴィヴァースによる2021秋冬コレクション「コーチ・フォエバー・シーズン2」をオンラインで発表した。このコレクションは、ブランドのチャンネルである「コーチTV」で公開された。
ムービーとルックブックは、フォトグラファーのユルゲン・テラーが監督。またプレショーの短いフィルムは、アメリカの往年のTVショッピング番組などをパロディにしたもので、ジェニファー・ロペスがブロンディの「コール・ミー」で踊ったり、マイケルBジョーダンが探偵シャフトのように登場したりといったノスタルジックで、ユーモアの効いたものとなっている。過去、現在、未来をミックスさせるというスチュアート・ヴィヴァースのビジョンが反映した世界観だ。
今季は「癒しを与えてくれるもの」について語られる内容で、鉢植えを運んだり、アルパカを連れたりといった、ほのぼのした世界がつづられる。ニットの上に薄いドレスを重ねるといったレイヤードした着こなしやルーズなシルエットが提案され、レトロな編み込みニット、ネコの刺繍がついたニット、Tシャツやバッグに施されたふしぎな生き物たちといったポップなモチーフが繰り出される。
またアメリカのレザージャケットで著名な「ショット(SCHOTT)」とのコラボレーションにより制作されたオーバーサイズのシアリングコートやレザージャケットが登場。メンズではニットパネルブルゾンが目をひいた。足元はふかふかのスリッパやレインブーツといったリラックス感あるスタイリングを見せた。
リモート撮影したプレゼンテーションには、ジェニファー・ロペス、カイア・ガーバー、マイケル・B. ジョーダン、水原希子、ミーガン・ジー・スタリオン、コーデ−、ヒュンアらが登場している。今どきのオンラインスターをフューチャーして、アメリカンポップカルチャーを、今の空気感でアップデートした世界を披露した。
3.1 フィリップ リム(3.1 Phillip Lim)
「3.1 フィリップ リム」はオンラインでルックブックを発表した。テーラーリングに定評のある「3.1 フィリップ リム」だが、今季はアメリカンスポーツウェアの機能性と、モダンなディテールの融合が魅力的だ。
シルエットは全体的にリーン&ロングで、70年代のヴァイブを感じさせる。ジャケットやスカート、太い畝のコーデュロイのブルゾンとスカートのセットアップでは、スカートに大胆なスリットをいれてみせた。またメンズライクなオーバーサイズのジャケットとパンツのスーツは、パンツをテイパードにして軽やかさを出した。その一方、ニットは体にフィットしたスリムなシルエットでフェミニンさがあり、「3.1 フィリップ リム」らしいマスキュランとフェミニンが混じった世界を提示した。
目をひくのは「穴の空いた」モチーフで、穴あき加工を施したトップスやレギンスからは肌が見えて、新鮮な着こなしとなっている。また布を小さく巻いた立体的な飾りつけを施したコートなど、ディテールにこだわりが見える。ニットの胸当てを巻いたり、リボンタイをあしらったりするなど、高い位置にアクセントを置いたスタイリングを提案。
クラシックなアメリカンスポーツウェアでありながら、モダンな味つけがミックスしているあたり、新しい時代のオフィスウェアにも、トレンディな街着にも使えるスタイルといえるだろう。
アルチュザラ(Altuzarra)
パリコレクションに合わせた3月6日に、2021秋冬コレクションをムービー形式で発表した。タウンハウスを舞台にして、静謐な暮らしをする女性が描かれるが、ジョセフ・アルチュザラは「サナギが蝶になるという物語」を思い浮かべて、蝶の羽の写真をコラージュしたプリントを制作したという。そのインスピレーションがコレクション全体を通して表現されていて、コクーンを思わせる暖かそうなラップコートや太いゲージのニットが登場して、そこから蝶のようなフェミニンなプリントドレスが現れてくる。
色彩はクリームやキャメル、グレーといった落ちついたニュートラルカラーを主流としながら、タイダイプリント、赤のプリントドレスなどの鮮やかなカラーが差しこまれる。シルエットはロング&リーンで、床につくマキシ丈が多い。ウエストを絞ったジャケットには、極端にワイドレッグのパンツを合わせてみせた。オックスブラッド色のレザーのジャケットやドレスはウエストを絞ってセンシュアルだ。足元はパールをあしらった繊細な編みサンダルで、全体にコンフォートを感じさせながら、繊細な美しさをちりばめたコレクションとなった。
「アメリカン・コレクションズ・カレンダー」に参加したブランドの発表は今後も続く。「マイケル・コース(MICHAEL KORS)」は、40周年記念ショーを4月20日にライブ配信を予定。「トリー バーチ(TORY BURCH)」らもルックブックの発表などを予定している。
取材・文:黒部エリ
「ニューヨーク」2021秋冬コレクション