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2021.03.05

【2021秋冬パリコレ ハイライト1】デジタルでの発表により新規組が増える 注目集めるクロエら新ディレクターによるコレクション発表

左からマリーンセル、クロエ、クレージュ

 精鋭教育で知られるモード学校のIFMの卒業コレクションがオープニングを飾り、異例のスタートとなった今季。長年ショーを行っていなかったレザーアイテムで知られる「ジトロワ(Jitrois .)」ここ数年のブランクがあるパリのカジュアルブランド、「ザディグ エ ヴォルテール(ZADIG & VOLTAIRE)」やバルバラ・ビュイ、ジョージ・ルックスをアーティスティック・ディレクターに迎えて再スタートとなった「レオナール(LEONARD)」など、中堅だがフランスでは認知度の高いブランドが再参入するケースが目立っている。

 

 また初参加となる「ワタル トミナガ(WATARU TOMINAGA)」や、レディースとして初コレクションを発表する「タカヒロミヤシタザソロイスト.(TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.)」、そして公式スケジュール上では初となる「ウジョー(Ujoh)」など、日本の新規組も目を引く。

 

 どうしてここまで参加ブランドが増えたのか。主催のクチュール組合に登録料を払い、審査を受ければ、大掛かりなショーを開催せずにスケジュール上でコレクションを発表できるようになったためで、コロナ禍によってパリコレクションの門戸が広く開かれた結果、と言っても良いだろう。ただ、「サンローラン(SAINT LAURENT)」、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」、「アレキサンダー マックイーン(Alexander McQueen)」といったケリング組、あるいは「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」は依然として参加を見合わせ、元ケリングの「ステラ マッカートニー(Stella McCartney)」も今季はスケジュール上に見当たらない。

 

 ニコラス・デ・フェリーチェがアーティスティック・ディレクターに就任した「クレージュ(Courrèges)」、ガブリエラ・ハーストによる「クロエ(Chloé)」など、新任組のブランドにも注目していきたい。

ワタル トミナガ(WATARU TOMINAGA)

 富永航による「ワタル トミナガ」は、このブランドらしい明るくポップな配色のカジュアルアイテムで構成したコレクションを発表。

 

 富永航は、武蔵野美術大学、文化服装学院、セントラル・セント・マーティンズを経て、チェルシー・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインズ時代の2016年にイエール・フェスティバルでグランプリを獲得。その後はアートに携わり、昨年、自らのブランドをスタートさせている。

 

 ロードレースのワンシーンをジャカードで表現したニット、所々かすれたようなサイケデリックなフローラルプリントのパーカ、野山のイラストをプリントしたセットアップ、海辺の街のスナップショットをコラージュしたプリントのトレーナー。互いに関連性の見えないモチーフが集積され、摩訶不思議な雰囲気だ。

 

 20ルック程のミニコレクションだったが、彼らしい強い世界観を打ち出しており、来季に期待を抱かせるコレクションとなっていた。

マリーン セル(Marine Serre)

 前シーズンはSF映画のようなイメージフィルムを制作した「マリーン セル」は、今季、市井の人々の装いをアップサイクルされた素材で表現したコレクションを発表。自らのホームページで、微に入り細を穿つ構成でコレクション全体を巧みに見せている。

 

 自身のファッション哲学についての朗読を聞き、下にスクロールすると、モデル達のそれぞれの日常を写したムービーのサムネイルが目に入る。例えば、長く「サンローラン」のモデルを務めてきたアマリアをタッチすると、ポン・ヌフ界隈とホテルでの様子を捉えた映像が流れ、それぞれの素材、再生スカーフと再生デニムについてのドキュメンタリー、そしてそれらをあしらった全ルックを閲覧可能だ。

 

 再生フリースベッドカバー、再生テーラリング、再生レザーなど、今季は特にアップサイクル素材をあしらっていることが強調されている。ただし、一昔前の経年劣化をそのまま残したリサイクルアイテムとは違う、洗練された手法で制作していることが伝わってくる内容で興味深い。ホームページでの新たな表現方法も加わったことで、「マリーン セル」の強い個性を携えたカジュアルドレッシーなアイテムの魅力が余すことなく伝わってくる内容となった。

マメ クロゴウチ(Mame Kurogouchi)

 黒河内真衣子によるマメ クロゴウチは、月夜、窓から入る夜の光と影など、夜のイメージからインスピレーションを得ている。前シーズンも窓から着想を得ていたが、それが朝・昼の陽のイメージだったとすると、今回は陰の側面を漂わせていた。

 

 プリーツのシャツドレスは、山部分を板締め絞りで滲んだように染めて有機的な仕上がり。機械によるプリーツとのコントラストが興味深い。異素材使いのスポーティなブルゾンとブレードで縁取ったフローラルプリントのドレス。それぞれ、有機質と無機質の対比が絶妙なバランスを生む。京都の泥染めによるマーブルプリントのドレス、あるいはスーツも、日本の伝統技術を用いたモダンで新鮮な作品。このブランドならではのシックな美しさを体現している。

 

 昨シーズンに引き続き、奥山由之によるムービーも同時に披露されたが、窓を思わせるフレームを配して巧みなカメラワークを見せ、前作とは全く異なる雰囲気で目を楽しませた。

コシェ(KOCHÉ)

 クリステル・コーシェによる「コシェ」は、“Bird of paradise”と題したコレクションを発表。フェニックスのプリントや、羽のモチーフ、あるいは羽根刺繍など、それぞれのアイテム・ルックに鳥の要素を散りばめている。

 

 ベルベット素材にビニールプリントを施したアシメトリードレスや、プリントのパッチワークドレスには、それぞれフェニックスを思わせる羽のモチーフを象徴的に配しているものの、鳥のイメージを直接的にあしらうのではなく、よりグラフィカルにアレンジしている。ニットジャージーのワンピースやジャンプスーツに至っては、一見ゼブラ柄に見えるが、フェニックスの羽を解釈したもの。

 

 Tシャツの肩やファーの両端に施された羽根刺繍は、クリステル自身がディレクターを務める「シャネル(CHANEL)」傘下の羽工房ルマリエによるもの。

 

丸く削って下地の色を出しながら亀甲型モチーフにしたレザーのブルゾンやコート、ラメで迷彩を表現したジャカード素材のセットアップなど、このブランドならではの凝った素材使いも目を引いた。

クロエ(Chloé)

 サン・ジェルマン・デ・プレの老舗ブラッスリー「リップ」と、その界隈をランウェイに見立てたショー映像を公開した「クロエ」。ガブリエラ・ハーストがアーティスティック・ディレクターに就任して初のコレクションとなる。

 

 ガブリエラはウルグアイ出身で、自身の家族が運営する牧場で生産されるウールやカシミアなどをあしらったコレクションを、2015年よりニューヨークで発表。エココンシャスでエシカルなブランドとして知られてきたが、今季の「クロエ」でも、彼女の哲学とバックボーンはそのまま生かされている。

 

 オープニングを飾るワイルドなポンチョ風のコートは、ウルグアイ出身のガブリエラらしい作品。また、ホームレスに寝袋を提供する非営利団体であるシェルタースーツとのコラボレーションによるブルゾンは、アップサイクルされた素材によるものだ。それぞれ、これまでの「クロエ」の流れを汲んでいるとは言い難く、非常に冒険的・実験的なアイテムでもある。

 

 ベージュやオフホワイト、アーシーブラウンといった「クロエ」らしい色使いのシックなアイテムと、60年代のヴィンテージを思わせるレザーパッチワークのアイテムなど、それぞれ見所も多く、充実したコレクションとなっていた。今後ガブリエラの作風と、「クロエ」というブランドの持つムードがどのように融合していくのかを興味深く見守りたい。

ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)

 デンマークの写真家キャスパー・セイェルセンによる、コンテンポラリーダンスを思わせるムービーを公開した「ドリス ヴァン ノッテン」。同郷のコレグラファー、アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマケルとのコラボレーションを想起させたが、特に今シーズンはペドロ・アルモドヴァル監督作に登場する情熱的で誇張された女性たち、あるいはピナ・バウシュ作品で描かれる優美な破壊力を持ち合わせた女性美をイメージしているという。

 

 イヴ・クラインのブルー、アルモドヴァル作品をイメージさせるレッド、ジェフ・クーンズのピンク、そしてヨーゼフ・ボイスのフェルト作品のグレーがカラーパレット。

 

 バギーパンツを合わせたスーツや、デニムのスリーブレスブルゾンなど、ヴィンテージ風のシンプルなアイテムには、コントラストとして刺繍やプリント作品を期待するが、今季の刺繍アイテムについては少な目だ。総スパンコール刺繍のドレスや、花火のようなモチーフを刺繍したドレスなど、数を絞っている。ただその分、トロンプルイユ(だまし絵)のプリントアイテム群が目新しい。

 

 そのあしらいは大胆。ショールを巻いたかのように見えるプリントコート、プリーツ素材をはめ込んだ異素材使いに見えるドレス、ピンクのオーガンザをプリントし、ピンクのオーガンザのブラウスを合わせたルックなど、このブランドらしいインテリジェントな遊びを感じさせ、是非間近で見てみたいと思わせるアイテムだった。

アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)

 ジョニー・ヨハンソンによる「アクネ ストゥディオズ」は、ホームウェアを思わせる素材感・シルエットのアイテムでコレクションを構成。パジャマやガウンなどがデイウェアとして新解釈されている。

 

 タオルのようなパイル地風のジャージーによるセットアップ、バスローブのようなフローラルプリントのコートなど、家からそのままの姿で出てきたような、しかし「アクネ ストゥディオズ」らしいシルエットとディテールが新鮮。そして絶妙な脱力感を漂わせる。所々脱色させたフローラルプリントのシャツドレスや、プリントを施したジャカード素材のジャンプスーツなど、無造作に布を巻き付けたかのようだったり、サイズ感を無視して作られたかのようだったり。そのクラフト感も「アクネ ストゥディオズ」ならではだ。

 

 ローゲージニットのセットアップや、唐突に登場したヒツジのオブジェなど、ユルさを随所に散りばめながら、美しくカッティングされたリトルブラックドレスが目を引く。その適当さはもちろん周到に計画された演出であり、大人の遊びに付き合わされた時の心地良さは今季も健在だった。

クレージュ(Courrèges)

 昨年アーティスティック・ディレクターにニコラス・デ・フェリーチェを迎え、アーカイブをアップデートしたコレクションを発表していた「クレージュ」は、今季、本格的なラインを披露している。

 

 ニコラス・デ・フェリーチェは、ベルギー出身の37歳。ブリュッセルのモード学校ラ・カンブルを卒業し、ニコラ・ジェスキエール率いる「バレンシアガ」と「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」、そしてラフ・シモンズが手掛けていた「ディオール」でアシスタントを務めてきた。

 

 今季は、18区のポルト・ドベールヴィリエに位置する旧国鉄駅であるギャール・ドゥ・ミーヌに大きな箱型のランウェイを設置して、無観客で行ったランウェイショーのムービーも公開している。 

 

 コレクションタイトルは“I can feel your heartbeat”。「クレージュ」全盛時代のアーカイブの要素を取り入れつつも、現在のライフスタイルに合わせてシンプルかつスポーティなアイテムで構成。チェックや「クレージュ」のロゴ、ドレスなどに見られたサークル型のホール以外は装飾的な要素は見当たらず、極限まで削ぎ落しミニマリズムを強調。遊びの要素を満載したクレージュ夫妻の全盛時代からすると、飛び切りストイックで厳格な印象を与えた。

パトゥ(PATOU)

 ギョーム・アンリによる「パトゥ」は、前シーズンからの北アフリカのエスニックな要素を残しながら、サイケデリックなプリントとモチーフで、60~70年代風の享楽的な世界観を構築。昨シーズン同様、今季もリサイクルポリエステルを使用し、サステナビリティを意識した姿勢を見せた。

 

 サイケデリックなプリントのセットアップには、ギピュールレースの襟とフェザーを飾り、サイケデリックプリントのベストとスカートにはジゴ袖のドレスをコーディネート。創始者ジャン・パトゥのクチュールライクなスタイルに、ヴィンテージ、あるいはアンティークのエッセンスを加えつつ、オーバーシルエットに仕立ててモダンに解釈。更に大振りのピアスやネックレスやスパングルのカチューシャ、エキゾチックなモチーフの刺繍などにより、エスニックな空気感をまとわせ、新たなパトゥ像を打ち出している。

ビューティフル ピープル(BEAUTIFUL PEOPLE)

 熊切秀典による「ビューティフル ピープル」は、“Side-C Vol.6 DOUBLE-END”と題したコレクションを発表。ムービーでは冨永愛をフィーチャーし、1つのアイテムを一人二役で二通りの着こなしを見せるという演出が目を引いた。

 

 タイトルにもあるダブルエンドというワードは、上下逆さまにする、あるいはひっくり返して着用可能なアイテムを象徴。

 

 表裏の無いスリップドレス、上下の無い綿入りジャケット、襟がヘムになるホワイトシャツ、ロングにもセミロングにもなるトレンチなど、それぞれが違和感なくルックとして成立している。

 

 このブランドがこれまでに打ち出してきた「視点の変換」によるアイテムの、一つの完成形を見せていた。

 

 

 

 今季は、コロナ禍により全てデジタル配信となって初のパリコレクションである。発表形式はそれぞれのブランドによって異なり、ルックブック画像のみの発表が一番シンプルだとしたら、ランウェイショーを撮影したムービー、そして映画さながらのムービーの制作と段階が進む。昨年のオートクチュールで、「ディオール」が映画監督を迎えてショートムービーを制作して以来、特別感溢れる映像が注目を集めた。しかし、集中的に服を見せるという目的を叶えるには、やはりランウェイショーを撮影したムービーが適しており、今後はシンプルな形態になっていくのかもしれない。

 

 まだ会期半ばではあるものの、これまでに印象的だったムービー・発表形式が、「ドリス ヴァン ノッテン」と「マリーン セル」の2組である。

 

 3日間をかけてアントワープの劇場でダンサーと数人のモデル、計47人のパフォーマーを集めて撮影された「ドリス ヴァン ノッテン」のムービーには、ヴィム・ヴァンデキビュスやシディ・ラルビ・シェルカウイなど、パリのコンテンポラリーダンスの殿堂であるテアトル・ドゥ・ラ・ヴィルでも公演を重ねる気鋭のコレグラファーが参加。そのまま公演を見ているかのような興奮を覚えたのだった。

 

 「マリーン セル」は、自身のコレクションを詳細に見せるため、モデルと素材のドキュメンタリーフィルムを準備し、ルックブック画像と共にホームページで全て閲覧可能にした。今後、このアイデアを流用するブランドが出てくるかもしれない。

 

 しかし、服をテンポ良く見せるムービーとしては、奥山由之による「マメ クロゴウチ」のムービーは構成も編集も秀逸だった。また、サン・ジェルマン大通りとボナパルト通りをランウェイとして使った「クロエ」も印象的。これはコロナ禍でなかったら実現しなかった映像である。最後に刺繍&パッチワークのコートをまとい、モデル然として登場したガブリエラ・ハーストの姿も印象的。これらは全てネット上で見られるので、是非ご覧頂きたい。

 

取材・文:清水友顕(Text by Tomoaki Shimizu)

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