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2021.03.12

創業から半世紀を越える老舗ニット原糸メーカーが挑戦、「残糸」を活用したサステナブルブランド

Text By: AIR編集部

 1969年大阪、繊維のまち「泉大津」で日本全国のニット工場に向けて、ニット原糸の製造・販売事業で創業した澤田株式会社。後にアパレル企業向けに、OEM事業をスタートし、OEMの製造拠点は日本の他、中国、ベトナムで展開、海外市場向けの販売拠点は香港、上海、ニューヨークに営業所を設立しています。

 

 2010年頃、自社ブランド「ADAWAS(アダワス)」を開始。2018年には廃棄される糸を再利用したニットブランド「KNOT YET(ノットイェット)」の立ち上げ、2020年には残糸販売アウトレット「もったいない糸」そして、土に還る素材を利用した循環型のサステナブルニットウェアブランド「NETENE.(ネテネ)」の2つの新規事業を発足しています。

 

 今回は、同社の代表取締役社長 澤田 誠氏(以下、澤田氏)、NETENE.の担当者、森川 卓氏(以下、森川氏)、もったいない糸の担当者、上田 健太氏(以下、上田氏)に、同社のサステナブルブランドの取り組み、サステナブル事業に対する考え方、および今後の事業展開について詳細を伺いました。

NETENE.の担当者 森川 卓氏(左)

澤田株式会社 代表取締役社長 澤田 誠氏(中央)

もったいない糸の担当者 上田 健太氏(右)

それではまず、「NETENE.(ネテネ)」を立ち上げたきっかけについて、お聞かせください。

澤田氏:

 もともとのブランド始まりは、弊社が持つニューヨークの営業所で、現地の日本人パートナーとサステナブルブランドの企画が上がったことがきっかけです。世界中でサスティナブル、エシカルという考え方が求められています。人と地球にやさしく心地よい素材を使い長く大切に使ってもらえるモノ作りを目指しNETENE.を立ち上げました。

「NETENE.(ネテネ)」の公式サイトより

「NETENE.(ネテネ)」のコンセプトには、「土に還る」という言葉が掲げられていますが、素材開発の背景にはどういった工夫があるのでしょうか?

森川氏:

 弊社では、糸やニット製品の製造だけでなく、ニット原糸を販売する背景もあることから、社内の企画担当と話し合い、他社にはない糸を生産・活用してオリジナル商品をお客様にお届けするというコンセプトでブランドをスタートしました。素材については、数年前にニューヨークの展示会に出展していた時から、サステナビリティやSDGsに関する取り組みが今後弊社の事業展開にとって重要なヒントだと実感していました。

 

 そこで土に還るという特徴を持ち、とても肌触りの良いキュプラと綿の混紡糸を開発いたしました。(一定期間、土に植えておくと、土に還る性質)。そして、ブランドとしてスタートを切る上で最も後押しとなったのは、OEM生産よりも、自社の糸を使った商品の方が、比較的低コストかつ、D2Cモデルとしてお客様にリーズナブルな価格で直接提供できるということです。最終的には社内にもしっかり利益が残せるという点で社内でも支持を受けスタートしました。

実際にお客様の反応はどうでしょうか?また、御社の様々な商品の中から、お客様がサステナブルなNETENE.の商品を選ぶ理由について、御社としてはどう受け止めていますか。

森川氏:

 そうですね、特にブラフレンドリー、コンフォータブルパンツといった商品が比較的好評で、お客様からオーダーを頂くようになりました。販売の中心はECサイトですが、昨年ポップアップストアの実施もしました。当面はECを中心に、定期的にポップアップストアも展開していく予定です。お客様がサステナブルな商品を選ぶ理由に関しては、アパレル業界においても、大量生産、大量廃棄といったニュースや情報が社会全体に浸透してきたこともあり、NETENE.のコンセプトに共感して頂けるお客様の認知度が広がってきていると実感しています。さらには、そこから環境問題に関心を持つお客様が少しでも増えていってほしいと思っています。

なるほど、では「もったいない糸」についても、お客様の反応について教えてください。

上田氏:

 もったいない糸も少しずつお客様からのオーダーが増えてきました。ご購入して頂いたお客様に、商品に対する感想などをメールで伺ったところ、ご家庭で手編みなどに利用される方が多いようです。また、他の手芸屋さんで買うよりも、もったいない糸の方がお得感があるという声を頂きました。ご利用いただいているお客様には全体的に満足いただけている印象でした。

 

「もったいない糸」の公式ECサイトで販売されている商品

捨てる予定の糸をお手頃な価格でお客様に提供するという発想のきっかけは何でしたか?

森川氏:

 澤田会長と澤田社長は年に2回の社内大掃除を大事にしておりまして、その掃除の際、使い終わった糸を織物や手芸のワークショップへ提供し再利用する取り組みがあります。捨てる予定の糸とはいえ、まだ状態が綺麗なものも多く、それこそコロナ禍では、ご家庭で手芸などに使っていただけるのではないか、という発想に至りました。そして、お手頃な価格でお客様にお届けできれば、お客様にとっても、弊社にとってもWin-Winなのではないか、と考えたのがきっかけです。その後は、コロナによってご家庭での手芸やマスクのDIYの需要が増えたことを受け、弊社の1階のスペースを活用して、手芸の先生を招いたワークショップを開催するといった取り組みも実施しています。

サステナブルの取り組みについて、もう少し深くお聞かせください。近年、多くのアパレル企業がサステナブルな取り組みを実施しているものの、なかなか川上(原料、生産工程)から川下(販売)までの一連の工程でサステナビリティを実現することが難しいという話をよく聞きます。そのような中で御社の場合、サステナブルな取り組みはどこまで浸透しているのでしょうか?

澤田氏:

 現状を率直に伝えますと、原料開発から製造工程まで、100%サステナビリティを実現しているとは言い切れないのですが、それを目標として、社内でできる範囲を決めて取り組んでいるところです。例えば、NETENE.で使用している糸のキュプラは廃棄されていた綿花の種にある産毛から繊維になります。このようなところから少しずつ進めています。

 

 新型コロナウイルスもある種きっかけとなっていて、工場では稼働時間が多少減少しました。そこで、その時間をお客様に何か新しい価値を提供できないかと社員と考え、これまで自社ではやったことのないEC事業、そしてNETENE.ともったいない糸のサイトを立ち上げるという新しい取り組みに挑戦することができました。

公式ECサイト「SAWADAマルシェ」ではニットの子供服も展開

最後に、サステナブルな取り組みに興味があるアパレル企業へのヒントとして、御社が取り組んでいる事業がもたらす価値、新規顧客の開拓などの点について、どのように感じているのか教えてください。

澤田氏:

 そうですね、NETENE.をスタートしたことによって、多くのお客様に弊社のECサイトSAWADAマルシェ(SAWADA MARCHE)に訪問して頂けるようになりました。また、もったいない糸に関しては、先日、服飾系の専門学校からコラボレーションのオファーを頂きました。これら2つの新規事業のおかげで、今までにない弊社のイメージの認知や、企業活動の浸透に繋がっていると感じています。

 

 最後に、少し話はそれますが、創業者である澤田会長が提唱した「継続は力なり」とう言葉を紹介させてください。これは弊社にとって「糸を売ると書くと続という字になります。文字通り継続するということ」という意味です。現在も弊社の経営理念の核心として社員一同が大事にしています。今後も、この経営理念に沿って、サステナビリティの取り組み、そして新しい事業へ挑戦し続けていきたいと思います。

まとめ

 

 創業から半世紀が経つ澤田株式会社。繊維産業の変遷を経験しながらも、常に革新をし続けてきました。特に、コロナ禍にもかかわらず、ほぼ同時期に、「NETENE.(ネテネ)」と「もったいない糸」という2つの新規事業をスタートさせ、顧客に対して新しい価値を提供することに成功しています。重要な点は、最初から100%完璧なサステナブルな取り組みを目指すのではなく、まずは自社が今できる範囲で挑戦していくこと。その姿勢が新しい価値を生み出していくのではないでしょうか。

 

 

公式ECサイト SAWADAマルシェ(SAWADA MARCHE)

   https://sawadamarche.com/

 

「ADAWAS(アダワス)」公式サイト:

 https://www.adawas.com/

 

「KNOT YET(ノットイェット)」公式サイト:

    https://knotyet.jp/

 

「NETENE.(ネテネ)」公式サイト:

    https://www.netene-s.com/

 

「もったいない糸」公式サイト:

    https://online.sawada-co-ltd.co.jp/collections/outlet

 

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