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2020.08.20

通販事業、6年ぶり黒字へ「再成長目指す千趣会」 顧客基盤など構造改革進展

 千趣会は、通販事業の構造改革が着実に進展している。今上期(1~6月)はブライダル事業がコロナの影響を受けて失速し連結では赤字となったものの、通販事業は会員数が増加に転じるなど基礎体力がついてきた。コロナ禍の巣ごもり需要も追い風に、通販事業は通期でも2014年度以来6年ぶりの営業黒字となりそうだ。7月末には資金面を支えたファンドとの提携を解消。再成長に向け、千趣会の真価が問われるステージに入った。

 

 千趣会の通販事業は近年、売り上げ不振と赤字体質で展望が開けない状態が続いていた。事業規模を重視して商品型数を増やしてきた分、競争力のない商品が増えたことで在庫過多となり、在庫圧縮を目的としたセールの乱発から利益率が低下。収益改善を目指して商品数を絞り、カタログの発行部数も大幅に減らしたことで既存顧客の離脱を招き、さらに売り上げを落とすという悪循環にあった。こうした状況を作ってしまったのが、戦略性を欠いた”ウェブシフト”だ。ECビジネスは基本的にロングテールの商売で、同社ではいたずらに商品を広げ過ぎたことで売り場効率が悪化した。

 

そのため、18年~19年にかけて品ぞろえの再整備を実施。カタログには掲載していない”ウェブのみ商品”を大幅に絞って売り場の効率化を図った。通販事業として一旦規模は追わず、在庫効率を重視することで「赤字を生み出してしまう構造からの脱却を優先した」(三村克人取締役ベルメゾン事業本部本部長)とする。これは、3カ年中期経営計画(19年~21年)で掲げる「オペレーション改革」の一環でもあり、オリジナル商品を主軸にした品ぞろえに改めて、ウェブのみ商品はデザイン面などでバリエーションの幅を持たせるといった役割に限定した。

 また、同社は「ベルメゾン」というワンブランドのもとに複数ジャンルの商品を展開しているが、ここ最近までワンブランドとしての打ち出しよりも、ジャンル単位での色合いが濃かった。しかも、MD面だけでなくマーケティングやCRMも含めてジャンル単位で行ってきたことで、パワー分散していた。

 結果、顕在化したのがジャンル間のクロス購入率の低下という課題だった。これは顧客の継続率低下に直結する大きな問題で、中計で掲げる「会員基盤の再構築」にも影響する。加えて、ベルメゾンの認知率は高いものの、商品を購入する際の想起率としては年々弱くなっていたようだ。

 同社は、これらを解決するための考え方として”ワンベルメゾン”を推進。これまでジャンル単位でバラバラに事業展開してきたのを改め、ひとつのベルメゾンとして顧客に向き合い、長期間にわたって価値を提供し続けられる事業モデルへの転換に注力している。 ジャンル間のクロスMDはとくに売り上げ構成比が高いファッションとライフスタイル系での取り組みが顧客継続化のエンジンとなるため、19年には主要顧客層に向けたジャンル横断型のカタログを創刊。働くママ向けに「みんなが選んだベルメゾン」、自分磨き世代には「暮らしの景色」を展開し、従来は衣料品しか購入していない顧客がインテリアや生活雑貨を購入するといったクロスセルの効果が出始めている。

 昨年11月には新たなブランドコードを策定。ベルメゾンのイメージが顧客だけでなく、社員の意識としても揺らぎつつあることを受け、ベルメゾンらしいスローガンとして「愛、のち、アイデア。」を表明した。これを軸にベルメゾンのブランディングとコミュニケーションデザインを徹底し、顧客に統一したメッセージを発信。商品開発やクリエイティブ表現だけでなく、コールセンターや物流拠点などもブランドコードに沿った行動を心がける。

 

商品調達改革で粗利が改善

 前期からスタートした中計では「会員基盤の再構築」と「商品力・提案力の強化」「オペレーション改革」に取り組んでおり、先行して成果が出たのがオペレーション改革だ。赤字脱却に向けて在庫適正化ルールを策定し、調達面の改革に道筋をつけた。具体的には売上高・原価率、仕入れ、在庫を連動させた調達とKPI管理の運用を開始したほか、主要取引先との関係を強化して直輸入コストの適正化を図ったことで、計画を前倒しして粗利が改善した。

 今期は会員基盤の再構築と、商品力・提案力の強化を重視。会員基盤については、休眠会員に対してDMなどでアプローチした結果、上期は継続・復活会員が前年同期比41万人強増えたほか、育児カタログの産院設置再強化などで新規会員数も同13万人弱増えた。

 これまではECシフトに投資を優先していたが顧客接点のあり方を見直し、「DMやカタログ、ECのかけ合わせという千趣会本来の強みに立ち返った」(梶原健司社長)ことが奏功。減少傾向にあった会員数が好転した。商品力・提案力の面ではブランドコードに即した独自商品の開発を進めたほか、コロナによる生活様式の変化に迅速に対応。ECで関連コンテンツを強化した。ネットユーザーの獲得にもつながり、通販事業の月次売上高は4月が前年同月比約21%増、5月が約30%増、6月も約27%増と好調に推移した。

 継続的な型数削減もあって上期の1型当たりの売上高は前年同期比約32%伸びた。この結果、通販事業の売上高は同11・8%増、営業利益は昨年上期の3200万円から12億円強へ大幅改善し、通期での黒字確保がほぼ確実となった。

 同社は中計の3領域で成果が出ていることを受け、通販事業の再構築に一定のメドがついたと判断。規模適正化の段階を終えて成長ステージを目指す。

 長いトンネルを抜け再びスタートラインに立った千趣会。ただ、カタログは依然として高コストな売り場のため、次の成長戦略を描く上で”ウェブシフト”は外せない。過去の失敗から学び、ECの売り場単体での魅力づくりにどう挑むのか、注目を集めそうだ。

 

ブランドコードが行動規範、休眠客の掘り起こしに成功

 

<千趣会の梶原健司社長に聞く>



 千趣会の梶原健司社長に構造改革の成果などについて聞いた。

 ――2期連続で通販事業が大きな赤字を出したタイミングで社長に就任し、間もなく2年を迎える。

 「当時の千趣会は過度なECシフトで特徴がなくなり、元々の強みである顧客志向の原点に立ち返ることが私のミッションだった。物があふれている世の中で、消費者がどこで買うか悩んだときに、その選択肢に入れなければ生き残れない」

 ――昨年11月にベルメゾンのブランドコードを策定した。

 「『愛、のち、アイデア。』というブランドコードをベースに商品開発だけでなく、クリエイティブ表現、コールセンターや物流拠点も含めた顧客コミュニケーションのあり方を見つめ直し、改めて千趣会の”人格づくり”に力を注いでいる」

 ――前期は、連結では黒字化した。

 「ポリシーをもう一度戻すことと、PL上の欠点の部分を徹底的に修正し、在庫を残さないという定性面と定量面を同時にやり切ったことで、連結ベースで黒字転換できた。今上期はこれまで収益貢献してきたブライダル事業がコロナの影響を受けて大きく落ち込んだ結果、連結で赤字となったが、通販事業は改革の成果が出て大きく復調した」

 ――構造改革の進捗状況は。

 「昨年から引き続き取り組んでいる『会員基盤の再構築』と『商品力・提案力の強化』『(商品調達の)オペレーション改革』の3領域で前進できた。とくにオペレーション改革による粗利改善は前倒しで前期に成果が出た。今期はとくに会員獲得と離脱防止、その原点となる商品力、提案力の2領域に力を注いでいる」

 ――会員数が上向いてきた。

 「近年、千趣会のファンだったお客様がだいぶ減ってきていた。その要因分析をしながら休眠会員の掘り起こしに力を入れた。さまざまなリーチの仕方を昨年からテストし、成功事例を年始に実施した。前半に会員を獲得しないと年間を通じた購入につながらないため、今上期は昨年よりも販促費を投じた」

 ――具体的には。

 「捨てられないように工夫をした手紙やクーポンを入れたDMを届けるなどした結果、コロナ前の1~3月にかなり復活会員を獲得できた。3月末から4月にかけてコロナの感染が拡大して緊急事態宣言に入り、さらに休眠客が復活したし、新規会員も増えた」

 ――新規の部分は。

 「元々、新規獲得の6割が妊娠出産前後のお客様だった。しばらく実施していなかったが産院への育児カタログ設置を強化した。休眠客と新規開拓の施策がベースにあった上でコロナによる巣ごもり需要も獲得できた」

 ――これまで休眠復活と新規開拓が十分でなかった理由は。

 「ECシフトの加速でカタログを減らしたり、サイトの利便性改善やリスティングなどへの投資を優先してきた経緯がある。顧客接点のあり方を考え直し、DMやカタログ、ECのかけ合わせという本来の強みに立ち返った。構造改革の成果でもあるが、テストを何度も繰り返して成果のあった部分に集中するというステップを踏むなど、PDCAを回してそのノウハウを蓄積できるようになったことが大きい」

 ――狙い通りの客層を獲得できたのか。

 「新規についても調べたが、ベルメゾンの主要顧客層である40代半ばを中心としたお客様に買って頂いていた。関東圏が少し増えたが従来の顧客分布とも大きく変わっておらず、的外れな顧客層ではなかった。下期は、会員獲得への投資よりも獲得した会員の継続化やクーポンに頼らない客単価アップの部分を重視する。休眠復活用の割引クーポンは購入額にかかわらず使用できるようにしたことで客単価が下がっており、これを戻していく」

 ――会員の継続化で重視することは。

 「商品力はもちろんだが、ブランドコードに沿って各部門のスタッフが出し合ったアイデアの具現化を進めるなど、当社らしいハートフルな部分も大事にしたい。コロナなどの非常時は、企業の姿勢や考え方も注目されると思う」

 ――コロナの終息時期が見えづらい。

 「コロナもそうだし水害などの自然災害が多いが、そういうときに通販を頼りにしている消費者はけっこう多い。こうしたことが設立65周年という年に起きたということに感じるものがある。儲けるためだけの商品開発ではなく、思いを込め、愛を持って開発した商品がお客様の日常に潤いを与えられればいい」

 ――REVICパートナーズが運営するファンドとの提携を解消した。

 「通販事業の再構築に一定のメドがついたことと、コロナ禍での再成長に向けては意思決定の迅速化が必要と判断した。資金的な部分も問題ない。粗利改善を前倒しで達成したことをREVICさんからも評価してもらい、予定よりも早く提携関係を解消することになった。昨年は連結ベースで黒字化し、コスト削減や事業効率化の基礎を作り上げた。今期は会員獲得や商品開発も含めて”千趣会らしさ”の構築といったソフト面に取り組んでいて、これは自分たちでしか取り組めない部分だ」

 ――REVICから学んだことは。

 「目標設定や課題項目に対し、期限と責任者を決めてしっかりやり切るという部分を客観的に見てもらえた。また、事業規模が大きくなるとセクショナリズムが幅をきかせて全体像が見えなくなることがあるが、目標に対しての各部門の方向性や部門間連携、解決策の組み立て方なども勉強させてもらった」

 ――今後、資本面の選択肢も広がる。

 「成長戦略を描く中でさまざまな提携や協業などはあり得る」

 ――再成長に向けたボトルネックは。

 「大きなボトルネックはないが、17年と18年に早期退職を募集したことで人材が潤沢なわけではなく、補填していく必要がある。残ってくれたメンバーが苦労して成果を出したが、新しい成長段階では経験豊富な人材も必要だ。新卒採用も休止しているが、22年4月入社からは少しずつ再開したい」

 ――コロナ禍でブライダル事業が苦戦しているが、今期の連結営業黒字化は。

 「もちろん諦めていない。ブライダル事業の踏ん張りと通販事業の成長次第だが、ブライダルは比較的郊外の大きな施設が多く、コロナの状況や地域特性を踏まえた上で利用者に寄り添っていきたいし、ウィズコロナ時代の新しい挙式のあり方も含めて対応できるようにしたい」

 ――通販事業の通期黒字化は。

 「ほぼ間違いなく達成できそうだ。やはり会員数拡大による業績の押し上げ効果が大きい」

 ――下期の重点取り組みは。

 「会員獲得後の継続施策と客単価向上施策に注力する。あとは商品力の部分で、主要取引先との連携をさらに強化する。コロナ禍での商品提案も肝要で、ECチャネルではスピーディーに対応できるようになってきている。例えば、ゴールデンウィークには『おうち時間を好きになる』をテーマにしたコンテンツを立ち上げ、インテリアや家具、収納グッズなどをまとめて提案した。コロナによる消費環境の変化の兆しをいち早くとらえ、従来の切り口とは変えて商品を提案して成果が出た」

 「また、コロナ禍でニーズが高まった食料品についても、当社は品ぞろえ効率化の観点から削減していたが、利益確保を前提に調達の仕方などを工夫して食品の取り扱いを増やしている」

 ――再び成長軌道を目指す。

 「来期以降は通販の構造改革の成果に加え、ブライダルも事業基盤は揺らぐことなく、新たな挙式スタイルも加わり、コロナが終息気味になっていけばグループで両輪が回り出して経営基盤が強化され、その先の成長戦略も描きやすい。ただ、今の通販のビジネスモデルだけでは収益性に限界が出てくるため、顧客資産をベースにビジネスモデルを加えていくことになるだろう。通販支援の法人事業や保険・クレジット事業もあり、共感してもらえる企業と組むこともあり得る」

 

 

 

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