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2020.04.15

ライブ配信とSNSを通して、ポジティブな情報発信に注力する米国のファッションブランド

「EVERLANE(エバーレーン)」の店舗

 自主的な自粛生活も数週間になってくると、正直なところだんだん時間の感覚が麻痺してきています。一体今日は何曜日だっけ?とカレンダーをチェックすることもしばしば。今まではほぼ毎日リテールのリサーチに出て何かしら写真を撮っていたので、そうした写真をさかのぼって見ていると、最近のことでさえ懐かしく感じます。

 

 コラムでも紹介していますが、1月末にはノードストロムがリセールサービス「See You Tomorrow(シー・ユー・トゥモロー)」をローンチし、ミッドタウンにある店舗へ行ったことを覚えています。同日にはSDGsのカンファレンスにも足を運び、普段通りマンハッタンを走り回っていました。そして2月の半ばには「EVERLANE(エバーレーン)」の新作のスニーカーの履き心地を試しに店舗に行ったりもしていました。

コミュニケーションの場がデジタルへシフト

 しかしその頃からなんだか様子が変わってきているかもと自分なりに敏感になり始めていました。外出する時間を気にしたり、周囲の様子を確認したり、2月末頃には普段在庫がないと不安になる物や必要な物を少しずつ買っておいた方が良いように思い始めていました。そしてその週末頃には備蓄をしておいた方が良いの?というムードがニューヨーカーの間でも高まってきていたように記憶しています。

 

 皆さんもご存知の通り、冬時期のニューヨークは春夏の盛り上がりとは異なります。元々観光客も少なめですし、春物が立ち上がるまでの時期というのは買い物の頻度も若干スロー。そこへきて新型コロナウイルスの脅威で、人の流れが更に激減し、また、顧客、従業員の健康と安全を考え、リテールの一時的な臨時休業が増えだしました。そして瞬く間にブランドと消費者とのエンゲージは、デジタルへとシフト。そのスピードは実に早かったです!

 

 コミュニケーションの場がデジタルへとシフトし、学校の授業もバーチャルで行われているところもあり、企業の多くはビデオチャットサービスのZOOMを使いミーティングを行っているようです。ブランドやリテールは、インスタグラムなどのSNSをフルに活用し、あらゆる情報やコンテンツを発信するようになっていきました。

ファッションブランドが健康関連のコンテンツの発信に注力

 自粛生活から2週間ほどが過ぎた頃、デジタルの世界を通じ、ブランドの存在をどこか今まで以上に身近に感じる一方で、小売業では従業員のリストラや一時的な解雇を決断しなければならなくなっているという悲しいニュースも耳に入るようになりました。D2Cブランドの「CUYANA(クヤナ)」も創設者から顧客へのメッセージとしてメルマガを配信。一部従業員を削減しなければならない決断を下したという正直な状況を伝える内容で、そのメッセージはブランドのインスタグラムにも同時に掲載されました。

 

 苦しい決断をしなければならないのは小売業だけでなく、あらゆる業界で起こっていることは皆さんもすでにご存知のことでしょう。新型コロナウイルスの収束が見えない中、現在も一時的な休業を余儀なくされているファッションリテーラーは、ブランドが持つ様々なネットワークを活用したコンテンツ、健康的な食生活の役立つ情報、メンタルヘルスを考え、自宅でもできる運動やメディテーションまで、様々な角度から顧客だけではなく全ての人に向けた役立つコンテンツを発信。人と人とが支え合う、純粋な繋がりを感じています。

 

 状況が状況だけに、通常のクオリティーの高いコンテンツの配信ばかりではありませんが、今はあえてそうした作り込まれていない、ありのままのブランドの姿から伝わるメッセージが求められているのだろうと思います。少なくとも私にとっては何よりも一緒にこの苦難な時期を乗り越える励みにもなっています。

ライブ配信が有効に活用されている

Modo Yoga NYCの公式インスタグラムでライブ配信のスゲージュルを公開

 ヨガや筋トレなどのインスタグラムライブは、フィットネスやヨガスタジオが配信するものだけでなく、多くのファッションブランドも行っています。アメリカでは多くの人が健康への関心が高いため、日頃から通っているクラスのインストラクターとのネットワークも持っているようで、すぐにそうしたコンテンツの配信が始まりました。またメンタルヘルスにも注意していくために、メディテーションのライブ配信も多く開催されています。

 

 NYを拠点とするヨガスタジオのModo Yoga NYC (@modoyoganyc)ではライブ配信を開始した当初は1日に数回の配信でしたが、3月の終わり頃からはインスタグラムライブとスタジオのオンラインクラスを組み合わせ、朝7時から夜8時まで、通常のスタジオでのレッスンと変わらないスケジュールでヨガクラスを行っています。

「BONOBOS(ボノボス)」がインスタグラムでポートレートを描くキャンペーンを実施

 

 

「BONOBOS(ボノボス)」のユーザーのポートレートを描くキャンペーン

 最近体験したブランドのSNSで心が暖まったのは「BONOBOS(ボノボス)」でした。在宅勤務で常に座っている状況にヒントを得て、どうせ座っているのならば、ポートレートを描かせてくれない?という試み。ボノボスに勤務するデザイナーやクリエイティブチームたちがイラストレーターとなり、参加者のポートレートを描くというもの。フォロワーたちとのやり取りは簡単で、描いてもらいたい自分の写真をボノボスにインスタグラム上でDMするだけ。(唯一のルールはヌードの写真はダメよ!)選ばれ、完成した作品はBONOBOSのインスタグラムストーリーズでシェアされます。

 

 この告知はインスタグラムのフィードやストーリーズでも行われ、私も速攻応募。しかしかなりの反響らしく(今のところ)選ばれずです。ただ選ばれなかったとしても、描いてもらった人の作品を見るのが日々楽しみになりました。どうしてこの人は沢山あるであろう写真の中でこの1枚を選んだのかなーとか、イラストになるとこんな色のタッチになるのかーなど、気持ちが沈む情報を多く目にする今、仕上がった作品を見ることでとても心が暖まりました。また普段ブランドに関わっている人に描いてもらうというパーソナルなアプローチは、顧客にとって深いエンゲージにもなりますよね。

インスタグラムを活用した寄付金キャンペーンに注目

在宅勤務のスタイリングチャレンジ、#JAWorkFromHomeChallenge

 またメンズファッションブランドの「JOSEPH ABBOUD ( ジョセフ・アブドゥー)」では、在宅勤務のスタイリングチャレンジ、#JAWorkFromHomeChallengeを実施。

 

 フォロワーやブランドのチャレンジを見てくれている人たちに向け、在宅勤務中のドレスアップしたスタイリングの写真を募集。最も格好良く、クリエイティブな投稿者には、ジョセフ・アブデゥーのカスタムスーツがプレゼントされます。またこのチャレンジの開催に際しブランドそしてブランドのチームは、個人的に「CDP COVID-19 Response Fund 」に$10,000 を寄付。そしてこのチャレンジに誰かが参加し、シェアする毎に、さらに$1.00を寄付していきます。

 

ルールは下記の通り:

 

1.インスタグラムのフィードもしくはストーリーズに、在宅勤務中のスタイリングの写真かビデオをシェアする。投稿が確認できるように、ハッシュタグ#JAWorkFromHomeChallenge を添え、@josephabboud をメンションする。

 

2.カスタムスーツのプレゼントが獲得できるよう友達をタグ付けし、このチャレンジを広げる。

 

 

 今までの忙しい生活の中では、ブランドが行っている一つのキャンペーンとしか思わなかったであろう事が、今は違って目に写ります。自宅にいてもお洒落をするということを忘れない。身だしなみを整えることは気持ちを穏やかにさせ、また時にパワフルな気持ちにもさせてくれる。ファッションには様々なエモーショナルな強さを発揮するパワーがあることを改めて思い出す今日この頃です。


 

 

R I N A

90年代の米国がネットバブルだった頃に米国にて日本向けのファッションポータル事業にコンサルタントとして関わる。

 

以降、「ファッション」と「インターネット」上で行われるビジネスを中心とした事業に15年ほど携わり、Web製作やディレクション、ビジネスのコンサルタントを行う。現在は米国のファッション事情やトレンド、ファッションとIT関連を中心とした執筆、今までの経験と知識を活かしビジネスサポートも行っている。

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