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2018.01.04

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.46】リミックスで引き出す前向きパワー~2018年春夏ファッションの6大トレンド~

 2018年春夏シーズンのファッショントレンドはポジティブでフェミニン。スポーティなムードも強まる。やわらかいデコラティブ(装飾性)が着姿を楽観的に彩る。文化や時代、テクノロジー、季節、ジェンダー、レイヤードなどを重層的に響き合わせたリミックスが加速。ブランドロゴやウエストポーチなどの懐かしいツールも登場。「ダイバーシティー(多様性)」を軸に自由に楽しく着こなすのが新ルールになる。

◆フェミニンチアアップ feminine cheer-up

(左から)N°21MSGM

(左から)MARNICARVEN

 たおやかでありつつ、健康的でスポーティーな装いが広がる。これまでの「アスレジャー」はヨガウエア由来のフィットネス感が強かったが、18年の進化バージョンはぐっとフェミニン寄りにシフト。レースや花柄がやさしげな風情を印象づける。パーカやポロ、ラガーシャツなどを穏やかな表情にアレンジ。チュールやオーガンジーなどの薄手生地で透け感もプラス。ブルゾンやベンチコート風のライトアウターが登場。元気感を帯びたドレスはシーンフリーにまといやすい。

◆テックラフト tech×craft

(左から)TOGAACNE STUDIOS

(左から)PRADACOACH

 「技術」のクロスオーバーが時代の枠を超えた。刺繍に代表される伝統的な服飾技術がクローズアップされる一方、ビニール(PVC)系のハイテク素材が多用される。モダンな先端技術(テック)とクラシックな手仕事(ハンドクラフト)が交じり合い、質感の違いが装いの趣を深くする。透明なビニール素材は服の生地になり、涼やかでつやめいた雰囲気を寄り添わせる。タイポグラフィーやロゴなどの遊び心ある演出、刺繍やレース、パッチワークなどのニードルワークはヒューマンな風情を呼び込んだ。

◆クリーンセンシュアリティー clean sensuality

(左から)GIVENCHYDOLCE&GABBANA

(左から)DIORJ.W.ANDERSON

 女っぽいテイストが濃くなる。官能的(センシュアル)なムードを象徴するのがランジェリーの「見える化」。ブラトップが当たり前のトップスに昇格。ビスチェやコルセットを一番上からまとうスタイリングも相次いで提案されている。スリップやキャミソールを思わせるシルキー素材やレース使いはブラウスやワンピースに写し込まれる。深く切れ込むVネックや裾スリットが素肌をさらし、二の腕、ウエストのカットアウトも健康的なセクシーを薫らせる。

◆マルチフェイスレイヤード multi-face layered

(左から)BALENCIAGASACAI

 服の「解体」や「トランスフォーム(変形)」がモードを盛り上げる。見慣れたトレンチコートをショート丈のボレロに仕立て直したり、前後で全く見え具合が異なる「別顔」にアレンジしたり。スカートとパンツをドッキングさせ、パーツを重層的に組み合わせることによって、何枚も服が重なったレイヤード風に見せる。透け感を帯びた生地を組み込んでエアリーさと落ち着きを両立。服の常識を裏切る組み立てで着姿に奥行きを与えている。

◆ダイバーシティーカオス diversity chaos

(左から)GUCCIMARC JACOBS

(左から)LOEWESTELLA MCCARTNEY

 従来のミックスコーディネートを上回る、異なるテイストを無理めに交錯させた、カオス(混沌)ぎりぎりの着こなしが現れた。ダイバーシティーの時代を写し込んだかのように、文化、時代、性別、素材などを意図的にずらして混ぜ込む。一見、ぶつかり合いそうな異分子同士を、巧みにねじり合わせ、適度な「ずれ感」を残す。東洋と西洋、中世と現代、工業と天然といった、距離感のある要素を、やや強引な手つきでクロスオーバー。挑発的でスリリングなムードを醸し出している。

◆レトロリゾート retro resort

(左から)EMILIO PUCCIMICHAEL KORS

(左から)CALVIN KLEINMISSONI

 トロピカルやビーチなど、リゾート気分を漂わせるようなテイストの装いを、街で着こなす提案が相次いだ。南国フルーツ、サーフィン、海の生き物といったモチーフがチアフルに写し込まれる。少し懐かしいレトロ調の色、シルエットが本気リゾートの力みをそいで、普段使いに誘う。メタリックな輝きはクールな装いに導く。コットン系のナチュラル素材が自然体のおしゃれになじむ。エアリーな重ね着は浜辺とタウンの気ままな行き来をささやきかけるようだ。

 

 古い決まり事が崩れ、着る側の自由度がさらに上がる。スタイリングの軸は茶目っ気を感じさせるレイヤードに移る。やりすぎを慎重に避けながらも、服の持つ可能性をぎりぎりまで引き出すギークなチャレンジ精神がうかがえる。心地よさと多様性を兼ね備えた18年春夏、おしゃれのパワーをまとう時代が始まる。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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