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2018.11.07
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.53】2019年春夏東京コレクション<2/2>
◆イン(IHNN)
デビューコレクションが多かったのも、今回の東コレの変化と言える。韓国出身の印致聖(イン・チソン)デザイナーが手掛ける「イン(IHNN)」も初参加を果たした。母校の文化服装学院構内で初のランウェイショーを開いた。男性モデルがスカートをまとうような、性別違いにとらわれない「ジェンダーレス」の志向を押し出したルックが相次いだ。真っ赤な口紅がセンシュアルなイメージを濃くした。ブラトップやたすき掛けバンデージで肌を露出。赤をキーカラーにしつつ、蛍光ブルーやイエローも利かせた、スポーティーとエロティシズムを交錯させるような演出が印象に残った。
◆ハレ(HARE)
メンズとウィメンズを同じランウェイで発表するミックス形式は欧米に続き、東コレでも定着し始めている。ファッション企業、アダストリアのブランド「ハレ(HARE)」のショーはジェンダーレス気分を漂わせた。ミリタリーやアウトドア感を帯びたパーカやブルゾンは、アウトドアの気分を街着に持ち込む「ゴープコア」の風情。両手が自由になるウエストバッグやポーチを腹巻き風に添えて、バッグと服を融け合わせた。ユーティリティーな街着の提案は今のトレンドになじむ。
◆ディーベック(D-VEC)
天候不順や自然災害が重なる中、悪天候に耐えられるファッションへの関心が高まっている。フィッシングの「DAIWA」で知られるグローブライドのブランド「ディーベック(D-VEC)」は六本木のアーク森ビル内にある広場に設けられた、猛烈な水量が流れ落ちる滝をバックに、雨の日でも水を弾く帽子や羽織り物を披露。滝の周りを歩くモデルは水しぶきを浴びても、悪天候に強いアウトドア仕様のアイテムの魅力を印象づけた。ブラトップやショートパンツ、マウンテンパーカなどで軽快な装いにまとめ上げていた。
◆ティート トウキョウ(tiit tokyo)
近頃のモード界で勢いづいているトレンドの一つに「レトロフューチャー」が挙げられる。懐かしさと未来感が同居したようなテイストだ。「ティート トウキョウ(tiit tokyo)」は1960年代の雰囲気をベースにしつつ、メタリックやデジタルプリントでフューチャー風味を醸し出した。淡い色味もノスタルジーを薫らせる。ワッペン付きのツイード生地ジャケットはクラシックな表情を帯びた。スタイリングでは、見栄えの異なるチェック柄同士を組み合わせたり、ストールを片側の肩だけから掛けて、ワンショルダー風にまとうアレンジもレトロ感を漂わせていた。
◆ミドラ(MIDDLA)
ありきたりのショー構成から離れようとする試みが相次いだ。「ミドラ(MIDDLA)」は前半と後半でアイテムが大きく異なる2部構成のショーを企画した。真っ白なドレスから始まった前半はウエディング風のムードに包まれた。ドレスを主体に、頭に花飾りをあしらう、フォーマル路線の装いを打ち出した。一方、後半はロックの気分。伝説的なグランジロック・バンド「ニルヴァーナ」を思わせるチェック柄や、Tシャツのリメイクなどがアクティブな装いに導く。ラッフルやギャザーが量感を生み、たっぷりしたシルエットがロックとエレガンスを包み込んでいた。
◆ラウタシー(Lautashi)
モデルの鈴木えみがデザイナーを務める「ラウタシー(Lautashi)」は「AT TOKYO」枠で新作を披露。ファッション業界を超えて話題を集めたのは、インスタレーションの企画にあたって、メディアアーティストの落合陽一氏と組んだ点だ。「日常着」をコンセプトに据えている「ラウタシー」だが、今回のインスタレーションでは照明の明るさを落とした会場でドリーミングな装いを提案。プリント柄やラッフルなどのディテールが表情を深くした。アシンメトリーやレース重ねが着姿をざわめかせている。黒い口紅にもミステリアスな雰囲気が漂っていた。
◆マラミュート(malamute)
新境地に挑むクリエイターが相次いで現れている。ニット表現に強みを持つ「マラミュート(malamute)」の小髙真理デザイナーは初のランウェイショーにあたって、ニットだけではなく、2017-18年秋冬からアプローチし始めた布帛(織物)もクリエーションに取り入れた。持ち味の愛らしさは保ちながらも、センシュアルやエフォートレスも兼ね備えた、新たな女性像を描き出している。レーシーな質感、スカーフ風のプリント、オパールライクな加工、ニットとの異素材ミックスなどが装いのムードを深くした。素材や風合いの表現力が増し、丁寧なものづくりをあらためて印象づけていた。
◆ステア(STAIR)
オーガンジーやシフォンといった透ける布が19年春夏の装いに涼やかな風情を添える。つややかな風合いやメタリックな色も勢いづきそうだ。「ステア(STAIR)」の武笠綾子デザイナーはシアーとシャイニーを巧みにクロスオーバーさせている。風をはらむエアリーな着姿に、シルバーやメッシュ、PVCの靴を引き合わせた。透け感を生かしたレイヤードがフェミニンをささやく。適度に肩を出したり、スリットで脚をきれいに見せたりして、レディー感とセンシュアルを調和させていた。
◆コトハヨコザワ(kotohayokozawa)
初参加のブランドがみずみずしいクリエーションを披露したのは、今回の東コレで得られた最大の成果と言えるだろう。とりわけ、横澤琴葉デザイナーの「コトハヨコザワ(kotohayokozawa)」はポップで自由な作風で、強い印象を残した。左右で見え具合が大きく異なるデニムパンツや、身の回りの品々を写し込んだプリント柄がプレイフルな気分を招き入れている。服のあちこちにウィットフルな仕掛けを繰り返した。それでいてフェミニンなモード感も今の気分を反映していた。
伸び盛りの若手クリエイターたちが相次いで東コレに参加し、作品にも新風を吹き込ませた。「AT TOKYO」枠は実力派を招くうえで意味を増している。力みも背伸びもせずに実力を発揮した女性の新進・中堅デザイナーも目立った。東コレを新時代に押し上げた創り手たちのさらなる成長に期待したい。
宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
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