PICK UP
2018.11.07
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.53】2019年春夏東京コレクション<1/2>
宮田理江のランウェイ解読 Vol.53
2019年春夏シーズン向けの東京コレクションでは、初参加やカムバック組が目立ち、表現のバリエーションも広がりを見せた。ショーの会場や構成でも、従来の枠組みから踏み出すチャレンジが相次いだ。テイスト面では程よいセンシュアル(官能的)やアウトドア、レトロフューチャーなどが提案され、若手女性デザイナーの台頭も次世代を感じさせた。
◆アンリアレイジ(ANREALAGE)
ブランド立ち上げから15周年を迎えた「アンリアレイジ(ANREALAGE)」は約4年ぶりに東京コレクションに参加してショーを開いた。パリに発表の場を移しているが、Amazon Fashion主催の独自プログラム「AT TOKYO」に参加する形でカムバックを果たし、アマゾン・ジャパン本社でショーを開催。パリで披露したショー内容そのままではなく、これまでの集大成的な構成にバージョンアップ。テクノロジーをモードに写し込む実験的手法の深まりを証明してみせた。光の当たり方に応じて色や柄の見え具合が変わる演出で、陰影に富む表情を引き出していた。
◆ハイク(HYKE)
「ハイク(HYKE)」は芝浦の寺田倉庫内にある、広い無機質な空間を生かしてショーを開催。ミリタリーやアウトドアの雰囲気を帯びたお得意のムードをさらに濃くした。「ザ・ノース・フェイス(The North Face)」とのコラボレーションは早くも3シーズン目を迎えた。アウトドアの気分をタウンウエアに持ち込むスタイリングはエレガンスとタフネスを複雑に響き合わせた。レギンス風ボトムスが装いのアクセントに。透ける生地、ハイテク素材などを組み合わせて、縦落ち感の高い着姿に整えている。
◆タエ アシダ(TAE ASHIDA)
長年、使い慣れた場所から発表の舞台を移す有力ブランドが相次いだ。「タエ アシダ(TAE ASHIDA)」は、六本木の国立新美術館を使っての大がかりなショーを開いた。舞台を移すだけではなく、クリエーションにも新味が加わった。スポーツと未来的ムードにブランドらしいエレガンスをクロスオーバー。「リーボック(Reebok)」のスニーカー「インスタ ポンプ フューリー」とのコラボも、テクノロジーとの調和をアピール。ドレッシーな装いとダッドスニーカー風の足元との程よい「ずれ感」が現代女性に似つかわしく見えた。
◆ミントデザインズ(mintdesigns)
サイエンスや学問の雰囲気をまとう傾向が世界的に強まっている。「ミントデザインズ(mintdesigns)」は博物館からインスパイアされて、昆虫や植物のモチーフを持ち込んだ。素材の面でも光る布や透ける生地を多用。オーガンジー風の素材をレイヤードに組み込んで、ワンピースとパンツの重ね着を提案。グリーンやイエローといった、パキッとした蛍光カラーの差し色使いがフューチャリスティック(未来的)なムードを添えた。東京タワーという会場もレトロフューチャーな雰囲気を感じさせた。
◆ドレスドアンドレスド(DRESSEDUNDRESSED)
ショーの見せ方に凝るブランドが増えたのは、今回の東コレで目立った変化だ。北澤武志氏の単独名義に変わったのに加え、10周年を間近に控える「ドレスドアンドレスド(DRESSEDUNDRESSED)」。変化のタイミングを意識してか、レストラン風のインスタレーション演出を採用。『最後の晩餐』を思わせるミステリアスな構成で新作を披露した。トリッキーなクリエーションは健在で、ジャケットの正面は正統派なのに、背中は大きく開いている。ベーシックなウエアを大胆に解体してみせた。フィッシュネットやシアー素材、エナメルなどを組み合わせて官能的なムードも忍び込ませていた。
◆まとふ(matohu)
独自のアプローチをさらに深めたのは、ショー構成を様変わりさせた「まとふ(matohu)」。これまでのランウェイショーとは違い、デザイナー2人が自ら解説を添える形式を選んだ。「手のひらの旅」シリーズの幕開けとなった今回のコレクションでは、青森県津軽地方の伝統的な「こぎん刺し」にフォーカス。手仕事のエッセンスをデイリーな装いに写し込んだ。現地を訪れた際の映像を流し、職人の仕事ぶりもリポート。長着やシルク系素材に、こぎん刺しの技をあえて交わらせた。ショーの後、来場者がルックの実物に触り、質感や細部を確かめる機会も設けられた。京都のラグジュアリーホテル「MOGANA(モガナ)」で下駄やクッション、歯ブラシなども手がけ、表現のフィールドを広げている「まとふ」はアートとライフスタイル、ファッションが垣根を越える表現領域に進みつつあるようだ。
◆クリスチャンダダ(CHRISTIAN DADA)
「クリスチャンダダ(CHRISTIAN DADA)」は「ベッドフォード(BED J.W. FORD)」との合同発表という意外な形式でショーに臨んだ。同じ1984年生まれのデザイナー同士だ。「クリスチャンダダ」は既にパリで19年春夏の新作を発表済みだが、「AT TOKYO」枠向けに別コレクションを用意した。解体や再構築のターゲットにシャツを選んだ。2枚のシャツを合体させるような変形を様々な手法で試みている。古着・ヴィンテージのテイストを取り入れて、マスキュリンなシャツを複雑なレイヤードに組み込んだ。立体駐車場の機能的なたたずまいもコレクションにクールな雰囲気を寄り添わせていた。
◆アクオド バイ チャヌ(ACUOD by CHANU)
ファスナー(ジップ)をキーパーツに据えたクリエーションで知られる「アクオド バイ チャヌ(ACUOD by CHANU)」はハードでダークな雰囲気を薄め、ポジティブなリアルクローズに向かった。デニムルックやサテンブルゾンなどにもファスナーを添えて、アクセサリーパーツ的に用いる表現をさらに拡張。ボウリング球のような特大ネックレスはファスナーを開くと、バッグに変身。スニーカーにも靴ひもの代わりにファスナーを投入。もともとユニセックスのブランドであるうえ、モードストリートのテイストに加え、ライトで明るいムードを呼び込んで、幅広い層に広がりを見せた。
◆ヴィヴィアンノ スー(VIVIANO SUE)
中国出身デザイナーが率いる「ヴィヴィアンノ スー(VIVIANO SUE)」はお得意のドラマティックな装いに、「雨」という切り口を加えて、つやめきをもたらした。透明なPVC(ビニール)素材を靴に用いて、ウェッティーな装いに仕上げている。雨と縁の深いトレンチコートにもダイナミックな変形を試した。オーバーサイズやアシンメトリーを操って、ジャケットやスカートにクチュール感を宿している。ポケットやボディバッグをキーディテールに位置付けるデザインが世界的にも注目される中、ユーティリティーバッグをボディに添えて、着姿にリズムを生んでいた。