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2014.02.09

まだまだ終わらない 大阪・梅田の“商業施設”競争 JR大阪三越伊勢丹、阪神梅田本店も改装・建て替えへ

 少々、旧聞に属するのだろうが、去る1月21日、西日本旅客鉄道と三越伊勢丹ホールディングスが連名で、大阪・梅田のJR大阪三越伊勢丹とルクア大阪を一体化し来春、改装オープンする旨を発表した。今夏から改装工事に着手し、ルクア大阪を東館、JR大阪三越伊勢丹を西館に模様替えして、新しいコンセプトに基づく商業施設として再スタートを切るという。供給過多の中で独自性を発揮できなかったJR大阪三越伊勢丹のテコ入れが主たる目的と思われる。

過剰供給がますます鮮明に

 前回のコラムで、「『あべのハルカス近鉄本店』の開業により、長らく続いた大阪の百貨店再開発ラッシュも一段落する。」と書いていた筆者だが、今秋からは阪神梅田本店の建て替え工事も始まるし、まだ一段落しそうにないので、ここで発言を訂正しておきたい。冒頭のニュースに接し、大阪の百貨店競争はまだまだ終わらないのだなと、わずかな疲労感と共に今後の推移に思いを馳せた次第である。取材ネタには不足しないが、施設開発に携わる関係各位の苦労を考えると、素直に「大変だな」と思う。

 

 さて、両社が発表したプレスリリースによると、「百貨店と専門店の双方の強みを活かした、これまでにない魅力的な商業施設として刷新するべく、」共同で検討を進めてきたという。三越伊勢丹とルクアを併せた店舗面積は約5万3,000平方メートル。大丸梅田店の6万4,000平方メートル、阪急うめだ本店の8万平方メートルには及ばないが、阪神梅田本店の5万3,000平方メートルに比肩する規模になる。

 

 前出のプレスリリースに添えられた「別紙」には、同施設の開発コンセプトとして、西館(三越伊勢丹)を「東館(ルクア)と一体となったブランディングと運営による商業施設としての規模のパワーを発揮」すると書かれてある。また、「百貨店の強みと専門店の強みの融合」と題して、百貨店の「ブランドの垣根を越えたアイテム編集力」と専門店の「話題性のあるブランドによる集客」を一番目に掲げている。ブランド編集に定評のある三越伊勢丹の良さと、人気のファッションブランドが集積するルクアの魅力の“良いとこ取り”をしようという発想だろう。

 

 持ち上げる気はさらさらないが、個人的には、三越伊勢丹には頑張って欲しいし、新しく興味深い売り場を開発して欲しいと心から願っている。新しい施設や売り場を見るのが大好きだからである(常に変化する流通の現場を踏み、小売店の目指す方向を確認する作業でもある)。しかし、梅田商圏は商業施設の供給過多であることは間違いないわけで、現に同ブランド、同企業の店舗が梅田地区に増え過ぎ、カニバリゼーション(自社ブランド同士の競合)が発生している事例も耳にしているし、閉店に至った店舗もいくつか目にしている(阪急メンズ大阪の上層階の飲食店街は空きテナントが目立つ。グランフロント大阪や三越伊勢丹、ルクアに顧客が流れたと考えられる)。昨年4月に「グランフロント大阪」がオープンした時点ですでに供給過多は指摘されていた。三越伊勢丹の場合は商品構成、フロア編集の修正がうまく行かなかった点が大きいとは思うが、供給過多の現状にも留意すべきではないかと考える。

来春、新しい商業施設に生まれ変わる「ルクア大阪」(中央右側)と「JR大阪三越伊勢丹」(左手奥)。「ルクア」の後方3棟のビルは「グランフロント大阪」

「売場づくりのコンセプト」―周辺施設と共通点

 もう1つ、三越伊勢丹とルクアの新施設で関心を持ったのが、「売場づくりのコンセプト」だ。前出の「別紙」に「売場づくりのコンセプト」と題し、5つのキーワードが列挙されている。「Life Style」「Fashion」「Culture」「Goods」「Cafe」の5つである。「新しい街を作る」というコンセプトを掲げる「グランフロント大阪」や、「時間消費型・劇場型百貨店」を標榜する阪急うめだ本店とかなり重なる部分が多い(というか、すべての点で重複している観がある)。

売場づくりのコンセプト(出所:西日本旅客鉄道、三越伊勢丹ホールディングス)

 「グランフロント大阪」は物販だけに頼らない時間消費型の施設として固定客を開拓しようとしているし(Cafeにも力を入れた)、「阪急うめだ本店」は情報発信に重きを置いている。三越伊勢丹とルクアの新施設には情報発信の要素は薄い印象を受けるが、滞在時間を長くし、「大阪駅周辺を訪れる幅広いお客様にワンストップショッピングの場を提供」する点は、グランフロント大阪、阪急うめだ本店と共通している。前回、取り上げた「あべのハルカス」も同様のコンセプトを掲げている。

 

 ちなみに、前出の「別紙」の「売場づくりのコンセプト」にある5つのキーワードだが、図表になっていて、「Culture」「Goods」「Cafe」の3つのカテゴリーが重なり合っている。また「Cafe」「Culture」は「Fashion」と重なり合っていない。「Culture」「Goods」「Cafe3つのキーワードは、「Life Style」や「Fashion」との結び付きが弱い印象を受ける。邪推に過ぎないが、新施設のフロア構成を考える上で、とある方向性を示唆しているようにも受け取れる。どんな施設になるのか、今から楽しみである。

ノースゲートビルディング西館 新商業施設のイメージ
(出所:西日本旅客鉄道、三越伊勢丹ホールディングス)


 

 

樋口 尚平
ひぐち・しょうへい

 

ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。

 

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