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2014.02.08
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.14】2014~15年秋冬NYコレクション
宮田理江のランウェイ解読 Vol.14
ビーチリゾートやスポーツといった健やかでくつろいだムードを濃くする2014年春夏シーズンのファッション。しなやかにエレガンスを薫らせるような気取りのなさが今季の気分だ。飾り気を抑えた「ミニマリズム」は潮が引き、13-14年秋冬に盛り上がった「新・装飾主義(マキシマリズム)」にもやや揺り戻しが起きて、程よいリッチ感、みずみずしいキュートさを兼ね備えたようなハイブリッドの着こなしが勢いづく。トランスペアレントや肌見せ、スクールガールなどの演出を絡ませて、おしゃれにまだまだ楽しみ方の伸びしろがあることを、今季のトレンドは証明している。
◆エフォートレスブリーズ
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(左)マイケル コース New York 2014SS Photo by Ming Han Chung
(右)エトロ Milano 2014SS Photo by ETRO
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前シーズンから主要トレンドに昇格した、肩の力が抜けた装い「エフォートレス」が今季は全体のムードを支配する主旋律を奏でる。力みや頑張りを遠ざけた、伸びやかな着姿はそのままに、そよかぜ(ブリーズ)に布を泳がせるようなエアリー感が加わる。身体の線と付かず離れずの着心地が心地よい。無造作のようにみえて、ルーズではなく、あくまで朗らかな表情で着流すという感覚だ。リゾート地で過ごすような穏やかで優美なシルエットを、モダンに昇華してリュクスなムードを漂わせるのが、今季の流儀だ。
◆スポーツフィーリング
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(左)アレキサンダー ワン New York 2014SS Photo by Ming Han Chung
(右)エミリオ プッチ Milano 2014SS Photo by EMILIO PUCCI
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全体的に自由でライトな雰囲気が強まるこの春夏を象徴する新トレンドが「スポーツフィーリング」。野球やテニスなどのスポーツにちなんだアイテムが早くも脚光を浴びているが、本気のスポーツウエアではなく、アスレティックなフィーリングだけを借りた装いという点が今季の新しいところ。スポーツと地続きではあるものの、濃度を下げ、もっとやさしく、リッチにトランスフォーム(変形)させた、風情だけスポーティーな着こなしが大人気分を呼び込む。ラグジュアリーに寄せたストリートやワーク系アイテムも登場。能動的なムードのスタイリングに誘う。
◆シアー&シャイニー
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(左)ヌメロ ヴェントゥーノ Milano 2014SS Photo by N°21
(右)フェンディ Milano 2014SS Photo by FENDI
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透ける素材は夏の風物詩的存在だが、今季のトランスペアレントは二段構えが新しい。透ける素材のアイテムを重ね合わせたり、異素材とミックスしたりと、重層的な仕掛けで、シースルー効果を際立たせている。ランジェリーを思わせるブラトップやショーツを透け見せる立体コーディネートの試みも相次ぐ。袖だけ、裾だけの部分透けも進化する。一方、メタリックな素材やスパークルな演出が復活。サテン系生地やケミカル素材でつやめきを印象づける装いが勢いづく。極薄ウエアにきらめきパーツをあしらうようなマリアージュが試され、サマーレイヤードの表情を深くしている。
◆ビーチ&トロピカル、マリン
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(左)マーク ジェイコブス New York 2014SS Photo by Fernando Colon
(右)エムエスジーエム Milano 2014SS Photo by MSGM
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(左)トミー フィルヒガー New York 2014SS Photo by Ming Han Chung
(右)バーバリー プローサム London 2014SS Photo by Burberry Prorsum
エフォートレスやスポーティーに通じる新トレンドとして、海辺スタイルの街着化がある。ビーチやプールサイドで過ごす時のようなスイムウエアやリゾートルックを取り込んで、シーンフリーの冒険をそそのかす。バンドゥーやビスチェの上からコートを羽織るという形でサマーアウターとも手をつなぐ。トロピカルな民俗衣装風の服は、ヤシの樹に代表される南国モチーフはそのままに、色をダークに変えて、これまでのエスニック調から抜け出す。きれいめにはきこなしたいバミューダショーツは新顔ボトムスに仲間入り。お約束のマリンルックも大人顔に成長している。
◆ウインドウヌーディー
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(左)アレキサンダー ワン New York 2014SS Photo by Ming Han Chung
(右) 3.1 フィリップ リム New York 2014SS Photo by 3.1 Phillip Lim
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(左)ラグ&ボーン New York 2014SS Photo by Fernando Colon
(右)バルマン Paris 2014SS Photo by Koji Hirano
2013年から脚光を集めつつある「チラ腹見せ」は新趣向が登場。トップスの正面に四角や三角の窓を開けたように布をカットアウトして、その隙間から肌をのぞかせるややトリッキーなテクニックが加わる。窓を開ける場所は肩口や袖、両脇などにも用意され、ヌーディーな装いの選択肢が広がる。シアー素材から肌を透けさせたり、短め丈のトップス裾から素肌を見せる手口も浸透し、肌見せのバリエーションが広がってきた。身頃正面を短く仕立てた前上がりディテールや、V襟の胸元を大胆にさらすサマーニットは健康的なセクシーを印象づける。ボトムスでも深々とスリットを刻むスリリングな提案が相次ぐ。
◆プレップ&リセ
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(左)ラルフ ローレン New York 2014SS Photo by Ming Han Chung
(右)ヴィクター&ロルフ Paris 2014SS Photo by Koji Hirano
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(左)アクネ ストゥディオズ Paris 2014SS Photo by Koji Hirano
(右)ニナ リッチ Paris 2014SS Photo by NINA RICCI
キャンパスに戻ったかのような気分で初々しいムードを借りる装いが打ち出された。米国名門校の学生が好んだプレッピーをさらにもう一段崩した風のボーイッシュなアレンジはジェンダーミックスのうねりとも同調する。一方、チアガールやテニス女子の風情を漂わせるプリーツスカートの復権も今季の目立ったリバイバル。スクールガール的な清潔感やコケットを制服風ウエアで表現する提案も目につく。フランスの良家女子高校生リセエンヌを連想させる、愛くるしく小ざっぱりした通学ルックもイメージソースに選ばれた。ブラウスやベスト、サスペンダースカート、紋章入りブレザーなどのアイコニックなアイテムがきちんと感やイノセントを引き寄せる。
次なる6トレンドから浮かび上がるのは、ファッションを気張らず楽しもうとするゆとりや落ち着きだ。エレガンスと着心地、リュクスと軽やかさを両立させようする欲張りなおしゃれマインドにも答えを与えた。シーンや季節、世代を踏み越えるいたずらも忍び込ませ、モードはさらに懐を深くした。
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宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
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