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2014.02.08

[The Creator vol. 3] 中箸充男さん 株式会社バーニーズ ジャパン MDメンズチーム バイヤー<前編>

「情は大事にしても固執せず」を信条に
その瞬間、その瞬間、できることを一所懸命やるだけ

販売職からバイヤーに

 

 「スターティングジョブはセールスでした。バイヤー志望だったわけではありませんが、売場に来る先輩バイヤーから話を聞くにつれて憧れるようになっていきました」バイヤーを目指すようになったきっかけを、中箸充男さんはこう話す。

 

 「海外出張に一度、来てみないか、とバイヤーの先輩から誘われたんです。もちろん、すべて自費。今はそういうことは禁止されていますが(笑)。出張はイタリアへ5日間、朝から晩まで分刻みのスケジュールをこなすバイヤーって大変な仕事だなと思いました。バイヤーになりたい、と本気で考えるようになったのはそれからですね。販売職に就いて3年目ぐらいでした」

 

 バーニーズでは販売職から本社スタッフになるために必須条件があるという。「異動希望を通すため、販売職は社内でトップの販売成績を上げなければならなかったんです。まず、結果を出せ、ということです。だから、一番になりました(笑)」

 

 中箸さんは一貫してメンズファッションに携わっている。販売職ではビジネスウエアのフロアでネクタイやシャツなどからスタートし、後にデザイナーズブランドなども担当するようになっていった。その後、年間セールス1位に輝いた。

下積みがバイヤーを作る

 

 本社スタッフの初仕事はMDのアシスタント、それが3年続いた。「最初の2年間は社内での実務に追われる毎日でした。外出の機会はほぼなくて、ひたすら細かい計数管理やスケジュール管理などをこなしていましたね」

 

 デスクワークは未経験のことばかり。パソコンを駆使するため、ワードやエクセルなどを独学で身に付けたほか、下げ札やスワッチづくり、発注書の送受信なども担当。こうした実務を経験し、理解することがいかに大切か、中箸さんは今、バイヤーになって実感しているという。

 

 外出できたのはアシスタントになって2年後、コム デ ギャルソンのショーだったという。その後はバイヤーに同行し、バイヤーによって異なるバイイング手法や考え方を朝から晩までそばで学び、並行して実務もこなしていた。中箸さんがバイヤーとしてひとり立ちしたのは2008年。「とにかく、がむしゃらでしたね」と当時を振り返る。

 高校生からファンで「ローリングストーンズ」のアイテムをコレクション中という中箸さん。2012年はストーンズの結成50周年を記念してコラボレートを行うというバーニーズにとってもメモリアルなコラボ企画を行った。アイテムはキャップ、シャツ、スタジャン、アクセサリーなどで第一弾は即完売、一番人気はキャップ、リオーダーするほど大好評となり、中箸さんはじめ企画スタッフは初の社長賞に輝いた。

「SELECT DON’T SETTLE(=選べよ、固執するな)」、「GET IT RIGHT.(=正しく着こなす)」など、バーニーズの創始者であるフレッド・プレスマンが使っていた言葉を、中箸さんはノートの最初のページに必ず手書きしている。ノートはモレスキンを愛用中。各ページにはブランドの特徴や感想、スタイル、色柄、品番などが事細かく、きれいに、見やすくまとめられている。

ゼロを1にするために売れる努力は怠らない

 

 現在、バーニーズ ニューヨークはフラッグシップショップを国内に5店舗有する。中箸さんは、その全店のメンズにおけるデザイナーズとカジュアルのバイイングをバイヤー2人で担当している(新宿店でいえば7階と8階のフロア)。バイヤーの仕事はシーズンごとの販売計画を立て、それに沿ってバイイング計画を作成していく。売場やマネージャーからのヒヤリングをベースにしながら。

 

 バイヤーとして大事にしていることは?

 

 「僕の場合、ひとつです。“バーニーズ・バイイング・ポリシー”に尽きます。ひとことで言えば、“固執せず、つねに新しいものを探し続ける”ということです。片時も忘れないように、ノートを新しくするたびに最初のページに手書きしています」

 

 新規のブランド投入は話題性もあって注目されやすい。だが実際には、その後の継続こそがむずかしい。バイヤーはそこにも目を配る必要があるのだ。

 

 「自分がバイイングしたブランドですから売れ続けてほしい。そのためにブランド側や売場といい関係を築くことは大事で、その瞬間、その瞬間、やるべきことをちゃんとやって売れる努力を怠らないことが重要です。だから良い結果が出たときはバイヤーとして達成感があり、醍醐味を味わえる瞬間です。一方、販売成績が目標に届かない場合、さまざまな提案や改善を試み、経過も見ますが、期待した結果が出ない時もあります。そんな時はブランドへの愛情があっても固執するのはよくありません。その見極めもバイヤーの力量として問われますが、結果的に売れなかったらバイヤーである自分の責任。それを念頭において動くようにしています」

独自の“におい”づけで仕掛ける

 

 「バーニーズは、大都会の洗練された専門店というイメージ。それを軸にしつつ、昨今のトレンドと自身でも体験したサブカルチャーやスケートなど、トレンド化された“色”をセレクションで少し取り込んでいきます」

 

 いうなれば、“色”というにおいだ。たとえば、アメリカンカジュアルというトレンドでは、デザイナーズやカジュアルで違うテイストを組み合わせてもアメカジっぽく“におい”づけするのが中箸さん流の仕掛けだ。

 

 「色を使い過ぎず3色以内でまとめる、柄が強いモノ同士合わせないといった着こなしのコツは昔、先輩に教わったことで、こういう基本を守りつつ特徴のあるモノを活かします。つまり+αのひねりが洗練されているということで、デザイナーズもカジュアルなアイテムでも組み合わせたときにそういう感覚を持ち合わせていることがバーニーズらしさといえるでしょうか」

 

 単にブランドをチョイスし、店頭に並べることがバイヤーの仕事ではない。ブランドと向き合い、いい関係を築き、店頭で売れるようにするために最大限の知恵を絞る。そして、お客さまが納得し、満足して購入してもらえてこそ、バイヤーは初めて報われる。ファッション好きだけでは育たないスキルとセンス、そして、バイヤーとしての覚悟が中箸さんの存在を光らせている。

中箸さんの三種の神器(仕事の道具)は、カメラ・海外の都市マップ・ノート。現在、海外出張は半期に2回程度。毎回、時差とトランジットの連続で体力維持も必要だという。

(左)オンオフともに“嘘のない”スタイルが中箸さんの信条。パリでモードなブランドを買い付けるようになり、デイリーなスタイルもカジュアルが7割から半分へ減り、デザイナーズもTPOに合わせて着るなど、着こなしの幅が広がった。ライフスタイルは変化するのではなく、つねに進化するものと捉えるのが中箸さん流の表現。この日のジャケットはサンローラン。(右)シルバーアクセサリーを重ね味付けをするのが中箸さんのこだわり。

中箸充男さんのプロフィール

現在の所属
株式会社バーニーズ ジャパン MD部 メンズMD

職務履歴
 2001年、株式会社バーニーズ ジャパンに入社、スーツフロア・ファニシングフロア・デザイナーズフロアの販売スタッフ・アシスタントバイヤーを経て08年より現職。バーニーズ ニューヨーク随一の熱血バイヤー。

趣味:
 スケートボード、インラインスケート、読書

座右の銘
 Select Don’t Settle (バーニーズ ニューヨークに伝わる創業者からのポリシーのひとつ)「常に良いものを選択して、探求する」と置き換えています。

取材・文:田中千賀子(ビジョンクエスト)
撮影:増田義和
編集:アパレルウェブ

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