PICK UP

2014.03.19

今春、増改装が相次いだ関西のショッピングモール 満を持して「あべのハルカス」がグランドオープン

 関西における今春の流通の話題と言えば、「あべのハルカス」のグランドオープンが最たるものだろう。昨年来、五月雨式にオープンしてきたため、どの部分が未開業なのかいささか分かりにくい面はあったが、地上300mの展望台「ハルカス300」が象徴するように、大阪・阿倍野地区の新たなランドマークとしての地位を築いたことは間違いない。一方、その「あべのハルカス」に促されるように、郊外型ショッピングモールの増床・改装オープンも相次いだ。3月12日には「くずはモール」(大阪府枚方市)が新棟を増築し改装オープンしたほか、14日には「阪急西宮ガーデンズ」(兵庫県西宮市)が80店におよぶ大規模改装を実施した。今回は完成した「あべのハルカス」と、新棟を増築した「くずはモール」を中心に述べてみたい。

街のランドマークになった「あべのハルカス」

「あべのハルカス」の「大阪マリオット都ホテル」のレストランから望む夜景

 「あべのハルカス」と聞いて、近鉄百貨店の事を思い浮かべる方もおられるだろうが、厳密にいうと少々異なる。「近鉄百貨店阿倍野店」改め「あべのハルカス近鉄本店」は同施設の核テナントではあるが、「あべのハルカス」は展望台やオフィスなどを含めた施設全体のこと指す。2月22日にグランドオープンを迎えたのは「あべのハルカス近鉄本店」で、3月7日のグランドオープンは「あべのハルカス」全体のことだ。

 

 開発主体である近畿日本鉄道(近鉄)は、複合商業施設「あべのハルカス」の中で、役割分担を明確にしている節がある。近鉄が運営する「ハルカス300」は集客を目的とした施設であるが、売り上げは観覧料など限定的。物販では「あべのハルカス近鉄本店」が主力になる。オフィス部分では賃料のほか、外食・物販需要も取り込もうとしている。

 

 「ハルカス300」からの眺めはさすがだ。西は瀬戸内海、東は金剛山(有名な登山の地)、北は天気が良ければ京都タワーまで見渡せるという一大パノラマである。夜景も美しく、新しいデートスポットになることは想像に難くない。上層階の19-20階、38-55階、57階に入居する「大阪マリオット都ホテル」からの眺めも絶景。デートスポット、ディナースポットとして、強力な集客施設になると考えられる。近鉄は純然たる小売業ではないことも影響しているのだろうか、「あべのハルカス」の完成形を見て、「ハルカス300」をはじめとした観覧・遊覧施設を重視したのでは? という印象を強く持った。

「くずはモール」はファッションテナントを強化

「くずはモール」。左手が増収部分の「ハナノモール」。右手奥は本館「ミドリノモール」

 一方、「くずはモール」は本館「ハナノモール」を増床したほか、既存部分も大規模改装した。新規テナントが約70増え、大阪府下最大級の240ショップの規模に拡大した。延床面積は約20万平方メートル(9万平方メートル増)と関西でも有数のショッピングモールに生まれ変わった。元々、最寄駅の京阪電鉄「樟葉駅」の乗降客や地元民を対象にした施設として2005年にグランドオープンした。前身は1972年の「くずはモール街」だ。2001年の高層マンション「くずはタワーシティ」の分譲に合わせ、商業施設の開発も進められた。

 

 3館体制を採る同施設。本館「ハナノモール」には高感度ファッションやインテリアショップを集積している。本館「ミドリノモール」は京阪百貨店とイズミヤを核テナントにする“2核1モール”の 既存部分で、「ハナノモール」とは直接、連絡している。別棟の南館「ヒカリノモール」は2005年の開業時には「KIDS館」と称し、子供関連商材の集積売場だった。今回の改装で、京阪電車の旧車両を展示する「SANZEN-HIROBA」のほか、「ライトオン ファーストレーベル」「ゼビオスポーツエクスプレス」「GLOBAL WORK」「ABC-MART メガステージ」などといった大箱の専門店を導入した。

 

 「くずはモール」のファッション感度は高めだ。オープン当初からの、ビジネスパーソンを含む比較的感度の高いエンドユーザーを対象にする基本姿勢は大きく変わっていない。個性派テナントもいくつか出店している。オンワード樫山が手掛けるファッション雑貨ブランド「ボンベイダック」は日本初展開。レディスの「アングレーム シェルレーヴ」は新業態だ。アクセサリーブランド「ジュアキス」も日本初展開。そのほか、関西初、大阪初などのテナントを数多く誘致した。京阪沿線初というテナントもいくつかある。京阪電鉄は大阪市内と京都市内をつなぐ路線。通勤客を中心に「樟葉」の地元で買い物をしてもらおうという目的で、施設の集客力を高める意図が伝わってくる店舗のラインナップだ。

ターミナル立地は広域集客、郊外型は地域密着

「くずはモール」。日本初展開の「ボンベイダック」

 「阪急西宮ガーデンズ」は延床面積が約24万7,000平方メートル、約260のテナントを擁する。「くずはモール」よりもひと回り大きなショッピングモールである。核テナントは阪急百貨店とイズミヤ。2核1モールの体裁を採る。2008年の開業以来、右肩上がりの成長を続ける数少ない優良施設だ。

 

 その商業施設が全体の約30%に該当するテナントを大幅入れ替えした。梅田や阿倍野地区などの出店攻勢に危機感を抱いて、攻めの姿勢を強めていることは間違いないだろう。感度は「くずはモール」よりも高めで、上質な商品を求める顧客が多い。関西一円で最も住みたい都市のトップがこの施設がある西宮だという。

 

 こうして「あべのハルカス」「くずはモール」「阪急西宮ガーデンズ」の増改装を順に見ていくと、言わずもがなのことではあるが、ターミナル立地では広域からの集客力強化を、郊外型では地域密着型で地元民をつなぎとめる施策を強化していることが改めて分かる。まもなく4月に開業1周年を迎える「グランフロント大阪」。1年目は好調な推移で、年間目標を達成できそうだが、2年目は郊外の施設からも意識されるようになる。4月から消費税率が上がるという不確定要素もあるし、14年春夏商戦は趣の異なる推移になるかもしれない。


 

 

樋口 尚平
ひぐち・しょうへい

 

ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。

 

アパレルウェブ ブログ

メールマガジン登録