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2014.04.16
「阪急西宮ガーデンズ」大規模改装の目的とは 80テナントを改装・新規導入
樋口尚平の「ヒントは現場に落ちている」 vol.4
地元住民を主要顧客にしている
先月3月7日と14日に80テナントを新規導入あるいは改装オープンした複合商業施設「阪急西宮ガーデンズ」(兵庫県西宮市)。2008年11月のグランドオープン後、80テナントに及ぶ大規模改装は初めてである。しかし前回のコラムでも指摘したように、梅田地区などの商業施設開発に危機感を抱いて今回の改装を実施した面もあるのではと考えていたが、実際に取材してみると少し趣が異なるようだ。オープン当初から今春の大規模改装は織り込み済みだったようである。阪急西宮ガーデンズの奥土恵(おくつち・けい)館長の話を中心に、改装の目的を追ってみた。
定借契約5年満了を機に実施したテナント入れ替え
関西の一大商圏、梅田から阪急電車で10数分の場所に
阪急西宮ガーデンズは延床面積が約24万7,000平方メートルで、「阪急百貨店」と「イズミヤ」をアンカーテナントにし、約260の専門店を擁する“2核1モール”の郊外型ショッピングモールだ。関西の一大商圏、梅田から阪急電車で10数分の場所にある。西宮は東京・吉祥寺のように、関西で最も住みたい都市の1位にランク付けされている人気の地区。関西では有数のベッドタウンの1つに数えられる。阪急西宮ガーデンズはその西宮地区の地元住民を顧客の中心にする。
売上高はグランドオープン後、順調に伸び続けている。初年度の2008年度に640億円だった売上規模は、一昨年の2012年度には736億円(対前年比3.2%増)とさらに伸びた。2013年度も12年度を超える見通しだという。
今回の大規模改装のきっかけは、グランドオープン時に交わしていた定期借地契約(定借)の期限が来たことによる背景が大きいという。奥土恵館長は「当初から開業5年あたりが改装のめどだと考えていた」と話す。阪急電鉄出身の奥土館長は、開発当初からこの物件に関わってきた。流行の変化が速い小売市場を鑑み、いずれはMDが陳腐化すると予測していた。「常に新しいものを顧客が求めていると考えた。5年が経過したこのタイミングで施設のブラッシュアップを図った」(奥土館長)。冒頭に提示した疑問――梅田地区などの商業施設開発に危機感を抱いて今回の改装を実施した面もあるのでは? との問いには、「どの施設を意識したということはない」と否定した。
厳然たる事実として、同施設を取り巻く商圏には新しい商業施設が増えている。にもかかわらず、西宮の地元顧客をしっかりつかんでいるため、売上推移は堅調なのだという。1月中旬あたりから改装工事に入り、3月までかなりのテナントが閉鎖された状態だったが、期間中の来館客数は5%減にとどまった。「地域顧客が当施設で“ワンストップショッピング”してくださっていることが堅調の要因だろう。商圏が拡大したというより、顧客の来館頻度が増えていることが大きい。客単価はそれほど変わらないが、1人あたりの来館回数が増えているのではないか」(奥土館長)と分析する。
MDの軸足は替えず、地域顧客にも浸透
「阪急百貨店」と「イズミヤ」がアンカーテナント
08年のオープン後、50店以上のテナントを改装してきたというが、80テナントにおよぶ大規模改装は初めてのことだ。ファッション・雑貨・飲食など、まんべんなく手を加えた。中でも、メンズ強化の目的で雑貨も扱うセレクトショップを増やしたという。1ショップあたりの区画を少し大きくして、ゆったりとしたスペースでブランドの世界観を演出しやすくした。
代表的なテナントが「ビーミング ライフストア バイ ビームス」「アメリカンイーグル アウトフィッターズ/エアリー」「ザ・ノース・フェイス プラス」など。来館の多い大学生を取り込む狙いもある。「大箱のライフスタイル型のテナントが必要だと思った。きちんとブランドの世界観を演出した」(奥土館長)とその目的を語る。改装オープン後は順調な滑り出しで、既存店にも相乗効果が表れているという。
80テナント、全体の約30%にあたるショップを改装、入れ替えたが、MD編集の軸足は替えていない。「コンサバティブで上品なエリアのため、求められる商品もサービスも水準が高い」(奥土館長)。商圏は半径10キロメートル圏内が中心で、山の手や宝塚、芦屋なども対象エリア。中心顧客層は女性を中心に30代が最も多く、以下40代・20代、50代と続く。今回の改装では、若い層の来館も増えたようだ。
課題は継続したブラッシュアップ
課題は継続したブラッシュアップ。商業施設にとって言わずもがなの命題だが、グランドオープン以降、阪急西宮ガーデンズでは130を超えるテナントの改装を実施してきたわけで、半数以上がリニューアルあるいは新規ショップに取って代わったことになる。
参考に、競合施設はあるかどうか聞いてみた。答えは「意識しないようにしている」(奥土館長)というものだった。参考にしている施設は「たまプラーザ」や「二子玉川」のショッピングモールなど、立地が似通っている館。しかし地域顧客のニーズに応えることが第一義なので、「(日本初や西日本初といった)新ブランドありきではない」(同)という。
梅田の「グランフロント大阪」や阿倍野の「あべのハルカス」は広域商圏の商業施設だが、阪急西宮ガーデンズは典型的な地域密着型の足元商圏。ほかのモールに展開しているブランドを導入することが同質化につながるわけではないという好例だろう。
樋口 尚平
ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。
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