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2014.06.18
グランフロント大阪 初年度は想定を上回る売上高436億円に
樋口尚平の「ヒントは現場に落ちている」 vol.6
昨年(2013年)4月26日、大阪・梅田にグランドオープンした複合商業施設「グランフロント大阪」。初年度の実績は売上高436億円(2013年4月26日~2014年3月末までの約11カ月。物販・飲食の合計。当初目標は400億円)、来館者数は5,300万人(2013年4月26日~2014年4月25日の1年間。当初目標は3,650万人)で、想定の目標数を大きく上回った。関西の商業集積地・梅田において、新しい需要=顧客を掘り起こす目的で始められた同事業だが、健闘した初年度だったといえる。
広域から集客、飲食も貢献
開業当初から全国的に関心の高かった同施設。東京からもマスメディアが大挙して押し寄せ、オープン後しばらくは報道も盛んだった。中には、来場者数に比して売り上げや客単価が低いと指摘するネガティブなニュースも散見されたが、1個300円のシュークリームから5万円近くするジーンズまで幅広い商材を揃える同施設の実態を反映した内容とは言い難かった。加えてオープン景気に伴う記録的な集客数である。開業後すぐのゴールデンウイークでは、入口のエスカレーターを上がったはいいが人が多過ぎて、そのまま帰ってしまった人もたくさんいた。
来館者は週末を中心に大阪府外からの比率が高く、東京や九州など全国から集客できたようだ。観光客は幅広い年齢・性別だが、来館者数が落ち着いてきた昨秋以降からは、最寄り駅の大阪駅、梅田駅を利用するオフィスワーカーも増えてきた。客層の中心は20代後半から40代あたりの、モノにこだわりを持つファッション愛好者。女性の方がやや多いという。来館者の構成はほぼ想定通りだった。
売り上げも好調な集客の後押しを受けて、4-8月は順調だった。ファッション系ではセレクトショップや梅田商圏内からの移転組が健闘した。観光客には雑貨関連ショップが好評だった。また、飲食も好調だった。
来館者数が落ち着いてきたのが前述の通り9月ごろ、秋のシーズンから。しかし昨年は記録的な残暑だったため、アパレル関連を中心に売り上げの伸びが落ちた。「BEAUTY&YOUTH UNITED ARROWS」「SHIPS」「BEAMS EX Demi‐Luxe BEAMS」などのセレクトショップが健闘。10月以降は秋物が動き始め、11月の気温低下とともに軌道に乗った。10月と11月にカード会員43万人に対し、「OSAMPOカード5倍ポイントアップ」を実施した効果もあった。9月分を10月で取り返すことが出来た。
12月はクリスマス需要を取り込んでカップル客が増加。年内は無休で営業し、年明けは2日の初売りでスタートした。初売りの1月2日は開業以来、1日の最高売上額を達成したという。1月下旬から2月にかけては雪など気候の影響やバーゲンの反動、来館者が減少したこともあり苦戦傾向だった。3月は消費増税の駆け込み需要が見られた。主力のセレクトショップのほか、関西でも有数の生活雑貨を集積するインテリア関連などの売り上げが大幅に伸びた。4月初旬は増税の反動で苦戦したが、中旬以降はアパレル関連が安定して売れた。紆余曲折あった1年目だが、何とか売上計画を上回ることができた。
顧客の創出と情報発信の強化を重視
初年度は1-3階のフラッグシップに位置付ける高感度セレクトショップ群や、5階のアウトドア関連、雑貨やインテリアショップなどがけん引役になり、全館の売り上げを押し上げた。想定外だったのは、新業態に対する反応が鈍かったこと。「思ったよりも大阪のお客様は冒険しない」(阪急阪神ビルマネジメント PM事業本部 うめきた営業部 SC運営事務所、石川弘子 係長=営業・運営担当)と分析している。認知が広まるに連れ、売り上げは徐々に上がっているが、MDの手直しや認知度アップのための情報発信など、テコ入れを進める。
2年目は初年度同様、広域からの集客とリピーターの確保に力を入れる。観光地として関心が低くなると来館者数も減少するとみているため、「顧客への丁寧なアプローチと分かりやすいアプローチ」(石川係長)がキーワードになる。平日の来館者の顧客化も強化ポイントだ。インバウンド――いわゆる海外からの観光客の呼び込みも進める。初年度から外国人観光客の利用も多く、隣接するインターコンチネンタルホテル大阪の開業後(6月)は欧米からの観光客も増えたという。
販売促進の一環として、「ウメキラ☆スタイル」と「ウメキキ」という取り組みを始めた。「ウメキラ☆スタイル」は“うめきた”(梅田の北地区)とキラキラを組み合わせた造語。「ウメキキ」は“食”を通じて“目利き”を目指すという意味を込め、“うめきた”と目利きを合わせた言葉だ。「ウメキラ☆スタイル」は会員制で、店舗の情報発信のほか、同施設のテナントに関連したワークショップを常時、開催している。「ウメキキ」も同じく同施設の飲食店の協力の下、食に関するイベントを定期的に開催している。共に来館目的にも顧客囲い込み策にもなる取り組み。継続することで顧客層を広げる効果が期待できる。
従業員満足(ES)も重要な取り組み
テナント構成では、「かなり感度を意識している。例えばアウトドア店舗でも、登山など実用性だけでなく、ファッション性や情報発信、顧客のライフスタイルに必要不可欠な提案をお願いしている」(石川係長)と言い、商品ラインナップに対するこだわりは高い。
もう1つ、重視しているのが従業員満足(ES)の強化。ブランドイメージの向上や販売促進、顧客の取り込みに、店頭の販売スタッフの協力が欠かせない。昨年も研修等を定期的に開催。今年はその回数を増やしモチベーションアップにつながる研修を充実する。「(運営面では)各店の悩み事を吸い上げ、解決できるよう努力している。テナントの本部と現場の間に立ち、コミュニケーションを手助けすることもある」(石川係長)。
ひとつの“街”を形成することを目指して開業したグランフロント大阪。オープン景気のという特殊要因のあった初年度実績が当面の目標だが、施設の成長は中期的な観点でとらえている。「3年目以降に、ようやく当施設の本来の姿が見えてくるのではないか」と語る石川係長。常々、私は「商業施設の評価は2年目から」と考えているが、グランフロント大阪にも当てはまるかどうか…。現時点では分からないので、これからじっくり取材して、じっくり考えることにする。
樋口 尚平
ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。
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