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2014.07.16

都市型巨大モールから郊外型施設まで 大阪「南海電気鉄道」 の運営ノウハウを探る

南海電気鉄道が新たに手掛けることになった「ショップタウン泉ヶ丘」

 大阪・難波を拠点に和歌山市や高野山、関西国際空港まで路線を展開する南海電気鉄道(大阪市浪速区)。本業の鉄道事業に加え、商業施設の開発――デベロッパー事業も展開している。同社が管理・運営しているショッピングセンター(SC)は現在5施設――なんばパークス、なんばCITY、なんばEKIKANプロジェクト、プラットプラット、いずみおおつCITY(同社HPを参照)で、8月1日には「ショップタウン泉ヶ丘」(大阪府堺市)が新たに加わる。立地やフロア構成が異なる商業施設を複数展開する同社のデベロッパー事業の現状に迫ってみた。

個性発揮する既存SC

 南海電気鉄道が開発した最も大規模なケースは「なんばパークス」(大阪市浪速区)だろう。店舗面積約5万1,800平方メートル、店舗数が約250店という大型の複合商業施設で、南海電車のターミナル「なんば駅」と連絡する好立地にある。ターゲットは30代前後の女性やニューファミリー層だ。このほか同駅構内には、ヤング層を対象にした「なんばCITY」や、百貨店の髙島屋大阪店も出店している。駅正面のロータリー沿いには「なんばマルイ」も店舗を構える。大阪の商業施設集積地と言えば梅田地区が有名だが、なんば地区もなかなかどうして、激戦地である。  

 

 「なんばパークス」の年間売上高は264億円(2013年度実績、髙島屋グループが運営する「T-terrace」を含む)で、年間の来館者数は2,400万人。セレクトショップなどのファッションテナントを新規導入し、ファッション感度やグレード感を高めようとしている。その効果が表れたのか昨年来、服飾雑貨やアパレルが好調で、上質な商品が売れているという。  

 

 「なんばCITY」の年間売上高は298億円(2013年度実績)。店舗面積が約3万3,200平方メートル、店舗数が約270店。昨年から会員カードを「なんばパークス」と共通化した効果もあり、売り上げが増加した。カード会員数も15万人増えて80万人を超えるまでに拡大した。昨春グランドオープンした梅田の「グランフロント大阪」や阿倍野の「あべのハルカス」の影響はなかったようだ。「なんばパークス」は影響を受けたというが、昨秋以降は売り上げが回復した。むしろ梅田の「ルクア大阪」や阿倍野の「キューズモール」が開業した時の方がCITYに対する影響は大きかったという。共通するテイストのテナントが多いためと考えられる。 

 

 「プラットプラット」は2000年7月に開業した。年間売上高は81億1,700万円(2013年度実績)。南海電鉄沿線の「堺駅」前にあるSCだ。店舗面積は約1万5,800平方メートル、店舗数が約45店。なんば駅からおよそ10数分の位置にある。カテゴリーキラーや家電、飲食店舗などで構成するコンパクトなSCで、昨年9月のリニューアル後は好調に推移している。「いずみおおつCITY」(大阪府泉大津市)は1994年、南海電鉄沿線の「泉大津市駅」前にオープンした。年間売上高は16億円(2013年度実績)。店舗面積が約3,800平方メートル、店舗数が約30店という小振りの施設だ。こちらも売り上げは堅調である。 

 

 今年4月26日、南海電鉄のなんば駅と今宮戎駅の中ほど、線路の高架下スペースを商業施設としてオープンしたのが「なんばEKIKANプロジェクト」だ。店舗面積は約895平方メートル、店舗数は3店とコンパクトだが、“駅ナカ”に次ぐ新しい商業施設の開発立地として興味深い。同社では“エキカン”(駅間)と命名している。確かに“高架下”と呼んではあまり格好良さに欠ける…。同施設を現地で見た感想は、なんば駅から歩いて10分ほどかかるため、日常使いというより近隣住民向けの施設だと思った。ちなみに南海電気鉄道のリリースでは、「人と人をつなぐ」をテーマに趣味性の高いテナントを集め、交流の場にすると説明されている。構成テナントはDIY・ガーデニング店、自転車店、炭火焼レストランと、いずれも個性的な専門店である。

現在も営業中のSCを開発する試み

リニューアル後の「ショップタウン泉ヶ丘」イメージ図

 8月1日付で取得する「ショップタウン泉ヶ丘」は現在、一般財団法人大阪府タウン管理財団が運営する営業中の施設である。商業棟部分で約1万9,000平方メートルある同施設の管理・運営、既存テナントとの契約などをそのまま継承する。こうした既存施設の取得という例はほとんどない上、同区画には泉北髙島屋や「パンジョ」といった既存の商業施設も存在する。

 

 そのため、新しいコンセプトやプロモーションはこれから立案する予定。2年後をめどに、同施設の中央付近にある既存の公園部分をリニューアルする計画が決まっている。既存の商業棟の外壁の美装化や一部の建て替えなど、具体的な事はこれから順次、詰めていくことになる。今回の物件取得は南海電気鉄道にとっては新しい挑戦だ。「営業しながら次の改装計画やテナント構成を練るという新しい経験ができる。ノウハウの蓄積にもつながる」(南海電気鉄道 流通営業本部 企画部、藤本兼三 課長)と意欲的だ。 

 

 同施設は泉北高速鉄道の泉ヶ丘駅前に位置する。なんば駅から準急で20数分のところにある典型的な“ベッドルーム タウン”である。泉ヶ丘駅の1日の利用客数は4万3,000人、バスが1万5,000人。住民の高齢化が進んでいる地区だが、同時にマンションの開発計画もあるという。なお、泉北高速鉄道は今年7月1日に南海電気鉄道がグループ企業化したため、大阪府都市開発から社名を変更している。同施設自体もそこへ至る路線も、南海電気鉄道の所有するところになる。 

 

  現在の「ショップタウン泉ヶ丘」はやや統一感に欠けているようだ。老朽化している面もあるだろうが、路面店感覚の店構えのテナントも少なくないようで、閉鎖された店舗区画もあるという。全85区画前後のうち、現状は65店が入居している。運営形態上、売り上げの管理・集計などが把握できていない部分もあるという。少々くたびれてきた郊外型SCと言ったらお叱りを受けるだろうか? いずれにしてもハード面だけでなく、運営などソフト面でも、民間のノウハウを持った企業が担うということは理にかなっていると思う。今後の南海電気鉄道の手腕に期待したい。


 

 

樋口 尚平
ひぐち・しょうへい

 

ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。

 

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