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2018.10.31
【マカオレポート2018】インタビュー マカオのクリエーションを支えるデザイナー8人 <2/2>
ラライスミ・ワイ「POURQUOI」
コンセプチュアルな服づくりに注目 マカオファッション業界の若手注目株
2014春夏のデビュー以来、ロリータファッションなど日本文化に影響を受けたコレクションを数多く発表してきた「POURQUOI」のラライスミ・ワイ。毎回コンセプチュアルな作品を発表してきたが、2019春夏のテーマに選んだのは、カフェ。すべてハンドメイド製作したというアイテムは、コーヒー豆を入れる麻袋をイメージしたようなジャケットや、ケーキやエプロンのディテールを取り入れたものもある。「シャネルがショー会場にスーパーマーケットを再現した(2014秋冬)ように、ランウェイにもカフェの世界観を作り出したかった」。
今回は、サンプル製作作品コンテスト「Fashion Exhibition of the 5th Subsidy Prgramme for Fashion Design and Sample Making」を2年連続で受賞し、「MFF2018」に参加した。「中国での展示会にも参加しているが、バイヤーの反応を見るなかで、クリエーションとビジネスの間で最近は迷走してしまっている」という。その一方で、マカオでの販売が順調なのだという。今後はマカオでのポップアップストアも積極的に出していきたいというが、「トレンドを追っても自分を見失ってしまうだけ。初心を忘れずに、自分にしかできないことをこのブランドでやっていきたい」。
マカオのロック&アート界の旗手が立ち上げた新ブランド
音楽レーベル主宰に自身のバンドのリードボーカル、グラフィックデザイン、そしてカフェ経営――。「フォルティテュード」デザイナーのパキオン・セケイラも、「ワーカー プレイグラウンド」のヴィンセント・チェンと同様、幅広いクリエーション活動を行う。
マカオ理工学院を卒業後、クリエーターとしてのフォルテのキャリアは、スポーツウエアのグラフィックを担当したことから始まる。香港発のアパレル企業Balenoに入社。全7ブランドのグラフィックデザインを担当した。ファッションに興味を持ち始めたのはその頃から。同時に自身の音楽バンド「Blademark」のグッズデザインも手がける。2014年、衣料生産工場の担当者と知り合いになったことから、ファッションデザインを本格的にスタート。2018年、満を持して自身のブランド「フォルティテュード」を立ち上げた。
「MFF2018」で披露したデビューコレクションは、グラフィックデザイナーとしてのフォルテの手腕が発揮された。ブラックを基調としたシンプルなカジュアル服には、自身のブランド名「FORTITUDE」のロゴと、「Go ahead and No fear」というメッセージ。「まさに今の私の気持ちでもあるが、恐れずに前に進む姿勢を若い世代にも伝えたいと思った。ブランド名は、“不屈”という意味だが、“強く”という意味を持つ私の名前フォルテ(Fortes)と、アティテュードとの組み合わせでもある」という。
ファッション、音楽、グラフィック、カフェ。「私にとってはすべてが本業。実は以前はもっと多くのことを手がけていて、ようやくこの4つに絞り込めてきたという感じ。いずれはこの4つを統合するような取り組みをしたい。お互いのクリエーションを理解し協力しあえるような人たちと、さらに新しいものを生み出せるような挑戦をしていきたい」
■「FORTITUDE」
男女3人組によるエッジーなユニセックスブランド
マカオ唯一のファッション&クリエイティビティーのスペシャリスト養成機関「ハウス・オブ・アパレル・テクノロジー(HAT)」を卒業したデザイナーの活躍が目覚ましいが、「AXOXYXOXS(アノニマス)」のデザイナー3人もそのうちの1組。HAT卒業後、同じワークショップや作業場を利用していたことから意気投合し、2015年に同ブランドを立ち上げた。
ハ・ウォン、クアンペン・チョン、ワン・トムの男女3人が作り出すユニセックスカジュアルは、シンプルなラインに、アシンメトリーなデザインや癖のあるディテールを加えたエッジの効いたスタイル。肌触りや着心地も考慮して、素材などの質にもこだわる。
今回の「MFF2018」にサンプル製作作品コンテストの受賞者としてショーを行ったが、ビジネス面ではまだまだ苦労も多い。「マカオは素材や材料の手配が難しく、特に小ロットでの注文となると、かなり高額になってしまう。その結果、価格設定を高めにしなければならないが、マカオのデザイナーズブランドを高い価格で買ってくれる消費者は多くはない。質は落としたくないので、価格とのバランスに苦戦している」(ハ・ウォン)。
今後はネットでの販売にも力を入れる。加えて、中国や台湾、香港、そして日本などのアジアを中心に、展示会への参加を積極的に行いたいという。「ショーなどコレクション発表の場を広げられるようがんばりたい」(ウォン)
スタイリストが手がける大人の女性のためのガーリー服
ロマンティックでガーリーな世界観でファンを捉えているのが、アキナ・レイが手がけるウィメンズブランド「salut, ça va ?」。今回は、2年ぶりに「MFF2018」に参加した。
デザイナーのアキナ・レイは、マカオ理工学院でマルチデザインを学んだのち、CPTTMのファッションデザイン課程を修了。大手ファッションブランドのバイヤーやスタイリストとして従事し、2010年に自身のファッションブランド「salut, ça va ?」を立ち上げた。現在もスタイリストや舞台衣装製作、イベントオーガナイザーなどファッション業界で精力的に活動している。ちなみに、彼女の名前アキナは、日本人歌手・中森明菜から取ったもの。
最新コレクションのコンセプトは、“デイドリーム”。「コレクションのアイディアを練ろうと
上の空で考えごとをしていたことが実際にあって。そのときのムードをそのままデザインした(笑)」という。草花や魚、動物など、異なる絵柄のプリントやレースを重ね、非現実的な雰囲気を創出した。
アクセサリーは中国・深センを拠点とする「SadLoveMoon」が提供。「洋服以外のアイテムを作ろうとは考えていない。スタイリストとしてのネットワークがあるし、それぞれの分野のプロのクリエイターたちとパートナーを組んだほうが、よりいいコレクションができると思うから」。コレクションに合わせて発表したムービーでは、マカオのエレクトロニカ・ユニットEvadeの女性ヴォーカリストSonia Ka Ian Laoが音楽を製作。「salut, ça va ?」のドレスを着用したダンサーのSousoがモデルとして出演した。
コレクションへの評価も高く、今年9月に香港で開催されたファッションイベント「センターステージ」では、ランウェイショー形式でコレクションを披露。「中国・深センのファッションウィークへの参加オファーを受けた」という。
ビジネス面においては、「量産体制を整えたので、マカオをはじめ、中国や台湾、香港などマカオ近隣の地域でポップアップストアをオープンしたい」と意気込む。衣装製作やパーソナルスタイリングなどを手がけつつ、ブランドの運営をすべて1人で行っているため、「私以外のデザイナーも同じような悩みを抱えていると思うが、今はとにかくセールスパートナーがほしい」のだという。
- #戸田美子