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2018.10.31
【マカオレポート2018】インタビュー マカオのクリエーションを支えるデザイナー8人 <1/2>
「マカオファッションフェスティバル2018」(以下:MFF2018)が世界最大級のカジノ・リゾート「ザ ベネチアン マカオ リゾート ホテル」で開かれ(10月18~20日)、25組のマカオ出身デザイナーが参加した。クリエイティブ産業の振興に力を入れる政府の後押しもあり、若手ブランドの成長が目覚ましいマカオのファッション業界。ブランドを立ち上げやすい環境にあるなか、市場規模の小ささや素材調達の難しさを感じ、ネット販売や海外出展で事業拡大のチャンスを探るデザイナーたちも目立ってきている。マカオ出身デザイナーとしての現状やビジョンについて、ショーを終えたデザイナーたちに話を聞いた。
ヴィンセント・チェン「Worker Playground」
マカオのストリートカルチャーを表現するマルチクリエイター
「ワーカー プレイグラウンド(Worker Playground) 」を手がけるヴィンセント・チェンは、ファッションデザイナーをはじめ、グラフィックデザイナーや音楽プロモーター、DJなど、クリエイターとしていくつもの顔を持つ。ラジオやテレビなどメディアへの露出も多く、マカオで知らない人はいない存在だ。
ブランドのデビュー以来「ワーカー プレイグラウンド」のベースになっているのがマカオのストリートカルチャー。「ブランド名も、マカオ島に実在する遊技場の名前から取ったんだ。歳を重ねても、遊び心ややんちゃな気持ちを忘れない大人たちを表現したい」。コレクションでは、北エリアと南エリアで異なるファッションをそれぞれのスタイルで表現してきた。「北に住む男性たちは、バイカースタイルに代表されるような無骨さの残るストリートスタイル。一方、南に住む男性たちは、紳士的でリラックスしたスタイルを好む。上質なニットなどをスタイリングしているんだ」
「MFF2018」で披露したコレクションは、毎年10月に開催されるカーレース「マカオグランプリ」がテーマ。疾走感のあるロックをBGMに、レザージャケットやスタジャンなどに大胆にグラフィックを載せた、洗練されたバイカールックを見せた(チェンは実際、2016年「マカオグランプリ」のオフィシャルグッズのデザインを担当している)。「“ハイウェイスター”と“ナイトレーサー”の2つがコンセプトになっていて、今年はウィメンズ用のアイテムも作った。時計や靴などアパレル以外のものにも注目してほしい」
2005年にエンターテインメント&プロダクション会社「XL CREATION」を設立すると同時に、マカオ生産力科技轉移中心(CPTTM)でデザインとイラストレーションの講師も始める。2年後の2007年には、音楽バンド「L.A.V.Y」を結成。翌年には、音楽プロモーション事業「LIVE MUSIC ASSOCIATION」を立ち上げた。ファッションブランド「ワーカー プレイグラウンド」を立ち上げたのは、2010年のこと。「ファッションにグラフィックは欠かせないもの。また、かつてグランジロックがファッションを含めた強力なカルチャーを生み出したように、音楽もファッションもグラフィックも、相互に影響しあっている。私にとってはいずれも重要な要素」という。
サンプル製作作品コンテストで2013年から6年連続で受賞し、「ワーカー プレイグラウンド」はマカオに2店舗を持つまでに成長。デザイナーもブランドも成熟の域に達してきたが、今後は事業拡大に向け、さらに意欲的に動く。「売り上げを上げることも大切な要素。セールスパートナーと提携し、10月からebayやAmazonでのネット販売で越境ECを実現する」という。ウォッチブランド「シャーク スポーツ ウォッチ」やレザーブランド「ショット(Schott)」とのコラボレーションも決定。「ほかのブランドと積極的にコラボレーションし、ブランドの知名度をさらに上げていきたい」。特に腕時計は、日本でも、ヨドバシカメラの時計専門店5店舗での取り扱いが決まっている。
エラ・レイ「ella épeler」
繊細な描写による独創的な世界
ウィメンズブランド「エラ エペラー」最大の魅力は、独創的で毒気のある世界を描いたオリジナルのプリント柄。デザイナーのエラ・レイは、マカオ理工学院でマルチメディアデザインを学び、アート&アニメーションデザイン業界で4年間勤務。その間CPTTMのファッションデザイン課程を修了し、フリーランスのデザイナーとして再出発した。
デビューから3シーズン目を迎えた今回は、恋愛がもたらす女性のさまざまな感情を繊細なイラストと3つのカラーで表現した。レイは、最新コレクションについて、「淡いピンクを基調としたアイテム群は、恋愛に対して描くハッピーな気持ちを表した。子どもや猫のイラストをプリントし、ファンタジックなムードを創り上げている。ブルーのアイテムは、そのハッピーな気持ちから、現実的な目で恋愛を見ているとき。ねじれた線で悩みや悲しみを表した。そして、赤色は真の愛に気づき成長した女性。大ぶりでゴージャスな花柄や力強いライオンの顔を配し、高まる感情を表現している」と説明。「繊細な感情を表現するため、3つのカラーの発色に気を配った。鉛筆で描いたの線画のタッチがあえて残るようにプリントしたのもこだわりの1つ」だという。
マカオの文化に誇りを感じているが、多くのマカオ出身デザイナーと同様、市場規模が小さいことで苦労することは多い。「コレクションを発表しても、マカオで顧客を増やすのがなかなか難しい。またマカオで素材調達ができるのは2カ所だけなので、香港まで仕入れにいかなければならないこともしばしばある」という。
今後はネットでの販売と海外出展でビジネスの幅を広げる。台湾系のファッション通販モール「Pinkoi」を通じてオンライン販売をスタート。今年9月には、香港のファッションイベント「センターステージ」に出展し、ランウェイショーも実施した。「来年はロンドンのファッションイベントに参加するかもしれない」という。
ブランドが目指すゴールは、“クローゼットに宝物のように残る服”を作ること。ファストファッションが台頭して久しいが、「個人的にファストファッションは好きだが、私自身は、シーズン限りの服ではなく、いつまでも着続けてもらえるようなコレクションを見せていきたい」
日本のファッションから着想した都会のストリートウエア
メンズカジュアルブランド「コモン コンマ(COMMON COMMA)」を手がけるデビッド・シウは、もともと日本のファッションが好きだったといい、これまでにも、着物をモチーフにした作品を発表したこともある。今回「MFF2018」で発表した最新コレクションも、“ネオ ストリート”と題し、スカジャンやカラーブロックによるレイヤードなど、東京のストリートウエアの要素を取り入れた。着物や忍者を想起させるディテールも見られた。「日本のファッションには、パーソナルなスタイルと着やすさの両方が備わっていて、そこにとても興味がある。今回のショーにも、モデルの私物を組み合わせてスタイリングしている」
ファッション業界でバイヤーやマーチャンダイザーなどを経験したのち、デザイナーに転身。「コモン コンマ」でコレクションを発表してまだ2シーズン目だが、同ブランドをスタートする以前にも、サンプル製作作品コンテストでの受賞経験がある実力派だ。
しかし、「市場が小さいこともあり、私のファッションを着てくれるのは、モデルなどまだまだ少数なんだ」とシウ。今回のコンテストのように、デザイナーへのサポートが厚いことがマカオ人デザイナーの利点ともいい、「このブランドを立ち上げてからは間もないし、未熟なところも多い。今後は、ブランドの方向性も含めて大切にブランドを育てていきたい。もちろん海外での販売も視野に入れていきたい」という。
カルメン・レン「LOOM by COMMON COMMA」
キッズラインもスタート 素材にこだわったシンプルモード服
デビッド・シウ手がける「コモン コンマ」のディフュージョンラインとして2016年にスタートした「ルーム バイ コモン コンマ(以下ルーム)」。デザイナーを務めるカルメン・レンは、デビッド・シウのパートナーであり、シウにファッションデザインの道を勧めた1人。英国でファッションデザインを学んだ経験を持つ。
シルクやコットンなどの天然素材を使ったウィメンズコレクションは、シンプルなシルエットにディテールやカッティングでひねりを効かせるのが特徴だ。
サンプル製作作品コンテストを受賞した今回のコレクションでは、初の子ども服も発表した。「流行の親子コーデを見せたかったわけではなく、着心地を大切にしているこのラインで子ども服をやってみたら面白いのでは?という発想から始めた」というレン。 「マカオでは、色鮮やかでポップな、いわゆる典型的な子ども服が主流。市場は小さいが、子ども服を作るデザイナーも少ないので、その分チャンスはあると思う」という。ブランドの育成が今後の1番の課題。「ビジネスを軌道に乗せるのはまだまだ。子ども服を含め、まずはこのスタイルを確立していきたい」
■「COMMON COMMA」 フェイスブック