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2018.10.29

スケールアップした「マカオファッションフェスティバル2018」 注目したい3つの“チャーム(魅力)”

 「マカオファッションフェスティバル2018(MFF2018)」が10月18日からマカオのカジノ・リゾート「ザ ベネチアン マカオ リゾート ホテル」で開かれ、3日間で総勢30組のデザイナー&ブランドが最新コレクションを発表した。9年目を迎える今回の目玉は、開催場所をホテル内のボールルームに移し、規模を拡大したこと。“チャーミング マカオ(CHARMING MACAO)”とテーマを掲げ、マカオのクリエーション力を強く打ち出した。

開催規模を拡大 マカオ最大のファッションイベントに

 イベントの舞台となったのは、ザ ベネチアン マカオ内のボールルーム「フローレンス」。例年は、大型ビジネスショー「マカオ国際トレード&インベストメント・フェア(以下MIF)」(主催:マカオ政府貿易投資促進局)の併催イベントとして、MIFの会場であるホテル内のボールルーム・コタイエキスポホールの一角で行ってきた。今回は別会場を使い、MFF単独で実施。従来より25%多い約260席を用意し、ライティングやセットにも趣向を凝らした。CPTTMでクリエイティブ事業のシニア・ディレクターを務めるレニー・ン氏は、「今回は、開催費用を1割ほど増やし、街頭プロモーションにも力を入れた。会場を独立させたことで、イベントに興味を持っている人たちに集中して訴求できるのがメリット」と話した。

 

 新生「MFF2018」に、参加したデザイナーたちの反応も上々だ。「プクワ(POURQUOI)」デザイナーのラライスミ・ワイは、「マカオ政府による支援の厚さを実感する。デザイナーの存在を理解し大切にしてくれていることがわかり嬉しい」。同展の常連ブランド「ワーカー プレイグラウンド(Worker Playground)」デザイナーのヴィンセント・チェンは、「これまでは「MIF」に訪れた通りすがりの人も来場していたが(笑)、今回は来場する人の目的が明確になった。閉鎖された空間だから、例えばサーカスみたいに、全く違う空間に入り込んだようなクレイジーな演出をしても面白いと思う」と話した。

 

 “チャーミング マカオ(CHARMING MACAO)”とテーマを設けたのも初めての試み。「マカオの持つ魅力をファッションを通じて伝えたいという想いを込めた」(レニー・ン氏)。

中国語&ポルトガル語圏との“一帯一路”でマーケットを拡大

ギニアビサウから参加した「BIBAS」

 アジアと欧州を結ぶ中国の巨大経済圏構想「一帯一路」を取り入れ、マカオの公用語である中国語とポルトガル語を話す国・地域との連携強化を打ち出したのも今回の特徴だ。

 

 初日には、「一帯一路ファッションパレード」と題し、8カ国・地域から参加した9ブランドがコレクションを披露した。マカオをはじめ、フィリピンや、中国・広州、香港、タイ、台湾といったアジア勢が参加。加えて、ポルトガル語圏アフリカのギニアビサウとモザンビークからの参加も見られた。

「BIBAS」デザイナーのコンセイサン・カルヴァロ(左)。
「アフリカの自然が見せる鮮やかな色がデザインのインスピレーション源」という

モザンビークから参加した「Nivaldo Thierry」のニヴァルド・ティエリー
アフリカのファッション市場について、「アフリカのファッション業界は今大きな盛り上がりを見せている。
ここ5年くらいで海外進出に挑戦するデザイナーが増加している」という。

 モザンビークから参加した「Nivaldo Thierry」デザイナーのニヴァルド・ティエリーは、「アジアでショーをやること自体初めてだったが、マカオでこんなに多くの国のデザイナーたちと出会えるとは想像していなかった。デザイナーたちとアイデアや情報を交換することができたのも大きな収穫だった」と振り返った。また、「BIBAS」デザイナーのコンセイサン・カルヴァロは、併催イベント「マカオ国際貿易投資展覧会(MIF)」で行われたファッション・トークショーに登壇。ブラジル、マカオと、ポルトガル語を公用語とする地域を拠点とするデザイナーたちと、ファッションデザインに対する考えやブランドのビジョンについて語った。

「BIBAS」デザイナーのコンセイサン・カルヴァロは、併催イベント「マカオ国際貿易投資展覧会(MIF)」で行われたファッション・トークショーに登壇。

 一帯一路構想を取り入れることは、マカオブランドにとっても大きなアドバンテージが生まれる。中国語とポルトガル語を公用語とするマカオ(実際には9割以上が中国語を使用しているのだが)が、2つの言語圏との連携を深めることで、ターゲット商圏が一気に広がる可能性がある。「マカオのファッションを対外的により強くアピールするきっかけにしたい。海外からデザイナーを呼ぶだけでなく、マカオのデザイナーたちをアフリカなどに送り出すような活動も今後は行っていきたい」(レニー・ン氏)という。

政府をあげてデザイナーを育てる

「COMMON COMMA」デザイナーのデビッド・シウ。
「マカオ政府のサポートが厚いことがマカオ人デザイナーの利点」という。

 最終日のハイライトの1つが、サンプル製作作品コンテスト「Fashion Exhibition of the 5th Subsidy Prgramme for Fashion Design and Sample Making」で受賞した8人のデザイナーがコレクションを披露するショー「スタイル・エンカウンター・モーメント(Style・Encounter・Moment)」。マカオ政府文化局とCPTTMが主催する同コンテストは、賞金16万パタカ(約240万円)を競って行われる。サンプル作品とともに、事業・販売プランも併せて提出する必要があり、クリエイティビティーとビジネスの両面で評価される。5年目を迎えた今回は、ヴィンセント・チェン「WORKER PLAYGROUND」、アロ・ロー&レイニー・チョイ「AURALO ARTE」、シャンテル・チェン「CHAVIN」、ジディオン・タム「KC GIDEON」、ラライスミ・ワイ「POURQUOI」、デビッド・シウ「Common Comma」、カルメン・レン「Loom by Common Comma」、ハ・ウォン&クアンペン・チョン&ワン・トム「AXOXYXOXS(アノニマス)」が受賞した。

 

 受賞者の1人デビッド・シウは今回、メンズカジュアルに、スカジャンやカラーブロックによるレイヤードなど、東京のストリートウエアの要素を取り入れた。「日本のファッションには、パーソナルなスタイルと着やすさの両方が備わっていて、そこにとても興味がある」とコメント。今回のコンテストのように、デザイナーへのサポートが厚いことがマカオ人デザイナーの利点だといい、「ブランドを立ち上げて2シーズン目。方向性を探りながら、じっくりとブランドを育てていきたい」という。

 8人のコレクション作品は、マカオ発ブランドを展示・直売している「マカオファッションギャラリー(MFG)」で2018年12月30日まで展示されている。MFGは、マカオ政府と民間組織による非営利組織・マカオ生産力及び科技轉移中心(CPTTM)と、マカオ政府文化局が2012年にオープンし、マカオファッションを発信する重要な場として、観光客のほか、海外バイヤーも数多く訪れる。

マカオファッションギャラリー

 また、マカオがファッション産業振興を目指し強化しているのが、デザイナーの育成。会期2日目には、デザイナー育成期間「マコンセフ」の学生2人ミッキー・チェとジャック・リンが共同製作によるコレクションを披露した。「マコンセフ」は、マカオ唯一のファッション&クリエイティビティーのスペシャリスト養成機関「ハウス・オブ・アパレル・テクノロジー」で18カ月間のディプロマプログラムを修了した生徒が、さらに2年間、ファッション業界における実践的なプログラムを学ぶ機関。2人は、今年7月に香港で行われた「香港ファッションウィーク」でも、ランウェイショーを実施しており、プロ同様の経験を積めるのも「マコンセフ」の強みだ。

「マコンセフ」のミッキー・チェ(左)とジャック・リン(右)
コレクションのテーマは、伝統的な慣習や枠組みから抜け出し、新しい時代の女性として生きる、という意味を込められた“Ditch the Label(ラベルを捨てる)”。
2人は、このテーマに沿って、イレギュラーなカッティングや異素材のミックス、テーラードなどメンズファッションの要素を組み込むといった試みを行ったという。

米カジノリゾート大手ともコラボレーション

ラスベガス・サンズが主催する「マカオファッションウィーク2018」
カジノリゾートホテル「ザ・パリジャン・マカオ」(写真)などでファッションショーも開催

 米カジノリゾート大手のラスベガス・サンズが昨年スタートしたファッションイベント「サンズ マカオファッションウィーク」(10月18〜24日)との連携も行っている。サンズがマカオで運営するカジノリゾートホテル内でランウェイショーやポップアップなど多様なコンテンツを提供するもので、出店テナントのプロモーションを主な目的とするが、「MFF2018」の参加するブランドも、ランウェイショーに参加したり、作品を展示したりするなどマカオファッションをアピールした。

「ザ・パリジャン・マカオ」では、キティ・ンのドレスブランド「La Mode Desir」をはじめ、
マカオブランドのコレクションを館内の随所に展示した

 これまでのMFFを振り返り、レニー・ン氏は、「開催当初に比べて、参加ブランドは約3倍に増えた。中国からの参加が多かったが、現在は8割がマカオブランドが占める。マカオファッションを発信する重要なプラットフォームとしての役割を担っている」という。

 

 上海「CHIC」や香港「センターステージ」など海外見本市への参加もブランドの成長につながっており、「9月に行われたセンターステージには、前年より4組多い12組が参加し、受注にもつながっている」(ン氏)という。マカオの市場規模の小ささや、素材調達の難しさを指摘するデザイナーも多いが、10年目となる次回MFFに向け、クリエーションの発信と実売の双方が着実に成果を見せ始めている。

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