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2015.12.16

新しいショッピングモールへの挑戦 東急不動産「もりのみやキューズモールBASE」

オープンモール型の「もりのみやキューズモールBASE」

 今年4月27日、大阪市内の森ノ宮に開業した複合商業施設「もりのみやキューズモールBASE(ベース)」。東急不動産が開発した物件で、延べ床面積は2万4,676平方メートル、テナント数は49とコンパクトな規模である点が特徴だ。従来型の郊外立地主体で5万平方メートルを超える大型の商業施設とは趣が異なる。開業から7カ月余が過ぎ、少し落ち着いてきたこのタイミングで、現状を取材してみた。

来館客数は当初予測を上回る推移

 「もりのみやキューズモールBASE」は、ランニングのメッカになっている大阪城公園のすぐそば、かつてプロ野球の試合も数多く行われた日生球場跡地の再開発事業である。東京で言えば、皇居周辺のランニングスポットとお考えいただければ間違いない。大阪市内だが比較的、緑も多く、学校の多い文教地区でもある。こうした立地特性を踏まえて、同施設では文化発信・スポーツ関連のテナントを意識的に配置している。

2階部分の風景

 施設は3階建てだが、斜面に建てられているため、(斜面下側の)正面入り口は1階だが、(斜面の山の手の)裏手は2階に直結しているという個性的な構造である。屋根がテナント入り口付近にしかないオープンモールスタイル。海外のアウトレットによくある形式だ。設定商圏は半径2 km圏内と小さい範囲で、施設同様、コンパクトだ。通常、ほかの「キューズモール」では売上目標を公表しているが、この施設は東急不動産の開発物件の中でも珍しい特性――小規模、物販テナントが少ない等――を持つため、既存施設と比較が難しいこともあり、非公表である。

 

 スポーツに関するイベント関連、図書館、飲食テナントなど、滞在型施設をコンセプトにしていることもあり、物販テナントが少ない。中でも坪効率の良いアパレル系が少なく、主なテナントでは、「オリヒカ」「ギャップ」「ハニーズ」くらいである。スポーツ系では大型スポーツ店「スーパースポーツゼビオ」「エルブレス」が軒を並べる。また同グループのロッククライミング施設の「クライミング バム」など、サービス施設も強化している。

 

 開業から7カ月余りが経過した現時点での来館客数は320万人。年間目標400万人に対し80%の達成率だ。年間では確実に目標数値を上回る推移だという。売上高は公表していないが、社内目標と比較しても順調だそうだ。中でも、「ギャップ」「ゼビオ」が順調で、3階に入居しているフィットネスクラブ「東急オアシス」の会員数も順調に伸びているという。

オーダーメードの商業施設

 支配人の大門康弘(だいもん・やすひろ)氏は、「当初は遠方からの来館も多かったが、最近は地元の方が増えてきた。インバウンドなど増やせる余地はあるが、館内イベントの集客率も良い。特に夕方からの利用者が多い」と語り、手応えを感じているようだ。同氏は「もりのみやキューズモールBASE」に赴任する前は、同じく東急不動産が開発した「あべのキューズモール」に在籍していた。電車で数十分の圏内にある典型的なショッピングモールで、キーテナントとしてイトーヨーカドーが入居している。規模も立地特性も異なるため、「もりのみやキューズモールBASE」とは「比較が難しい」と語る。

 

 「もりのみやキューズモールBASE」が開業した時、話題になったのが「エアトラック」。3階に設置された1周300メートルの人工芝の陸上トラックである。夕刻から夜間にランニングコースとして利用する人も一定数いるそうだ。3階には前述の「東急オアシス」もあり、同施設を起点にして、隣接する大阪城公園へ走りに行く利用客も少なくない。「東急オアシス」に併設されたアディダスの「ランベース」では、平日はビジネスマン、週末はランニングチームの利用が多いという。

 

 主要顧客はやはり地元住民で、30-40代がメーン。50代や親子連れも多い。カード会員の80%は女性だ。オープンモールのため、「雨天の日は集客が落ちる」(大門支配人)というデメリットもあるが、従来型の商業施設と違う方向性のため、単純に売り上げを増やすことが課題というわけでもない。「アパレル系テナントが少ないこともあり、坪効率は低い。だからセール(マークダウン)時の集客力も既存施設に比べると低くなる。しかし回転率を求めているわけではない」(大門支配人)。持続性=サステイナビリティーを追求しているようだ。

 

 かねて、東急不動産では、各立地特性に適した小施設を開発してきたそうで、今回の「もりのみやキューズモールBASE」も例外ではないという。小規模で新しいショッピングモール形態を模索する物件として、基準になる意味合いを込めて“BASE”という言葉を施設名に入れている。オーダーメードの商業施設と言っていいだろう。

「コンセプトを持った施設であることを知ってほしい」と語る大門支配人

アウトサイダーな存在?

 一般的に、売上規模の大きな、売り場面積の大きな商業施設は注目度が高い。少し話は逸れるが、京都市内の三条に「新風館」(しんぷうかん)という商業施設がある。残念ながら来年3月で閉館が決まっているが、2001年の開業時には、オープンモール型の滞在型施設として、業界でも注目度が高かった。足繁く取材に通っていたから良く知っている施設だが、今回、「もりのみやキューズモールBASE」を取材していて、その「新風館」を思い出した。

 

 都市部から少し離れた立地、小規模な施設、地元住民を対象にする、個性的なテナントなど、共通点がいくつかある。「新風館」は当初、新風社中という個性的なデベロッパー会社が運営していたが、数年前に現在のNTT都市開発に譲渡された。私見だがその辺りから、リーシング方針が大きく変わってしまった気がする。「新風館」閉館後は跡地にホテルを併設した商業施設を建てるそうだ。インバウンドを意識しているのかどうかは知らないが、今更感は否めない。

 

 閑話休題。「もりのみやキューズモールBASE」の大門支配人は今後の課題について、「大事なのは、いかにきちんとしたコンセプトを持った施設であるかを知ってもらうこと」だと語る。東急不動産社内の評価は良いそうなので、「新風館」のようなアウトサイダー的な存在ではなかろうが…できるだけ長く、個性派施設として、“小粒でもピリリと辛い”存在感を発揮してほしいものである。


 

 

樋口 尚平
ひぐち・しょうへい

 

ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。

 

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