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2015.12.11

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.29】2016年春夏パリ、ミラノコレクション

 スーパーフェミニンが勢いづいた点は2016年春夏シーズンのパリ、ミラノ両コレクションで見られた大きな変化だ。堂々と女らしさを主張するような装いが物語るのは、自信と美意識を兼ね備えた女性像。ミニマルからの揺り戻しもあって、自分好みのスタイリングを選び取ろうとする女性に向けて、ミックスコーディネートの選択肢が幅広く用意された。透ける演出が目立ち、色数も増えた。ラッフルや刺繍でクラフトマンシップを強調する提案も相次いだ。

◆ミラノコレクション

(左から)GUCCI 、PRADA

 万華鏡のような色のパレードがランウェイをプレイフル気分に染め上げた。アレッサンドロ・ミケーレ氏が衝撃のデビューを飾ってから2シーズン目を迎えた「グッチ(GUCCI)」。カラフルでポジティブな新「グッチ・ガール」はヴィンテージや東洋趣味、ギーク感など、古今東西の歴史やカルチャーを絡み合わせ、愉快なミックスを組み上げた。ガーリーとデコラティブを交じり合わせ、ロマンティックをひとさじ。ブランドのアイコニックカラーの赤と緑を下味に使って、ヘリテージへの敬意を示した。透ける薄布、手の込んだ刺繍を操って、気品とフェミニンを両立。ラッフルやリボンが着姿に抑揚をつけた。特大フレームのレトロ調眼鏡、朗らかな風情のベレー帽は新アイコンとなった。グリッターなパンツは新時代の幕開けを感じさせる。

 

 「プラダ(PRADA)」は「スーツ」の定義を書き換えた。大半のルックが上下そろいだったが、ありきたりの退屈なスーツは見当たらない。マルチカラーが縦に走るストライプ柄が着姿を弾ませた。大きな球形イヤリングも装いにリズムを添える。チェック柄の巻きスカートは裾丈がアシンメトリー。クラシックな膝丈レングスを保ちつつ、アートフルな柄とチアフルな色使いでスーツルックを華やがせた。ツイード生地やチェック柄といった伝統的な演出を用いながらも、ゆるやかなシルエットで朗らかな輪郭を描き上げている。透けるヴェール風の布をかぶせ、ファンタジーを呼び込んだ。きらめきパーツもあしらって、懐かしさと未来感が交錯するレトロフューチャーの雰囲気も招き入れていた。

(左から)Marni 、EMILIO PUCCI

 「マルニ(MARNI)」はグラフィカルに色を躍らせた。赤や青、黄色といった原色をカラーブロッキング風に引き合わせ、強いコントラストを生み出した。スカートの裾は不ぞろいに仕立て、アシンメトリーの美を奏でた。ノースリーブで軽やかな着映えに整えている。半面、ボトムス裾はふくらはぎレングスで長めに仕上げ、裾の動きを演出している。首の詰まったニットトップスや、チュニック風な羽織り物で、重層的なサマーレイヤードを組み立てた。袖なしのパンツ・セットアップは特大の葉っぱモチーフがダイナミックに舞い踊る。流れ落ちるようにドレープを描く生地使いが優美なたたずまいに導く。布や糸をあえて遊ばせる「不始末」の遊びがかえって手仕事感を引き出している。

 

 南の海にドレスを誘い出したのは、新デザイナーが実質的なデビューコレクションを披露した「エミリオ・プッチ(EMILIO PUCCI)」。「MSGM」を率いる、ミラノの成長株、マッシモ・ジョルジェッティ氏は海をテーマに選んでカラフルでプレイフルな装いを打ち出した。1940年代にイタリアのリゾート地、カプリ島で創業したブランドのヒストリーに敬意を示し、マリンテイストでフレッシュな着姿に仕上げた。シグネチャー的存在のいわゆる「プッチ柄」に頼り切らず、熱帯魚やヒトデなど、様々な海中生物モチーフでワンピースやスカートをにぎやかに彩った。スリップドレスやワンショルダー、イレギュラー(不規則)裾など、ダイナミックなフォルムが老舗ブランドを若返らせている。海のイメージを帯びたブルーやグリーンが涼やかな風情。透けるウエアを組み込んだ巧みなレイヤードにも、元祖ジェットセッター御用達ブランドにフレッシュな時代感を注ぎ込む意欲が感じ取れた。

(左から)VERSACE、 MOSCHINO

 「闘う女」像をグラマラスにセクシーに描き上げた「ヴェルサーチ(VERSACE)」はブランドの軸がぶれない。カーキやアーミーグリーンのミリタリー風ジャケットをキーアイテムに据えつつ、ミニ丈ボトムスでレッグラインをつやめかせた。着丈が長めのジャケットを、ウエストで絞ってワンピース風にまとっている。シャープなテイラーリングが強さを印象づける「パワーシック」を打ち出した。サファリジャケットを大胆に変形させ、アーバンな装いになじませている。軍装やサファリルック特有の武骨さを生かしながら、ミニ丈ボトムスと組み合わせ、新たなワイルドスーツを仕立てた。レオパードやゼブラなどのアニマル柄はネオン系グリーンで主張を濃くした。チュールやメタリック刺繍が華やぎを添えている。内なる猛々しさやパッションをたおやかに引き出し、ボディーコンシャスのシルエットでフェミニンを忍び込ませた。

 

 ジェレミー・スコット氏は「モスキーノ(MOSCHINO)」のランウェイを工事現場に変えた。道路工事で見慣れたカラーコーンや迂回表示などをアイキャッチーなディテールとしてあしらった。「Dangerous Couture Ahead」といった言葉遊びの洗練度がステートメントモードの醍醐味。ヘビーデューティーやエンジニアなどのテーマが脚光を浴びる中、タフで実用的な「作業着」のテイストを、ノーカラーのスカートスーツといったクラシックな着姿に写し込んでクチュールライクにねじっている。オレンジや黄色といった、工事現場ならではの目立つ色が装いにエナジーを注ぎ込んだ。自動車の洗車マシンもモチーフに借り受けて、ユーモラスでファニーな空気を帯びさせている。日常生活でおなじみの商品やサービスをモードに招き入れる、ポップアート譲りの手法はさらに磨きが掛かった。プレイフル・ムーブメントの先導役となったジェレミーの愉快なクリエーションは早くもこのブランドの「型」となりつつある。

◆パリコレクション

(左から)Dior、Chloe

 ラフ・シモンズ氏の最後のコレクションとなった「ディオール(Dior)」はランジェリーをエレガントにひねり返した。ランジェリーと言っても、19世紀ヴィクトリア調の古風な下着が下敷き。コットンオーガンジーのイノセントな風合いを生かして、穏やかなセンシュアル(官能)をささやいた。ビスチェライクな白いショート丈トップスとキュロット風のショートパンツというセットアップは丸みを帯びたスカラップ裾が愛くるしい。黒い正統派マニッシュジャケットを重ね、白×黒のジェンダーミックスに仕上げている。透ける薄布仕立てのふんわりワンピースはネグリジェを連想させる。ボディーラインをやさしく包み、ほのかなエロスを薫らせた。ホワイト主体のコンビネーションに加え、ペールトーンでうっすらと色を乗せ、素肌の透明感を際立たせている。花柄の布の上にからチョーカーを巻くネックアクセサリーが優美なムードを招き入れていた。

 

 日本で一般に「ジャージ」と呼ばれるトラックウエアを、「クロエ(Chloe)」はファーストルックから投入し、スポーティーテイストを打ち出した。サイドラインのトラックパンツにはベアショルダーのトップスを引き合わせ、ミックステイストを印象づけた。全体を包むのは、伸びやかなオプティミズム(楽観主義)。ミニドレスはオフショルダーで素肌美をつやめかせている。ランジェリー風味のキャミソールワンピースもラブリーなたたずまい。レースで縁取ったペザント風トップスにはランジェリーっぽさとヒッピー感が同居する。風をたっぷりはらむハーレムパンツはのどかなムード。レインボーカラーのマキシ丈ワンピースはボヘミアン気分の楽観を歌い上げた。あちこちから共布の帯を長く垂らす演出も装いにアクティブ感を寄り添わせていた。

(左から)BALMAIN 、 ALEXANDER MCQUEEN

 女っぽさを押し出す提案が相次いだ今回のパリコレで、「パワーセクシー」と言えそうな装いを披露したのは、「H&M」とのコラボレーションが成功したことでも話題を集めた「バルマン(BALMAIN)」。全体にボディーコンシャスなシルエットでグラマラスな曲線美を目に残した。胸元でたすき掛けにした布の隙間から素肌をさらして、フェティッシュに仕上げている。カットアウトや編み目から肌を見せるヌーディーな演出も多用した。薄布でこしらえたティアードラッフルを何段も重ね、スカートやパンツを流れ落ちるようにエレガントな見栄えに飾った。ラッフルのソフトな風合いがロマンティックを織り込んだ。肩を張ったラインや、全身を覆うフィッシュネットなど、強さとフェミニンが交錯する着姿を示し、90年代気分も盛り込んでいる。

 

 英国の伝統的な服飾文化にオリジナルな解釈を加え続けてきた「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER MCQUEEN)」。今回は英国への移民者が暮らした地域に着想を得て、ボヘミアン風の着姿をモダナイズした。アンティーク風のワンピースにレースやラッフルをたっぷり配して手仕事感を強めている。ロング&リーンのフォルムに繊細な刺繍やフリルで表情を添えた。花のモチーフをあしらって、ナチュラル感を宿らせている。ティアードとラッフルを組み合わせて着姿に起伏をもたらした。ワンショルダーやアンバランス肩で不ぞろいの美をうたった。オフホワイトやパステルトーンでやや古風な雰囲気をまとわせている。高い立ち襟もクラシックなムード。一方、厚底のフラットシューズはストリート感を帯びていて、時空を超えたミックスタイルを成り立たせていた。

(左から)KENZOOLYMPIA LE-TAN

 「ケンゾー(KENZO)」は旅する気分を装いに持ち込んだ。水着を連想させるホルターネックのワンピースがキーピースに選ばれた。裾は先がとがった不ぞろいヘムで、シャープな印象。ミニ丈ワンピにはミリタリー色とビッグポケットを配して複雑なムードに味付けした。千代紙ライクに赤や青、白といったはっきり色を響き合わせたマルチカラーがポジティブトーンを強調。丸みを帯びたショルダーラインは朗らかな顔つき。たくさんの生地を継ぎ合わせたパッチワークのような柄ミックスはノマド感を醸し出す。グラフィカルなパターンが躍動的な着映えに導いている。サイハイブーツ風のグラディエーターサンダルはレッグラインをフェティッシュに演出。形の異なるポーチを連ねたベルトバッグはトリッキーな意外感を差し込んでいた。

 

 ジャポニズム(日本趣味)を前面に押し出した「オランピア ル タン(OLYMPIA LE-TAN)」。日本との縁が深いデザイナーならではの自伝的な意味合いを帯びたコレクション。日本趣味に貫かれた今回のコレクションでは、着物っぽく見える仕立てのワンピースをファーストルックから披露。太い帯まで巻いた和洋折衷ルックを組み上げた。すべてのルックで鮮烈レッドのレッグウエアをまとわせ、着姿に濃厚な色気を立ちこめさせている。本型クラッチバッグで知られるが、今回は「ハローキティ」「マイメロディ」などのサンリオキャラクターをモチーフに選んだ。繰り返し登場した赤いやかんモチーフは名匠・小津安二郎監督へのオマージュ。スカジャンにもあしらった。帯を結んで垂らすディテールを多用。口を覆うマスク風の布も日本的なイメージ。欧州から見た日本へのまなざしを写し取っていた。

 

 ミニマル、エフォートレスを経て、プレイフル、グラマラスへとギアが1段上がった。若々しさが増し、ディテールの冒険、約束事からの踏み出しがあふれたパリ、ミラノモードは、着る人の遊び心をくすぐり、守りに入らないチャレンジングな着姿をそそのかしそうだ。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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