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2016.03.16

大阪・梅田「ハービス」の住み分け戦略

 大阪・梅田の西側――西梅田と言われる区画に、阪神電鉄が開発した2つの商業施設がある。1997年3月19日開業の「ハービスOSAKA」と、2004年11月9日開業の「ハービスエント」だ。現在は阪急阪神ビルマネジメントが管理・運営している2つの「ハービス」は、百貨店やファッションビル、地下街など商業施設がひしめく梅田地区において、どのような住み分け戦略を進めているのだろう。

長い目線で考えるテナント誘致と顧客獲得

 ファッションビルやショッピングモールでは一定期間の賃貸契約を結ぶ定期借地契約(定借)が浸透し、3年くらいをめどに一区画全てのテナントを入れ替えるというスタイルが定着してきた。ちなみに定借期間は大体、物販で3年、飲食で5-6年と言われる。小売りの現場はトレンドの変化が早く、定借によりショップや商品の鮮度を維持する目的がある。梅田の主な商業施設も例外ではなく、定借にせずとも短期間で結果が出なければ、ほかのテナントに入れ替えられることは日常茶飯事だ。

 

 「ハービス」がある西梅田地区はラグジュアリー系のブランドが集積している一角だ。ヒルトンホテルに連絡する「ヒルトンプラザ」や別棟「ヒルトンプラザウエスト」などの商業施設や、ホテルのザ・リッツ・カールトン大阪、ホテルモントレ大阪など、ゴージャスな雰囲気の建物や商業施設が集まっている。そして、「ヒルトンプラザウエスト」の西側に連なっているのが「ハービス」である(少し南側には「ブリーゼブリーゼ」がある)。つまり、梅田の中心地から最も遠い場所にあるわけだ。

 地の利を活かせる大阪駅近辺の商業施設はトラフィックが多いため比較的、集客しやすい環境にある。ところが「ハービス」は前述の通り、目的買いを促す必要のある“わざわざ立地”。おのずと対象顧客を絞り込む必要が出てくる。以前ご紹介した同じ梅田地区の茶屋町にある「ヌー茶屋町」と、テイストや対象は違うが同じコンセプトと考えていいだろう。

 

 一度入居したテナントとの付き合いは比較的長い。中・長期の目線で顧客を呼び込み、徐々にテナントの売り上げを増やしていく方針である。中には17坪から始めたテナントが今では複数店舗を構え、トータルで100坪を超えている例もある。

ハービスOSAKAは男性客、ハービスエントは女性客

 現在「ハービス」では、「ハービスOSAKA」にメンズ客を、「ハービスエント」にはレディス客を呼び込むテナント構成を強化中だ。「ハービスOSAKA」は40代男性が多くなっている。「ハービスエント」では30-40代の女性が中心で、50代を含めると半数以上が女性客だという。いずれもファッション感度の高い顧客が多い。「セレクトショップや百貨店に飽き足らない客層が『ハービス』を利用している」(阪急阪神ビルマネジメント、寺田勝紀SC第一営業部課長)という。

 

 今期の業績は安定していて、「ハービスエント」が前年比1ケタ増と堅調だ。飲食が好調で、国産・インポートを含め貴金属系テナントの調子が上がってきた。「ハービスOSAKA」は入れ替えテナントが多かったため純然たる比較は難しいと言うが、97年の開業時よりも売り上げは増えているそうだ。1階や2階にテーラーなどこだわりを持ったメンズブランドを集積していて、感度の高いメンズ客が集まりつつある。

 来館客層は安定しており、世帯所得1,000万円以上の顧客が全体の16%を占めている。可処分所得の多い良いお客さんを取り込めている。入館者数は平日・週末ともに変わらないが、売り上げは土日が2倍になる。「ハービス」の2棟とも上層階にオフィスフロアがあるため、平日はそのオフィスワーカーが入館しているとみられる。昨今の都市部の再開発施設で非常によく見られる構造だ。一方、インバウンド客はほとんどいないという。積極的にセールを行わないスタイルも関係しているようだが、施設のブランドイメージを保つことを考えれば、現状維持が妥当ではなかろうか。たまに中東系の顧客が店舗を貸し切って買い物をしていることがあるそうで、本当のお金持ちが集まる施設の一面を持っている。

 

 今後、「ハービスOSAKA」では引き続きメンズを強化する方針で、来春にも改装を計画している。「ハービスエント」はファッション系に加え、生活雑貨やインテリア、ブライダル関連テナントを強化する。すでにブライダル系のテナントが入居しているが、その相乗効果なのだろう、好調なジュエリー系のテナントが多いという。コンペティターはラグジュアリー系テナントを擁する百貨店。いくつか重複するブランドも存在する。間隙を縫うように個性派ブランドを集めていけるかどうかが、差別化の肝だろう。


 

 

樋口 尚平
ひぐち・しょうへい

 

ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。

 

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