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2016.04.20
阪急うめだ本店が婦人服売り場を大規模改装 市場変化に対応する新しい編集の中身とは?
樋口尚平の「ヒントは現場に落ちている」 vol.28
大阪・梅田にある阪急うめだ本店。(株)阪急阪神百貨店が運営する百貨店の中の旗艦店舗と言ってもいいだろう。取材先では「東の伊勢丹、西の阪急」とよく耳にするが、西日本において自他ともに認めるファッションに強い百貨店である。今までは関西の商業施設をご紹介してきたが、今回は趣向を変えて、この阪急うめだ本店を取り上げる。2012年11月のグランドオープン以降、初めての大規模改装に着手しているからだ。主力の婦人服売り場を中心に手を加え、今秋には新しいフロアの全貌が明らかになる予定である。市場変化に対応する新しい編集の中身とは?
顧客の“年齢”から“価値観”への転換
3月の改装後、出足好調だった3階モードのフロア
今年春と秋に分けて実施される大規模改装(厳密には今春の改装は3月に完了、オープン済み)は、本館婦人服売り場の3-6階が対象だ。すでに昨秋、バッグを中心にした雑貨関連売り場を1階フロアにオープンしている。同店の広報担当者の言葉を借りれば、「昨秋がホップ、今春がステップ、今秋の改装がジャンプ」になるという。今年3月には3-4階が一足先に改装を終え、先行オープンした。3階が「モード」、4階が「リアルコンテンポラリー」のブランドを集積した編集である。
大規模改装に踏み切った理由は、2012年の建て替えオープン時と比べると、現在のマーケット特性が変化しているためだ。3-4階フロアを担当する(株)阪急阪神百貨店の第1店舗グループ、佃尚明(つくだ・たかあき)第一婦人服商品統括部長は、「昨年1年間かけて顧客の購買動向のデータを採ったところ、従来の動きと変わっていたため、修正が必要だと判断した」と説明する。今までは、“グレード”ד年齢”で編集していた売り場を、購買動向の変化に合うよう“グレード”דファッション・アティチュード”(価値観)に基づいた構成に替えようという狙いだ。年齢にあまりとらわれずに、ファッションの感性を重視した編集と言い換えてもいい。したがって、各フロアは従来のような、ヤング、ミセスといった区分けにはなっていない。
先ほど少し触れたが、今春オープンした3階は「モード」が切り口で、同館の新しい“顔”となる売り場に位置付ける。4階は「リアルコンテンポラリー」で、日常と非日常のシーン別に編集し、“オトナの女性”へ向けたファッションを提案している。「4階の一部など、ブランド色を抑えて同じ什器で統一感を出している区画もある。しかしこれは各ブランドの得意とする部分=役割を明確にすることが目的で、強みを最大限発揮してもらう狙いがある」(佃統括部長)
3階は出足好調、4階は4月に入り売り上げが増加傾向
4月に入り、売り上げが伸びてきた4階のリアルコンテンポラリー
3月2日に改装オープンした3-4階の売上推移は対照的だ。モードを切り口にする3階は出足がとても好調だったが、現在は「沈静化している。これからの実需期に再度来店してもらえるよう仕掛けていきたい」(佃統括部長)という。リアルコンテンポラリーの4階はスロースターターだったが4月に入り、売り上げが伸びてきた。現在までの3-4階の前年同期比は107-108%の推移だという。社内目標はもっと高い設定だそうだが。
3階で好調なテナントは「ステラ マッカートニー」「サカイ」「モンクレール」など。新たにアクセサリーを加えた「タサキ」もいい。「コム デ ギャルソン ポケット」「マルニ カフェ」なども好調だという。若い世代=エントリー層を意識し、ヤングブランドを集積した「シスターズクローゼット」では、4階から移転した婦人肌着の「メゾン・ド・ランジェリー」が好調。購入客が若返り、高い商品が売れるようになった。また、マッシュホールディングスの「スナイデル」「ジェラートピケ」に、韓国ブランド「スタイルナンダ」も好調だ。
4階では、新しい編集の「ランド オブ トゥモローランド」が買い回り効率の向上に貢献している。3月度だけで、7,000万円の売り上げがあったという。以前のフロアの時から、ほかのブランドとの買い回りが高かったという同ショップ。さらに4階の回遊性を高めるため、極力ショップの壁を取り払い、出入りしやすいレイアウトに改めた。また、「セオリー」「エッセンス オブ アナイ」「m,I,d,ショップ」も好調だという
自主編集売り場でうまくニーズを取り込めているのが、オフィスウエアを集積した4階の「オフィススタイル」だ。「ICB」「ナラカミーチェ」「アンタイトル」など働く女性向けのオフィスウエアブランドを編集している。前述の「セオリー」「m,I,d,ショップ」はこの「オフィススタイル」の一画を占めている。「以前は、オフィスウエアを探すには各ショップを回らなければならず、不便だった。そこで今回の改装を機に『オフィススタイル』というスペースを設け、そこに商材を集約した。百貨店の販売員を常駐させ、複数ブランドを販売している」(佃統括部長)。野心的な一角である。
4階ではさらにシューズギャラリーが健闘している。3階から移設され、ハンディーのある中での展開だった。中でも、スポーツ系ブランドのスニーカーをメーンに品揃えする「エミ」が好調だ。なお昨秋、一足先に改装オープンした1階のバッグ売り場は前年比150%で絶好調だという。化粧品類は130%とこちらも好調な推移のようである。
2次商圏が広がるメリットも
今回の春の改装で、2次商圏が広がったというメリットもあった。西は明石、東は京都と滋賀の境、南は奈良、和歌山の手前まで、より広範から集客できるようになった。その効果として、以前は特定の年齢層で尖っていた年齢別のシェアが「台形になってきている」(佃統括部長)という。中心は30代後半から50代前半だというが、各年齢層がまんべんなく来店するようになった。これは今回の改装の大きな成果の1つである。
さて、今秋に改装オープンが予定されている5階は、ラグジュアリーブランドが集積するフロアである。改装を経て、より一流・本物を極めるフロアにするという。ちなみに5階はグランドオープン以降、右肩上がりとのこと。ファッション百貨店としての面目躍如といったところか。また、6階はデザイナーズ、大きいサイズのコーナーなどを展開するが、さらに洗練されてグレードが高まるようだ。Lサイズ売り場も継続の予定だという。特に5階は個人的に定点観測しているフロアである。どんな世界観を持った売り場に生まれ変わるのか、今から楽しみだ。
樋口 尚平
ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。
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