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2016.05.18

自社スマホで足元住民を囲い込み CCCが創業の地に大型百貨店「枚方T-SITE」開業

通算3施設目の「枚方T-SITE」。生活提案型デパートメントを標ぼうする

 「TSUTAYA」(ツタヤ)を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブが5月16日、創業の地である大阪・枚方に複合商業施設「枚方T-SITE」をオープンした。“生活提案型デパートメント(百貨店)”と呼んでいる点が特徴だ。1万7,536平方メートルのスペースに、「蔦屋書店」を核として、“地元密着型”のテナントを集積している。内覧会では、増田宗昭 代表取締役社長兼CEOがこの施設で何を目指すのか、具体的な内容を説明した。新しい自社開発の携帯電話「TONE」を活用した顧客囲い込み策がその特徴だ。

半径2キロ圏内の足元住民が対象

 「枚方T-SITE」は関西の私鉄、京阪電車の「枚方市」駅前にある。元近鉄百貨店があった場所で、改札を出て数分の距離にある好立地である。枚方市駅は大阪~京都間では3番目に乗降客が多い。大阪市内からは特急で約20分とアクセスがいいため、ベッドタウンになっている。余談だが京阪電車は、社名の京阪(けいはん)から採った“おけいはん”というヒロインを起用したTVCMをシリーズ化していて、関西では有名である。

 

 商圏は半径2キロメートル圏内と足元の住民がメーンだ。増田社長曰く、「枚方市は淀川で分断されているため、広域からの集客が難しい」とのこと。あえて広域は狙わず、足元住民の日常使いに焦点を絞った。地元出身の強みと言えるか。ターゲット層は、親(母)子、働く人、プレミア(お年寄り)層の3つ。核テナントは「蔦屋書店」だが、ショップは「“食”を中心に構成しようと考えた」(増田社長)。

 

 かつて、東京・代官山の「T-SITE」や「蔦屋書店」、二子玉川の「蔦屋家電」、大阪・梅田の「ルクア イーレ」内の「蔦屋書店」などを“現地”で見てきたが、今回の「枚方T-SITE」の「蔦屋書店」も最近の内装や店内構成を踏襲していると感じた。書籍と並んで、金子眼鏡や旅行代理店、スターバックスコーヒーなどのショップが並んでいるレイアウトである。「アップル」コンピュータのショップも入っていた。また、レコードを販売するコーナーも設けられていた。

 

 施設は地下1階、地上8階の9層構造。地階にはフードマーケットのテナントが入居する予定だが、オープンは今夏になる。16日時点では、地上の8層がオープンした。1~3階は「蔦屋書店」「TSUTAYA」を主体に構成。4階は地元の美容院と協業したショップなど、アパレル・雑貨・化粧品などを展開する。5階フロアは子供関連のテナントが集積されている。アパレルや記念写真館のほか、キッズ玩具の「ボーネルンド」は遊戯スペース「トット・ガーデン」も展開する。ちなみにこの5階フロアだが、ボーネルンド社が監修したそうだ。

自社開発スマホ「TONE」を活用し、プレミア(お年寄り)層を開拓

吹き抜けを効果的に使った館内

 最上階の8階は飲食店街でよくあるパターンだが、全店(3ショップ)から枚方の街を見渡すことができる。テラス席もあり、開放感はかなり高い。その下――6~7階には三菱東京UFJ銀行とりそな銀行が出店している。各フロアを見て回って、最も興味を抱いた個所の1つだが、増田社長はこれにも狙いがあると説明する。曰く、「個人資産の多いプレミア層を意識した」と。ATMの使用頻度も高いそうで、ここでも“日常使い”を充実させている。

 

 新しい自社開発の携帯電話「TONE」の活用も、前述のプレミア層の取り込みと関連がある。「TONE」は「TSUTAYA」のスマートフォンで、この1台で「枚方T-SITE」周辺の駐車場の空き状況、お店の予約、商品説明、決済までを担う。いわゆる“ガラケー”の使用率が高い、プレミア層をメーンターゲットにしている。機能面では、使いやすさを重視。月額使用料は1,000円で、プレミア層の購入者の評価も高い。

 

 もう1つ、興味を抱いた点が、増田社長の「関連性商品」という言葉だ。商品そのものを買うことが目的ではなく、その商品を買って誰かに贈ることが目的、といった意味を込めている。コトとモノを言い換えた言葉と言ってもいいだろう。人が集まるプラットフォームを作り、モノと提案するコンテンツを開発する、そのトータル=ライフスタイルを提案する――という姿勢が今後、同社の目指す方向性だという。

 

 なお、“生活提案型デパートメント(百貨店)”と呼んでいる同施設だが、あまり“百貨店”という言葉に過剰反応しない方がいいと思う。実際の施設を見て回ればすぐに分かることだが、既存の百貨店とは全く異質の存在である。小振りの百貨店と同等の規模(1万7,000平方メートル)であることは間違いないが、アパレルを主体にしている訳でもないし、年齢層別にフロアが分かれている訳でもない。枚方市の地元ニーズに適した編集にしたという面が強いので、「カルチュア・コンビニエンス・クラブが作るなら、こんな百貨店を提案する」という意味合い程度に受け取るのが妥当だろう。

内覧会ではカルチュア・コンビニエンス・クラブの増田社長も登壇した


 

 

樋口 尚平
ひぐち・しょうへい

 

ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。

 

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