PICK UP

2016.08.17

電車沿線の施設ビジネスで手腕発揮――個性派デベロッパー・南海商事

“駅”のポテンシャルを活かす

再開発オープン後、順調な推移の「N.KLASS三国ヶ丘」

 南海商事は、沿線駅の商業施設の管理・運営・再開発・リーシングを主業務にする。手掛ける商業施設は大きく分けて2タイプ。①地域密着型の小商圏施設と、インバウンドやデーリーユース、広域商圏の②難波駅構内のショップ開発である。前者は「N.KLASS」(エヌクラス)という屋号で順次、展開を進めている。主に耐震補強工事に伴う再開発をきっかけにしたケースが多い。②はインバウンド客の増加で乗降客が増えている難波駅構内のテナント管理。①の施設とターゲット層もテナント構成も全く異なる内容だ。

 

 同社は昭和44年(1969年)の設立で、歴史は長い。当初は購買部の設置がきっかけで、その後、売店事業に発展していった。昨今の“駅ナカ”ビジネスの嚆矢(こうし)と言えるだろう。現在は前述の通り、施設の開発やリーシングまで業容を広げている。

 

 沿線の耐震補強工事が増えている背景もあり、高架下や駅ビルの再開発が進んでいる。人の流れの“中継地点”になる駅のポテンシャルを活かすという発想で、再度“駅”に集客するきっかけとして、商業施設を活用しようということらしい。しかし、始めに駅ありきではないようだ。「店が集まるところに駅があったという発想」(南海商事 営業推進第二部、岡本広基課長)で、自然に人が集まる環境を駅中心に整えると言った方が正しいだろう。

本格的な施設ビジネスは4年前から

 本格的に施設ビジネスに取り組み始めたのは、4年前の平成24年(2012年)からだという。沿線駅の1つ、住吉大社駅の周辺賃貸ゾーンがそれである。「ショップ南海」という名称で、飲食を主体にした施設を造っている。現在は南海線と高野線の28カ所で同様の施設を運営している。

 

 2年前の平成26年(2014年)5月には、三国ヶ丘駅の再開発事業として、商業施設「N.KLASS三国ヶ丘」をオープンした。駅改札周辺を中心に、本屋やカフェ、コンビニ、雑貨店など12店を展開する。店舗面積は1,335平方メートルと小振りで、商圏は半径2キロメートルという超・地元密着型施設である。「徒歩や自転車で訪れる地元住民の方が多い」(岡本課長)そうだ。これまで商業施設といえば、最低でも第1商圏が半径5キロメートルなどと、比較的規模の大きい開発事例が大半を占めてきた。アパレル系テナントが少ない、デーリーユースが求められる・・など条件が異なるので単純比較はできないが、こうした地域密着型の施設にもニーズがあるのだなと感じた次第である。ちなみに開業後の売上推移も悪くないようだ。

 

 こうした発想で、成果を挙げている物件が、今年3月にリニューアルオープンした堺東駅直結の商業施設だ。こちらも耐震補強工事がきっかけでリニューアルに至った。新規5店を含む12店舗が開業している。「成城石井」や「サンマルクカフェ」など飲食関連が多いが、靴下ショップの「COPO」も出店している。同駅に隣接して「髙島屋堺店」が出店するが、この機会に同店の入り口付近も同時に改装した。一体感を出すことで、集客力や回遊性を高めようという狙いだった。結果、高島屋の来館客数も4-5%アップしたほか、12店のテナントも予算をクリアしているという。駅ナカの施設に一体感を出すため、「N.KLASS三国ヶ丘」のように特定の屋号を付けていない。人を呼び込むという発想がうまく形になったケースである。

 

 今後も「N.KLASS三国ヶ丘」と同様のコンセプトで開発を進める。しかし、地域のニーズに適したテナント構成を重視することもあり、屋号のイメージを無理やり統一することは考えていないという。

当面の課題は難波駅構内の売り上げアップ

南海・難波駅構内に出店した「ラオックス」

 一方、2つ目の柱の難波駅構内のショップ開発は、ターゲット層がインバウンドを含んでおり、またデーリー性も重視されるため、「N.KLASS」とは異なる取り組みが求められる。「ラオックス」などを出店しているが、ポテンシャルの高い立地のため、「もっと売り上げを増やすことが当面の課題」(岡本課長)だという。

 

 今回は、ファッションが主体の純然たる商業施設の話題ではないが、ショッピングセンター(SC)の発展形・細分化の一例として、取り上げる意義があると判断した。SCの淘汰がいよいよ始まっている昨今。新しい施設の在り方として1つの参考事例になるのではないか? 南海商事のケースは、自社グループの沿線駅の再開発がベースになっているが、競合するのは他社の中・小規模の施設である。こうした従来とは異なるコンセプト・方向性の商業施設は今後も増えていくのではないかと、感じた次第である


 

 

樋口 尚平
ひぐち・しょうへい

 

ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。

 

アパレルウェブ ブログ

メールマガジン登録