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2016.08.24

メイドインジャパンを世界へ!ミレニアル世代の挑戦――「FASHIONESE」の日本人2人がNYでチャレンジする理由

 私が「ファッショニーズ(Fashionese)」という日本のセレクトショップと出会ったのは、日本ではなく、ニューヨークで開催されたこだわりのメンズウエアショップを集めた「ポップアップフリー(POP UP FLEA)」というイベントでした。2000年にニューヨークで始まったこのイベントも、今では日本を含め、海外でも開催されるまでに成長。有名ブランドからインディーズブランドまでが集まるファッションイベントとして知られています。メイド・イン・USAのブランドがほとんどを占めるなか、ひと際輝いていたのが、メイドインジャパンのブース。それは有名ブランドでも、馴染みのショップでもなく、ミレニアル世代の若者2人が始めた「ファッショニーズ」でした。先月はNYマンハッタンで開催されたメンズウエアの展示会「リバティー ファッション&ライフスタイル フェア(Liberty Fashion & Lifestyle Fairs)」にも参加。どんな人たちが海を渡り、日本ではなく、あえて“ニューヨーク”で出展をしたのか――ミレニアル世代が考える日本のクリエーション、海外へのアプローチ。やるぞ!と心を動かした<きっかけ>となった出会いなどについて、ディレクターの柏原氏に聞いてみました。

 

 「ファッショニーズ」…佐武統馬氏と柏原征臣氏の2人が、“メイドインジャパン・メイドバイジャパン・メイドオブジャパン”をコンセプトに、2014年にスタートしたセレクトショップ。独自の視点から、日本発のメンズファッションや職人気質な上質なアイテムをセレクト。メイドインジャパンによるファッションスタイルを世界へと広げるため、クリエイターや職人などの海外進出も、多角的視点でアプローチしている。

海外は実力主義 肩書きや経歴なんて関係ない

RINA:海外で日本のブランドを紹介していきたいと考えたとき、まずどの展示会に出展しようと考えましたか?

 

柏原:まず、“メイドインジャパン”というある種のブランドが、日本国内で現在注目されているほど外国の消費者にとって価値があるのか、それを知ることが最優先でした。ですので、一般の消費者が来場できるイベント・展示会であること、メンズファッションがメインのイベントであるということを条件に、「ポップアップフリー」というかなり注目度の高いイベントに、半年ほどかけてこちらからアプローチし、出展に至りました。そこで、ファッションブランド「ブルックリンサーカス(The Brooklyn Circus)」オーナーのウィジー・セオドア(Ouigi Theodore)氏に、「お前たちがやっていることは、最高だ!」と気に入ってもらったんです。その後、「リバティー ファッション&ライフスタイル フェア」の中で、彼がキュレーションしているセクション「Liberty Fairs/Freedom Hall」に招待されました。

 

RINA:それまでは、日本で展示会に参加したり、 イベントを開催したりなど、経験や実績はあったのですか?

 

柏原:海外で展開する前は、日本国内における合同展示会や、他企業さんが主催するショッピングイベントにはいっさい参加していません。自分たちでレンタルスペースを借り、代官山や表参道、神戸、大阪の阪急うめだメンズ館でポップアップショップを開催してきました。1年間で合計6回開催しました。それだけです。どちらかというとお披露目会といった感覚のものです。

 

RINA:いきなり海外の展示会へ出展してしまったわけですか?かなりハードルが高かったと思うのですが。

 

柏原:僕がニューヨークに住んでいたことがきっかけです。日本にいる佐武に「ニューヨークでやりたい!」と相談し、出展を決断しました。僕がニューヨークに拠点を置いていることから、現地の情報やコネクションを丁寧にフォローしていくことができたので、海外、特にニューヨークという夢の土地で自分たちの思いを具現化することに対し、ハードルは低くなっていたということはあります。すぐさま出展するイベント主催者にメールをしました。返信がなかったので、その後も1か月ほど毎週メールを送り続けました。

 

 ただ、約3年前に一度だけ、佐武のハワイ時代の知人がオーナーをしているブルックリンのヘアサロン「サロン ミズノ(Salon Mizuno)」に、今でも取り扱っているシルバージュエリーやレザー小物を6ヶ月ほどに置いてもらったことがあります。そこで、お客さんの反応を聞いていました。同じ平成生まれの日本人オーナーがブルックリンにオープンしたヴィンテージショップ「ラグド ロード(RUGGED ROAD)」でも、スペースを借りて商品をいくつか販売させてもらいました。実際のお客さんの声を吸い上げつつ、自分たちの感覚と消費者のニーズに誤差はあるか、可能性を見極めてきました。

 

RINA:率直に、初めて海外で出展したときの感想は?

 

柏原:率直に言うと、「これはイケる!」という手応えと自信がつきました。老舗も若手も関係なく、肩書きや経歴が全てではないので、非常にチャンスがあるなという手応えがあり、いいものはいい、ダメなものはダメ、好きは好き、嫌いは嫌いと白黒はっきりとした人たちが多く、その中でもとりわけ僕たちのブースへの評価や商品へのコメントはすべてよいコメントでした。「今回の出店の中でお前たちのブースが一番クールだ!」とか、「この靴は本当に美しい」とか。僕らのようなスタートアップには、肩書きや経歴などというファクター抜きで、素直に商品を評価してくれる環境が合っていると思う。本当の意味での実力で勝負ができるので。

コトバは大切な要素 商品と自分を一緒に売り込む

「ファッショニーズ」創設者の佐武統馬(サタケ・トウマ/左)と柏原征臣(カシハラ・柏原オミ)

RINA:2人の出会いは「ハワイ」。それだけでもユニークだと惹きつけられたのですが、よく言われますか?

 

柏原:普通では理解できないような出会い方かなという自覚はあります(笑)。ただ、今となってはお互いに普通のこととして特に大したことではないと思ってはいますが、不思議なことが多いのは間違いないかなと。僕は、母親がグリーンカードを取得したので、半ば無理矢理ハワイに連れて行かれました。佐武は姉の気まぐれでハワイに無理やり留学させられることになり。初めて出会ったのは2003年の4月ごろだったと思います。当時通っていた現地の学校に先に入学していた佐武が、新入生の僕の引率者として、学校を案内してくれたんです。当時住んでいたお互いの自宅も、歩いて1分ほどだったので、放課後もよくサッカーをしてました。とはいえ喧嘩ばかりで、正直お互いがお互いのことを大嫌いでした(笑)。その後すぐ、僕は違う中学に転校し、佐武と会う機会も少なくなったのですが、2年後に偶然街中で再会してからは、何が原因か仲良くなりましたね。

 だからもう人生の半分は一緒にいますね。暇な時は、ワイキキかアラモアナで週3でウィンドーショッピング。響きはすごくいいんですが、当時は格好いいお店も少なく、正直ほかにやることがないからウィンドーショッピングをしてるという感じでした。16歳の時には、Tシャツをデザインして作って販売しようと計画を練ったりしていました。その時からお互いファッションで食っていこうと決めていました。というよりスーツを着て、サラリーマンとして生きるのだけは嫌だというふざけた考えがもともとあるんですが。

 

RINA:英語が堪能だということも2人のアドバンテージだと思うのですが、展示会でのバイヤーたちとのコミュニケーションの取り方などについて教えて下さい。

 

柏原:ニュアンスや言い回しなどによっても伝わり方が変わるので、そういう点では、肌で感じながら英語を習得したのは大きなアドバンテージです。商品説明だけで商談が成立するほどアメリカは簡単ではないし、日頃からのコミュニケーションをこちらからガンガン積極的にアプローチする。ざっくばらんに会話を楽しみながら、その中で商談に移るなどパーソナルなつながりやコミュニティーの中に飛び込む。そこでは商品はもちろん、自分も一緒に売り込むことを心がけています。

日本のクラフトマンシップを披露

RINA:7月にニューヨークで開催された「リバティー フェアーズ ニューヨーク」には2回目の出展ということでしたが、今回はどのようなブランドをセレクトしたのですか?

 

柏原:今回の出展では、商品ジャンルを限定的に絞りブランドの数を前回に比べて半分ほどに減らしました。ブランド数が多すぎて、バイヤーから、「一体ここは何のブランドなの?」と指摘された前回の反省を踏まえ、より商業的にバイヤーが好みそうなアイテムジャンルをセレクトしました。前回人気があった「M&T: Fashionese」のスニーカーを全面的に押し出しました。やはり展示会ではパッと見て目に留まるものがいいのかなと思い、デザインも派手で目に留まりやすいものをセレクトしました。

 

RINA:クラフトマンシップを感じさせる商品ともなると、どうしても単価が高くなってしまうことが多いと思うのですが、そうした価格帯についてバイヤーたちはどういう印象を受けているようでしたか?

 

柏原:単価が高くなってしまうのには、理由があります。バイヤーたちも非常に理解力はあります。価格帯については、なんでもかんでも安ければいいということではなく、やはり自分たちの店舗のイメージや商品群とのバランスも含めた総合的な視点で選んでいます。なぜこの金額なのか、丁寧に説明をするために動画にまとめたり、資料にしたり、口頭でイメージできるように説明をしています。イメージを具現化、コンセプトを具現化するように心かけています。

RINA:日本でも開催されるようになったメンズウエアのイベント「ポップアップフリー・ニューヨーク」にも参加しましたよね?

 

柏原:はい、参加しました。ポップアップフリーが海外で初めてのイベントへの参加でした。今まで自分たちでレンタルスペースを借りて展示会を行ったことはあったんですが、こういった合同展示会に出たのは初めてだったので少し緊張はしたんですが、思っていたよりバイヤー、一般の方からの評判も良かったので、自信に繋がりました。

 

RINA:展示会と違い、一般のお客様のメイドインジャパンに対する反応はいかがでしたか?

 

柏原:“メイドインジャパン”イコール“優秀な物”、というイメージを持たれている方が多く、商品を見て、やっぱりね!そうだと思った!といったよう反応を示されます。ですが、日本製だから欲しい!とはなりません。あくまで一つの小さい要素でしかないなという印象です。ただ、日本はいつもクリエイティブでインスピレーショナルなアイテムを作っているという声は、いくつも聞きました。

RINA:「ポップアップフリー」では実演も行っていましたよね?

 

柏原:スタート時からお付き合いさせて頂いている工房「JIRI」の彫金師・太田尻さんに、彫金の実演を行っていただきました。これはかねてからの要望だったのですが、佐武が初めて「JIRI」さんの彫金を体験した時に、たった一筋の彫り筋を彫ることすらできなかったと嘆いていました。そんなスーパー難しいことを、簡単そうに彫られていたので、感動しちゃって。海外の人も絶対こういうの好きだろうなと思っていたのでオファーしました。

記憶に残る買い物を提供 予約制のサロンも

RINA:2人は平成生まれですよね? いわゆるミレニアル世代ど真ん中ですが、ベビーブーマー世代と自分たちはどこが違うと感じますか?

 

柏原:はい、1990年(平成2年)生まれです。僕らは生まれてからずっと不景気と言われた中で育ってきています。好景気を知らないから、今は不景気なんて全く思ったことないですね。ファッションに関しては、吐いて捨てるほどブランドも商品もあるので、世界同時に生産中止!っていうのを1回やってもいいんじゃないかな、とも思ったりします。多すぎです。良いものの基準も低く、そして広くなっていると思います。ファストファッションが出てきて、機能性が非常に求められているんじゃないかと感じます。シンプルなものや、デニム、ライフスタイルが今の時代の人たちには響くと感じます。だから、お金の使い道や使い方は、自分のために使いますよね。趣味に使うお金が増えているような気がします。今までの当たり前では考えられないことが増えていると思いますよ。今はまさに、“便利で早く”というのが求められてる気がします。欲を満たすことができればいいという利便性の追求では、心を動かすような体験や買い物は少なくなると思うし、分かりやすく言うと、会話のネタやエピソードとなるような買い物や体験が、これからは大事になると思います。

 

RINA:日本では予約制のサロンがあるということですが、これは米国の「トランククラブ(TRUNK CLUB)」のようなサービスを体験できると考えてよいでしょうか?

 

柏原:スタイルはすごく似ています。「トランククラブ」のブリック&モルタル「クラブハウス」のサービス同様に、ファッショニーズのサロンは予約制となっています。こだわりの強い商材を扱っているので、お客様にはきちんと説明をし、満足していただいた上で購入して頂きたいと思ったからです。事前にネットか電話で来店予約をして頂き、専任のスタッフが最寄りの駅までお出迎えします。ゆっくりと商品を見たり、スタッフとのコミュニケーションを図りながら自分のスタイルを見つけたり、そのヒントとなるような時間を過ごしてほしいと考えています。サロンに来て、見て、触れて、感じて、学んで、自分だけのスタイルを、自身で築かれるお手伝いを行っています。思い出に残る物や、記憶に残る買い物って、オンラインではできないですし、五感を使って感じるものだと思うので、サロンは今後もあらゆるエクスペリエンスができる場として利用してほしいです。

 

RINA:クラウドファンディングの「Makuake」を活用してビジネスをスタートされましたが、サポーターとなってくれた人たちの声はどんな感じでしたか?

 

柏原:「Makuake」でのクラウドファンディングは、海外展開をスタートするきっかけとなった「ポップアップフリー」への出展費用を集めるためにやりました。本当にありがたいことに、1ヶ月ちょっとの期間で68人もの方々から応援してくださり、「頑張れよ!」「海外でやるのなんて凄い!」「応援してます!」「メイドインジャパンを世界に広めてください!」という声をかけてくださいました。本当に嬉しかったです。 もちろん大多数の方が、クラウドファンディングを活用するのが初めてだったので、こうした形でお金を募ることに関してご理解頂くまでに何度もお会いして説明をしたりすることもありました。

デジタルで広げアナログで掴む 顧客とのエンゲージメント

RINA:ファッショニーズのサポーターやファンたちとはやはりSNSなどでエンゲージされているんでしょうか?

 

柏原:SNSはフル活用しています。最近は特にインスタグラム(@fashionesejapan)に力を入れています。写真のクオリティーやフィード全体の見え方など結構気を使ってます。サロンでも、一眼レフカメラでお客様を撮影し、帰宅までの間に加工し、そのまま携帯に送信してプレゼントしています。ある種のステータスに感じてもらえたり、ちゃんとした写真を撮影してもらう機会って意外と生活の中では少ないから、照れるけど嬉しい、みたいな。LINEのアイコンなどにも使ってくれてたり、気に入ってもらえてます。ファッションもそうですけど、やっぱり格好いいとか可愛いっていうのが大前提だと思います。特にインスタグラムは、格好よければよいほどいい。

 

 あとは、スタート時から続けているのが、あらゆるタイミングで日頃からご愛顧や応援してくれている方々に、直筆の手紙を送っていることがです。一言二言のコメントではなく、特製のポストカードにびっしりと書いてます。ことあることにスタッフにも書きます。効率はすごく悪いけど、だから意味があるし伝わると思っています。以前ポップアップショップに来てくれたお客様が、一緒に買い物に来てくれたご友人に「購入して終わりじゃなくて、手紙が自宅に届いて初めて「ファッショニーズ」だから」と話してくれていた時は、やっていてよかったなぁと思いました。だから、人がめんどくさいと思うことをとことんやろう、と。デジタルではマスへの拡散やプロモーションを考え、アナログでしっかりと想いを通わすように心掛けています。結局、みんな繋がりたいし、人間らしさに触れたいし、便利になりすぎている世の中に時々嫌気が差すすこともあります。海外に行くと不便さも楽しさの一つだったりもしますし。

まずはやってみる、というスタンス

RINA:最後にメイドインジャパンブランド、また海外へ進出したいブランドへメッセージを。

 

柏原:もし海外でビジネスをやりたい、進出したいと思っているなら、何も考えずにとりあえずまずやっちゃえばいいと思います。もしトラブルがあったらとか、あーだこーだ考える暇があるなら、やった方がよっぽど早いです。それに、もっと海外に行くべきだし、海外で勝負すべきです。それぐらい自信を持っていい。僕たちの願いは、日本に外国のブランドや企業があるように、海外にも同じぐらいの日本の企業やブランドが軒を連ねるようにすること。もし、ニューヨークに挑戦をしたいというブランドや企業様がいたら、あらゆる面でサポートさせていただけたらなと思います。

■「ファッショニーズ(Fashionese)
■インスタグラム(Instagram): @fashionesejapan @masa_hair_fashionese @fashionese_toma
■フェイスブック(Facebook): Fashionese JAPAN


 

RINA  

R I N A

90年代の米国がネットバブルだった頃に米国にて日本向けのファッションポータル事業にコンサルタントとして関わる。

 

以降、「ファッション」と「インターネット」上で行われるビジネスを中心とした事業に15年ほど携わり、Web製作やディレクション、ビジネスのコンサルタントを行う。現在は米国のファッション事情やトレンド、ファッションとIT関連を中心とした執筆、今までの経験と知識を活かしビジネスサポートも行っている。

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