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2016.09.07
メイドインジャパンを世界へ!ミレニアル世代の挑戦――「FASHIONESE」の日本人2人がNYでチャレンジする理由[後編]
前編では ニューヨーク在住「ファッショニーズ(Fashionese)」ディレクターの柏原氏に、展示会の参加やイベントなど、海外での活動を語っていただきました。後編では共同創設者でサロンのマネージャーも務める佐武統馬氏に、日本でのビジネスについても聞いてみたいと思います。
前編:Vol.73 メイドインジャパンを世界へ!ミレニアル世代の挑戦――「FASHIONESE」の日本人2人がNYでチャレンジする理由 |
サロンで生まれる“体験”にこそ価値がある
RINA:前編ではディレクターの柏原さんに色々と海外での活動を教えていただきました。日本国内では横浜にあるサロンを拠点とされているそうでね。アメリカですと、ワービーパーカー(WARBY PARKER)や、ボノボス(BONOBOS)など、オンラインリテールとして始まり、後にブリック&モルタルを持つという形がありますが、最初からサロンを持ちたいと思ったのはなぜですか?
佐武:リアリティーが欲しかったんです。オンラインからスタートしたとはいえ、僕らのよさが生きるのは、ネット上ではありません。これは、周りの知人やメンターからもよく言われてきました。自分が買い物をするとき何を基準に商品を購入するだろう?と考えたんですが、7割方「接客で買う」ことに気づきました。ですので、オンラインは結果ではなく、あくまで“ツールとして利便性を求め”、サロンはその名の通り、お客様とエンゲージ(交流)する場として用意したかったんです。これはビジネスをスタートした当初、日本中でポップアップショップを開催した経験が生きた結果です。僕らの場合はオンラインよりもオフラインの方が満足度も高く、すごく楽しんでお買い物してもらえているという実感があります。便利であることはいいけれど、たまにめんどくさいことをしてみると、意外な発見がある。オンラインでいつでもどこでも欲しいものが手に入るのはいいけれど、わざわざサロンのある横浜まで行き、“買い物自体にストーリーがある”“そこにお客様の思い出や物語が生まれる”。そういう体験こそ本当の意味での価値ある買い物だと思っています。物質的なものだけではなく、情緒的なものもなければファッションは成り立たないし、必要ないとも思います。
顧客と繋がる ファッショニーズ流おもてなし
RINA:サロンに訪れるお客様は、ファッションについてどんな悩み、何を求めて訪れていますか?
佐武:どんなことをやっているブランドなのだろう?という関心を持って訪れる方が多いです。サロンはワン・オン・ワン(One-on-One)だからこそ、じっくりと僕たちのことをお伝えすることができます。また僕らしか知らないブランドの裏の顔や背景をお話しして、「こういうブランドだから持ちたい!」「こうしたブランドを探していたんです」と喜んでいただいています。 また、これは立ち上げ当初からやっていることなのですが、サロンへ来店してくださったお客様に定期的に直筆のお手紙をお送りしています。一言ではなく、一枚にがっつりと。毎度腱鞘炎になるんちゃうかなと思うくらいですが、これは僕がことあるごとにプライベートでもやっていることなんです。
RINA:メールで簡単にメッセージが送れてしまうなか、珍しいですね。お手紙が届いたときのお客様の驚いた顔を想像すると、ひと文字ひと文字、頑張って書いちゃいますね!
RINA:ファッションというと、私たちはこれまで雑誌やTVなどのメディアを通じて情報を得てきましたが、インターネットが誕生し、誰もがSNSで見知らぬ人とエンゲージする時代になりました。情報にアクセスする方法も簡単になりましたよね。 サロンに来るお客様はやはりSNSなどでファッショニーズを知って訪れる方が多いのですか?
佐武:そうですね。今はインスタグラムが中心です。商品やサロンの写真を見て、「ファッショニーズのサロンへ行ってみたい」と思ってくださっているようです。
RINA:ソーシャルメディアの影響って大きいですよね! 米国ではECの強化はもちろんのこと、お客様にいかにストアへ来店してもらえるのかということを考えて、ストアでイベントを仕掛けたり、テクノロジーを融合させるなど、様々な試みが見られます。そうしたストアならではのエクスペリエンスが大切だと考えられていますよね。
佐武:そうですね、僕も「ストア・エクスペリエンス」が大きな要素だと感じています。 まずは自分たちがしてもらったら嬉しいことを中心にサービスを提供しています 。その中でお客様から最も喜んでいただいているのが「撮影サービス」です。サロンでくつろぐ姿や、試着をしている姿などを一眼レフで綺麗に撮影する。お客様には撮影した中からお好きな画像をお選びいただき、そのデータを無料でスマホに送る、というものです。お客様はそれをインスタグラムにシェアしたり、SNSのプロフィール画像に設定してくださったりしているようです。
RINA:私は自分で試着した際にセルフィーしたりすることあるので、嬉しいサービスですよね。しかも撮影していただいた中から好きなものを選べるなんて贅沢! 例えばその日は購入に至らなかったとしても、その時の写真があれば、それを後から見て「やっぱり買おうかな」って思ったりする方もいるのでは?そういう時はECが便利ですが、ファッショニーズのオンラインショップはありますか?
佐武:そうですね。やはりよほど気に入ったものでなければ、その場で購入に至ることって少ないですね。しかも今の時代、衝動買いを好む人はあまりいないと思っています。でも写真をお送りすると、「自分のワードローブの一部として本当に欲しい!ので買いました」という方や、「WEARやインスタグラムに投稿した写真に、格好いいね!というコメントをたくさんもらったから買う!」という方もいらっしゃいます。
オンラインショップは現在、よりシンプルにショッピングすることだけを追求し、リニューアルをしている最中です。それと並行して強化していこうとしているのが、自分たちにしか打ち出すことのできない「コンテンツ」をウェブサイト上で公開することです。
RINA:新しいコンテンツ、そしてリフレッシュしたオンラインショップ楽しみにしています!
メイドインジャパンといえば“デニム”
RINA:その昔は当然、メイドインジャパンが多かったわけですが、今ではついついタグを見て生産地などをチェックしてしまうことが多いですよね。生産地を見て買うか買わないか、直接は影響しないですが、生産地が与えるイメージってどう思いますか?
佐武:僕らの世代の人間は、正直そこまで敏感に生産地を気にしていないのでは?と思います。メイドインチャイナも、今ではクオリティーはイタリア製に引けを取らないし、品質の良し悪しは、好き嫌いと一緒で、結局は選ぶ人次第だと思います。ただ、やっぱり国名のイメージって大きく影響しますね。 国によっては、自分の持つイメージが先行し、「衛生的に大丈夫かな?」「オーガニック?」といったイメージがどうしても湧いてしまう。 そういう面では、メイドインジャパンと表記されたものは、“しっかりしている”“ハイクオリティー”“ちょい高い”“機能性と素材は最高”という印象はあると思いますし、それは日本の歴史や、真面目な文化の賜物だと思っています。
RINA:個人的に、“メイドインUSA=ジェントルマン”という図式が思い浮かぶのですが、“メイドインジャパン”=何だと思いますか?
佐武:メイドインジャパンと言われると、“道を極める”というイメージが強いですかね。「職人」という言葉がよく使われますが、最高までに極める精神や追い求める姿が、メイドインジャパンの持つ格好よさかなと思います。
RINA:では、メイドインUSAを象徴するアイテムというと「デニム」だと感じるのですが、メイドインジャパンを象徴するアイテムってなんだと思いますか?
佐武:メイドインジャパンも「デニム」だと思います。 海外の展示会でもそうでしたが、日本から出展している多くのブランドは、デニムや藍染を得意とするブランドばかりでした。それほど需要があるんだと思います。
RINA:メイドインジャパンの物で今も大切に使っている物ってありますか?
佐武:もちろんあります。父から高校卒業する時にもらったSEIKOの時計、それに、財布やアクセサリー、スニーカーはメイドインジャパンのアイテムばかりです。「ファッショニーズ」でも取り扱っているんですよ。
RINA:素敵ですね。 海外ブランドでは、日本の生地などでシャツやデニム、バッグなどを作り、それが人気だったりして、取り入れ方が上手いなと感じるときがあるのですが、例えば日本の作り手や素材、そしてアメリカが持つ美学やセンスとコラボレートした商品展開などは考えていないのですか?
佐武:いくつかの作り手さんをオススメしたいと、ちょうど今構想しています。ただ、制作費の面で折り合いをつけるのが難しいのが現状です。そこは、今後も継続して改善していかないといけない課題です。
RINA:メイドインUSAは“カッコイイ”、メイドインジャパンは“優れている”。ただ、そうしたものに憧れていたとしても、誰もが気軽に投資できるわけではないと思うのですが。ファッショニーズには、メイドインジャパンの素晴らしさを知るきっかけになる商品などもありますか?
佐武:もちろんあります!手ごろに買えるものとして最近取り扱いを始めたのですが、東京とロンドンの2カ所を拠点として活動する靴下専門ブランドの「アヤメ(ayame)」は、ギフトにも喜んでもらえると最適なアイテムです。うちのスタッフも、たかが靴下だろう?なんてたかをくくっていたんですが、試着をさせたところ、片足を履いただけで「3足買う!」と即決するほどでした。それほど柔らかい肌触りと、履いていることを忘れてしまうほどの履き心地なんです。そう感じさせるのは多分、素材や品質だけではなく、デザイナーである阿賀岡恵さんの表現力やクラフトマンシップが商品に表れているからだと思います。
時流から外れて見えてくるもの
RINA:2016年も半分が過ぎましたが、最後に、今年後半のファショニーズの活動や来年への目標などを聞かせてください。
佐武:本当に早すぎます(笑)。アメリカでの経験で感じたのは、コミュニティをどれだけ作れるか、ということです。ファッショニーズでは、サロンをもっと多くの人に利用していただけるように力を入れていきたいと思っています。また来年の1月には、ニューヨークのリバティフェアにも改めて出展し、継続的に取引先を獲得していきたいと思っています。
僕たちのようなスタートアップは、資金的な面と認知度で、まだまだ苦労しています。ですが以前、とあるブランドの社長に、「大人は相手にしないから辞めた方がいい」と助言していただいたことがあります。「時流というものがあって、時にはそれに沿った方がいい。君は、時流から外れようとしている」と。厳しい言葉ですが、ポジティブに捉えて「その時流から外れてやろう!」とも思い始めました。常に世の流れには敏感じゃないといけないですが、同時に「バカヤロー!」という変な反骨心もあります。今は、何を面白いと思ってもらえるのか、何に優越感を感じてもらえるのかを常に考え、チャレンジを繰り返している段階です。
■「ファッショニーズ(Fashionese)」
■インスタグラム(Instagram): @fashionesejapan @masa_hair_fashionese @fashionese_toma
■フェイスブック(Facebook): Fashionese JAPAN
R I N A 90年代の米国がネットバブルだった頃に米国にて日本向けのファッションポータル事業にコンサルタントとして関わる。
以降、「ファッション」と「インターネット」上で行われるビジネスを中心とした事業に15年ほど携わり、Web製作やディレクション、ビジネスのコンサルタントを行う。現在は米国のファッション事情やトレンド、ファッションとIT関連を中心とした執筆、今までの経験と知識を活かしビジネスサポートも行っている。
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