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2016.11.16

大阪・あべのハルカスを囲む3つの商業施設―明確な住み分けが相乗効果生む

 大阪の有名な商圏と聞いて、読者諸氏が最初に思い浮かべるのは梅田地区だろう。また、難波や心斎橋といった通称“ミナミ”もニュースになることが多い。しかし、大阪市内には他にも個性的な商圏が存在する。その1つが、難波からほど近い阿倍野地区だ。地上300mの展望台を持つ「あべのハルカス」のある天王寺駅周辺の区域である。今回は、その下町風情が残る阿倍野地区を取り上げる。

買い回りに最適な規模感

 天王寺駅は、難波から地下鉄で5分ほど、梅田からは15分の距離にある。市営地下鉄・御堂筋線や谷町線のほか、郊外へ連絡するJR線や近畿日本鉄道(近鉄)の始発駅にもなっていて、ターミナルの役割を担っている。また、東京・山手線に該当する“JR環状線”にも連絡している。南大阪地域への玄関口と言えるだろう。天王寺駅の1日当たりの乗降客は70万人余と言われるので、なかなか規模の大きな商圏だ。

 

 難波や梅田に近い阿倍野商圏だが、主要な顧客は南大阪地域から訪れているため、直接の競合は少ない。難波は南海線沿線、梅田は東西方面(神戸や京都)や北摂地域(梅田の北側)からの顧客が多く、意外に思われるかもしれないが、各商圏の住み分けは比較的うまくできている。各沿線の住民を取り込むという――阪急グループの創始者・小林一三氏が構築した阪急電鉄と阪急百貨店との顧客囲い込み策ではないが、図らずも他の商圏でもそうした“電鉄と商業施設”との相乗効果で住み分けできているようである。

 近鉄・大阪阿倍野駅ビルに位置付けられるのが「あべのハルカス」。そのキーテナントとして入居しているのが近鉄百貨店だ(正式名称は、あべのハルカス近鉄本店)。ひとつ通りを隔てた北側のJR駅ビルに入居しているのが、ファッションビルの「天王寺ミオ」(本館とプラザ館の2館体制)。あべのハルカスの西側には、通りをひとつ隔てて東急不動産が開発・運営するショッピングモール「あべのキューズモール」がある。阿倍野の商圏は大きくこの3つの商業施設で構成される。ちなみに、ここから北西へ1キロメートル足らずの場所に、よくTVでも紹介される“通天閣”がある。

 

 閑話休題。前述の3つの商業施設は、半径300メートル圏内に集中している。また、この3施設をつなぐ陸橋“ペデストリアンデッキ”も整備され、天王寺駅の利用客は自由に回遊することができる構造だ。取材に訪れた時の定点観測も、実に短時間で効率良く行うことができる。買い回りには最適の規模感である。

競合よりも共存共栄を重視

■50代向け売り場をてこ入れ あべのハルカス近鉄本店

 「あべのハルカス」の「あべのハルカス近鉄本店」の主要顧客は50代以上の女性層。ウイング館5階の「ワンダフルライフ」フロア(アパレルのほか、化粧品やアクセサリーなどを扱う)など、ミセス層を対象にした売り場は好調だという。50代がターゲットのインポート品や特選ブランドなどは苦戦傾向にある。ピュアヤング層を対象にした専門店ゾーン「ソラハ」は、OL・キャリア向けのテナント構成に改めた。残念ながら、知名度・売り上げが高まらず、廃止するに至った。元々、旧近鉄本店の館の一部において、「ラ・セレナ」の屋号でピュアヤング向けのゾーンを展開していたが、「ソラハ」はその後継売り場と言える。しかし、過去の事例を見ても、一度離れた顧客を取り戻すのは難しい。

 

 同商圏内の「あべのキューズモール」や「天王寺ミオ」は競合相手とみなしていない。むしろ意識しているのは、同業態の百貨店、髙島屋大阪店である。同店が近鉄本店のコア客対象の売り場を強化していることもあり、今後の取り組み課題は「50代向け売り場の強化」だという。ファミリー層が対象のショッピングモール「あべのキューズモール」、ヤング層向けの「天王寺ミオ」とは共存共栄を模索する。品揃えが重複していないため、互いに住み分けができると考えている。

同じくペデストリアンデッキから見た、あべのキューズモール

■30~40代ファミリーが支持「あべのキューズモール」

 一方、「あべのキューズモール」の主要顧客は30-40代が半数を占めていて(ポイントカード会員の売上比率)、ファミリー層がメーンだと分析する。男女比率は女性が90%だが、10代から60代まで幅広い年齢層が利用しており、典型的なショッピングモールの傾向と言えるだろう。今年の春夏は、大規模なリニューアルを実施したこともあり、ファミリーやユニセックスブランドが好調に推移したという。

 

 今年4月の改装後は、来館者数および売り上げが伸びているようだ。7-10月の直近4カ月の来館者数は開業以来の実績を更新しているという。来館者数の伸びに比して鈍化してきた飲食ゾーンのテコ入れを課題に挙げている。

 

 「あべのキューズモール」も「あべのハルカス近鉄本店」と同様に、同商圏内での共存共栄を目指している。「あべのハルカス」や天王寺公園、天王寺動物園、四天王寺などの観光施設も含めた、「天王寺エリアが持つ魅力を近隣施設と協力して発信していく」ことを重視する。そうした取り組みが、梅田や難波エリアとの差別化につながると考えている。

天王寺ミオ。今年のハロウインで実施したフェイスペイントのイベント

■9割は女性 ファッションビルとしての強みを発揮する「天王寺ミオ

 最後は、ファッションビルの「天王寺ミオ」である。2012-13年にかけて、別館の「プラザ館」にもファッション系テナントを導入し、本館との回遊性の向上を図った。10-30代(32万人のカード会員の64%を占める)のファッションに関心のある若い世代を主要顧客にしている点は大きく変わっていない(本館の下層階はヤングからややOL・キャリア寄りに軌道修正した)。「あべのキューズモール」と同様、90%は女性。顧客の構成比率は20代が一番多く、以後30代、40代、10代と続く。上期(4-9月)の売上高は前年同期比で97%だった(昨年、開業20周年イベントを行った反動もあった)が、プラザ館は前年並みを確保。プラザ館の10-11月は前年比を超えているという。

 

 「天王寺ミオ」の阿倍野商圏に対する考え方も、ほかの2施設と共通している。「足元でいかに住み分けを図るか」が重点課題だ。フロアの改善に対する姿勢も至って単純明快。顧客ニーズに合致するテナントを誘致し、売り場を構築していくことに尽きる。阿倍野地区に訪れるお客さんをいかに取り込むか――目下、レジ客数の増加を目指している。10年近く実施している取り組みが「ミオ講座」。テナントの店員などが講師になり、1回完結型のワークショップを開催する。上期だけで何と88回、のべ500人が受講したというから、なかなかの規模である。また、ハロウインに合わせて、来館者に“フェイス・ペイント”を施すイベントも開催した。これも来館客数を増やすための施策だ。

 

 三者三様の取り組み内容だが、阿倍野の商圏を盛り上げるという点では一致している。「梅田などに比べ、売れ筋のトレンドが遅い」傾向もあるという同商圏だが、これなどは却って差別化できるポイントではなかろうか。前出のペデストリアンデッキからは、これら3つの商業施設を見渡すことができる。毛利元就の3本の矢ではないが、相乗効果により商圏の魅力が高まれば、ベストである。

■あべのハルカス http://www.abenoharukas-300.jp/

■天王寺ミオ http://www.tennoji-mio.co.jp/

■あべのキューズモール http://qs-mall.jp/abeno/


 

 

樋口 尚平
ひぐち・しょうへい

 

ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。

 

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