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2016.12.21
開業から1年――大阪「エキスポシティ」 物販とエンターテインメント施設を融合させた三井不動産の挑戦
樋口尚平の「ヒントは現場に落ちている」 vol.36
昨年11月19日、大阪・吹田にグランドオープンした三井不動産が管理・運営する複合商業施設「EXPOCITY」(エキスポシティ)が開業から1周年を迎えた。中央の「ららぽーと」を核にして、その周りを取り囲むように8つのエンターテインメント施設――つまり非物販ゾーンが配置されている。物販メーンだった従来型とは一線を画した、新しいタイプの商業施設だ。気になる1年目の推移はどうだったのか、現地に赴いてお話をうかがった。
初年度は2400万人を達成 広域から集客
「EXPOCITY」の外観。手前左手が「ニフレル」。
その後ろにそびえたつのが「レッドホースオオサカホイール」
エキスポシティは約22万3000平方メートルの敷地内に約7万1000平方メートル(ららぽーと部分)の商業棟を展開する。7万1000平方メートルは「三井不動産ショッピングパーク ららぽーとEXPOCITY」の部分で、ほかの施設を併せると運営面積は更に広くなる。物販+非物販(サービス)という新しいショッピングモールで、三井不動産も「フラッグシップモール」に位置付ける野心的な物件だ。最寄りの駅、大阪モノレールの「万博記念公園駅」を降りると、すぐ正面にエキスポシティが見えてくる。左手には万博記念公園があり、往年の芸術家、岡本太郎が創作した有名な「太陽の塔」が鎮座ましましている。なかなか風光明媚なところだが、梅田から電車だと小一時間かかるので、正直アクセスはあまりよろしくない。
こうした面もあり、商圏の設定は広範である。エキスポシティはその立地特性や構成内容から、いわゆるリージョナルショッピングセンター(RSC)に分類されるが、通常のRSCより足元商圏は広いようだ。週末になると半径20キロメートル圏外からの来館が増え、大阪府外から訪れる人は40%を超えてくるという。核になる商圏は吹田、豊中、茨木、高槻、箕面といった周辺の地域だが、行楽シーズンや夏休みなどになると、さらに広域からの来館客が増える。
1年目の入館客数は、当初予測の1700万人に対し2400万人(15年11月19日~16年10月31日までの累計)。話題性、開業景気も手伝い、集客の点ではうまく行ったと言えるだろう。背景には、オープン後も五月雨式に続いたエンターテインメント施設の開業の後押しがあったとみられる。来館をうながす「いくつかの山(=話題)ができた」(EXPOCITYオペレーションセンター、栗林環所長)ことが、来館を促す契機になった。中でも白眉は、今年7月に完成・開業した観覧車「レッドホースオオサカホイール」だ。120メートルという日本一の高さ、昼と夜で景色が変わることなど、個性をアピールできる点がプラスに働いた。ちょうど夏のバーゲン時期と重なったことも来館を喚起する材料になった。ちなみに前出の「ニフレル」の入館者数は今年4月時点で100万人、同11月には200万人に達している。
売上実績は非公表。しかし、これには理由がある。水族館の海遊館が新たに手掛けた「ニフレル」や体験型英語施設「オオサカイングリッシュビレッジ」など“体験”を提供するエンターテインメント施設の比率が多いため、エキスポシティ全体の坪効率は、物販主体の既存の「ららぽーと」より低くなっていると考えられる。三井不動産としても新しい業態の「ららぽーと」を確立するための試金石になる物件。売上数値の公表について慎重になっている背景には、こうした事情がある。ちなみに開業時に発表された年間の売上目標は600億円と控えめな設定だ。
前段でも少し触れたが、来館客は広範から訪れていて、しかも年齢や性別などその属性は幅広い。RSCによく見られる傾向だが、エキスポシティでも時間帯で来館者が変わる。平日は主婦層や母子の“バギー族”が多く、午後からは学生層、夕方以降はOLなどビジネスパーソンが増えてくる。シニア層の利用も多いそうだ。エンターテインメント施設は団体客がよく利用している。3世代の来館が多いというが、基本はファミリー層とのこと。いわゆる“シックス・ポケット”効果か、3階の子供服ゾーンの売り上げが伸びているという。
好調なテナントは、ファッション系ではセレクトショップやファストファッション系のテナントが堅調である。また、飲食テナントは開業以来、好調が続いている。スポーツ系テナントでは比較的高額の商品が安定して売れている。観光地として訪れる人も多いため、お土産需要も少なくないようだ。
2年目の課題は「顧客作り」(栗林所長)。「エンターテインメント施設の集客力に依存するのではなく、ららぽーとの顧客を作ることが重要」(同)だと語る。そのため、デーリーユース、日常的に利用してもらえる工夫が必要だと考えている。カード会員の獲得強化は基本施策だが、そのほか今年9月からは、毎週火曜日に定期のワークショップを始めた。クレジット付きカードの会員限定だが、コトをきっかけにモノ=物販へつなげようとしている。
また、館内中央のイベントスペース「光の広場」、および施設入り口の屋外スペース「空の広場」でも各種イベントを企画、開催している。幅広い属性の来館客の反応が得られるためか、「光の広場」でのイベント開催を申し込む企業が非常に多いという。また「空の広場」では、出店するスポーツ系テナントが企画した青空ヨガイベントも開催された。
「各テナントは、開業から1年が経ち、前年の取り組みと比べてみて、より効率の良い運営のやり方が見えてきたのではないか」と栗林所長。「施設側で先導することもあるだろうし、(業種の幅が広い)テナントから教えてもらうこともあるだろう」(同)。
「体験できる場所がないと、エキスポシティに行こうという動機につながらない」(栗林所長)と考えている。その点では、幅広い業種のテナントと協力し、継続的に様々な販促を打てることがメリットだと考えている。
ちなみに開業1年目で退店したテナントは2店。主要な店舗は入れ替わっていない。余談だが、大阪・梅田の「グランフロント大阪」や「ルクア イーレ」でも、1年目からいくつか退店テナントがあった。好立地で集客力の高い商業施設でも、全テナントがうまくやっていくということは難しいことである。最大の課題である“顧客作り”に取り組む2年目が始まった。
■EXPOCITY http://www.expocity-mf.com
■レッドホースオオサカホイール http://osaka-wheel.com
■ニフレル https://www.nifrel.jp
■グランフロント大阪 https://www.grandfront-osaka.jp
■ルアク イーレ http://www.lucua.jp/lucua1100/
樋口 尚平
ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。
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