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2013.03.01

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.6】2013~14年秋冬NY・ロンドン

2013-14年秋冬ニューヨークコレクション

 アンドロジナスでフェティッシュな女神が降臨した。2013-14秋冬のニューヨークコレクションではジェンダーをまたぐ装いをさらに深化させ、男女のよさをいいとこ取りしたかのような両性的トーンが台頭した。レザーやネオプレン素材を使ったマテリアルの実験も相次ぎ、質感と戯れるアプローチが目立った。

 

 パリの老舗メゾン「Balenciaga(バレンシアガ)」を任されたNYモードの先導者「Alexander Wang(アレキサンダー・ワン)」は、スポーツの気分を写し取るお得意の手法をボクシングに向けた。頭を覆うニットやボクシンググローブを思わせる極厚の手袋でアスレティックな空気をまとわせた。紳士服に通じるグレーをベースに、中性的な装いに仕上げた。

 

 日本進出を果たし、ファンをさらに増やしている「rag & bone(ラグ&ボーン)」は、英国紳士服のテイラード感を増幅させ、ボクシーなシルエットのジャケットや、ハウンドトゥース(千鳥格子)のモチーフ、Vネックのニットトップスを披露。昔のキャビンアテンダントに着想を得たという装いもレトロスポーティーな女らしさを印象づけた。

 シーズンの常識を覆してみせたのが「THAKOON(タクーン)」。秋冬のランウェイにノースリーブやシースルーを送り込み、春夏との逆転を起こした。そこに幅広のファーパネルを正面で交差させる演出を組み合わせ、さらに季節感を裏切る手の込んだ趣向を見せた。また、タクーン・パニクガル氏が手がけるTASAKI のジュエリー(イヤーカフ)が神秘的な輝きを放っていた。

 

 NYのみならず、世界のモードを方向付ける「Marc Jacobs(マークジェイコブス)」はまばゆいシャイニールックを打ち出した。ミラーボールのように光線を照り返すワンピースに、細かいチェック柄を重ねた。シルクパジャマ風のトップスも目を惹いた。

 

 ウィメンズでは初のランウェイショーを催した「THOM BROWNE(トム ブラウン)が見せたのは極端なオーバーサイズ。肩を張ったスクエアフォルムを突き詰めた。アメリカントラッドの再解釈という軸はぶれさせずに、ドレープ、パッチワーク、バッスルなどのデコレーションを凝らして服飾史を紐解いた。

(左)タクーン NY 2013AW / Photo by Fernando Colon
(中)マークジェイコブス NY 2013AW
(左)トム ブラウン NY 2013AW / Photo by Dan and Corina Lecca
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 大御所ブランドはそれぞれの原点回帰に動いた。「Donna Karan(ダナ・キャラン)」は名声を築くきっかけになったジャージー生地仕立てのワンピースをモダンに復刻。確かなテイラーリングのワンピやコートで凛々しくたおやかな大人女性の装いを提案した。「Ralph Lauren(ラルフ ローレン)」は軍服風ジャケットにタートルネックのセーター、ボウタイ・ブラウスなどを重ねる「マスキュリン×フェミニン」のスタイリングを打ち出し、ハンサムなジェントルウーマン像を結んだ。高襟ブラウスやファーケープで帝政ロシア貴婦人の面影も持ち込んだ。

 ランウェイショーだけではなく、プレゼンテーション(展示会)形式の発表も勢いづいていた。NYではプレゼンテーションもランウエイに劣らず手が込んでいて、凝った仕掛けも珍しくない。例えば、「MONCLER Grenoble(モンクレール グルノーブル)」は映画『スター・ウォーズ』の帝国軍のテーマが響き渡る中、370人もの男女モデルが動きを止める「静」のパフォーマンスで観衆を圧倒した。「alice + olivia(アリス アンド オリビア)」や「J.Crew(Jクルー)」も新味の高いプレゼンテーションを見せた。

 日本からの参加も相次いだ。国産皮革製品の素晴らしさをアピールするイベント「LEATHER JAPAN 2013(レザージャパン2013)」が開催されたほか、NYの新鋭、PRABAL GURUNG(プラバル・グルン)氏がデザインを担う「ICB」、前田華子デザイナーの「ADEAM(アディアム)」なども参加した。さらに、バンタンデザイン研究所の学生デザイナーによる合同ファッションショーも開催された。

2013-14年秋冬ロンドンコレクション

 続くロンドンでは、ベテラン勢と新顔がそれぞれに新たな表現を試した。「BURBERRY PRORSUM(バーバリー プローサム)」は定番のトレンチコートにつややかな光沢コーティングを施し、なまめかしい風情を帯びさせた。アニマルプリントやハート柄、メタリックパンチングなど、このブランドには珍しいモチーフを多用して、したたかで妖しい女性像をたぐり寄せた。

 

 ウィメンズのランウェイショーに復帰した「Tom Ford(トム フォード)」はこれまでメンズで見せた正統派イメージから一転、エスニックの渦に巻き込んだ。アフリカントライバル柄やロシア調、中央アジア風など、グローブトロッターなおしゃれワールドツアーに連れ出した。

 ロンドンの次世代を担う「J.W. Anderson(J.W. アンダーソン)」はウエストの正面で白い帯が交差するバンデージルックを提案。カラフルなベルトで身頃と片袖を縛るデザインは囚人の拘束服から着想したという。アシンメトリーなカッティングや肩周りの過剰なドレープにも彫刻的な造型が光った。

 

 ピンク・紫、赤、水色などの割と主張が強い色を引き合わせるカラーブロッキングを試みた「Paul Smith(ポール・スミス)」。お得意のメンズ仕立てのパンツを柱に、パンツポケットに両手を突っ込んで歩く伊達男の風情を強調した。フォルムの奇抜さは狙わず、色や丈感でおしゃれの奥行きを深くしてみせた。

 

 NY、ロンドンの両方で勢いづいているのは、服の約束事を踏み越える挑戦的な取り組みだ。季節や性別といったルールを逆手に取ったようなアプローチにクリエイター魂がうかがえる。無駄をそぎ落とすミニマルの流れに異議を唱えるかのような色や素材、ディテールの実験は秋冬おしゃれの選択肢を増やしてくれそうだ。

(左) J.W.アンダーソン LONDON 2013AW / Photo by Koji Hirano
(右)ポール スミス LONDON 2013AW / Photo by Koji Hirano
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宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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