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2013.10.04

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.11】2014年春夏NYコレクション

 2014年春夏シーズンはプレイフルでリラクシングな装いがおしゃれを楽しくさせる――。13年9月に開催された14年春夏ニューヨークコレクションでは、ビーチリゾートに誘うような、ゆったりしたエアリーなウエアが主役になった。肌に付かず離れずのスリップドレスや、風通しに優れたシャツワンピースなどが涼やかな風情を醸し出した。

 

 落ち感のあるスラウチなシルエットが勢いを得た。身体の線を拾いすぎない、流れ落ちるようなラインがくつろぎと気品を両立させる。スポーティーなアイテムを、エレガントな着こなしに整えるアレンジはさらに加速。ベースボールジャケットやテニスセーターなどを、肩の力が抜けたエフォートレスなスタイリングに落とし込む提案が相次いだ。

 

 アメリカの歴史や風土をポジティブにとらえ直す試みが目に付いた。カリフォルニア州南部に象徴されるウエストコースト(西海岸)のビーチライフを写し取った、伸びやかなスタイルがいくつものブランドから提案された。名門大学のキャンパスシーンを連想させるプレッピーも見直された。1960年代のヒッピームーブメントから着想を得た、ボヘミアン調の装いがリバイバルした。ヒップホップやストリートライクな90年代テイストも復活。厚底プラットフォームシューズやテニスルックなどもランウェイに戻ってきた。

 

 着心地のよさげなフォルムにふさわしく、素肌にやさしい素材が増えた。リネンや麻、コットンなど、穏やかな風合いの生地がやわらかい着姿を生む。レースやオーガンジーといった透ける布は、静かなトランスペアレントを引き立てる。パテントレザー(エナメル)やビニールなどの光沢素材は、濡れたような質感をもたらし、うるおったつやめきを添える。

(左)マイケル コース NY 2014SS Photo by Ming Han Chung
(右)3.1 フィリップ リム NY 2014SS

 「マイケル コース(MICHAEL KORS)」は「ソフト」をキーコンセプトに据えてリラクシングなたたずまいの服を並べた。アメリカンスポーツの軸はぶれさせずに、エレガンスと融け合わせた。正面に大胆なスリットを入れたスカートが足さばきにセクシーを忍び込ませる。スイムウエアの上にコートを重ねる夏コートの提案はシーズンレスのアイコン。薄手の布で仕立てたトレンチコートはワンピースのように風をはらんだ。

 

 「スリーワン フィリップ リム(3.1 Phillip Lim)」はシースルー素材を使って、素肌を透け見せる演出を多用。その一方で夏レザーを打ち出し、異素材ミックスで着こなしに奥行きを出した。着物風の肩や袖のシルエットは立体的なシルエットを組み立てた。ウエスタンフリンジをあしらい、ヒッピーの雰囲気も添えた。

(左) トリー バーチ NY 2014SS Photo by Ming Han Chung
(右)ダナ キャラン ニューヨーク NY 2014SS Photo by Fernando Colon

 海辺で過ごすバカンスにいざなうような装いを披露したのは「トリー バーチ(TORY BURCH)」。ポロシャツにも似た、襟付きミニドレスをはじめ、コンパクトでリゾート風のアイテムをそろえた。クロップトパンツやビジューサンダルをモデルにまとわせ、プールサイドで過ごす時間にふさわしい、着崩さないカジュアルの着姿を形にした。

 

 「ダナ キャラン ニューヨーク(DONNA KARAN NEW YORK)」がインスピレーションの源としたのは、アフリカやインド。カフタン風のシャツワンピース、サリーを思わせる1枚布ドレスなどを通して、モダンエスニックを立ちのぼらせた。トライバル模様や民俗モチーフを借りながらも、あくまでもニューヨークらしいスタイリングになじませ、ボーホーシックな風情にまとめ上げている。

タクーン NY 2014SS Photo by Fernando Colon

 日本のTASAKIとの長いパートナーシップでも知られる「THAKOON(タクーン)」は、ランジェリーの官能性を持ち込んだ。スリップドレスやブラトップといった、ランジェリーのディテールを写し取ったウルトラフェミニンなウエアを登場させ、静かな色香を語らせた。パールをキージュエルに選んで、服や小物に配し、ノーブルな光輝を宿らせた。スーパーロングの真珠チェーンをウォレットに添えたり、ネックレスを首から長く垂らしたりと、小物とジュエルの垣根を行き来するようなあしらい方も冴えた。

(左) トミー ヒルフィガー NY 2014SS Photo by Ming Han Chung
(右)ディーケーエヌワイ NY 2014SS

 「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」はお得意のアメリカン・スポーツウエアとプレッピーテイストの調和をさらに深めた。アメリカ西海岸のビーチライフをテーマに、ジップフロントのポロドレスが象徴するような、健康的でキュートな海辺ルックを持ちかけた。ハワイアンモチーフが躍るシャツドレス、スイムウエア風のオールインワンなど、潮風を運んでくるようなアイテムを集め、カリフォルニアの大学に通うカレッジガールが好みそうな、チアフルな着姿に導いた。

 

 90年代復活の旗手になったのは、2014年に25周年を迎える「ディーケーエヌワイ(DKNY)」。ニューヨークのストリートから発したブランドらしく、デニムのオーバーオールやベースボールキャップ、厚底スニーカーなどをランウェイに送り出し、90’sのざわめきを呼び戻した。四半世紀前のロゴブームを彷彿させる「DKNY」のブランドロゴもカムバック。フード付きアノラック(ウィンドブレーカー)やトラックパンツなどを登場させたのも、ヒップホップが台頭し、スポーツウエアが街着化した当時を思い起こさせる。自らブランドヒストリーをたどるようなコレクションで、NYモードの匂いを濃くしていた。

(左) アレキサンダーワン NY 2014SS Photo by Ming Han Chung
(右)ラグ&ボーン NY 2014SS Photo by Fernando Colon

 「アレキサンダー ワン(ALEXANDER WANG)」はチアガールを連想させるボックスプリーツのミニスカートを打ち出し、ガーリーなムードを引き出した。「ALEXANDER WANG」というブランドロゴをあしらったのは、90年代へのオマージュと見えた。チラ腹見せがブームになる中、モデルにシャツの第2ボタン以下をはずさせ、素肌を三角形にのぞかせる開放的なヌーディー演出はトレンドの一歩先を行くデザイナーらしい踏み込みだった。

 

 もともとスポーティーとプレッピーのマリアージュに強みを持つ「ラグ & ボーン(rag & bone)」。14年春夏は白と黒をキーカラーに置いて、スポーティーフェミニンのムードに寄せた。ざっくりと胸元をさらした、テニスウエア風のVネックセーターはV襟の切れ込みが常識破りに深く、アスレティックとフェティッシュを同居させている。腹見せショートトップスやポロシャツに、英国仕立て調のテイラードジャケットを重ねるサマーレイヤードも、絶妙のヌケ感を示していた。

ラルフ ローレン NY 2014SS Photo by Ming Han Chung

 「ラルフ ローレン(Ralph Lauren)」はプレッピーに通じるようなスクールボーイ・ルックを集めた。黒と白を基調にネクタイやV襟セーター、パンツスーツなどをまとわせた。ニーハイ丈のロングソックスや、ミニ丈のワンピース、ネオンカラーのセットアップなど、ガーリーな雰囲気のスタイリングも提案。全体にフレッシュな着こなしに仕上げていた。

(左)ディーゼル ブラック ゴールド NY 2014SS Photo by Ming Han Chung
(右)ラコステ NY 2014SS Photo by Fernando Colon

 今回のNYコレクションで起きた「リラクシング&スラウチ」の地殻変動を端的に示したブランドの1つが「ディーゼル ブラック ゴールド(DIESEL BLACK GOLD)」。やわらかく薄手のジーンズは、しんなりと肌に寄り添い、はかなげな気配さえ引き寄せる。落ち感の豊かなトップスはノースリーブが多く、エフォートレスとボヘミアンが融け合ったようなたたずまい。スパンコール風のきらめきパーツをあしらって90年代っぽいグリッターを添えることも忘れていなかった。

 

 キャップ、ジャケットと、野球アイテムが人気を博してきたが、次は「テニス」かも知れない。テニスウエアを原点に持つ「ラコステ(LACOSTE)」はテニスウエア風のミニドレスをはじめ、自らのオリジンを生かしたウエアを投入。襟がリブ編みのジップアップ・トップスや、縁にラインを走らせたミニスカートなど、スポーツを印象づけるディテールを盛り込みながらも、エレガントに整えて、街中でシーンフリーに着るスポーティールックのお手本を見せた。

(左)トム ブラウン NY 2014SS Photo by Ming Han Chung
(右)マーク ジェイコブス NY 2014SS Photo by Fernando Colon

 全体にくつろいだ伸びやかな着こなしが柱になった今回のNYコレクション。ただし、最もアバンギャルドなショーを開くことで知られ、今回は閉鎖病棟風の会場構成で来場者の心を凍らせた「トム ブラウン(THOM BROWNE)」は挑発的なクリエーションで新たなうねりに異を唱えた。オーバーサイズの肩周りに加え、過剰なまでの刺繍、プリントで飾り立て、まるで秋冬シーズンと間違えたかのように重厚な装いを提示した「マーク ジェイコブス(MARC JACOBS)」のように、デコラティブを掲げる動きもあり、トレンドの風向きは一様ではない。13-14年秋冬に芽吹いた新・装飾主義が収束に向かうのか、それとも新たな表情を伴って息を吹き返すのかは、14-15年秋冬まで通して、見極めたいところだ。

 

 もっとも、13年まで続いたミニマリズムが影を潜め、もっとおしゃれを楽しもうとするマインドが前面に出てきたことは間違いない。14年春夏は力まず自然体でファッションをエンジョイする気分が高まった点が最大の変化と言える。ゆるっとしたフォルムで、肌当たりもソフトな春夏ルックは、着る人の心持ちまで穏やかにさせてくれそうだ。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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