PICK UP

2013.11.08

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.12】2014年春夏 東京コレクション

 2014年春夏シーズンの東京コレクションでは、日本の服飾美を再評価する動きや、ジェンダーミックスのさらに先をうかがうトライアル、サイズの常識を覆す実験など、チャレンジングな冒険が相次いだ。テイスト面ではスポーティーな色合いが濃くなり、エフォートレスや構築美に寄せる提案も増えた。グローバルなモードシーンではミニマル傾向がしずまった後、リラクシングでありつつ着崩さない装いに主軸が移りつつある。東京モードはその世界的な雲行きに視線を合わせながらも、和の伝統やストリートのざわめきなど、東コレならではの特質を織り交ぜて、独自の居場所を見付けようとしているようだ。

まとふ(matohu) Tokyo 2014SS Photo by Koji Hirano

 今回の東コレでは日本固有の服飾美にあらためて光を当てる試みが勢いを増した。ブランド創立から一貫して日本の伝統的な美意識に根差した独創のクリエーションを続けている「matohu(まとふ)」は貝尽くしや鳥尽くし、魚尽くしなど、和服の伝統的な尽くしパターンを披露。やわらかいカラータッチの色尽くしでランウェイを彩った。縦糸と横糸で色を変え、趣の深い織り方で、和のテクノロジーも織り込んだ。ネオンカラーやシャーベットカラーも用いて、時空を超えたカラーミックスを実現した。

ソマルタ(SOMARTA) Tokyo 2014SS Photo by Ko Tsuchiya

 無縫製ニットを得意とする「SOMARTA(ソマルタ)」も和装の美を見直し、着物風カシュクールや、和服帯を思わせるベルトをランウェイに送り出した。浮世絵からインスピレーションを得た絵柄も取り入れた。レースやストッキングにも日本が強みとする繊維の文化を生かした。デザイナーの廣川玉枝氏はテクノロジーと手仕事を融合させたハイブリッド衣服の創造に取り組む意気込みを示した。

 東コレらしいストリート感は今回も目に残った。日本の暴走族に着想した「Christian Dada」(クリスチャン ダダ)」は不良っぽいやんちゃ感を引き寄せた。祖父母の家業にならって、主なモチーフを刺繍であしらったウエアは、我が国のアウトローな服飾文化を掘り起こした。米国のハードロックグループ「KISS(キッス)」とのコラボレーションが実現し、日本ツアーで来日した「KISS」メンバーがランウェイに登場し、来場者を驚かせた。

 性差の境界線をぼかすようなジェンダーミックスの試みが相次いだ。「FACETASM(ファセッタズム)」はおさげ髪の三つ編みメンズモデルを登場させた。キュロットスカートに身を包み、レザーのエプロンをつけた男性モデルまで現れた。スポーティーなブルゾンやサッカーライクな長めソックスなど、男女どちらのモデルが着てもおかしくなさそうな風情のアイテムは、ジェンダーミックスを超えた「ジェンダーレス」の域に踏み込んでいた。

 

 着るシーンを意識したスタイリングに定評のある「beautiful people(ビューティフル ピープル)」は1960年代のロックスターをアイコンにし、彼らのパートナー、グルーピーらの装いをイメージ。男女カップルのほか、男1人に女2人の「両手に花」や、男2人に女2人の「ダブルデート」風のシチュエーションも用意し、ランウェイで彼らを並んで歩かせたた。生地の質感や柄の種類をそろえながらも、異なるムードを漂わせ、新趣向のペアルックに仕立てた。

 服飾の約束事を踏み越えるような発想を持ち込む例も目立った。「ANREALAGE(アンリアレイジ)」の森永邦彦デザイナーは「サイズ」のルールに敢然と挑んだ。ワンピース内に仕込まれたワイヤーを絞ることによって、シャーリングが寄って、服が縮む仕掛けのサイズ可変服を発表。ダイヤルを回すことによって、着る人が自分好みにサイズを微調整できるマルチサイズの服だ。

 「alice auaa(アリス アウアア)」はダークでゴシックな世界観をさらに深くし、少女の悲しい物語をファンタジックな服でつづった。透明のマテリアルや薄手の生地にメランコリックな気分を託した。透明のビニールを何本も脚に巻いたグラディエーター風サンダルや、ラテックスラバーでこしらえたスカートで、フェティッシュな官能美を印象づけた。

 「スポーティーなムードが濃くなった「DRESSCAMP(ドレスキャンプ)」はアスレティックな提案を重ねた。パーカやフーディー、ショートパンツなどに、スカーフで用いるようなエレガント柄を絡ませ、ウィットフルに味つけした。鼻血を垂らしたニコちゃん(スマイルマーク)モチーフが毒っ気を添えた。

 「NOZOMI ISHIGURO tambourine(ノゾミイシグロ タンバリン)」はストリート感とスポーツテイストを響き合わせた。フーディーやスニーカーなどの見慣れたカジュアルアイテムに、プリントやディテールで別のムードを与えた。クチュールラインの「NOZOMI ISHIGURO Haute Couture(ノゾミ イシグロ オートクチュール)」でも星条旗を引き裂いたり、黒く染め直したりして、反骨的メッセージを込めた。

 エフォートレスやリラクシングといった世界トレンドを映す作品も増えている。「THEATRE PRODUCTS(シアタープロダクツ)」は「CABiN(英語で「別荘」)」をテーマに選び、高原で過ごす避暑地スタイルに誘った。涼やかでスポーティーな着こなしや、別荘地らしい伸びやかで優雅なたたずまいを提案。大人の休日ルックにふさわしい装いを形にした。ランジェリーとアウターのミックスもシチュエーションになじんでいた。

 

 「mintdesigns(ミントデザインズ)」はどこかのどかで穏やかな風情が漂うゆったりフォルムの服を送り出した。パステルやスモーキーのやわらかいカラートーンが気持ちまで落ち着かせる。カラフルな水玉や、動的なアクションペインティング風など、ドラマティックなプリント柄が装いを弾ませた。ペプラムのようなトップス裾でボリュームを操る遊びもユーモラスで朗らかなムードを生んでいた。

 国際連合本部ビルや国立西洋美術館で知られる建築界の巨匠、ル・コルビュジエの作品にインスピレーションを得たのは、「Yasutoshi Ezumi(ヤストシ エズミ)」。ただし、ビルのようにカッチリしたフォルムにはまとめ上げず、直線を生かしながらも、身体の曲線と無理なくなじむ服をこしらえた。黒と白のコントラストを生かし、理知的で軽快なトーンに仕上げた。直線モチーフを効果的に配してシャープで品格高い着姿に整えている。

 

 「ATSUSHI NAKASHIMA(アツシ ナカシマ)」は建築に着想を得た。曲線を多用し、装飾性やディテールに凝ったスペインの建築家、アントニオ・ガウディの建築作品をヒントに、石や鉄の「硬さ」と、動植物の「柔らかさ」を重ね合わせたような、素材感の響き合う作品を生み出した。レザーやサテンなどに、シフォンやチュールをマリアージュして、硬軟両様の美を写し取った。しっかりした張りを持つマテリアルを使いながらも、角張った構築感を出さない手つきが冴えた。

 

 本家らしい和のアレンジも期待されたり、力の入りすぎない雰囲気がキートーンとなりつつある中、その味付けとしてスポーティーやアウトドア、ストリート感、ワークスタイルなどの重要度が高まってきた。もともと東京モードが比較的得意としてきた線だけに、この先もこの辺のムードを濃淡様々に取り入れた提案がランウェイをにぎわせる気配が見える。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

宮田理江 公式サイト
アパレルウェブ ブログ
ブログ「fashion bible」

メールマガジン登録