PICK UP
2013.12.13
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.13】2014年春夏パリ、ミラノ、ロンドンコレクション
宮田理江のランウェイ解読 Vol.13
2014年春夏シーズンの新トレンドは、NYが火をつけた「エフォートレス」「プレイフル」に加え、パリ、ミラノ、ロンドンの各コレクションで新潮流となった「進化系シースルー」「アグレッシブ柄」「シーズンレス」などが台頭して、全体に前のめりのおしゃれムードが盛り上がりそうだ。前シーズンから続く「ロック」「スポーティー」「アート」などのトレンドも勢いが続き、総じてモチベーションはポジティブ。若々しさやアフリカン、茶目っ気といった新たな気分も相乗りして、来季はファッションが楽しいシーズンとなる期待感が高い。
◆ミラノコレクション
「プラダ(PRADA)」は女性の顔を大胆にあしらったスリーブレス・ワンピースで、こびない強さを打ち出した。画家フリーダ・カーロの夫としても知られるメキシコの壁画家ディエゴ・リベラらの絵をワンピの面積の半分ほどにも配して、アートフルで強烈なインパクトを生んだ。シルエットはコンパクトな膝上丈でありながら、赤やイエロー、緑などのヴィヴィッドカラーとカラーブロッキングで押し出しを強くした。
サッカー選手のロングソックスを連想させる、ライン入りのレッグウォーマーがスポーティーなムードを呼び込む。スポーツテイストをエレガンスと溶け合わせる流れに、ミウッチャらしい回答を導いた。アウターの上からブラ風のカラフルなトップスを重ねるランジェリーアウトの提案が健康的なセクシーをまとわせる。ビジュウをどっさりちりばめたドレスもサマールックにパワーをもたらしていた。
花の薫りに包まれたのは、「マルニ(Marni)」のランウェイ。ワンピースにもスカートにもふんだんにフローラルプリントをあしらって、優美な装いに仕上げた。一方で、ドレープが波打つボリューミーな薄手パンツを繰り返し登場させ、エアリー感を強調。サンバイザーやライン入りベルトでスポーティーな雰囲気を濃くした。
ジャパネスクな着姿を提案。着物風の打ち合わせや袖フォルムで、オリエンタルな艶姿にまとめ上げた。Vゾーンは深めに切れ込んでいる。芸者の履き物に着想を得たと見える、厚底のウエッジサンダルも和っぽい足元に見せる。
(左)グッチ Milano 2014SS Photo by GUCCI
(右)ドルチェ&ガッバーナ Milano 2014SS Photo by Dolce & Gabbana
官能美とアスレティックを融け合わせた「グッチ(GUCCI)」。変化を象徴したのは、総メッシュのTシャツ風シースルートップス。その下にもビキニ風ブラを着て、肌を透けさせるセンシュアルな装いを提案した。ネックラインを深くえぐってデコルテをさらし、スカート裾にもスリットを入れて、たおやかなレッグラインを際立たせた。
メタリックな素材感でグラムなまばゆさを招き入れた。ラメやスパンコールをまぶして、流れるように艶美なシルエットにつやめきをオン。エレガントに着姿を整えつつ、トラックパンツのようなアイテムでスポーツを添えた。上質なレザーや手の込んだ刺繍などでリュクスな表情を引き出している。場所を選んでの絶妙な部分肌見せがグッチウーマンの新定義を印象づけていた。
「ドルチェ&ガッバーナ(Dolce & Gabbana)」はデザイナーの郷土シチリア島への郷愁をさらに深くした。故郷の遺跡や草花のプリントモチーフで、主役に据えたミニドレスを染め上げた。新トレンド色のゴールドも多用して、全身を光輝で包んだ。丸襟のワンピースにはチャンピオンベルト風の大バックルを配したり、袖先に向かって極端に太くしたりして変化を出した。スカートは裾広がりのフレア、夏コートドレスも優美なAラインを描いた。
透けるボトムスでミステリアスなムードを漂わせた。ビスチェ風のブラトップとブルマー風のホットパンツという、ビキニ風セットの上から、レーシーなシースルーをまとい、黒1色ながら妖艶な装いにまとめ上げた。薄くワイドなショートパンツはミニスカートのようにも見える。レリーフ(浮き彫り)のようなコインモチーフで埋め尽くしたブラウスも、ブランドならではのリュクスを感じさせた。
プールサイドで過ごす昼下がりのような、スイムウエア風の着こなしに誘った「ディースクエアード(Dsquared2)」。お得意のプレイフルなトーンで、夏バケーションの準備を促した。ビキニの上からジャケットを羽織るようなリゾート風スタイリングを柱に据えて、様々な羽織り物との相性を試した。リザード系のつややかなレザージャケットは、ブラトップ+ビキニパンツの水着ライクな組み合わせにも、リッチ感を足し込んでいた。
マイクロミニ丈で押した。ワンピースはウエストを絞った砂時計シルエット。ベアショルダーのマイクロミニ・ワンピは肌の露出が大きく初々しい着姿。水に濡れたようにシャイニーな布地で、つやめいた風情のドレスも仕立てた。ボディスーツ風のオールインワンは水着と見分けがつきにくい見栄え。レオパード柄と虎柄を重ねる攻めのサマーレイヤードも用意した。貴婦人のバケーションを思わせる、ランプシェードのような帽子にも潮風が薫った。
ミラノ随一の成長株と目される「エムエスジーエム(MSGM)」は初のランウェイショーをトロピカルに彩った。ハイビスカスやパームツリーといったハワイの自然を象徴するモチーフを、プリント柄で落とし込んだ。南洋のポリネシア民族的イメージを借りながらも、白いコットンシャツの襟を一番上まで留めるスタイリングと組み合わせ、きちんと感を引き寄せている。
オレンジをキーに、アロハシャツを連想させるポジティブなマルチカラー使いで勢いを持ち込んだ。たっぷりした袖の開放的なフォルムや、無造作っぽく正面で身頃を結ぶ演出が夏ルックに動きを添える。伸びやかな足元に見せるフラットソールのサンダルは2014春夏のトレンドを予感させた。
ジル・サンダー Milano 2014SS Photo by JIL SANDER
創業デザイナーが今コレクションを最後に、再びブランドを離れると発表された「ジル・サンダー(JIL SANDER)」。静かなミニマルの美学は不変だが、今季は変化も見えた。胸元への深い切れ込みや、お腹の素肌をさらすヌーディーな演出はこのブランドでは珍しい。短め丈のトップスはキーアイテム。ストイックなテイラーリングが持ち味だが、今季はゆったりめのシルエットが増えた。襟ぐりを横にゆるく取って、デコルテをしっかりのぞかせるカッティングも披露した。
身頃のフロントにつくった隙間からはブラトップをのぞかせた。黒のジャケットと白のパンツは禁欲的なトーンを醸し出す。太めのベルトが白パンツを引き立てる。持ち味のシャープなテイラーリングを生かしながらも、エフォートレスの風情も帯びさせた。
◆パリコレクション
(左)ランバン Paris 2014SS Photos by Marcio Madeira, Copyright LANVIN
(右)サンローラン Paris 2014SS Photo by Photo by COURTESY OF SAINT LAURENT
「ランバン(LANVIN)」はまばゆいきらめきでランウェイを包んだ。渋みを利かせたゴールドをはじめ、ピンクやグリーンなどにもつや消しの輝きをちりばめて、ワンピースやカクテルドレスを華やがせた。スパンコールやラメを全身に配し、サテンや光沢レースでシャイニーを増幅。グラムロックを彷彿させるリフレクションをまとわせた。薄いレザーでこしらえた紙袋風バッグは、くしゃっと無造作っぽくつかむ持ち方に気取らないリュクスを宿した。
ランバンでの仕事が10年を超えたアルベール・エルバス氏はこれまで以上の自由度を発揮。スポーティーなコンビネゾンや秋冬と見間違えそうなロングアウターを披露した。ビッグモチーフのチョーカーは、前シーズンのメッセージネックレスに続くヒットが有望。ジャケットの肩掛けスタイリング、ボンディング加工で張りを出したシリーズなどには、季節やルールにとらわれない新エルバスの誘惑をにじませた。ゴールドから茄子紺、ボディーコンシャスからオーバーサイズまで自在に操る引き出しの多さを見せつけた。
「サンローラン(SAINT LAURENT)」で3季目を迎えたエディ・スリマン氏は「ロック&シック」の冒険を続けた。肩の線を水平に張り出させたノースリーブ・ワンピで幕開け。フロントの切れ込みは深く、丈はマイクロミニ。ナイトクラビングに連れ出すかのようなパーティーガールの装いを連打した。しかし、スモーキングルックやタキシードなど、ブランドヒストリーを彩ってきたアーカイブに敬意を示し、クラス感を舞い降りさせる目配りも抜かりがない。
襟と前立て以外は肌が透けるシースルー・シャツも創業デザイナーへのオマージュと映る。レザーで仕立てたタイトなミニスカートで、ロックな装いにリッチ感を添えた。お得意の極細スーツには紳士服テイラーリングのエッセンスを注入。ネクタイまで締めさせた。ワンショルダーのミニワンピにはラッフルで過剰なボリュームを持たせている。唇モチーフやアニマル模様などの情熱なアグレッシブ柄プリントで全身からエナジーを発散させていた。
(左)ヴィクター&ロルフ Paris 2014SS Photo by Koji Hirano
(右)ジバンシィ Paris 2014SS Photo by GIVENCHY
良家のお嬢様が通う名門校の制服ルックを、「ヴィクター&ロルフ(Viktor & Rolf)」はいたずらっぽくひねった。お約束の濃紺ブレザーかと思いきや、左身頃だけ正統派の大胆ワンショルダー。左右で生地が異なるトリッキーな制服風ジャケットも登場。清楚顔のプリーツスカートの下には、もう1枚バミューダショーツをはかせた。
過剰にプリーツをあしらったスカートは、襟がいっぱいの代表作を思い出させる。ワッペンだらけのベストには少女の秘める抵抗心がのぞく。襟までスタッズ(鋲)で埋め尽くした白シャツはパンクな反逆を試みる。「制服」という束縛を踏み越える禁断の快感を、従順な女子校ルックに持ち込んだところに、シニカルなクリエイター魂がうかがえる。スクールガールは来季のトレントが有望視されるが、鬼才デュオのアレンジはやや斜に構えて見せた。
「ジバンシィ(GIVENCHY)」はトライバル(民族的)なムードを濃くした。日本とアフリカをインスピレーションソースに選んで、それぞれの伝統的な服飾文化のエッセンスを借りつつも、エレガントな着姿に整えてみせた。1枚布を巻き付けるようなたたずまいでありながら、ドレープやハーネス、肌見せなどの演出を施して、ドラマティックなドレスルックに導いた。アースカラーやオレンジを多用して、アフリカンなムードを呼び込んだ。来季の急上昇シューズになりそうなフラットサンダルで飾り立てないヌーディーな足景色に仕上げている。
細かくドレープを寄せたジャージー生地のドレスがキーアイテムに選ばれた。繊細なひだが身頃にも袖にも配されていて、気品を立ちのぼらせている。布を胸元で交差させたドレスは神話の女神のよう。布を垂らし、ゆわえ、たるませ、締めるといった細かい仕事を重ねて、複雑な表情を帯びさせた。和服の帯を思わせるハーネスやベルトを服のあちこちに走らせ、縦長イメージや異素材ミックス感を添えた。
(左)バルマン Paris 2014SS Photo by Koji Hirano
(右)アクネ ストゥディオズ Paris 2014SS Photo by Koji Hirano
パリ・モードの先導役を担ってきた「バルマン(BALMAIN)」はリアルモードへの目配りを厚くした。プロレスラーのような太いベルトを巻いて、こなれ感とアイキャッチーを両立させた。編み目をゆるくしたサマーニットや、袖や裾の薄い生地から素肌を透けさせるシースルーも取り入れ、リラクシングな風情に寄せた。どっさりラッフルをあしらったスカートは初々しさとレディー感を兼ね備えている。
大ぶりの千鳥格子(ハウンドトゥース)やギンガムなどのチェック柄をセットアップに迎えて、上品カジュアルに新たな手本を示した。ガーリー感のあるミニスカートに、しっかりしたアウター、トップスを重ねるスタイリングも鮮度が高い。金ボタンのベースボールジャケット、キルティングを施したボマージャンパーなどは、ボーイズ風味やミリタリー色をスポーティーフェミニンの着こなしに落とし込む格好のアイテムとなりそうだ。
トップモデルたちが私服として愛用する「アクネ ストゥディオズ(Acne Studios)」はリアルスタイリングの体温計的な存在。14年春夏でもトレンドカラーの白をプッシュ。クリーンで涼やかな着姿を提案している。白く染めたレザーを細くカットしてフリンジのように並べたトップスやパンツは、隙間から地肌がのぞいて、ヌーディーな景色。白1色のアンサンブルは程よくノーブルで、好感をもたらす。
ブランドの原点に立ち帰り、デニムやワークウエアに着想を得た装いをそろえた。その一方で、指先までくるんでしまうゆるシルエットのニットでくつろいだ雰囲気に誘った。ブラカップの輪郭を写し取ったベアショルダーのミニ丈ワンピや、ビスチェ風のブラトップも白で清潔なセクシーを薫らせる。ベルトはバックルが特大で、ワークウエアの顔つき。ボクシーなフィッシャーマンジャケットや、マリン色のコーディネートは北欧スウェーデンの海風を運んでくるようだった。
◆ロンドンコレクション
(左)バーバリー プローサム London 2014SS Photo by Burberry
(右) トム フォード London 2014SS Photo by Photo by Chris Moore
ロンドンをトレンド発火点にしている「バーバリー プローサム(Burberry Prorsum)」はパステルカラーの流行を予言した。ウォーターカラーやライラック、スモーキーピンク、ミントグリーンなど、マカロンよりさらに淡い色でほんのりトーンに着姿を染めた。色は穏やかだが、スタイリングはスリリング。総柄レースのワンピ越しに、ビキニショーツ風のインナーが透ける仕掛けで、上半身も襟と前立て以外はうっすらと素肌が透けて見える。
シースルーを前面に押し出してはいるものの、フラワーモチーフをレースにあしらって見え加減を抑えている上、アウターを合わせて視線をセーブ。カーディガンジャケットやコートドレスは肩に丸みを帯びていて、しんなりとボディーラインに寄り添う。パステル色のシャツも透け感が高いが、胸ポケットが視線をさえぎり、ペンシルスカートが節度をもたらしている。「シースルー×アウター」はコートの王道ブランドが出した夏レイヤードの正解例のように見えた。
春夏・秋冬という季節の線引きは「トム フォード(TOM FORD)」にとっては踏み越えるべき古臭い決まり事なのかも知れない。ファーストルックから立て続けにレザーオンリーの装いを重ねた。どちらもブラウンレザーのバイカージャケットにはミニスカートを合わせ、春夏らしからぬつやめいた革の出で立ちにまとめ上げた。ミニワンピースも革で仕立て、ニードルワークで目を惹く模様をあしらった。肩から袖にかけてボリュームをつけたファージャケットも登場した。
トランスペアレントな装いも打ち出した。黒い包帯を全身に巻き付けたかのようなバンデージワンピースはところどころが透ける仕掛け。蜘蛛の巣のように不ぞろいな編み目が身を覆う総レースのワンピースも素肌との共犯で、成熟したセクシーを引き寄せている。ミラーボールを着たかのようなまばゆいパンツ・セットアップはゴージャスの極み。編み上げのサイハイ・ブーツは夏の足元に意外感を持ち込んでくれそうだ。
飾り気を遠ざけるミニマルの潮が引いて、13-14年秋冬は装飾的な方向へ触れたが、次の14年春夏はその揺り戻しもあってか、やや過剰なまでのデコラティブ傾向はトーンを落とし、リアルスタイリングとの折り合いを探るような方向感に変わる。しかし、景気回復の流れも追い風になって、おしゃれを楽しもうとする意識は強まっていて、モードシーンもその気分を受け止めて、「絶妙の落とし所」へと誘う提案を厚くしている。これまで似通ったトレンド感を示す傾向が強まっていた4大コレクションが再びそれぞれの持ち味を発揮して、別々のモードを発信する動きを見せていることも、選択肢の幅が広がり、様々なチャレンジが生まれやすくなるという点で、歓迎すべき変化と映った。
宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
|