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2014.03.07
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.15】2014~15年秋冬NYコレクション
宮田理江のランウェイ解読 Vol.15
猛烈な寒さの中、2月に開催された2014-15年秋冬NYコレクションを包んだのは、エレガンスとくつろぎを兼ね備えた、「リッチラックス(リッチ&リラックス)」「フレンドリュクス(フレンドリー&リュクス)」と形容したくなるようなムードだ。14年春夏に急浮上した、力みを遠ざける「エフォートレス」をさらに成熟させ、上質素材や手仕事美でグラマラスを上乗せした。ワークウエアやスポーツ、アウトドア、ミリタリーなどの気取らない雰囲気を落とし込む流れも加速し、NYモードはイージーグラマーな独自の方向感を一段と強めつつある。
(左から)アレキサンダー ワン photo by Rie Miyata、
ラグ & ボーン photo by rag & bone
「アレキサンダー ワン(ALEXANDER WANG)」は、ワークウエアやミリタリーに接近し、ネオスポーティーの表情を深くした。様々な形のポケットを配したアウターはカーゴパンツやサファリジャケットを連想させる。アウトドアのディテールを借りながらも、スポーティーでアーバンなスタイリングにまとめ上げた。かかと側は素肌が露出しているブーツサンダル、スモールバッグを3個もつなげたショルダーバッグなど、奇抜なデザインの小物類には、いたずらっぽい遊びの要素を盛り込んだ。
アメリカへの郷愁を漂わせる提案がどことなく懐かしげで人なつこい作品を送り出した「ラグ & ボーン(rag & bone)」。ボウリングシャツやスポーツジャケットはシンボリックに登場。ペンキが飛び散ったかのような柄をあしらい、ワークウエアやアウトドアをモードに融け合わせるスタイリングが光る。格子の太い「バッファローチェック」がキーモチーフ。英国テーラードを感じさせるピンストライプも差し込んで、米国ノスタルジーと英国トラッドを響き合わせていた。
(左から)3.1 フィリップ リム photo by 3.1 Phillip Lim、
タクーン photo by THAKOON
「3.1 フィリップ リム(3.1 Phillip Lim)」は、さめたパステル調のマルチカラーでアウターを彩った。チアフルなムードを色で歌い上げている。カラーブロックや大ぶりチェック柄、コラージュ風の複雑モチーフも装いにファニーな表情を与えた。デフォルメされた大襟、太いベルト、たっぷりのラッフルがパーツサイズの面でも動きを印象づけた。ぬいぐるみを思わせるふわもこ生地は愛くるしい風情をスタイリングに呼び込んでいた。
レイヤードで魅せた「タクーン(THAKOON)」。前身頃が極端なショート丈で、鎖骨あたりまでしかないのに、背中側はたっぷり丈の前後アシンメトリーなニットを主役に迎え、ダイナミックな重ね着に誘った。ケープやブルゾンをブラウスやカットソーにかぶせ、下からのぞかせたインナーとの丈違いを強調。サイケデリックな色の花柄プリントでグラマラスを演出している。フューシャやコバルトブルー、オレンジなどの強めカラーがレイヤードにパンチを添えていた。
お得意のスポーティーで伸びやかなスタイルをさらに深くした「デレク ラム(DEREK LAM)」。フレンドリー&リュクスなムードを濃くした作品を披露。襟なしアウターを軸に、全体にゆるっとしたオーバーサイズ気味のフォルムを打ち出し、リッチ&リラックスを印象づけた。色数を抑えた静かなカラーブロッキングでシンプルな装いに若々しさを忍び込ませている。チョーカーセーターやワイドパンツのボリューム感も楽しい。ネック周りに太めのライニングを施して色バランスを弾ませている。
「ジェイソン ウー(JASON WU)」は、パンツスーツを柱に据えて、ダンディーで官能的なシルエットを描き出した。オーバーサイズのコートや、膝下がたっぷり幅のパンツで、凛々しくたおやかな装いを提案。マニッシュなフォルムとフェミニンなディテールが奏でるエレガンス仕立てのジェンダーミックスに導いている。ベルベットのような優美なつやめきを宿す布を操ってドレープの美を引き出した。随所に刺繍をあしらった手仕事感がレディーの品格を深くしている。
(左から)ダイアン フォン ファステンバーグ photo by DIANE von FURSTENBERG、
ダナ キャラン photo by DONNA KARAN
「ダイアン フォン ファステンバーグ(DIANE von FURSTENBERG)」ブランドのシグネチャー的存在であるラップドレスの誕生40周年を記念するコレクションにふさわしく、ラップドレスの奥行きとタイムレスさを見せつけた。ゴールドに象徴されるあでやかでリッチな色で節目のランウェイを華やがせた。グラフィカルなモチーフでを多用したダイナミックな総柄アウタールックに誘う一方、足首まで隠すロングスカートの流れを先導してモダンレディーのアッパーな装いに手招きした。
デビュー30周年の記念すべき「ダナ キャラン(DONNA KARAN)」のコレクションでは、芯の強さや女性的な官能美を引き出す手腕が冴えた。ボディーコンシャス仕立ての広襟ジャケットは胸元や太ももがのぞくエモーショナルな着姿。シースルーやドレープでたおやかな輪郭を描くスカートに、ウエストを細く絞ったジャケットを羽織り、しっかりアウターと優美ボトムスのハイブリッドを組み上げた。シャープなテイラーリングを効かせ、無地のワントーンでシックに仕上げている。袖や脚の大胆な透け見せが成熟したセクシーを薫らせた。
(左から)マイケル コース photo by MICHAEL KORS、
キャロリーナ ヘレラ photo by Carolina Herrera
屋外の寒気を跳ね返すかのように、ファーをどっさり投入してリュクスな装いにいざなったのは「マイケル コース(MICHAEL KORS)」。基本線である洗練されたアメリカンスポーツのテイストを生かしつつ、クラス感を漂わせる冬ルックに整えている。キーアイテムに据えたのは、ざっくりした手編みのセーター。その上にファーのロングコートを重ね、リラクシングとゴージャスを交錯させた。シフォン、クレープといった透ける生地を使った「冬シースルー」の提案は新たな流れを生んだ。ワイド幅キュロットや超ロングマフラー、フリンジクラッチなど、アーバンボーホー気分を引き寄せる新アイテムも披露した。
「キャロリーナ ヘレラ(Carolina Herrera)」のコレクションでは、丸みを帯びたショルダーラインが目に残る朗らかなアウターをそろえた。ケープやポンチョ風の、袖を通さない羽織り物は、穏やかな表情のラウンドフォルムにノーブルが宿る。ペンシルスカートやスリムパンツで合わせてボリューム落差を操った。角張った抽象柄のプリントを多用して、装いにリズムを加えた。毛足の長いファーをトリミングしたコートはリュクスを引き寄せる。渋いブルーや鮮烈なオレンジを使って、エレガンスと主張色を交わらせていた。
(左から)DKNY photo by DKNY
トミー ヒルフィガー photo by TOMMY HILFIGER
「NY」マーク入りのキャップが物語るように、ブランド名にもなっているNYのストリート感をリアルに写し取った作品を送り出した「ディーケーエヌワイ(DKNY)」。ネオプレン素材で張り感を出したボマージャケットや、ケミカルにつやめくスリップドレスは若々しいエナジーを発散。裾や袖先にはフェイクファーをあしらって、ボリュームを操った。「DKNY」のビッグロゴは90年代のざわめきを呼び戻すかのよう。プロのファッションモデルに混じって様々な仕事を持つニューヨーカーたちをランウェイに大勢登場させた演出も、街の空気を立ちのぼらせていた。
ショーのたびに話題を呼ぶ「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」は、雪山の情景を組み上げた大がかりなセットにふさわしく、アウトドア色の濃いコレクションとなった。ゲレンデや山道になじみそうな登山顔のウエアは寒波に襲われた米国のリアルニーズを映す。色を重ね合わせたマルチカラーのチェック柄をキーモチーフに、プレッピーとボヘミアンを融け合わせた。マウンテンパーカとシャツドレスのような目新しいマッチングが雪山ルックを初々しく見せた。色合いの異なるデニム生地を縫い合わせたジーンズや、ポンポン付きのニット帽などのディテールにも動きを持ち込んでいた。
NYコレクション全体のキーワードとなってきたのが「ハイブリッド」や「ダブルミーニング」。複数のテイストやムードを重ね合わせ、こなれ感や深みを引き出すスタイリングがNY流として定着してきた。リラクシングでありつつリッチ、フレンドリーでありながらリュクスという二重構造が装いに奥行きをもたらす。レイヤードはその象徴的な表現となっていて、防寒アウターと透けるスカートのようなトリッキーな組み合わせも提案されている。
カジュアルのように見えて、実はクチュールテクニックが注ぎ込まれているアイテムも増えてきた。ボーホーに見えるのに、細部に凝っていたり、スラウチなシルエットでも仕立てやカッティングに工夫が行き届いていたりといった仕掛けが目立つ。複数の異なるテイストやスタイリングを交わらせることによって、ダンディー一色でもフェミニン一辺倒でもない、芯は強いけれど、女性らしさをしっかり持つレディー像を浮かび上がらせるNYモードの提案は、職場や家庭、プライベートでいくつものアイデンティティーを使い分ける現代女性のライフスタイルにしっくりなじむと見えた。
宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
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