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2014.03.28

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.16】2014~15年秋冬パリ、ミラノコレクション

 「ファッションは面白い」。そんなメッセージを込めたかのような装いが2014-15年秋冬シーズンのパリ、ミラノ両コレクションでは勢いづいた。朗らかなオーバーサイズや華やかなマルチカラー。やさしいニットにリッチなファー。フォルムや色、素材を重ね合わせて楽しい着姿に誘う提案が相次いだ。アートを着る冒険や、いたずらっぽいモチーフも打ち出され、モードはまとうハピネスを語りかけた。

◆ミラノコレクション

(左から)プラダフェンディ

 「プラダ(PRADA)」は一流ホテルのドアマンを連想させるようなオーバーサイズの紳士顔コートで過剰なボリュームをこしらえた。シースルーと組み合わせて、劇的なずれ感を生んでいる。特大の襟や、厚手のもこもこファーをあしらった袖先、裾にも、美しい誇張を宿らせた。赤やオレンジに染めたファーはロックスターのようなグラムールを呼び覚ます。

 

 アール・デコ風幾何学的モチーフがワンピースを彩り、抽象画をまとったかのようにアートフルな装い。首にぴったり巻いた細いネックウエアを垂らす演出も繰り返し見せた。たくさんの強い色が注ぎ込まれ、強さとあでやかさを印象づける。異常にヒールの高いウエッジサンダルや、背中側に突き出して持つバッグにも、大胆さがのぞく。アートアバンギャルドはさらに本気度を増した。

 

 レザーとファーの名門らしさに磨きを掛けた「フェンディ(Fendi)」。ファーストルックで披露した、顔を包み込むフードの周りにどっさりファーを盛ったコートは、まるで北極圏に暮らす人達のよう。肩や袖などあちこちに毛足の長いファーをあしらったアウターもプレイフルな表情を見せる。ファーやレザーなどの異素材をパッチワークのように配したモザイク風のデザインが装いに起伏をもたらす。

 

 リュクスとスポーティーをねじり合わせた。ルーズフィットのシルエットが軽やかな風情。ジップを多用して、ファーにアクティブ感を添えた。デコルテや太ももゾーンを透けさせる部分シースルーが重さをそいだ。ワンピースやスカートはふくらはぎ丈を多くして、ノーブルなたたずまいに整えている。ドローン(無人ロボット)に積んだカメラが空中からランウェイを撮影し、動画映像をストリーミング配信する初の試みも話題を集めた。

 「グッチ(Gucci)」はマスキュリンな細身スーツとAラインのミニワンピースをキーアイテムに据え、60年代風のムードを呼び込んだ。ビッグフレームのサングラスもどこか懐かしい。今回は色で遊んだ。スモーキーなパステル系のブルーやピンク、イエローでスーツやワンピを色めかせた。

 

 ミニドレスとロングブーツのコンビネーションを打ち出した。ブーツはさめた青で染めたパイソンを使って、グラマラスに仕上げた。レオパード柄も多用して、レトロなシルエットにエモーショナルな勢いを乗せた。シャギーなファーのアウターと、スキニーなパンツを組み合わせ、ボリューム落差を操った。随所に施されたレザー使いもつやめきを添えていた。

 

 童話と伝説の迷宮に招き入れたのは服で物語をつづる「ドルチェ&ガッバーナ(Dolce & Gabbana)」。キーアイテムに選ばれたフード付きケープは、赤ずきんちゃんや中世騎士を思い起こさせる。顔だけを残して頭と首を覆うので、メルヘンの雰囲気が立ちのぼる。袖のたっぷりしたポンチョ風の羽織り物は肩をくるんで、柔和なラインを描き出した。

 

 モチーフの面でもファンタジーを織り上げた。鍵や白鳥、花、フクロウなどのミステリアスな絵柄を大胆にちりばめて、おとぎ話の主人公になったかのような着姿に導く。手の込んだ刺繍や、デコラティブなビジューで仕上げ、子どもっぽく見えない、妖しく華麗な表情を引き出している。鈍くつやめくサイハイブーツや、宝石を編み込んだかのようなグローブも、幻想的なムードを濃くしていた。

(左から)マルニモスキーノ

マルニ(Marni)」は布の量感を生かして、立体感の高い装いを組み立てた。たっぷりしたティアードを連ねて、優美なシルエットを描いた。あごまで埋もれるタートルネックや、ラッフルいっぱいのペプラムも穏やかなたたずまい。ラウンドショルダーは温和な輪郭を目に残す。アウターの上から巻いたベルトはウエストマークを鮮やかに宣言する。

 

 ファーの扱いはさすがの手つきだ。グリーンやブルーに染めたカラーファーを部分的に盛りつけた不ぞろいのボリュームが装いを弾ませる。マルチカラーでストライプに染めたファーコートはファールックにスポーティー感を重ねる。毛足の長いファーや、パッチワーク風に見せた異素材ミックスも楽しげな着姿。厚手生地を使ったコートは、ブランケットを着て歩くかのようなぬくもりを感じさせた。

 

 ウィットフルな作風でファンの多いジェレミー・スコット氏が見せた「モスキーノ(Moschino)」のファーストコレクションは、アンディ・ウォーホルの再来を思わせるアメリカン・ポップカルチャーの祭典となった。「マクドナルド」のトレードマークをパロディーにした赤と黄色のセットアップでスタート。ビール「バドワイザー」のパッケージはミニワンピースに、板チョコ「ハーシーズ」の包み紙はロングドレスに姿を変えた。

 

 中盤ではヒップホップから着想を得た、ゴールドとレザーのストリートルックへ転調。創業デザイナーが得意とした、グリッターな「MOSCHINO」ロゴをあちこちに配して、オールドファンを喜ばせた。アイテムはノーカラージャケットと膝丈タイトスカートのセットアップ、チューブトップとミニスカートのコンビネーションが軸。レザーのビスチェトップスはアーカイブへのオマージュと映った。

◆パリコレクション

(左から)ランバンディオール

 「ランバン(Lanvin)」は夜会向きの流麗なドレスを得意としたこれまでのテイストを踏み越え、マテリアルの風合いや異素材のディテールにエレガンスを託した。最も目立った変化は、フリンジの多用。服のあちこちから布やレザーのフリンジを垂らして、トライバルの空気感を寄り添わせた。ドレスでも裾を切りっ放しにして、無造作ムードを漂わせた。巧みなラッフル使いやティアード演出は布の陰影を引き出していた。

 

 ドレープとカッティングに定評のあるブランドだが、今回はファーを主役マテリアルに迎え、リュクスな趣を一段と深くした。身頃の正面にこんもりとファーの塊を盛り上げ、意外感の高いボリューム感を生んだ。グレーのミニスカート・セットアップを繰り返し提案し、若々しい着こなしにいざなった。フラットシューズの押し出した。フェザーをあしらった広つばの帽子と、ひじまで覆うロンググローブは貴婦人の品格を引き寄せていた。

 

 「ディオール(Dior)」のラフ・シモンズ氏は紳士服テーラリングとのマリアージュに新たな正解を見いだした。ピンクのミニドレスの上から、マスキュリンなジャケットを羽織り、ジャケット裾からドレスの色をわずかにのぞかせるスタイリングは、ほのかに官能的な見栄え。丈違いを巧みに計算し尽くした。オーバーサイズのコートは五分袖で、こちらも袖レイヤードに仕立てた。スリーブレスのアウターは新たな「強い女」像に輪郭を与える。

 ドレスにスニーカーの靴紐ディテールを落とし込んだ。ワンピの脇や背中に古風なコルセットの締め紐を思わせる位置取りで白いシューレースを取り入れた。紐を締め上げれば、ウエストがタイトになる仕掛けだ。ウエッジソールの靴にもスニーカー風の靴底をセットして、スポーツフィーリングを薫らせている。ブルー、グリーン、ピンクなど、組み合わせの難しい色同士を引き合わせ、不協和音すれすれの色レイヤードを組み上げることにも成功している。

 「サンローラン(Saint Laurent)」のエディ・スリマン氏はロックの軸をブレさせない。今回は1960年代に「スウィンギング・ロンドン」と呼ばれたロンドンのざわめきを持ち込んだ。英国伝統のチェック柄をコートに迎えつつ、グリッターなミニワンピースでナイトクラブの熱気を引き寄せている。スパンコールやメタリックパーツのまばゆさはコートやロングブーツにも宿らせている。

 

 黒革のバイカージャケットはコンパクトに仕立て、禁欲的なムードを帯びさせた。ミニワンピもフォルムはタイト。丸みを帯びたケープをかぶせて、シルエットに動きを出している。ボウやタキシード、ミリタリーなどのディテールを用いて、やはりロンドンロックと縁の深いモッズやテディボーイの気分も添えた。黒革のロングブーツを繰り返し登場させ、ミニワンピとの相性を印象づけていた。

 

 創業デザイナーの遺志を継いでいるサラ・バートン氏の「アレキサンダー マックイーン(Alexander McQueen)」はダークファンタジーに誘い込む。並大抵ではないファーの量感を打ち出した。純白の総レース仕立てウエディングドレスに、スニーカーで合わせる強引なまでのスタイリングもブランドのDNAが正しく継承されていることを示す。

 

 ディテールへのこだわりも健在で、白レースのドレスはパフ袖がひじでいったんすぼまって、再び袖先でふくらむ手の込んだこしらえ。極端な大襟や、両手をきらめかせるビジューアクセサリーもゴシックファンタジーの雰囲気を漂わせる。何度も登場したスニーカーは爪先がメタリックで、アッパーにはフェザーやシャイニーパーツがあしらわれている。履き口にはぐるっとフリルが施されていて、視線をつかんで離さない。

(左から)SacaiCarven

 立体的な異次元ルックで絶賛を浴びる「サカイ(Sacai)」は重層的な作品世界をさらに掘り下げた。前後で全く別物に見えるだまし絵(トロンプルイユ)的な作風はすでにシグネチャー化した。正面からはフェミニンな着姿であるのに、背中側からはメンズ風に見えるといった謎めいた仕掛けの服はパリコレ随一のオリジナリティーを示す。黒革のバイカージャケットやグレンチェックの紳士顔コートも不思議に融け合っている。

 

 これまで以上に組み合わせのバリエーションが広がった。ニットとファー、正統派テイラーリングとカジュアルスポーツといった、素材も居場所も異なる服がトランスフォームしていく様は手品を見るよう。左右の丈違いや、シースルーの有無などのディテール差も組み込まれた。スカーフと身頃の融合も起きた。目で追っていくうちに別の服に化けてしまうような驚きが仕組まれていて、その精緻な設計には感嘆するほかない。

 

 「カルヴェン(Carven)」は「着るアート」にシュールレアル(超現実的)な感覚を忍び込ませた。コラージュ作品のような謎めいたモチーフをプリントして、装いに深みをもたらしている。ベースになっているアイテムは、コンパクトに仕立てたミニワンピース。共布の太ベルトが高い位置でウエストを宣言し、縦に長いイメージを際立たせた。サイハイブーツがレッグラインをスレンダーに見せている。

 

 ショルダーラインが水平に走り、カッチリしたシルエットを印象づける。大きめリングのジップがアイキャッチーに使われていて、スポーティーな見栄え。スカートにもジップが走り、メタリックな光を帯びている。さめたパステルカラーのワントーンで染め上げた。ピンクやイエローなど、割と目を惹く色がフレッシュな風情。みぞおちに押し当てるようにしたバッグの持ち方も目新しかった。

 

 パリとミラノでクリエイターたちはデコラティブとマーケットの折り合いを探ったようだ。ユーモラスなファー使い、異形のシューズなどに、彼らのチャレンジがうかがえる。先シーズンに比べて、色数が増え、シルエットのセオリー崩しも目立った。世界的な景気回復に後押しされたモードの高揚感は、来季のリアルファッションにも追い風となりそうだ。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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