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2014.06.06

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.18】2014~15秋冬ファッションの6大トレンド

 スポーツからアートまで、例年以上に振れ幅の大きいトレンドが2014-15年秋冬シーズンには提案されている。全体に共通して感じ取れるのは、少しいたずらっぽくてプレイフルなおしゃれマインドだ。肩の力を抜いたエフォートレス気分は継続しつつ、「おしゃれを楽しむ」を超えて「面白がる」意識が上乗せされた。リッチテイストやクチュール感が濃くなり、大人ムードが深まっている点も来季の傾向と言える。

◆スポーツリュクス

(左から)Alexander WangFENDI

(左から)MARNIN°21

 14-15秋冬トレンドの筆頭に挙げられるのが、健やかさとアッパー感をより合わせた「スポーツリュクス」だろう。アスレティックな雰囲気を借りつつ、ラグジュアリーなたたずまいに仕上げるアレンジは14春夏で台頭したが、続く14-15秋冬ではさらに勢いが増しそうだ。比較的薄着の春夏よりも重厚な装いに整えやすい秋冬シーズンだけに、アウトドア顔の防寒アウターを主役に据えたスタイリングも登場した。ミリタリーやワークウエアとミックスしたユーティリティークチュールも広がる気配。2~3月のコレクション時期を世界的な寒波が襲った事情も手伝って、見るからに暖かそうなウォーミーウエアをゴージャスにあでやかに見せる演出が相次いだ。

◆ビッグファー&アウター

(左から)MSGMsacai

(左から)ChloeStella Mccartney

 ぬくもりイメージが強いマテリアルとしてはファーに勝るものはない。ファーは毎年、秋冬の装いを華やがせるが、14-15秋冬はボリュームが大きい「ビッグファー」が新トレンドに浮上してきそうだ。毛足の長いシャギーなファーをどっさり使ったアウターで身体の輪郭を覆うビッグシルエットのアウターが世界のランウェイで相次いで打ち出された。もこもこ加工を施したムートンの朗らかな表情にもヒットの予感。張り感のあるネオプレンや異素材を組み合わせるボンディング加工も広がる。ブランケット(毛布)で身体をくるんだかのようなたっぷりしたアウターは目新しく、その量感を生かすケープやポンチョ、マントなどの羽織り系アウターにも光が当たっている。

◆グラムボヘミアン

(左から)EMILIO PUCCIMichael Kors

(左から)PRADALANVIN

 ロングトレンドとなっていたボヘミアンは、別テイストを重ねて新たな表情で再びフォーカスを集める。フリンジや艶色などをキーディテールに迎えたグランジロック調がボーホーな装いに動きとグラマラスを加える。飾り立てないボヘミアンと、ブルジョワ(富裕層)気分のゴージャスシックが交錯して「リッチボーホー」といった新スタイルが生まれた。フリンジは長めで多めが来季の趣向。服だけではなくベルトやバッグからも垂らす。従来のストリート感をトーンダウンさせ、その代わりにロックのダーク感とグラムの妖しいまばゆさを程よく招き入れて、ボーホーを濃い口に味付けするスタイリングが脚光を浴びそうだ。

◆エレガンスレイヤード

(左から)DEREK LAMTHAKOON

(左から)JIL SANDERMSGM

 秋冬の風物詩的着こなしのレイヤード(重ね着)にも風情の変化が起きる。これまでのレイヤードはどちらかと言えばストリート気分での操り方が目立っていたが、来季のレイヤードは大人っぽくて優美な着姿を目に残す。裾が透けるスカートのように複雑な立体感を持つアイテムを操って重たさをそいだ。縦に落ち感のある静かな「エレガンスレイヤード」は子どもっぽく見えにくいうえ、体型も巧みにカムフラージュ。レングスや風合いなどの違いを生かして、アシンメトリーや丈違いで重層的に見せながら、過剰にボリュームを出さないまとい方は一見、レイヤードと気づきにくいが、単調に見せていない。やさしく上品な雰囲気に寄せるのが、新レイヤードの作法だ。

◆アートメッセージ

(左から)CARVENDolce&Gabbana

(左から)PRADAVALENTINO

 「アートを着る」という流れはさらに加速する。写真や肖像画に代表される具象美術から先へ進んで、ポップアートやトロンプルイユ(だまし絵)など、冒険的でスリリングな表現の領域に踏み込んでいく。シュールレアリスムやダダイズムといったひねり、毒っ気の利いたアートも取り入れて、メッセージを宿したアートルックへと進化する兆しが見える。着る人自身がアート表現者であり、街がギャラリーであるかのように、シーンを丸ごと巻き込んでいく仕掛けだ。グロテスクなモチーフやオプティカルな技巧も盛り込まれ、アバンギャルド性が増してきた。デジタル印刷の技術進歩もプリント表現の可能性を広げている。

◆モダン60s(シックスティーズ)

(左から)Dsquared2Versace

(左から)GucciSaint Laurent

  「スウィンギング・ロンドン」と呼ばれた1960年代ロンドンに象徴される60s(シックスティーズ)の気分を持ち込んだ装いが復活を遂げる。モッズルック、ミニスカートなどに代表される当時のムードを借り受けつつも、そのままリバイバルするのではなく、コンテンポラリーなスタイリングに着地させた「モダン60s」はかえって新鮮に映る。英国のアイコン的なモチーフやアイテムを生かして、ブリットな風情を深くした。ミニスカートの初々しさやモッズの反骨スピリットは受け継ぎながら、大人っぽく整え、レトロとクールが入り交じった空気感を帯びさせている。

 6大トレンドに共有されているのは、前シーズンを上回るような大胆さや遊び心。ちょっと目を驚かせるようなフォルムや柄の出現が世界的なおしゃれモチベーションの高揚を物語る。ストリートやガーリーに寄せず、あくまでもアッパーでアダルトな着映えに仕上げられている点がこれまでとの違い。グランジやアートといった、ややとがった感性を進んで受け入れるアプローチも勢いを増していて、前衛感が強まった。それでいてエッジィになりすぎず、リラックスした余裕感がプラスされて、こなれた着姿に導かれる。グローバルな景気上向きの流れを追い風に、これまでワードローブに用意していなかったであろう挑発的な装いに誘った14-15秋冬の提案はリアルシーンにも変化をもたらしそうだ。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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