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2014.10.31

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.20】2015年春夏東京コレクション

 2015年春夏・東京コレクション(メルセデス・ベンツ ファッション・ウィーク 東京、10月13~19日)は新体制で丸3年を迎え、成熟を示した。グローバルトレンドを反映した提案が相次ぎ、マーケットを意識したデザインが目立った。コレクションの新陳代謝に欠かせないビッグメゾンの代替わりも成功。セレブリティーの来場や海外ブランドの参加も増えて、かつての東コレからの発展的な様変わりを感じさせた。

(左から)ビューティフル ピープル photo by beautiful people、
アツシ ナカシマ photo by ATSUSHI NAKASHIMA

 スポーツにリュクスやエレガンスを融け合わせるトレンドが世界的に広がる中、「ビューティフル ピープル(beautiful people)」はテニスにちなんだ「LOVE ALL」というテーマを選び、Vゾーンや袖先、裾をラインで縁取ったニットでテニスコートの風情を写し取った。しかし、見るからにテニスルックという装いは慎重に遠ざけ、チェック柄を多用してお得意のトラッドやプレッピーと巧みになじませていた。

 

 全モデルにスニーカーを履かせた「アツシ ナカシマ(ATSUSHI NAKASHIMA)」もスポーティーな装いに寄せた。ブラトップやスウェットなどの軽やかなアイテムをそろえつつ、ブルゾン風のトップスを羽織るようなアクティブレイヤードを提案した。ミニワンピースやたっぷりめパンツなどでボリュームを操り、持ち前のカッティングの冴えを生かした。ロングドレスとスニーカーのマッチングも興味深く映った。

(左から)ファセッタズム photo by FACETASM、
ミントデザインズ photo by mintdesigns

 秋冬のセオリー的スタイリングのレイヤード(重ね着)を、春夏に持ち込むシーズンレスの試みが広がってきた。「ファセッタズム(FACETASM)」は透ける薄布をかぶせ、羽衣ライクな着姿に導いた。1着のブルゾンに薄布と別生地を交じり合わせる、トランスペアレント仕立ての「1枚レイヤード」も披露。正面と背中側で極端に見栄えが異なる「前後アシンメトリー(不ぞろい)」にはプレイフルなたくらみが宿っていた。

 

 布の風合いを生かしたテキストミックスを打ち出した「ミントデザインズ(mintdesigns)」。プリズムのように複雑な光の反射を生むオパールコーティング生地と、天然の質感を持つナチュラルリネン(亜麻)という、全く異なる布地を引き合わせた。ビニール風のケミカルな光沢感と、ナチュラルでやさしいムードが響き合って、つやめきと落ち感が交錯する新しいコントラストが生まれた。チェック柄やストライプなどを淡い色味であしらい、ピースフルな風情を呼び込んだ。どこかほのぼのとしたイラスト風モチーフも穏やかな空気を漂わせていた。

(左から)まとふ photo by matohu、
Ne-net photo by Ne-net

 東コレの中軸を担う「まとふ(matohu)」はクリエーションの熟成ぶりを印象づけた。「素(しろ)」というテーマや、メイン素材に選んだ生成りには、原点に立ち返る意識がにじむ。目先のトレンドを追わない服づくりは自然体の着姿に結実している。日本人の体型に無理なく沿うシルエットが着心地のよさを映す。さりげなくまとったようなワンピースも仕立ての確かさが、飾り立てない優美を引き寄せている。ろうけつ染めや籐細工といった伝統的な技術へのリスペクトも特別感を際立たせていた。

 

 「ネ・ネット(Ne-net)」は畳敷きのランウェイ上で、日本的なノスタルジーを呼び覚ました。青海波(せいがいは)模様や鬼、こけしなどの「和」を象徴するモチーフがあしらわれ、風土が育んだ文化への郷愁を誘った。袢纏(はんてん)やちゃんちゃんこ、柔道着などに着想を得たと見えるアイテムも登場。ひらがなで刺繍した「ね・ねっと」の文字や、ナマケモノのプリント柄などには静かなおかしみが宿っていた。ほほえましくのどかなムードに包まれたショーは、力まないジャポニズム表現と見えた。

(左から)ハナエモリ デザイン バイ ユウ アマツ photo by HANAE MORI designed by Yu Amatsu、
タロウ ホリウチ photo by TARO HORIUCHI

 今回の東コレで注目を浴びたのは、新デザイナーのデビューコレクションとなった「ハナエモリ デザイン バイ ユウ アマツ(HANAE MORI designed by Yu Amatsu)」。創業デザイナーである森英恵氏の後継者に抜てきされた天津憂(あまつ・ゆう)氏は大御所ブランドを受け継いだ重圧に負けず、気品と上質感にあふれるコレクションを送り出した。白のワントーンを基調にしながら、ラッフル、ドレープ、刺繍などのクチュール的ディテールを織り交ぜて、長年の顧客も満足しそうなシルエットを描き上げた。ブランドアイコンのバタフライ(蝶々)モチーフを服にも小物にも配して、アーカイブを重んじる姿勢を示していたのも、欧米のビッグメゾンで見られたしきたりに従った態度。日本を代表する著名ブランドの代替わりは理想的な形で実現した。

 

 デビュー5年前後の中堅勢も頼もしいクリエーションを見せた。ウィメンズブランドの「タロウ ホリウチ(TARO HORIUCHI)」はファーストルックから白いワンピースを打ち出し、カッティングやパターンの完成度を証明した。身体の線を拾いすぎない、ボディーラインに付かず離れずの優美なフォルムで、飾り立てないノーブルを引き立たせた。ヘム(裾)ラインをわざと横一直線から崩して、アンバランスの美を奏でている。パンチング加工を施したワンピは丸い小穴が全体に開いていて、エアリーなたたずまい。フューチャリスティックなスポーツムードも漂わせていた。

(左から)ドレスキャンプ photo by DRESSCAMP、
イン-プロセス バイ ホール オーハラ photo by IN-PROCESS BY HALL OHARA

 男女それぞれのモデルが交互にランウェイを歩くような、ウィメンズとメンズが融合したショー構成のブランドが増えたのも、今回の変化。「ドレスキャンプ(DRESSCAMP)」のメンズでは、馬のたてがみを思わせる、たっぷりのフリンジがパンツにあしらわれ、男の色気を立ちのぼらせた。グラフィティ(落書き)風モチーフやマルチカラー、グリッターなどの強め演出も重ね、エネルギッシュな装いに仕上げた。一方、ウィメンズは唇モチーフの総柄ミニワンピ、シャイニーゴールドのスカートなどを投入。フラッパー(お転婆)ガールの気分を呼び込んだ。

 

 沈んだカラートーンの花柄に代表されるダークカラフルのトレンドを落とし込んだのは、「イン-プロセス バイ ホール オーハラ(IN-PROCESS BY HALL OHARA)」。さらなる成長が期待されるデザイナーに贈られる賞「第7回DHL デザイナーアワード」を今回の東コレ期間中に受賞した伸び盛りのデザイナーデュオは渋めの色とダイナミックな柄を交じり合わせた。メキシコから着想を得て、サボテン柄やテラコッタオレンジで装いを色めかせた。マルチカラーのボーダー柄と暗め色のフラワーモチーフを引き合わせる柄ミックスも目に残った。

(左から)アリスアウアア photo by alice auaa、
オニツカタイガー×アンドレア ポンピリオ photo by Onitsuka Tiger × ANDREA POMPILIO

 今回の東コレで最も挑発的と呼べそうなコレクションを発表した「アリスアウアア(alice auaa)」はランジェリーやボンデージのエッセンスを持ち込んだ。ブラジャーライクなトップスにヴェールのような薄布を重ね、背徳的な気分に誘う。スーパーショートのブラウスやショーツ風のマイクロミニ・ボトムスも露出度が高い。色はほぼブラックだけで、妖しいムードが立ちこめる。さらにレザーやレースと重ねて、フェティッシュな空気を引き寄せた。もともとゴシックファンタジーの傾向を帯びたブランドだが、今回はエロスの濃度を上げてみせた。

 

 古代ローマの剣闘士(グラディエーター)を思い起こさせる、力感とたくましさに満ちたコレクションを見せたのが「オニツカタイガー(Onitsuka Tiger)×アンドレア ポンピリオ(ANDREA POMPILIO)」。黒っぽい生地の下にはカムフラージュ(迷彩)模様が忍び込ませてあり、戦いの緊張感をはらむ。甲冑(かっちゅう)を連想させる装いにふさわしく、足元はグラディエーターシューズで固めた。白く太いバーモチーフをあちこちに走らせ、スポーツにオリジンを持つブランドならではの運動感と躍動美を引き出していた。

 

 「Mercedes-Benz Fashion Week」の枠組みで開催されるようになって3年が経ち、今回の東コレではその成果が目に見える形で表れてきた。英国から「ハウス・オブ・ホランド(House of Holland)」、タイから「スレトシス(Sretsis)」が参加。来場ゲストにも欧米の著名人が増えて、国際的な厚みが増した。「渋谷ファッションウイーク」や「トウキョウ ファッション アワード」などの関連イベントとの連携も進んだ。

 

 クリエーションの面ではリアルクローズに接近する動きが大きな変化と言える。主流になったのは、マーケット動向をきちんと見据えた作品だ。スポーツシックやフラワーモチーフ、ダークカラフルといったグローバルトレンドに沿ったデザインが提案され、全体に大人っぽいテイストが濃くなった。スタイリングがこなれて、ショップ店頭でそのまま売れそうなアイテムも多くなった。運営の安定感とクリエーションのリアル感がそろってアップした今回の東コレは多くの実りを残して幕を閉じた。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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