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2015.05.08

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.24】2015~16年秋冬パリ、ミラノコレクション

 2015-16年秋冬シーズンのパリ、ミラノ両コレクションはデコラティブ(装飾的)でセンシュアル(官能的)な傾向が強まった。シルエットは縦長イメージやアシンメトリー(非対称)が打ち出され、アイテムでは量感たっぷりのビッグアウターが浮上。70年代やボヘミアンのムードが濃くなる一方、エフォートレスやミリタリーのロングトレンド化が進み、ミックススタイリングの余地も広がってきた。

◆ミラノコレクション

(左から)PRADAMarni

 「プラダ(PRADA)」の秋冬コレクションはパステルカラーに彩られた。ピンクを中心に淡いグリーン、ブルーなどのさめたトーンが繰り返し登場。主役に据えたのは、ジャケットとパンツのセットアップ。ダブルブレストのコートライクなジャケットは短めの袖で着丈もややショート。一方、パンツは裾が開いたクロップト丈で、レトロな雰囲気を漂わせていた。ケミカルな質感のコートドレスや、社交界風のロンググローブなどに異なる色を配して、朗らかなカラーブロッキングを組み立てた。半袖ブラウスの上からキャミソール風トップスを重ねるコンパクトなレイヤードも提案。ヘリンボーン柄のツイード地アウターはマニッシュな品格を帯びた。

 

 丈長コートの袖を裁ち落としたかのようなロングベスト(ジレ)を打ち出したのは「マルニ(MARNI)」。カシュクールのロングベストは着物ライクなたたずまい。極太のつやめきベルトも和服の帯を連想させる。斜め掛けにしたパイソン革のボディーバッグは主張が強い。切りっぱなしの始末や、タートルネック・ニットの投入でもモードを牽引している。スリーブレスのトップスに裾広のパンツを引き合わせた。パンツの上からファースカートを重ねるような、異なる素材感を際立たせるレイヤードを組み上げている。ファー使いはさらに自由度を高め、ウエストだけ、袖だけといったあしらい方で装いにアクセントを刻んだ。ダイナミックなプリント柄で知られるが、今回は生地とモチーフを一体化して、リュクス感を高めている。

(左から)Dolce & GabbanaGucci

 「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」は家族愛を前面に押し出した。母やファミリーにまつわるモチーフを装いに重ね、モデルにも親子を起用。ハートウォーミングで古風なムードを醸し出していた。母性を象徴するモチーフとして繰り返し登場した図柄は、薔薇(バラ)の花。刺繍やアップリケなど、様々にあしらい方を変えつつ、着姿を華やがせた。幼児がクレヨンで描いたかのような、素朴で愛くるしい「お絵かき」風イラストは自然と顔をゆるませる。キーアイテムはミニ丈ワンピース。真紅の花弁が目を惹くバラの花を迎えて、フェミニンを印象づけている。聖母子画やハッピーメッセージもモチーフに使って、母の情愛を服に落とし込んだ。手の込んだ透かしレースを多用して、繊細さや上質感をまとわせている。マントとミニワンピの丈違いレイヤードも試した。ダブルブレストのコートはクラシカルで大きめの丸襟がレディーのたたずまい。デコラティブに飾ったヘッドホンはアクセサリーの役目も果たしていた。

 

 アレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)氏に引き継がれた「グッチ(GUCCI)」はこれまでの伝統的“グッチ・ガール”を離れ、中性的な気分を濃くした。ヴィンテージ風味やロマンティック感を帯びつつも、フェミニンに寄せすぎていない。シャツと細身パンツのマニッシュなコンビネーションで、すっきり凛々しく整えている。その一方で大胆な透け具合のシースルーを提案。ジェンダーを軽やかに行き来してみせた。主役ディテールに選んだのは、アコーディオン風の細めプリーツ。お決まりのスカートはもちろん、ワンピースにもプリーツを配して、古風で生真面目なムードを寄り添わせた。ひもネクタイやボウタイもマニッシュとクラシカルを呼び込んだ。ミリタリー感が漂うコートは袖先にカラーファーをオン。フラワー柄のパンツスーツもジェンダーミックスを薫らせた。重なった「G」ロゴのバックルが主張するベルトはアーカイブへの敬意を感じさせた。

(左から)DSQUARED2MOSCHINO

 「ディースクエアード(DSQUARED2)」は「カナダ出身」という自らのオリジンに立ち返り、英国上流階級の装いとカナダ先住民族の服飾文化をねじり合わせた。伝統的なチェック柄とトライバル(民俗的)なモチーフを重ね、越境するテイストミックスに仕上げた。ファーのベストや、ブランケットスカート、乗馬パンツ、英国紳士風ウエストコート(ベスト)、クロップト丈のチェック柄ジャケットなどを組み合わせ、味わい深いレイヤードにまとめ上げた。顔の周りをファーでくるむように覆うビッグアウターは、北限に暮らすカナダ先住民族の服飾遺産を受け継いだ。ナポレオンジャケットやガウチョパンツ、淑女グローブなど、古今東西の主張系アイテムをクロスオーバーして不思議なマリアージュ感を醸し出している。ミリタリーやフォークフロアといった今季のテーマを重層的に響き合わせた。タトゥー模様をプリントしたレギンスもアグレッシブに脚を彩った。ロングイヤリングは顔周りにきらめきを誘い込んでいる。

 

 「モスキーノ(MOSCHINO)」はニューヨークのエナジーを注ぎ込んだ。ヒップホップ・ミュージシャンのストリート感を下敷きに、イエローやオレンジ、ブルーなどの高発色カラーをキルティングダウンのコートやスカートに写し取った。ケミカルにつやめいたアイテムにアグレッシブさが宿る。ラッパー風のグリッターなゴールドチェーン・アクセサリーはブランドロゴを組み込んた。アメリカン・ポップカルチャーをコミカルに落とし込んだ。米国アニメの人気キャラクターをビッグモチーフで原色のTシャツ・ワンピースに迎えた。よく見るとどのキャラもラッパー風の出で立ちだ。NYのストリートからはグラフィティ(落書き)アートも借り受け、ドレスや黒革ジャケットをアナーキー気分で彩った。デニムのパッチワークや裏返しにしたジーンズはいたずらっぽい手つき。野球やバスケットボールのユニフォーム風のシャツワンピも披露。アメリカ流の楽観主義でコレクション全体を包んだ。

◆パリコレクション

(左から)DiorSTELLA McCARTNEY

 パリコレが全体としてグラマラス志向を強める中、老舗の「ディオール(Dior)」はアニマル柄をキーモチーフに据えて、内なる強さとたおやかさを引き出した。レオパード(ヒョウ)柄やゼブラ柄とサイケデリック色やネオンカラーを交わらせ、ワイルド感に華やぎを上乗せした。スカート裾には短冊状のスレッドを躍らせ、アフリカントライバルな気分を添えた。ジェンダーミックスの試みはさらに深みを増した。ツイード生地に正統派感が漂うジャケットはダブルブレストで仕立て、ダブル裾のパンツと組み合わせた。パンツ丈を短めにして、すねの素肌をのぞかせている。コンパクトなミニ丈ワンピースはつやめきレザーのサイハイ・ブーツとマッチング。ロング丈コートはスレンダーな縦長シルエットを目に残した。

 

 今回のパリコレで主流になったシルエットは細く縦長の「ロング&リーン」。ロングコートや細身ワンピースをそろえた「ステラ マッカートニー(STELLA McCARTNEY)」はこの流れをリードした。パンツのセットアップもスレンダーな着映え。ただ、シャープですっきりした輪郭を描きながらも、素っ気ないミニマルルックにまとめないで、左右不ぞろいのアシンメトリーを肩や袖、裾に生かしてアンバランスの美をうたい上げている。ニットはいつもにも増して伸びやかな風情。手先まで完全に覆い隠したうえ、袖先をさらに余らせたトップスはリラクシングでのどかな着姿に誘う。セーターとワンピースが融け合ったかのようなくつろぎフォルムも提案されている。ゆったりした広襟コートは布ベルトをゆるく結んで垂らすガウン風のたたずまい。動物由来のマテリアルを用いない「ファー」ライクな量感たっぷりのコートもステラらしさを示していた。

(左から)GivenchyAlexander McQueen

 デコラティブな演出が増えた今回のパリコレ。ビッグメゾンの「ジバンシィ(Givenchy)」も19世紀の宮廷貴婦人の装いをよみがえらせた。とりわけシンボリックなディテールが腰のくびれを強調するコルセット。ジャケットの上から縫いつける「見せるコルセット」がセンシュアルなムードを濃くした。窮屈な締めつけに耐えた宮廷女性たちの服飾遺産を、モダンなシルエットに溶け込ませ、品格とセクシーを交錯させている。ゴシックなミステリアス感を帯びた黒レース。手の込んだ細密エンブロイダリー(刺繍)。これらのクラシックな素材やディテールを用いて、秘めやかで装飾的な装いに仕上げた。ベルベット調の生地、伝統的なジャカード模様なども重厚感や気品を寄り添わせている。単に古典的な要素を復活させるのではなく、古今の様式美をミックスし再解釈するアレンジが今のパリモードらしい新デコラティブに導いた。

 

 ロマンティックに向かうパリの空気を、「アレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)」はバラの花に託した。ドレスの裾には大輪の花弁をあしらい、黒革のコートにはバラ柄をエンボス加工で眠らせた。甘くなりがちな花柄をあえてノンスイートに操り、フローラルな華やぎと毒っ気混じりのダーク感を同居させている。あえて不完全にとどめたフィニッシュ(始末)という新トレンドを呼び込んだ。創業デザイナーが得意とした精緻なテイラーリングを逆手に取ったかのような切りっぱなし処理やほつれ演出を披露。縫製作業の途中段階を思わせる見え具合がかえって手仕事感を際立たせている。ラッフル仕立ての高い襟やつややかなロンググローブなどに英国ビクトリア朝への郷愁を漂わせていた。

(左から)ChloeCARVEN

 70年代再評価やヒッピーリバイバルが進んだのも、今回のパリコレで目立った動きだ。「クロエ(Chloe)」はエフォートレスの気分を示す、流れ落ちるようなシルエットと、ボーホーシックののどかさ、’70sへのノスタルジーを響き合わせた。バッグや靴にもフリンジを配し、ロックやボヘミアンのムードをまとわせている。けだるい見栄えの長く伸びた袖、裾が床まで届きそうなマキシ丈ワンピースも程よい力の抜け具合を感じさせる。縦落ち感を目に忍び込ませた。スーパーロングのコートはサプライズな着丈がどこか懐かしくもある。首に巻いて長く垂らしたスカーフは’70sルックにも通じる。細いレザーベルトの余った端を垂らす工夫も縦方向に視線を引き込む。“クロエ・ガール”と呼ばれる独特のキュート感や若々しさに、ボヘやヒッピーの風味を巧みに重ね合わせ、甘ったるくも幼くも見えない大人ボーホーの着姿に整えている。

 

 今回のコレクションシーズンには有力ブランドでデザイナー交代劇が相次いだ。ブランド再建の立役者になったギョーム・アンリ氏の後を今回から30歳代の男性デュオが引き継いだ「カルヴェン(CARVEN)」はスキーウエアに着想を得たスポーティーな装いを打ち出し、新境地を示した。パンツルックを軸に据え、スキーパンツ風の厚地パンツをキーアイテムとして提案した。コートやブルゾンといったアウターをこれまでより手厚くラインアップした点も変化を映す。ワンピースを2枚重ねて着ているようにも見えるレイヤードはクリーンでノーブルな着映え。オリエンタルな花柄モチーフをサイケデリックカラーで彩ったり、ライラックやオーブなどのフレッシュなカラーパレットを取り入れたりと、色や柄の面でも様変わりを印象づけていた。

 

 ビッグアウターやパンツルックは全体に「強め」の女性像を描き出す。リッチ素材のファーやレザーが多用されたのも「タフフェミニン」のトーンと歩調が合っている。まばゆいグリッターアクセサリー、つややかなゴージャス生地は「パワーグラマー」の方向感を指し示す。同時に刺繍やパッチワークのような手仕事感の高いディテールが重んじられていて、大人感が高い。フォルムやモチーフでクリエイターの野心をうかがわせる踏み込んだ表現が目立ったのも、今回のパリ、ミラノ両コレクションの大きな収穫と言えるだろう。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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