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2015.05.12
時代に逆行?デジタル全盛期でもカタログ通販が減らない理由
2015年2月のカタログ
先日、機内カタログ誌の『スカイモール』の倒産が報じられましたが、米国のカタログ発行部数は2007年の196億冊のピーク時から、2013年には119億冊に減少したものの、前年の2012年から増加に転じています。ウェブサイトで、印刷物と同じ、Eカタログを毎月アップしている企業もあり、ミレニアルズ世代に代表されるデジタルサビー(※)な消費者は、オンラインで商品を見る事は日常的。しかし、JCペニーは辞めていたカタログの発行を3月から再開。他にもアパレル企業では、アンソロポロジー、Jクルー、アスリータ、チコス、L.L.ビーン、フリーピープル、ノードストロームやニーマンマーカス等は月1ペースで発行と、印刷したカタログを発行している企業は意外と多いのです。これだけオンライン販売が増加している中、なぜ時間もコストもかかるカタログは消滅しないのでしょうか?現代の市場におけるカタログの需要と役割を考えてみたいと思います。
※デジタルサビー:デジタルを熟知した
「ボノボス」は発行部数を増加 カタログ経由の購買が売り上げを支えている事実
『ランズエンド』は、カタログの発行部数を縮小した2000年、売り上げが$100M(約118億円)減少。後に顧客へのアンケート調査を行った所、75%の消費者は、カタログを見てからショッピングをしている事が判明。お人形をカスタマイズ出来る事で女の子達に人気の『アメリカン・ガール』では昨年、発行部数を増加したところ、過去10年の間で、カタログからの注文が最も増加。Eリテイラーの『ボノボス』も2年程前に、既存の客層と興味のありそうな消費者に絞ってカタログを送った所、徐々に売り上げが伸び、発行部数を増加。現在、ウェブで注文した顧客の20%がカタログを受け取った後に注文。受け取らない人に比べて、1.5倍注文しているという結果。ダイレクト・マーケティング・アソシエーションによると、約9000万人の米国消費者がカタログから購入しているそうで、そのうちの60%は女性、年間平均850ドルを消費している。
商品全部載せ!カタログで効率よくショッピング―H&M
H&M 2015FALL カタログより
H&Mの店頭ではルックブックマガジンを見かけますが、実はシーズン毎に、レディース、メンズ、キッズ、アスレチックウェア、マタニティ、ファッション雑貨、ランジェリー等全てのカテゴリーの商品を1冊にまとめたカタログを発行している。上の写真、手元にあるのが昨年の秋物ですが、なんと223ページ!ページ数のボリュームもさることながら、コーディネート写真と共に機能の説明もあり、そのシーズンに販売される商品が事前に分かる事で計画的に購入する事が可能となる。山積みの商品陳列やインターネットの中から探すより遥かに効率が良く、カタログで見つけてからオンラインで注文すると言う流れに進みやすい。店頭でマネキンが増えている理由と同じく消費を促すツールとして使われている。
マーケティング予算の半分をカタログ制作&郵送に―ウィリアムソノマ社
インテリア、キッチングッズ、ベッド&リネン、キッズインテリア等を展開する、ウィリアムソノマ社では、ポッタリー&バーンや、ウエストエルム等7つの小売店ブランドがあり、いずれもカタログを発行しています。季節毎にそれぞれのライフスタイルを提案した美しいコーディネート写真は見ているだけでもうっとり、消費者を惹き付けます。マーケティング予算の半分はカタログの制作&郵送にかかっているのですが、消費者はそのカタログに目を通し事前にインスピレーションを得る事で、購入に繋がっている為、ビジネスに欠く事の出来ない存在。ファニチャーやインテリア商品の場合、下調べ無くストアにいくよりも、自宅の間取りやインテリアと照らし合わせ、見当をつけてイメージして行く方が現実的。
商品掲載よりブランディング イメージ先行型カタログ
アンソロポロジーFEB 2015 のカタログより
JCペニーに代表される様に、一昔前は、出来るだけ多くの商品を載せた分厚いカタログが多くありましたが、最近は商品説明よりもダイナミックな写真を使った、ライフスタイルイメージ型が主流。実際、ウェブサイトの方が多くの商品を見れる事もあり、特にライフスタイルブランドのカタログは、インスピレーションソースとしての役割に変化している。例えば、アンソロポロジーの2月のカタログでは、ブラジルをテーマに、アマゾンを想起させるワイルドな風景をバックに、アンソロ~流のエスニックパターンを取り入れたファッションやホーム雑貨のインスピレーション。商品を売る為では無く、ライフスタイルを通じて顧客と結びつく為のツールとして発行している。パタゴニアでも、昨年10冊のカタログを発行していますが、40ページに渡るカタログには、ジャケットやジーンズ、バックパック等、ほんの一握りの商品しか出ておらず、大半は、鷹狩りの風景、チリやカリフォルニアの野生動物と子供達の写真等。アウトドア指向の客層には、アイデア満載のリアルソース。
閲覧時間はEC5分、カタログ20分 パーソナライズ化の動きも―英ボーデン(Boden)
UKベースの『BODEN-ボーデン』では年間100万冊以上のカタログを全国に郵送。米国のマーケティングチームの調べでは、iPad等でボーデンのサイトを見ている時間が平均5分、Eメールはたった2分に対し、カタログでは、15~20分も費やしている事が分かっている。キッズのカタログでは、『マストハブ!』や『今必要!』等のワード入りステッカーの付箋をつけ、利便性をアップしているのもユニークなアイデア。以前、ウェブで閲覧した商品が印刷されたDMを受け取った事がありますが、ボーデンでは、カタログのパーソナライズも検討しているそうで、実現したとしたら顧客一人一人と繋がる、新しいコミュニケーションツールとなるかも?
イケアの「BOOKBOOK!」戦略 時代の逆ベクトルの先に見える市場
昨年『IKEA』が、2015年版のカタログ発行に際し、アップル製品の発表会をパロディにした動画を紹介。パワーチャージする必要なく、気に入った所は角を追っていつでも印ができて、とても便利と如何にも革新的な商品の如く説明をしていますが、その名も『BOOKBOOK』。デジタル本でもE-ブックでもない、まぎれもなく全く普通のカタログ!一つの方向に市場が向いている時、必ず逆のベクトルにも需要があります。昨年、アーバンアウトフィッターズが世界最大のアナログ盤レコードの販売店である事が話題になりましたが、デジタルに慣れ親しんだ世代の中で、アナログレコードやヴィンテージファッションに需要があり、また、昨今のL.L.ビーンやカーハート等、職人の拘りを感じる米国老舗ブランドがクールだと支持される状況もまた、逆のベクトルが働いているのではないでしょうか。
米国進出後、今ひとつ振るわない無印良品でも、あまりインパクトの無いアイテム別の小冊子を置いていますが、本気のカタログを発行してみるのも良いかもしれません。
『IKEA BOOKBOOK!』
マックスリー・コーポレーション
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