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2015.07.10

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.26】2015~16年秋冬ファッションの6大トレンド

 近年では割と大きなモードの転換点を準備する時期として2015-16年秋冬シーズンは位置付けられそうだ。ここ2、3シーズンの2大トレンドだったエフォートレスとスポーツシックがやや落ち着く一方で、70年代気分や未来感覚、ミリタリーなどが盛り上がり、着こなしの選択肢は格段に広がる。コンフォート(着心地)志向やジェンダーレスといった時代の空気が様々に表情を変えて表れてきたという構図だ。

◆70年代ノスタルジー

(左から)ChloeDsquared

(左から)BURBERRY PRORSUMLanvin

 前シーズンからブームアップしてきた70年代風アレンジがさらに加速する。ただ、2015年春夏に見せたヒッピー主体の70s色は薄まり、むしろ当時を懐かしむような意識を帯びたノスタルジックな雰囲気が強まりそうだ。全体にややレトロ感を漂わせ、どこかフォークロアの風情も宿す。シンボリックなアイテムがポンチョだ。タートルネックセーターやワイドパンツに代表されるセブンティーズ風味を残しながらも、そこにネイティブアメリカンやトライバルをかぶせてボーホーなたたずまいに味付け。スーパーロング丈スカートやプチスカーフ、バンダナ、太ベルト、丸目サングラスなどが懐古的なムードを連れてくる。ベルベットやジャカード、刺繍やブロケード(金襴、錦)、フリンジ、タッセルといった素材・ディテールもモダンレトロのやわらかいモード感を演出する。

◆ニューフューチャー

(左から)SAINT LAURENTEMILIO PUCCI

(左から)PRADAAcne Studios

 アスレティックな装いのブームでケミカルな質感が打ち出された流れを受けて、フューチャリスティック(未来感覚)な意識が強まるのも、来秋冬の新傾向と言える。世界的に理系の存在感が大きくなってきた変化をモード界も思い思いの解釈で受け止め始めた。まばゆくメタリックなアウターやスカートが登場。ラメやきらめきパーツが妖しく光に照り映える。ビニールやパテントレザー、ネオプレン系の人工感を持つ化学素材も多用される。幾何学なグラフィック柄がスチームパンク風のゆがんだ未来観を舞い降りさせる。スタッズやジップの冷ややかな表情がナードやギークといったサイエンス志向の着姿に導く。コクーンシルエットのアウターは宇宙服を連想させる。

◆ビヨンドジェンダー

(左から)ETROGUCCI

(左から)jil sanderStella McCartney

 メンズとウィメンズをことさらに分け隔てしない「ノージェンダー、ジェンダーフリー」の潮流は来秋冬に一段と大きなうねりに育つ。スタイリングの新手法というレベルを超えて、本気で性差の彼方へ引っ張っていくような提案が相次いだ。アウトドアやスポーツが道筋をつけた、ジェンダーの踏み越えはラグジュアリーやエレガンスのフィールドでも浸透し始めた。ワークウエアの風情を落とし込んだり、ツイードやフランネルでウィメンズ服を仕立てたりと、表現の幅が広がる。大格子チェック柄、ピンストライプなどにも性差をわざと打ち消す意図がのぞく。凛々しい着映えを生むスリーブレス・コートは象徴的なアイテム。長く細い構築的なシルエットが精悍(せいかん)で中性的な印象を目に残す。

◆ミリタリーレディー

(左から)MONCLER GAMME ROUGEN°21

(左から)3.1 Phillip Limrag & bone

 迷彩柄がスタイリングの「差し柄」として用いられるような域を超えて、ミリタリーはモードの基本テイストとして定着しつつある。カーキやオリーブで薄味に取り入れる傾向からさらに進んで、フェミニンやラグジュアリーとのマリアージュを試し始めた。ボマージャケットやジャンプスーツといったミリタリー色を帯びたアイテムも、武骨さを遠ざけながら、エレガントに着地させる提案が目につく。ピーコートやアノラックなどのアウターもたおやかな着映えにアレンジ。張り出しポケットはアイキャッチーなアクセントになってくれる。アーミーグリーンやネイビーは引き続き勢いを保つ。不ぞろい裾のハンカチーフヘム、指先まで覆う余らせ袖などのやさしげなディテールと組み合わせて、「ほんのりミリタリー」の濃度に抑え込むのが、これからのセオリーとなりそうだ。

◆ヴィクトリアンデコ

(左から)Alexander McQueenGIVENCHY

(左から)MARNITOM FORD

 前シーズンに予言されていたトレンドが少なくない中、目立ったニューフェイスと言えるのが、英国ヴィクトリア朝(1837~1901年)にインスパイアされた古風なテイストだ。英国上流階級のクラシックな装いを連想させる提案が目立つ。ゴシックな雰囲気と官能的なムードを響き合わせるアレンジは鮮度が高い。ロンググローブやケープが示すようなレディーライクなたたずまいが基本軸となる。過剰なまでにデコラティブ(装飾的)な演出もあり、特大の飾り襟は淑女の品格を漂わせる。ファーをあしらったハットや靴、ガウン風の羽織り物なども、ノーブルでロマンティックな着姿に誘う。古典とモダン、デコラティブと抑制、レディーと紳士が交錯するミックススタイルだ。

◆ネオマドモアゼル

(左から)DiorCARVEN

(左から)DOLCE&GABBANAFENDI

 ビッグトレンドとまではいかないものの、受け入れが広がりそうな新傾向に挙げたいのが、良家のお嬢様ライクな趣味のよさを感じさせる装い。かつて一世を風靡した「BCBG(ボン・シック・ボン・ジャンル)」に通じるムードがある。フランスの女学生、リセエンヌの若々しく気張らない着こなしにも似る。全体にグッドガールの雰囲気があり、白のハイネック・ニットとプリーツスカートの組み合わせが分かりやすいスタイリング例だ。楽天的なおしゃれマインドと、オーソドックスなアイテム選びに特徴がある。Aラインのワンピースをはじめ、キュロットやストッキングなどが愛くるしい風情を呼び込む。ベレー帽や飾り襟、ボウタイ、ブローチなどもやさしげでレトロな空気感をまとわせる。

 

 6大トレンドを見渡して感じられるのは、これまでの時代感覚や性別意識といった「約束事」を振り払ってしまおうというモチベーションだ。シーズンレスやシーンフリーの流れは一段と定着しているうえ、古今東西の服飾文化が融け合って着こなしの自由度はさらに高まってきた。

 

 支持を集めたトレンドが一時の流行を超えて、新時代のルールになるという傾向も続く。エフォートレスとスポーティーが勢いを落とすと言っても、表舞台から消え去ってしまったわけではなく、むしろ「コンフォート(着心地のよさ)」という大きな枠組みの中に居場所を得たということであり、ファッションの前提条件になったとも考えられる。

 

 着る側のニーズがコンフォートに加え、ハッピー感や自分らしさ、超時代性などにまで広がり、モードも新しい女性像を用意するに至った。そういった意味でも15-16年秋冬は次なる大きなターニングポイントの序章と言ってよさそうだ。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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