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2016.04.06

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.32 】2016~17年秋冬東京コレクション

 2016-17年秋冬シーズンのメルセデス・ベンツ ファッション・ウィーク東京(3月14~19日)は、妖しさを帯びた「ダークロマンティック」や、日本ならではの強みを生かした「スーパーボーダーレス」の趣が強まった。毒っ気やユーモア、フューチャリスティックなどの演出も濃くなった。デコラティブ(装飾主義)な素材、大胆なモチーフ使い、ウィットフルな量感などが提案され、主張が強めの装いが盛り上がった。

 「ケイタ マルヤマ(KEITA MARUYAMA)」は「夜へ。」をテーマに選んで、大人の夜遊びムードを漂わせた。ダークカラーをベースにしながら、星形モチーフや星座柄を取り入れて装いをきらめかせた。ファーをたっぷりあしらったのも、リュクスと妖艶さを印象づける。タキシードやスカジャンなど、多彩な羽織り物で着姿をスリリングに彩った。シャイニーにつやめく布の華やぎが妖しくリッチ。淡いウォーターカラーやピンクなどの色味もナイトプレジャー気分を盛り上げていた。

 

 クチュール感の高いコレクションを披露し続けている「ハナエ モリ マニュスクリ(Hanae Mori manuscrit)」は、今回も美しいドレスを送り出した。左右や前後のバランスをあえて崩すアシンメトリーの手法を多用。ワンショルダー、ラッフルなどを組み込んで、不ぞろいの美を奏でた。ドレス一辺倒ではなく、ニットやワイドパンツも取り入れて、モダンに仕上げている。ブランドシンボルの蝶はデフォルメしたプリント柄でダイナミックに躍らせた。シーズンを重ねるごとに技法が熟成していて、作品にも自信とプライドがうかがえる。

(左から)mintdesignsTHEATRE PRODUCTS

 「ミントデザインズ(mintdesigns)」はこれまでとはいくらか切り口を変えて、未来的な感覚を打ち出した。不規則なブロック模様を新たに考案。キーモチーフとしてあしらった。どこかデジタルでいて、懐かしげでもある不思議な柄が現代性を呼び込んだ。ほんのり色のマルチカラー・ボーダーも着姿に朗らかなムードを添えた。たっぷりした大襟にもユーモラスな雰囲気が漂う。髪を隠す、コンパクトなヘッドピースは全モデルがつけた。ゆったりめのシルエットで穏やかな着姿に整えていた。

 

 これまでにも増して押し出しの利いたルックをそろえたのは、「シアタープロダクツ(THEATRE PRODUCTS)」。もふもふしたトリミングを施したワンピースは顔周りまでくるむオーバーボリューム。ボストンバッグはなぜだか中に手を突っ込んで持っている。靴は両サイドやヒールにまでゼブラ柄を配した。ベルトは極太でコルセットのよう。ロングベストはアームホールが腰まで開いている。細身のパンツルックも表面にウロコ風の飾りを全体に並べた。おしゃれを面白がるという「プレイフル」の潮流を茶目っ気たっぷりに取り込んでみせた。

(左から)ADEAMmatohu

 色で遊ぶデザイナーが目につく中、「アディアム(ADEAM)」は黒とグレーといった静かな色でルックを構成した。オフショルダーやアシンメトリーといった新傾向を落とし込みつつ、シックで大人っぽい装いにまとめ上げた。日本の伝統工芸に着目。パッチワーク的な生地ミックスを組み込んで、ドラマティックな着映えに導いた。服のあちこちから紐を長く垂らすディテールは躍動感と縦落ちイメージを醸し出している。ジャポニズム(日本趣味)をあざとく押し出さない手つきがコレクション全体に落ち着きをもたらしていた。

 

 「まとふ(matohu)」は色の濃淡に叙情を託した。「おぼろ」というテーマにふさわしく、カラーグラデーションを生かして、服を着た輪郭と周囲の背景があいまいで、自然と空間になじむような装いを組み立てた。墨の黒を様々なトーンに変化させて、抑制の利いた風雅を帯びさせている。藍色やオレンジでも色味に奥行きを持たせた。ほとんどのモデルに帽子をかぶらせた。石田欧子氏とのコラボレートで、割と深くかぶるタイプの帽子を引き合わせ、淑女ムードを濃くしていた。

 見惚れてしまうようなシルエットのアウターをそろえた「サポートサーフェス(support surface)」は、さすがのカッティング技を証明した。派手に飾ってはいないが、優美なドレープが気品をまとわせる。1枚布ならではの自然な落ち感が着姿をエレガントに見せている。すっと立ち上がった襟の形が美しい。スーパーサイズの襟や変形の襟などでも首周りに技巧を凝らした。無地ニットは編み地の起伏で表情をつけている。爪先を切り替えたブーツはのどかな景色を生んでいた。

 

 目を惹く柄を操ったのは「イン-プロセス(IN-PROCESS)」。ブロック(長方形)モチーフをマルチカラーで彩り、コートの全面に配している。うっすらと和が薫る植物柄は白抜きで大きくあしらった。異なる模様を市松模様風にコラージュした複雑柄も披露した。ファーを積極的に取り入れた。首にぴったり巻くチョーカー形から、上半身を上品に覆うビッグストール風まで、サイズもタイプも幅広く組み入れている。前後で異なる見え具合のプリーツスカートや、かかとがアイキャッチーなチャンキーヒール靴で、背中側からの視線にも目を配った。

 「オニツカタイガー × アンドレア ポンピリオ(Onitsuka Tiger × ANDREA POMPILIO)」は、「おたく(ナード、ギーク)」や「ダサかわ(タッキー)」調の新トレンドを連想させるルックを用意した。古風な雰囲気の伊達眼鏡をかけたモデルは、プレッピー気分を帯びたスクールガール風の装い。若々しさとほっこり感が同居する。スポーツウエアのディテールを落とし込んだ。スウェットパーカでおなじみのドローストリング(引き紐)はジャケットの腰に通して、好みの絞り加減を実現している。ニットトップスにはブランドのフィロソフィーとヒストリーを宣言のようにプリントした。

 

 ニットのスペシャリスト「モトヒロ タンジ(Motohiro Tanji)」は編み物の造形美を極めた。ねじりや結びといった手法でニットに起伏を持たせ、糸の表情を深くした。トリッキーな表現にも挑み、本来の袖以外に余計な遊び袖をつけたり、首を通す穴を無駄に増やしたりと、アートライクないたずらを試した。ボレロのように着丈の短いトップスも意外感があった。ボトムスを「リーバイス」の定番ジーンズにして、リアルに着こなせるスタイリングを提案。ニットの表現力を巧みに際立たせていた。

 次世代の若手を育てるリーダー的存在になってきた山縣良和デザイナーは自らのブランド「リトゥンアフターワーズ(writtenafterwards)」で格上の着想力を示した。題材に選んだのは、日本オリジナルのお化けである「妖怪」。郷里が同じ漫画家の水木しげる氏に捧げたオマージュだ。ユーモラスにアレンジしているのもこのブランドならでは。どこかハロウィンの仮装にも通じる陽気さとキッチュ感を帯びた。強めの色と過剰なフォルムに非日常の気分が宿る。西洋から見たジャポニズムがしばしば古典的な日本像に陥りがちな中、日本に眠るディープなファンタジーを掘り起こしてみせた。

 

 「ドレスドアンドレスド(DRESSEDUNDRESSED)」はスリリングかつシックにセンシュアル(官能性)を語った。モチーフに使ったのは、ランジェリーのエッセンス。スリップドレスやブラトップを街着としてトランスフォーム。程々のセクシーを匂わせている。量感とストリートテイストを操って、ジェンダーレスの着姿に整えた。オーバーサイズのビッグシルエット・アウターはスリムなボトムスと共鳴して着姿に心地よいアンバランスをもたらしていた。縦長フォルムはしなやかな落ち感を演出。袖先を余らせる「トゥーマッチ袖」のディテールも目に残った。

 

 デコラティブな装いを求めるムードはデザイナーの想像力を刺激し、挑戦的な試みが東コレを活気づかせた。エンターテインメント仕掛けのランウェイショーが多くなったのに加え、プレゼンテーションでの発表が増え、表現手法の多様化がクリエーションの幅を一段と広げて見せた。パリコレに参加したり、展示会に切り替えたりして、参加を見合わせる有力ブランドが相次いだが、東コレを発表の場に選んだ創り手のモチベーションは高かったように見えた。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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