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2016.03.02

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.31】2016~17年秋冬NYコレクション

 2016-17年秋冬シーズンのニューヨークコレクション(2月10~18日)はNYらしいテイストミックスに楽しさや洗練度が上乗せされた。キーワードは「ノールール」。従来の約束事をあえて踏み出すようなシーズンレス、シーンフリー、ジェンダーレスのアレンジが一段と広がった。使い勝手を重んじる「ユーティリティー」や、あえて垢抜けない表情を押し出す「ダサかわ(タッキー)」といった新テイストも試された。ポジティブでプレイフルという先シーズンからの気分は受け継ぎつつ、非日常的な装いに誘うような提案が勢いづいて、NYモードの新機軸に「面白い」が加わったように見えた。

(左)RALPH LAUREN COLLECTION ((c) Milk Digital) 、
(右)CALVIN KLEIN COLLECTION ((c) 2016 Dan Lecca)

 英国趣味やロック愛をちりばめながら「ラルフ・ローレン コレクション(RALPH LAUREN COLLECTION)」はストーリー性を感じさせるコレクションを披露した。序盤は茶色がかったグレーの「トープ」色を基調にメンズウエアからインスパイアされたようなパンツルックを重ねた。ニットのカーディガンややさしげ生地のジャケットを重ね、穏やかに見せた。次に現れたチェック柄のセットアップからはブリティッシュ気分が濃くなる。異なる格子柄を響き合わせた。ケープ系の羽織り物にも英国ムードが漂う。つやめきを帯びたリトル・ブラックドレスからはロックテイストが顔を出す。フリンジやボウタイを組み合わせてロマンティックな「ロックシック」を奏でた。ベルベット仕立てのジャケットとダメージド加工のジーンズというマッチングは絶妙のマリアージュ。襟ラッフルたっぷりのブラウスには中世英国への郷愁がうかがえた。

 

 ブラック主体のカラーパレットをシルエットやディテールでつやめかせたのは「カルバン・クライン コレクション(CALVIN KLEIN COLLECTION)」。巧みなテイラーリングのスーツやスリップドレスを軸に、シャープな細感を印象づけた。ウエストから端を長く垂らした細ベルトは視線を縦に引き込んだ。服のあちこちから垂らして遊ばせたストラップも着姿を躍らせている。首のラインで動きを出した。胸元に深く切れ込んだプランジネックや、チョーカーライクに詰まった喉元で、洗練されたエレガンスを目に残した。ドレスの身頃にあしらった、カメオ風のジュエリーが装いにドラマを添えた。マスキュリンなスーツは凜々しいたたずまい。チェック柄やピンストライプも着姿を引き締める。レザーを布に組み合わせて質感に奥行きを与えている。袖が開く演出やファーのビッグ襟も目を惹いた。

 「マイケル・コース コレクション(MICHAEL KORS COLLECTION)」はオーバーサイズを生かしてファニーなレイヤード(重ね着)を組み上げた。指先まで覆うスーパーロング丈のシャツカフスがアイキャッチー。ニットの袖先からシャツをたっぷりあふれさせ、スリーブレイヤードを演出。シャツ裾はウエストからアウト。ブルーに彩ったファーでひじから先を包むアレンジもリッチ感が高い。ツイード生地のスーツが品格レディーの風情。エレガントなボウタイをピーコートに交わらせて、ノーブル顔のジェンダーミックスに整えている。毛足の長いフェザーをあしらって、装いを華やかに格上げ。帯状のパネルを連ねたような吹き流し風スカートは裾が軽やかに躍る。メタリックなワンピースにはフューチャリスティックとロマンティックが同居。ベビーブルーやパープル、ネオングリーンなどのラブリー色も投入。レトロっぽい丸襟や花柄が60年代風味を呼び込み、リラックスグラマーのムードを濃くしていた。

 

 グローバルモードで「ジャポニズム(日本趣味)」が勢いづく中、以前から日本にシンパシーを寄せる「3.1 フィリップ リム(3.1 Phillip Lim)」はくどさを遠ざけつつ、ジャパンテイストを巧みに取り込んでみせた。着物風に打ち合わせるローブドレスは日本で着ても違和感のない風情。イチョウの葉モチーフにも和モダンの雰囲気が漂う。柔道着の帯を思わせるベルトを垂らして端を遊ばせるディテールは健やかで楽しい。いさぎよく袖を落とした、お得意のスリーブレスアウターはオールシーズンで着こなせそう。「アスレジャー」のトレンドが盛り上がる中、トラックパンツのセットアップでヘルシーシックに整えた。ジップやラメでメタリックなきらめきを呼び込んだ。足元にもベルベットブーツでつやめきをオン。チェック柄やダブルブレストなどにはブリティッシュムードが宿っていた。

 NYへの思い入れをランウェイで表現し続ける「アレキサンダー ワン(ALEXANDER WANG)」はロック色を強く押し出した。レザーアウターとミニ丈ボトムスを組み合わせ、「バッドガール」風のストリート感を立ちのぼらせている。メッセージを掲げる「ステートメント」よりも踏み込んだ「スローガン」を、黒ストッキングの太ももに編み込んだ。ランジェリーライクな妖しさを忍び込ませて、黒革のフェティッシュと交わらせている。マリファナの葉っぱ柄にもダークな気分を示す。ピンクのニット帽は黒っぽい装いにキッチュ感を添える。きらめきを放つスタッズやチェーンジュエリーもあしらって、パンキッシュに味付け。ただ、ありきたりのストリートルックは遠ざけ、タキシードジャケットやスリップドレスを仕立て、ファーやツイードを使って格上のクチュール感を帯びさせた。

 

 英国調テイラーリングに裏打ちされた、ミリタリーやワークウエアの表現に強みを持つ「ラグ & ボーン(rag & bone)」。素材やディテールにアレンジを加え、ミックステイストの趣を深くした。シルキーな風合いのサテン系で仕立てたボマージャケットは穏やかな表情。軍用シャツでおなじみの蓋付きポケットはシャツドレスの両胸に迎えた。レザー仕立てのモーターサイクル・ブルゾンもタフネス仕様のアウター。英国紳士服を連想させる、格子サイズが大きめのウインドーペイン柄は正統派ブリットの風格。ピンで留めるタイプのシャツ襟もトラッドへのリスペクトを示す。片方の肩を露出したニットワンピースはリラクシングで自然体。スウェットシャツやフーディーといったゆるめウエアも組み込んでブルックリン風の着姿に整えていた。

 「プロエンザ スクーラー(Proenza Schouler)」は1960~70年代の米国モダンアートに着想を得て、アートフルなデザインを組み上げた。繰り返し用いたのは、「×」の字状にベルト風の布を交差させるディテール。トップスの正面でスニーカーの靴紐のようにベルトをクロスさせたり、ワンピースのストラップをウエストあたりで交わらせたり。鋭角イメージを目に焼き付ける演出だ。量感も操り、細身ジャケットにワイドパンツを引き合わせ、砂時計シェイプを描いた。袖丈はオーバーサイズに仕立て、袖先を余らせている。細部へのこだわりを随所に見せた。意外なスポットにスリットやカットアウトを施した。複数の布地のパッチワークも表情を深くした。ファー襟のデニムジャケット、凝ったステッチのレザーアウターも見せた。目新しかったのは、ショルダーバッグの操り方。極端にストラップを短く調節して斜めがけにし、バッグを脇の下に密着させた。斜めやクロスといったモチーフを多用して、装いにリズムを加えていた。

 

 ノスタルジックなムードを濃くしたのは、上品なワンピースを得意とする「デレク ラム(DEREK LAM)」。クラシカルな膝丈のワンピースやスカートを集め、気品を薫らせた。フレア裾のパンツもどこか懐かしげ。60年代の空気感が全体を包む。メンズ由来のアウターをリファインしてフェミニンな着姿に写し込んだ。ダッフルコートやトレンチはたおやかフォルムに変形。朗らかなシルエットや細身のスレンダールックに仕上げている。ヴィクトリアン調の立ち襟は古風で気高い見栄え。ふくらみを持たせた袖にもラブリーなレディー感を宿した。ビッグシルエットのマニッシュとディテールのたおやかさが交錯。エレガントなジェンダーミックスに誘う。ファーやベルベットのリュクスな質感が大人っぽさをさらに引き立てている。

(左から)COACH1941 、 TOMMY HILFIGER

 「若返り」はNYモードが打ち出す新たな方向感。「コーチ(COACH)1941」は学生気分をさわやかに盛り込んで、エイジレスとポジティブを融け合わせた。主役アイテムに選んだのは、キャンパスでおなじみの、身頃と袖で切り替えを施したスタジアムジャンパー風のブルゾン。ワッペンやアップリケをまるで校章のようにいくつも縫い付けて、フレッシュな着映えに導いている。ボトムスもミニスカートを軸に据えて程よくガーリー感をまとわせた。ブランドの原点にあるレザーを多用。ヘリテージをモダンによみがえらせている。ワッペン付きのバイカージャケットやレザー仕立てのミニスカートなどがつややかな質感を帯びた。先住民パターン、星条旗モチーフなどがオールドアメリカンな雰囲気を連れてくる。創業年を加えたブランド名に似つかわしい歴史性を印象づけたコレクションだった。

 

 季節感をあえて逆手に取る「シーズンレス」もNYの新スタンダードになってきた。「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」は春夏が定位置だった「マリン」を秋冬に大胆シフト。潮風が吹き込むようなコレクションを披露した。ピーコートやセーラールックなど、「海」にまつわる装いをどっさり投入。キーカラーはもちろんネイビーブルーだ。船乗りや海兵といった「海の男」の着姿を写し取って、マニッシュ感も呼び込んでいる。ワンピースやスカートを組み入れて、ウィメンズらしく落ち着かせている。紺と白のマリンボーダーが秋冬のダークトーンを一新。クリーンで軽快なウインタールックに様変わりさせた。優雅なクルージング旅を連想させる、くつろいだ船上スタイリングも提案。パジャマっぽい着姿も持ち込んで、場面を固定しない「シーンフリー」の雰囲気を押し出していた。

(左から)BCBGMAXAZRIAVIVIENNE TAM

 全体に持ち味のミックステイストが深まっていた今回のNYコレクション。その傾向を強く示していたのが「ビーシービージーマックスアズリア(BCBGMAXAZRIA)」。グラムロックやボヘミアン、プレイフルなどの気分を重ね合わせたような、華やぎとリッチ感を帯びたコレクションを発表した。レイヤードの多彩なバリエーションが装いに立体感とリュクスをまとわせている。ファーやレザー、ニット、デニムなど、風合いも質感も異なる素材を引き合わせ、複合的なハーモニーを奏でた。左右や前後で不ぞろいのアシンメトリーを随所に取り入れて、アンバランス美を強調。サイズ、丈感でもオーバーサイズやショート丈を織り交ぜて変化を見せた。パッチワークやアップリケといったディテールも朗らかな表情を添えていた。

 

 民族やカルチャーが混然となって同居する街、NYにふさわしく、「ヴィヴィアン タム(VIVIENNE TAM)」はクロスカルチャーのアレンジを前面に押し出した。主なインスピレーションソースとなったのは、シルクロードが通る中央アジア。日本からトルコに至る各地方の伝統的モチーフや民族衣装のイメージをモダナイズして作品に写し込んでいる。強い印象を与えるのは、宗教画や絨毯、タペストリーなどに織り込まれていそうなトライバルパターン。それぞれにエキゾチックなムードを帯びた民族柄を、マキシ丈ワンピースやパンツ・セットアップに取り込んだ。着物ライクなアウターやチャイナ風情のドレスも登場。手の込んだ刺繍をはじめ、パッチワーク、アップリケといった手仕事ディテールでクロスオーバー感をさらに高めた。色のミックス感がハッピートーンを引き出し、ピースフルな雰囲気を醸し出していた。

 

 全体にアレンジの自由度が上がる中、各クリエイターはロック音楽やテクノロジー、ヴィンテージ、米国史などに思い思いのストーリーを求めた。SF的な未来感覚、ダークファンタジー、ゴシック、クラフトマンシップなどにファッション表現のコアを見いだす創り手も相次いだ。結果的に非カジュアル色が濃くなり、装いは非日常的ムードを帯びた。

 

 ショーで発表したその日から買えるという新手法がマーケティング面で関心を集める一方で、クリエーションもスマートフォンユーザーの視線を意識せざるを得ない状況となり、派手めに振れる兆しが現れている。スーパーロング袖やオフショルダーは「スマホ受け」しやすいデザインとも映る。パジャマやランジェリーの街着化といった、ややトリッキーな提案にもスマホ視線への目配りが感じられ、この傾向は来シーズン以降もデザインを左右する密かな「エンジン」となる気配だ。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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