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2016.05.09

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.33】2016~17年秋冬パリ、ミラノコレクション

  ドラマティックでロマンティック――。2016-17年秋冬パリ、ミラノ両コレクションは装飾性が強まり、おしゃれ心を挑発するような表現であふれた。発火点となったミラノではエキセントリックでエクストリーム(極端)な着想がランウェイの熱量を上げた。パリも手仕事の美や量感・質感のたわむれがゴージャスであでやかな着姿に誘った。

◆ミラノコレクション

(左から)GUCCIPRADA

 「グッチ(GUCCI)」は色でざわめかせ、形で華やがせ、ディテールで遊んだ。スーパーミックスの手法でモードリーダーの座を確立したアレッサンドロ・ミケーレ氏はミントやイエロー、レッド、ピンクなど、普通なら扱いに苦労しそうなきつめの色をレトロやヴィンテージの風情と交わらせ、ファンシーなムードに整えた。柄の面では金魚や蛇といったオリエンタルモチーフを用いて、シノワズリ(中国趣味)、ジャポネスクを投入。アンティーク柄の刺繍はヨーロピアンな歴史性を帯びた。バッグにはストリートグラフィティー(落書き)風のペイント文字でいたずらっぽく「REAL」と描き込んだ。かかとにたてがみを垂らしたゼブラ柄ハイヒールはウィットフルな表情。形では肩口にギャザーを寄せて膨らませ、袖先に過剰なまでのラッフルをあしらった。

 

 「プラダ(PRADA)」はトレンチ風コートの上から白いコルセットベルトを巻いたり、ハワイアン風シャツの上から裾にファーをあしらったレザージャケットを重ねたりと、時代やテイストをクロスオーバーする提案を打ち出した。下味になっていたのは、穏やかなミリタリー。白いセーラー帽、差し色で彩ったビッグポケットなどを繰り返し登場させた。アウターではドロップショルダーのオーバーサイズを多用。半面、ボトムスではアーガイル柄の厚手タイツをキーパーツに据えて細感を印象づけている。ベルトからミニバッグを吊るす演出や、ニーハイの編み上げ靴にも軍用感がのぞいた。きらめく糸をふんだんに使ったブロケード(立体感の豊かな刺繍)や、現代アーティストのプリント柄が着姿に強さとつやめきを添えた。コート袖先のファーカフは流行を予感させる。

(左から)MARNIFENDI

 「マルニ(MARNI)」は曲線とたわむれた。「曲線愛」を象徴していたのは、ワンピースやスカートの身頃正面の裾に施した深いアーチ。裾が丸く切り抜かれていて、柔和な雰囲気。そこからミニ丈の裾をチラ見せするという凝ったレイヤードも仕掛けている。曲線はシルエットにも生かされ、卵形フォルムが朗かなムードを招き入れた。前後の縦違いを強調。袖先にバルーンライクな量感を持たせた。アウターの袖先からはブラウスをはみ出させ、たっぷりのドレープを躍らせた。お得意のビッグモチーフやカラーブロッキングも健在。大ぶりの丸スパンコールを白いミニドレスの前身頃に隙間なく連ねて、透明感の高い涼やかな装いに仕上げた。

 

 おしゃれを面白がる「プレイフル」のトレンドが勢いづく中、「フェンディ(FENDI)」はあらゆるアイテムを波打たせた。フリルやラッフルを随所にあしらって、無数のうねりを起こした。ブラウスの襟はクラシックに波打ち、袖先には3段ティアード(段々)のフリルがあしらわれた。トップス裾にはペプラム。横一直線が当たり前のボーダー柄までうねった。さらに、サイハイ・ブーツは履き口にラッフルを配し、大きめバッグには縁取りでウエーブを添えた。ベルトやブレスレット、靴ストラップまでうねらせている。自然に波打つ様がオーガニックな風情を呼び込んだ。不規則なしわやひだが手仕事感を引き出し、ぬくもりをもたらした。ブランドアイコンのファーはマルチカラーの肩掛けやモコモコのビッグバッグでも生かされていた。

(左から)EMILIO PUCCIMOSCHINO

 「MSGM」のマッシモ・ジョルジェッティ氏が継承した「エミリオ・プッチ(EMILIO PUCCI)」。スキーや山をキーモチーフに選んで、スポーティー感を前面に押し出した。ジャンプスーツやジップアップ・セーターがアクティブ感を引き出した。もともとブランド創業者がスポーツと縁が深く、ヘリテージに敬意を払ったアプローチとも映る。コートはオーバーサイズが主体で、ドロップショルダーのユーモラスなコクーンシルエット。ラペル(襟から続く折り返し部分)は極太でファニーな表情。Vネックのロングニットは袖先を余らせた。ストライプ柄の袖は、たっぷりした手首から先がボーダー柄に切り替わっている。タイトフィットのプルオーバーは雪山のボディースーツ風。カラフルな柄使いで知られるブランドらしく、雪に覆われたアルプスのような尾根景色をマルチカラーで身頃に写し込んだ。メゾンのアーカイブ柄とも組み合わせてグラフィカルな着映えに導いている。

 

 「モスキーノ(MOSCHINO)」のジェレミー・スコット氏は前半と後半でムードのかなり異なるショー構成を用意した。序盤はバッドガールが主人公。黒レザーのバイカールックにポリス風の革帽子、チェーン飾り、ロンググローブなどを添えてハードでクールな気分を濃くした。レザーのコルセットやビスチェも披露。ライダースジャケットはドレスに仕立て直している。一方、巨大なサテンリボンで上半身を包んだドレスは80年代風でロマンティックな風情。ダメージドデニムのシリーズも若々しくてキュート。ところが、後半は一転。焼け焦げドレスのオンパレード。布が燃えて穴だらけになったグラマラスなイブニングドレスはあちこちから素肌がのぞく。たばこブランド「Marlboro」のパッケージをかたどって、文字を「MOSCHINO」に置き換えたように、スモーキングをサブテーマに据えていたのも目を惹いた。

◆パリコレクション

(左から)BALENCIAGALOEWE

 自らのブランド「ヴェトモン(Vetements)」でモード台風の目になったデムナ・ヴァザリア氏は「バレンシアガ(BALENCIAGA)」で圧巻のデビューを飾った。ファーストルックのスーツのジャケットの肩はとがり気味のコンケーブドショルダー。さらに、ウエストよりやや上の位置をへこませ、ヒップパッドで朗らかにふくらませるという、ユーモラスでエレガンスなシルエットを披露。ダウンジャケットは襟を大胆に開き、肩をはだけさせた。内側に着たシャツが広く露出して新たなレイヤードが生まれた。逆にウエストから下が広がる裾開きのアレンジも提案。シェイプの幅を広げた。異なる柄のフローラルモチーフを組み合わせて、スーパーロマンチックのムードを呼び込んだ。シャツの半身だけをウエストインしたり、トレンカの底布をハイヒールの下に通したりといったアクロバティックな着こなしも目を惹く。カラフルなストライプ柄のショッピングバッグ風ビッグバッグはストリートの匂いもまとわせていた。

 

 「ロエベ(LOEWE)」のジョナサン・アンダーソン氏はフィット&フレアのシルエットを目に残した。ロングスカートは正面の裾丈が短い仕立てで流麗に仕上げた。鋭くとがった裾先が不ぞろいのヘムライはドレスルックを躍らせた。レザーのコルセットでウエストをタイトに締め、ショートトップスを組み込んで軽快なレイヤードを組み立てた。カーキやアーミーグリーンでユーティリティー気分を帯びさせている。袖先やスカートにプリーツを配してエレガンスを忍び込ませた。輪っかをつなげたようなゴールドのチョーカーで装いをつやめかせている。猫顔モチーフのビッグネックレスは着姿を愉快に彩っていた。サイズの異なるバッグを3個連ねたようなバッグも見せた。レザーコートの見事なシルエットは皮革加工に強みを持つブランドのクラフトマンシップを印象づけた。

(左から)DIORLANVIN

 ラフ・シモンズ氏が退任した「ディオール(DIOR)」はチームで制作に取り組んだ。ムッシュ・ディオール以来、受け継がれてきたメゾンのDNAはコレクションに「ディオールらしさ」を寄り添わせている。序盤のブラックスーツは抑制の利いたミニマル風でありながら、ジップ使いやミニ丈で若々しく見せた。コートの襟を思い切り開き下げて、両肩を露出するアレンジは大胆な趣向。アウターの重たさがやわらぐのに加え、トップスの柄や素肌のヌーディー感が目に飛び込んできて、フレッシュな着映えに仕上がっている。ジップアップ・ニットとの組み合わせはスポーティー感が高い。さらに、片方の肩だけを落としたシルエットも披露。ペイズリーや植物模様、レオパード柄など、モチーフ使いでも着姿を華やがせた。異なるサイズや見栄えのバッグを2個、3個と連ね持ちする提案も興味深かった。

 

 アルベール・エルバス氏の後を任されたケメナ・カマリ氏の秋冬デビューとなった「ランバン(LANVIN)」はロマンティック濃度を上げた。変化を印象づけたのは、メタリックなつやめき。サテンやベルベットのシャイニー生地がゴージャスなムードを招き入れた。きらびやかなブロケードや、ジュエルを連ねたチョーカーも光輝を宿した。ワンショルダーのドレスが優雅なたたずまい。ペプラムやドレープを多用して布にエレガンスを語らせている。レースやフリルに上品な透かし柄をあしらって、素肌美を引き出した。ジャケットはタキシード襟のような紳士の正装ディテールを写し込んでクラス感を醸し出している。さらにキルティング加工を施してスポーティーに味付け。創業者ジャンヌ・ランバン以来のアーカイブに敬意を払い、全体にクラシカルなシルエットに整えている。

(左から)Stella McCartneyChloe

 丸みを帯びたピースフルな着姿を提案したのは「ステラ マッカートニー(Stella McCartney)」。水鳥の羽根を使わないダウンアウターはたっぷりした量感が朗らかな表情。近頃は薄手のダウンコートが増えているが、あえてふんわりさせ、キルティングでさらにモコモコ感を弾ませた。コートもオーバーサイズやドロップショルダーで、ひとなつこいシルエットに仕上げている。指先まで隠すスーパーロング袖の羽織り物があるかと思えば、バスト下までしか着丈がないスーパーショート丈のボマージャケットがあり、長短の揺さぶりが利いていた。ディテールではラッフルやプリーツをあちこちにあしらって、ロマンティックを忍び込ませた。繰り返し登場したスワン(白鳥)柄はほのぼのとして微笑ましい。ランジェリーを連想させるスリップドレスはシルキーでつややかな質感を目に残した。

 

 砂漠に広げたじゅうたんでそのまま身をくるんだかのようなサンドカラーのジャイアントポンチョから「クロエ(Chloé)」のショーは始まった。伝説的な女性バイカーに着想を得て、ライダースルックをモードと交わらせた。首に二重巻きにしたスカーフや、レーシーなブラウスと引き合わせてラブリーに着地させている。ギャザーを寄せたり、フレア裾をたなびかせたりして、フェミニンな気分を呼び込んだ。エアリーなドレスにはバイカーブーツをマッチング。風をはらむ装いはボヘミアン気分をまとった。カフタンやチュニック風のトップスは、中東のムード。どこかノマド(遊牧民)のようでも、70年代風でもあり、性別や居場所を定めないフリースピリットを漂わせる。大ぶりバッグを背中で斜め掛けしているのもバイカーっぽい。多くのモデルがパンツポケットに両手を突っ込んで、タフでクールな女性像を見せた。

 

 有力ブランドでデザイナー交代が相次ぐ一方で、気鋭のクリエイターたちが若くしてモードのエンジンになるケースが相次ぎ、ヨーロッパファッション界の変革期を思わせる。ロマンティックやラブリーなムードにダークネスや静けさを忍び込ませ、平和や愛をことさらにアピールはしなかったものの、ヒューマンな情感に引き寄せられる今の空気を写し取った。過剰なまでの造形や色・柄にも、表現者たちは生命感やハピネス、感情などの人間味を託しているかのようだった。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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