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2018.08.29

日本ブランドの海外進出を支援 FASHIONESE創業者2人が始めた新ビジネス「アンバサダー・ニューヨーク」

 日本のブランドとアメリカのマーケットの架け橋をサービスとする「ファッショニーズ(Fashionese)」についてコラムで紹介したのは2年ほど前。久しぶりに彼らのビジネスを覗いてみると、スタートアップらしく、新たなフォルムにビジネスを進化させていました。

 

 「ファッショニーズ」共同創設者である佐武統馬氏と柏原征臣氏は2017年秋、NYブルックリンのグリーンポイントに店舗を構え、日本の複数のブランドがポップアップショップをオープンできるサービス「アンバサダー・ニューヨーク(ambassador: New York)」をスタートしたのです。グリーンポイントのローカルな人々に愛される人気カフェ「ブーディン(Budin)」とパートナーを組み、同店舗の一部にリテールスペースを開店。デニムやシャツなどのウエア類をはじめ、雑貨やジュエリーなど多くのブランドに海外出店の機会を提供しています。しかし開店当初は、この2人も海外ビジネスならではの洗礼を受けたようです。創業者の1人である佐武氏に話を聞きました。

海を越え 初めてぶつかった壁

RINA: 順調だったカフェでのビジネスを突然終了しなければならなくなったそうですね。

 

佐武:それがいきなりのことで。昨日まで通常営業していた場所が様々な理由が重なり使用できなくなり、強制退去になったんです。私たちには何も非がない理由だったので困惑しました。出店していたクライアントはもっと不安だったでしょうし。現地のビジネスパートナーにすぐ連絡を取り、ニューヨークに飛びました。

 

RINA: 1つひとつ思いを込めて作り上げた場所が使用できなくなってしまったんですね。

 

佐武: はい。私が駆け付けた時には、すでに店舗への立ち入りも法律で禁止されていました。ショックでしたが、落ち込んでいても状況が変わるわけではありません。クライアントが安心できるよう、1日でも早い営業再開を目指し、移転先の物件探しに取りかかりました。

わずか1カ月後にマンハッタンで営業再開

 6月12日に閉店を余儀なくされたグリーンポイントの「アンバサダー・ニューヨーク」は約1カ月後の7月7日、マンハッタンのトライベッカに移転し、営業を再開しました。古い建物が多いマンハッタンでは常に外壁の修理や工事が行う必要があり、一等地でも路地裏のような地味な印象を与えることがあります。新店舗がある49ワーレン通りもそんな雰囲気を感じさせます。

 

 一見地味なエリアですが、地下鉄の駅(チェンバーズ・ストリート駅)からも近く、2~3ブロック歩けば、昨年アマゾンが買収したホールフーズマーケットもあります。目と鼻の先にはターゲットの都市型ストア、観光名所ウエストフィールドのショッピングモールが並び、インスタグラムにシェアしたくなるレストランやカフェも多数軒を連ねています。トライベッカは、ローカルのための住居エリアだけでなく、オフィスやリテールも並ぶ、多様な人々が行き交うエリアなのです。

「アロハ ラグ(Aloha Rug)」のポップアップ

 トライベッカへの移転オープンとともに初めて開催したのが、2017春夏にスタートしたアロハシャツブランド「アロハ ラグ(Aloha Rug)」のポップアップでした。デジタルネイティブブランドである「アロハ ラグ」は、アートを取り入れた特徴あるコレクションを展開し、日本国内では東京の代官山で定期的にポップアップショップを開催しています。顧客は日本国内中心ですが、オンライン・リテーラーらしく海外にもファンを抱えています。今回は、ニューヨークでどのような評価や反応があるかを掴むため、同店舗でのポップアップ出店を決意したそう。

インスタと口コミの力

 「アロハ ラグ」は、グローバル ファッション エクスチェンジ(Global Fashion Exchange)が主催するファッションイベントで開かれたファッションショーにも参加していました。私がストアへ訪れた際にはちょうど、そのファッションショーを見て来店したという男性がシャツを購入していたところでした。ショップスタッフによると、その男性は、ショーでモデルが着用していたシャツがどうしても欲しくなり、イベントで手に入れた「アンバサダー・ニューヨーク」のショップカードとステッカー、そしてインスタグラムの情報から、店舗を探して来店したということでした。

 

 オープニングの日からBIGIのアートを店先に飾っていたそうですが、店の前を車で通りかかった親子がたまたまそれを目にし、来店したこともあったそうです。その親子は、「アロハ ラグ」とちょうど同時期にポップアップを出していたアサヒシューズ(※)の靴などを取り置きし、一旦は店を出ましたが、同日に再び来店。「アロハ ラグ」のシャツを気に入った息子さんは、自身がDJを務めるイベントで着たい!と喜んで購入してくれたそうです。インスタグラムなどで同ブランドを宣伝してくれることを約束してくれた上、イベントでも実際に「アロハ ラグ」のシャツを着用をしてくれたそうです。さらに、イベント後には、その息子さんの友人たちも来店。同じデザインのシャツを2枚購入したほか、「アンバサダー・ニューヨーク」についても興味を持ってくれたそうです。

 

※アサヒシューズ:120年の歴史を持つ福岡の老舗靴メーカー

“くせの強い”ブランドであること

RINA:そうしたお客様とのエンゲージをどう感じましたか?

 

佐武:商品を褒めていただくだけでなく、お店で受けたホスピタリティーにも満足していただき、嬉しそうに帰られたのが印象に残ります。またソーシャルメディアで発見し、また口コミでも足を運んでくれるお客様がいらっしゃることに大きな手応えも感じました。

 営業再開に向けて迅速に対応できたことで、結果的にはこれまでよりも多くの人たちにリーチできる環境へと移転することができたと感じています。イベントを通してブランドを知り、さらに来店してくださった例があるように、最南端のロウワー・マンハッタンならば、ブルックリンからの流入が十分あり得るということもわかりました。

 ただ、“日本で売れている商品=世界でも売れる”という幻想をもし見ている人がいるならば、まずはその幻想を捨ててみることをお勧めします。これまでのお客様の反応を見ていると、日本では全く人気のないカラーリングがニューヨークの人たちにはウケたり、逆に繊細さを売りにした商品は、正直受け入れられるのが難しかったり、そのこだわりを理解していただくのに時間がかかるなと感じました。大味でも、デザイン的にトレンドであることや、パッと見てわかりやすいデザインは、“ユニークさ”として認知されやすいと思います。

 日本人が海外に行くと、その服装を見るだけで日本人だとわかってしまうことがあります。日本人の日常着に馴染むアイテムばかりだと、様々なカルチャーに溢れたこの街で受け入れられるのは難しいかもしれません。海外の人たちが日本ブランドを評価するポイントは、「デザインセンスと発想力」、また、それを実現させる「技術力」だといえるでしょう。万人受けをされるようなアイテムよりも、クセがあるくらいの方が、コアなファンを形成し、ポップアップショップに出店されるブランドにとっても手応えがあるのではないかと思います。

ニューヨークの情報誌「New York」では、「アンバサダー・ニューヨーク」で開催するポップアップについて告知掲載されていた

RINA:この記事を読み、「アンバサダー・ニューヨーク」のポップアップに参加してみたいという日本ブランドさんは多いと思います。出店の際の心得を教えていただけますか?

 

佐武:我々の役割は、ブランドから商品を預かり、そのブランドの代弁者としてニューヨークの方々にブランドをより広める努力をすることだと考えています。しかし、“マーケティングの国・アメリカ”では、ビジネスを始める大前提として、「新参者=ゼロからファンを作る」ということをしっかり理解しておいていただく必要があると思っています。

 

【海外ビジネスにおいて求められること】

・オリジナリティー溢れるデザイン
・一目見てユニークであること。独自のストーリーを持つ商品であること
・価格帯は50~300ドルに設定
・日常的に使用できる商品(伝統的な商材をそのまま販売するのはNG)
・プロダクトアウトよりもマーケットインにしていく必要がある

 つまり、日本での実績は一度捨て、新たに挑む心構えを常々お伝えしています。まずは自社の商材が米国のマーケットにフィットしているのかを確認する目的、つまり、「テストマーケティング」として「アンバサダー・ニューヨーク」をご利用いただくことがベストです。

 

■「アンバサダー・ニューヨーク」
49 Warren St., New York, NY
公式サイト:http://ambassador-nyc.com/ja/
Instagram: @ambassador.nyc


 

RINA  

R I N A

90年代の米国がネットバブルだった頃に米国にて日本向けのファッションポータル事業にコンサルタントとして関わる。

 

以降、「ファッション」と「インターネット」上で行われるビジネスを中心とした事業に15年ほど携わり、Web製作やディレクション、ビジネスのコンサルタントを行う。現在は米国のファッション事情やトレンド、ファッションとIT関連を中心とした執筆、今までの経験と知識を活かしビジネスサポートも行っている。

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