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2016.06.01

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.34】2016年秋冬ファッションの6大トレンド

 グラマラスな装飾性が高まり、重層的なカルチャーミックスが加速した。2016-17年秋冬ファッションの目立った変化は「過剰」という言葉に集約される。やりすぎ感を際どく回避しながらも、エモーショナルなまでの服飾美を追求する試みが目立った。スポーツとの融合や性別にとらわれない着こなしもさらに浸透。入り組んだハイブリッド、シーンをまたぐ着こなしなどは新たなステージに上がった。

◆マキシマリズム

(左から)GUCCIFENDI

(左から)sacaiKENZO

 デコラティブ(装飾的)なルックがランウェイを彩った。限界を試すかのような「マキシマリズム」でファーや刺繍、レオパード柄などがゴージャスに着姿を飾った。ラメ生地やメタリックパーツなどもキーマテリアルに浮上。アシンメトリーやフィット&フレアのフォルムはダイナミックな着姿を描いた。コルセットやビュスティエがシルエットにセクシーな起伏を与えた。裾のスリットはさらに深く。ビッグイヤリング、モチーフバッグがサプライズを呼び込み、太ベルト、飾りヒールが視線を引き込む。ブロケード、ゴブラン織といった手仕事感の高いディテールは優雅な風情を漂わせる。イエロー、ピンクなどの強い色が装いに主張をもたらしている。背中の見せ方に凝る傾向も強まった。

◆スーパーサイズ

(左から)BALENCIAGAChloe

(左から)EMILIO PUCCIMARNI

 過剰感を最も分かりやすく示したのは、ビッグシルエットの洪水。指を隠してなお袖先が余る「エクストラ袖」はシンボリックなディテールとして提案が相次いだ。両袖をブラブラさせるイレギュラーな着映えが想定外のファニーを生む。フォルム全体も従来のオーバーサイズの上を行く「スーパーサイズ」に向かう。丸みを帯びたシルエットが朗らかな着映えに導く。極限まで踏み込む量感は煙突を思わせる高い襟にもうかがえる。フレアスカート、ワイドパンツなどのボトムスも異形の域に突入。クラッチバッグまで常識外れの横長に変形。一方、肩が窮屈に見えるナローショルダー、ボレロより短い極ショートトップスも出現。カップルで共通できるシェアサイズのアイテムは関心を集めそうだ。

◆ルールレス・ミックス

(左から)LOEWEDSQUARED2

(左から)MOSCHINOOFF-WHITE

 複数のテイストや時代性、質感などをまぜこぜにする「ルールレス・ミックス」が広がった。これまでのいわゆるミックスコーディネートの枠を超えて、コラージュやパッチワークのように、異なる雰囲気を重ね合わせていく。80、90年代の勢い、タッキー(tacky)なださカワ感、ケミカル素材の工業的なつやめきなどを、摩擦が生じるのを承知で無理めに引き合わせる豪腕スタイリングがパワーを生んだ。マスキュリンやミリタリーといった、これまでのミックス要素に上乗せする格好で、ヴィンテージやアニメ、アフリカ、パジャマなど、持ち味の濃いテイストが持ち込まれた。柄同士をぶつかり気味に引き合わせた「パターンミックス」をはじめ、「ストリートクチュール」「ブリティッシュフレンチ」「レトロモダン」など、別々のカルチャーが互いにせめぎ合うような不協和音のハイブリッドは、ありきたりの着こなしルールに従わない強さを備えている。

◆ファム・ノワール

(左から)DIORLANVIN

(左から)DOLCE&GABBANAALEXANDER WANG

 ダークロマンティックのムードが濃くなった。甘めのロマンティックではなく、ゴシックファンタジーや「魔性の女(ファム・ファタル)」といったムードをまとう装いが提案されている。ボウやラッフルがヴィクトリア朝の古風感を帯びさせ、オフショルダーやランジェリーテイストが妖しさを添える。ベルベットやジャカード織は高貴なたたずまいを生み、飾り襟やパフスリーブはデカダン(退廃的)な雰囲気に誘う。黒(ノワール)を基調にフローラル(花柄)、パイソンなどが沈んだトーンを彩る。レザー使い、ビジュウ飾り、メタリックパーツがグラムロックやパンクの気分を呼び込む。猫モチーフやパール使いにも謎めいたムードが伴う。毒っ気を宿したセンシュアルがミステリアスで妖艶な女性像を印象づける。

◆シティーグランピング

(左から)PRADAStella McCartney

(左から)3.1 PHILLIP LIMrag&bone

 ヨガやランニングを意識した「アスレジャー」の流れはアウトドア色を強めた。豪華なキャンプの「グランピング」に出かけるような、アッパーで行動的な装いが打ち出された。スキーや登山など、自然とふれあうアウトドア系スポーツに比重が移り、マウンテンパーカや山歩きシューズがキーアイテムに浮上。スキーウエアを街中仕様にアレンジする試みも広がった。サイクリストやバイカーに着想を得た装いも現れた。色はカーキやオリーブといったミリタリー、ユーティリティー系が多用されている。一方、スウェットシャツやトラックパンツなど、アスレジャー流のスポーツエフォートレスも着実に浸透。斜め掛けバッグがアイコニックなパーツに。新顔のソックスブーツは目新しい。カレッジスポーツに由来するアウターもヒットを予感させる。

◆ニューノーマル

(左から)BOTTEGA VENETAGIVENCHY

(左から)Proenza SchoulerJIL SANDER

 性別にしばられない装いの「ノージェンダー(ジェンダーレス)」は一段と自然に融け合っていく。ことさらに性別の違いを際立たせた「ハンサムウーマン」的なスタイリングは過去へ押しやられ、もはや性差を意識しない「ニューノーマル(新しい当たり前)」に変容し始めた。ブルゾンに象徴される「男女兼用」感がスタンダードなテイストに。ライダースジャケット、テーラードスーツなどもユニセックスの度を濃くしている。シープスキン(ムートン)のアウターは穏やかなシルエットが性別をぼかす。高襟トップス、ワイドパンツなどのオーバーボリュームも女性的な曲線を隠す。生地ではツイードやデニムがジェンダーニュートラルな着姿に整える。サングラスを打ち出すルックが増えたのも、目立った新傾向だ。

 

 16-17年秋冬の新ルックでは全体に「濃さ」が目についた。表のキーワードは「オーバー」。ボリュームや華やぎを目一杯押し出す演出だ。裏テーマは「ダイバーシティー(多様性)」だろう。常識に挑むカルチャーミックス、シーンフリーのスタイリングはこれまでの商品に飽き足らない消費者を掘り起こしそうだ。春夏、秋冬というシーズンコレクションは、リアルトレンドを写し込みやすいプレシーズンコレクションとの棲み分けが広がり、ショールーム的な性格を強めつつある。16-17年秋冬はその意味でも各ブランドが持ち味を発揮していて、「ファッションショー」の名前にふさわしい充実ぶりだった。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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