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2016.11.02
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.36】2017年春夏東京コレクション
宮田理江のランウェイ解読 Vol.36
2017年春夏シーズンの東京コレクションは「Amazon Fashion Week TOKYO」と、冠スポンサーを改めて10月17~22日に開催された。グローバルトレンドに歩調を合わせるように若々しさを押し出す傾向が強まった一方で、東京らしいストリート感、日本の伝統的服飾文化を重んじる提案も目立った。ノージェンダーやシーズンレスの流れが続き、東京モードはポジティブな意味での「カオス(混沌)」を一段と深めた。
(左から)beautiful people/Ujoh
◆ビューティフルピープル(beautiful people)
次回からパリに向かう「ビューティフルピープル(beautiful people)」はトリックやギミックをふんだんに注ぎ込んで、東京最後のショーを朗らかに彩った。上下・前後どちらでも着られる服や、前後で見た目が大胆に異なるウエアを披露。オーバーサイズやアシンメトリーの手法で着姿を弾ませた。意外なスポットから腕が出るコート、ドレス風に仕立てたノースリーブのトレンチコートなどがサプライズを呼び込んだ。全体にノージェンダーの風情が強まっている。熊切秀典デザイナーの名前にある「熊」にちなんで、本家シュタイフ社と組んだテディベアのアクセサリーが愛らしい。ポシェット風にも使えるベアぬいぐるみには、シグネチャーアイテムのライダースジャケットをまとわせていた。
伸びやかで涼しげなサマーレイヤードを用意したのは、パターンメイキングに強みを持つ「ウジョー(Ujoh)」。布を躍らせたり遊ばせたりして着姿にリズムをもたらした。重ね着しているのに重たく見えないのは、布の量感を巧みにそいでいるから。スリットから脇をのぞかせたり、肩見せで視線を引き込んだりするような素肌の露出も加わって、若々しくヘルシーな雰囲気が出ている。片袖だけ腕を見せるような不ぞろいのカッティングが軽やかで優美。控えめにバランスを崩すアレンジが冴えた。動きに合わせてドレープが表情を変える。所作を織り込んだエアリーな布扱いがスラウチな風情を帯びさせている。
◆ネハン ミハラ ヤスヒロ(Nehanne MIHARA YASUHIRO)
既に複数のブランドを手がける三原康裕氏が立ち上げた新ライン「ネハン ミハラ ヤスヒロ(Nehanne MIHARA YASUHIRO)」がデビューコレクションを発表した。日本の伝統的なファブリックを現代に蘇らせるというミッションを帯びた点で立ち位置が際立っている。初披露のキーマテリアルに選んだのは、縄文時代にさかのぼる「大麻布」。ランウェイではシルク調の現代版大麻布を使って、白と黒だけの装いを提案。着物ライクなシルエットや、僧侶が着る袈裟(けさ)、和服帯風の布ベルトなどに日本的な服飾文化を写し込んだ。古来のファブリックと東京流のストリートカルチャーを重ね合わせて、東コレにふさわしい新テイストをたぐり寄せていた。
「かわいらしい」という意味を持つ古語形容詞「うつくし」をテーマに据えて、「まとふ(matohu)」は愛くるしくハートウォーミングな作品を披露した。ファッションには着る本人だけでなく、周りの人の気持ちも動かす力があるということを、あらためて証明したコレクションは来場者の心をやさしくなでた。ほほえましい気分を象徴したのがユーモラスなモチーフたち。ぽってりした姿の土人形風キャラクターをはじめ、ピーナッツやツバメなどがピースフルなムードに誘った。甘すぎないさじ加減が大人のロマンティックを薫らせる。ギャザーやドレープなどを多用して布の表情を深くした。ガーリー気分がグローバルトレンドに浮上する中、「カワイイ」カルチャーの本場からタイムレスで初々しい着姿を提案している。
(左から)mintdesigns/KOCHÉ
少女っぽさとストリート感を交じり合わせた装いを見せたのは「ミントデザインズ(mintdesigns)」。ふんわりした布使いでガーリー感を寄り添わせつつ、沈んだカラートーンで大人っぽい落ち着きを生んだ。気負いを遠ざけるエフォートレスと、ニューヨークの地下鉄を思わせるちょっと退廃的(デカダン)な気分が調和して都会的なムードを醸し出している。記号や文字を組み合わせたグラフィティ(落書き)風モチーフも持ち込んだ。動きを印象づけていたのは、細い布帯を垂らし、ノット(結び目)をこしらえる立体的なアレンジ。ドローストリングスをたすき状に締めたり、レースアップ風の編み上げディテールを施したりといった演出も生きていた。
「着られるクチュール」という意味の「COUTURE TO WEAR」をコンセプトに掲げるフレンチブランド「コシェ(KOCHÉ)」が東コレに初参加した。ストリート風味とクチュール技法を掛け合わせる表現はパリのモード界でも独創性が高く評価されている。東京での初ランウェイショーは、東京・原宿の「とんちゃん通り」の路上という見事な場所選びが生きて、このブランドらしいカルチャーミックスが鮮明に打ち出された。コラージュ風のモチーフも混沌の美意識を感じさせる。オーバーフォルムのシルエットに、程よい肌見せを加え、ストリートテイストとリュクス感を響き合わせている。シャネル傘下の羽根細工工房「ルマリエ(Maison Lemarie)」のアーティスティックディレクターを兼ねるだけあって、布地とフェザーをなじませる工夫にもさすがの技量を見せた。
茶目っ気たっぷりの着姿を提案したのは、「ドレスドアンドレスド(DRESSEDUNDRESSED)」。過剰な量感のエクストリームシルエットと、官能的なランジェリーエッセンスを軸に据え、スリリングな装いに誘った。肩が落ちたブルゾン、スーパーロング袖のシャツなどでもオーバーサイズを取り入れ、いたずらっぽい着映えに整えている。ブラトップの上からサマートレンチを重ねたり、シルキーなランジェリー風ワンピースに黒パンツで合わせたりするミックスコーディネートで、セクシー感を大人っぽく落ち着かせた。ストッキング風のレッグウエアも利いている。シャツの2枚重ね着はトリッキーな見栄え。布をたるませたり、ドローストリングスを垂らしたりといった演出も、ユーモラスな雰囲気を濃くしていた。
「ミキオサカベ(MIKIO SAKABE)」は一見、正統派に見えながら、実は細部で「公式」を崩すたくらみをあちこちに仕掛けた。テーラード仕立て風のコートドレスはスリーブレスの腕ぐりが切りっぱなしの始末。涼やかブルーのストライプ柄シャツはひじから先に別色の袖が2本付いているかのよう。ジャケットは肩幅がやけに窮屈。シャツの長すぎる裾はショートパンツの太もも内側からあふれ出る。いびつさやアンバランス感を面白がるような、計算ずくのいたずらが着姿に楽しげなリスクを乗せた。キーアイテムはストライプ柄のシャツ。ダスティーピンクやイエロー、ブルーなどを投入して明るいカラートーンに仕上げている。ベルトの余った端を垂らすのは見慣れてきた感があるが、こちらでは背中側に長く垂らしてバックショットをにぎわせている。極端にかかとの高いスーパーハイヒールも「過剰」をうたった。
◆アン ソフィー マドセン(Anne Sofie Madsen)
デンマークブランドの「アン ソフィー マドセン(Anne Sofie Madsen)」は服にオンするアクセサリーにドラマを託した。ハーネスやブラジャーのように服の上からジュエリーを重ね、装いにきらめきとリッチ感を添えた。服はオーバーフォルムやアシンメトリーで揺さぶり、ラッフルやプリーツで飾った。落ち感を帯びた縦長シルエットを基調にしつつ、大胆なトランスフォームを施したライダースジャケットやトレンチコートで起伏をもたらしている。程々の肌見せはフェミニンすぎない女っぽさ。縫製作業の途中で手を止めたかのような半加工状態のディテールをわざと残して、「整いすぎ」の見栄えを避けた。全体にジェンダーレス風味を宿し、自在のスタイリングを許す「スポンテニアス」の仕様。中性的ムード、半完成状態、ミディアムセクシーと、きわどいハーフラインを行き来するコントロールが光った。
加藤徹氏の「ジン カトー(ZIN KATO)」はクラシカルな華やぎとランジェリーの秘めやかさをクロスオーバーさせて、ミステリアスな装いに仕上げた。全体にノーブル感と古風さを漂わせながら、レースやフリルをたっぷりあしらったランジェリー風のワンピースで優雅なフェミニンをささやいた。ホルターネック・ワンピース、スリップドレスもレトロ感とセクシーを同居させている。ほのかに素肌が透け見えるセットアップや、ゴシック風味のボディースーツを披露。品格を宿した羽織り物をかぶせて、ダブルミーニングの装いに整えた。ショートパンツにロングドレスといった丈違いのレイヤードが着姿に奥行きを生んだ。カラーリッチなフラワー柄があでやかさを強調。スパンコールやビーズを配したリュクスなドレスは社交界を思わせるきらびやかさをまとっていた。
◆ヨハン・クー ゴールド レーベル(Johan Ku Gold Label)
東京ブランドの持ち味とされてきたストリート感が全体にやや薄れる中、「ヨハン・クー ゴールド レーベル(Johan Ku Gold Label)」はパンクを前面に押し出した。ただ、安全ピンや破れTシャツといったありきたりの味付けは避け、服の解体やひねりで反骨を歌い上げた。ジャケットは身頃が右半分しかない。トップスは前後で色が真逆。一筋縄ではいかない骨太感をデザインに写し取っている。コラージュ風に組み上げたミックスモチーフがデカダンな気分を増幅。パンクムーブメントの母国・英国を象徴するチェック柄も配している。「黒×白」のツートーンでダークファンタジーを奏で、差し色のレッドで攻撃的な鋭さを加えた。スーパーロング袖やスリーブレスアウターにも「標準」から踏み出す意識がにじんだ。
韓国人デザイナーの李燦雨(チャヌ、Chanu)氏が日本で立ち上げたブランド「アクオド バイ チャヌ(ACUOD by CHANU)」はジップをアイキャッチーに操った。ジップで噛み合わせるパーツを「歯」と呼ぶ通り、巨大なジップを人間の歯に見立てて横に並べたマスクをモデルに着けさせ、ジェンダーレスでクールな雰囲気を呼び込んでいる。襟や肩口などあちこちにジップを取り入れた装いは未来感覚を帯び、ユニセックスというコンセプトにもなじむ。主役を演じたシャツはトリッキーな仕立てが目立った。ドレスはシャツの襟だけで全身を埋め尽くすウィットフルなこしらえ。ストリートとモード、スポーティーとフォーマルといった対立軸をまたぐような切り口で、初のランウェイショーを貫いてみせた。
計46ブランドが参加した今回はパリモードの注目株「コシェ」をはじめ、アジアやヨーロッパからのエントリー組が鮮烈なクリエーションを見せた。原宿の路上ランウェイは国内のデザイナーに企画してほしかったと思えるほど説得力を持っていた。クリエーションに目を転じると、メンズとウィメンズのモデルが入り交じってランウェイに登場するショーが増えたことが示す通り、性別にとらわれない提案が当たり前になってきたのは、東コレの強みとも言える。
スケジュール面では課題がはっきり見えてきた。これまでは公式日程に名を連ねてきた有力ブランドが相次いで7~9月の東コレ前に発表時期を移したからだ。ニューヨークで勢いづく「see now buy now」がファッションウイークのあり方を問い直す中、東コレも変革期に差し掛かりつつある。だが、新鋭の成長や外国勢の参加など、前向きな変化も同時進行で起きている。新しく迎えた有力スポンサーとの連携にも期待したい。
宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
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