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2016.12.07

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.37】2017年春夏パリ、ミラノコレクション

 ガーリーリュクスとクロスカルチャーが2017年春夏シーズン向けのパリ、ミラノ両コレクションを盛り上げた。装いのムードは全体的に若返った。量感で遊ぶブームが続き、チアフルな色使いも上乗せ。視線を挑発するかのような提案が相次いだ。一方、自国の風土やブランドのヒストリーを見詰め直し、異文化やリアルモードとの相性をはかる試みも広がった。伝承されてきた職人技へのリスペクトが一段と深まったのも目立った傾向だ。

◆ミラノコレクション

(左から)GUCCI 、PRADA

 モード界の風向きを変える存在となった「グッチ(GUCCI)」のアレッサンドロ・ミケーレ氏は「やりすぎ感」ぎりぎりのマキシマムな装いをさらに推し進めた。ランウェイをピンクに染め、ピンクをはじめ、オレンジや、イエロー、グリーン、ブルーなどの強い色を交錯させた。歴史やシーンを強引にねじり合わせる「スーパーミックス」の手法は今回も縦横無尽。ロココとルネッサンス、ファンタジーとストリート、東洋と西洋といった、異なるムードをクロスオーバーして、異空間に出現したナイトクラブ風の妖しさを醸し出した。スーツにパジャマを融け合わせ、ドレスに着物を交わらせた。ラメやスタッズ、ラッフル、フリルなどを注ぎ込んで、艶美でリュクスな「足し算」の美をうたい上げた。

 

 「過剰」がモード界を席巻する中、「プラダ(PRADA)」はあえて逆を行った。ビッグシルエットが台頭するのを尻目に、シンプル志向の「新エレガンス」を掘り起こした。でも、トーンは若々しく、柄使いはチアフル。素っ気ないミニマル路線とは異なる。スイムウエア風ショートパンツからテイラードジャケット、ベースボールジャケット、トレンチコートまで、アイテムのバリエーションは幅広い。ボトムスではタイトな巻きスカートが目立った。マテリアルではフェザーをあちこちにあしらった。チェック柄シャツの上からブラトップを重ね、すっきりしたレイヤードに整えている。知性とガーリーを程よくミックスした。

(左から)FENDI 、MARNI

 「フェンディ(FENDI)」に迎えられて50周年の節目を迎え、巨匠カール・ラガーフェルド氏は「脱ファー」へ大胆にかじを切った。もともと毛皮に強みを持つブランドだけに、春夏向けでもファーアイテムが当たり前だったが、今回は服での提案は控えめ。一方、ムードはキュートさとノーブル感を兼ね備え、プリンセス気分を宿した。マカロンやシャーベットのようなパステルカラーは初々しい装いと融け合ってロココ趣味が全体を包む。ウエストを細く絞って、裾を花びらのように広がらせる古風なシルエットは丈を抑えてフレッシュに見せた。ランジェリー風のドレスでラブリー感も忍び込ませた。ラグビージャージに見るような太いストライプを繰り返し、アスレティックとロマンティックを同居させている。

 

 構築的なフォルムやアートフルなプリント柄で知られている「マルニ(MARNI)」は「ポケット」で遊んだ。たっぷりした軍用ポーチ風のバッグをウエストの左右に張り出させ、ユーモラスなかさばりシルエットを生んだ。小型リュックサックほどもあるウエストバッグはファニーな顔つき。白やアースカラーを主体に、起伏に富んだフォルムを印象づけている。大ぶりの手提げバッグはコートドレスと同色でそろえた。帯やストリングスを無造作に垂らして、着姿にリズムを添えている。トレンチコート風のワンピースはシーズンレスのたたずまい。自然にしだれ落ちるようなビッグシルエットはのどかで優雅。機能的なポケット使いはワークウエアにも通じる。コンスエロ・カスティリオーニ氏が離れ、来季からは新デザイナーが手がけると伝えられ、独創の継承に期待がかかる。

(左から)DOLCE&GABBANA、 MOSCHINO

 「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」は故郷の南イタリアに根差したカルチャーを軸に据えた。今回のテーマに選んだのはイタリアの「食」。パスタやピザ、ジェラートなどの母国フードを、缶詰ラベルやリストランテ看板から拝借してきたような絵柄で表現した。お得意のフラワーモチーフはヒマワリやバラなどを濃いめの色であしらった。全体に生命力を感じさせるデザインが多く、デコラティブなドレスは愛を着るかのよう。ナポレオンジャケットは刺繍で豪勢に飾り立てた。ビジューたっぷりのガウン風アウターやグラマラスなデニムルック、ガーリーな大襟付きのシースルー黒ワンピースなど、SNS受けしそうな高濃度装飾も盛り込んでミレニアル世代への訴求も忘れていない。

 

 おしゃれを面白がるような手法を得意とする鬼才ジェレミー・スコット氏は「モスキーノ(MOSCHINO)」でプレイフルの領域をさらに掘り進んだ。モデルは服を着て登場するのが当たり前だが、いたずら好きのジェレミーがまとわせたのは、服をプリントした平べったいパネル。ランウェイは観光名所でよく見る顔出し看板のような見栄えになった。着せ替え人形に貼り付ける際に必要な「のりしろ」まで肩や腰に添えて、「つくりもの感」を強調。風をはらんでたなびく、ドレスのドレープ裾までトロンプルイユ(だまし絵)風に造形。「歩く紙人形」「着るイリュージョン」風に演出した。モチーフも茶目っ気や皮肉がたっぷりで、錠剤やハイヒールなどをカラーリッチに写し込んだ。アイテムではワンピースのスイムスーツを模したオールインワンが繰り返し登場。ゴールドのネックレスやロゴチャームでグリッター感も醸し出していた。

◆パリコレクション

 名門メゾン「バレンシアガ(BALENCIAGA)」を任されたデムナ・ヴァザリア氏は2シーズン目のショーでパワフルな肩張りシルエットを押し出した。ファーストルックからビッグショルダーのトレンチコートを披露。その後も角張ったボクシーシルエットのジャケットルックを続けた。構築的でスクエアなストロングフォルムだが、パワースーツ風の気負いは薄く、むしろかさばり具合を茶化すかのような操り方。つやめき生地のレギンスを持ち込んでフェティッシュ風味を宿している。塊感を帯びた特大のバッグも程よいおどけ加減。レトロ調のカラフルな花柄はキッチュな気分をはらむ。ポケットだらけの作業着風ベストはストリートテイストを添えた。精緻なカッティングのドレスやジャケットには創業者へのリスペクトがうかがえた。

(左から)LOEWE 、 HERMES

 パリモードの風向きを占ううえで、見過ごせない存在になった「ロエベ(LOEWE)」。ジョナサン・アンダーソン氏は官能性とフレッシュさを響き合わせ、縦落ち感のきれいなシルエットに仕上げた。ボリュームの「過剰」とたわむれる流れに加わり、袖にティアード(段々)を配したり、極太ベルトでコルセット風に腰を締めつけたり。ふんわり膨らんだブラウス裾は朗らかな表情。レザーのクラフトマンシップで知られるブランドらしく、手首に巻きつけたのは、レザーとゴールドメタリックを組み合わせたアクセサリー。服でも布とレザーを自然に交わらせて、質感の違いを際立たせた。首周りに寄せたギャザーものどかでノーブル。パッチワークを思わせる布の切り替えを施して、着姿を弾ませている。

 

 「エルメス(HERMES)」は目先のトレンドを追いすぎない「タイムレス」な立ち位置を示した。トーンを落としたピンクやモーブを基調色に据えて、やさしげな春気分を運んできた。中盤からはカーキ系が続いた。オーバーサイズのムーブメントは張り気味のショルダーで受け流しつつ、クラシカルなフォルムを構築。ウエストで絞って「フィット&フレア」にまとめ上げている。袖のロールアップやノースリーブの肩出しで適度に肌見せして健康的なフレッシュ感を印象づけた。ビッグポケットやジップアップにワークウエアへの目配りがうかがえる。パンツではハイウエストを目立たせている。ミニバッグはアクセサリーを兼ね、ネックレスとしてもまとわせた。隠し味はレザーに宿る職人技だ。

(左から)ALEXANDER McQUEENMIU MIU

 英国スコットランドの北に位置し、北海に浮かぶシェトランド諸島はウール産地として知られ、セーターは日本でも名高い。母国の服飾遺産を掘り起こし続ける、「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)」のサラ・バートン氏はこの諸島に息づくニット文化とレース技術を新コレクションの背骨にした。繊細で透けるニットやレースで仕立てたドレスに、スタッズを打ち付けたパンク風味の黒革ブラトップやコルセットを重ねる。クラシックな編み柄越しに素肌がほのかに透け見える官能的な演出。中世風のフリルが躍る指先には硬質なレザーが加わって、ロマンティックとフェティッシュが交差する。戦士風の編み上げブーツは武骨で凜々しい。民族衣装であるキルトスカートの面影や、歴史的な紋章モチーフを写し込みつつ、シェトランドゆかりのクラフトマンシップを注ぎ込んだ。

 

 ビーチカルチャーをモードに写し込む試みが世界規模で広がる。「ミュウミュウ(MIU MIU)」のミウッチャ・プラダ氏はノスタルジックなスイムウエアをキーイメージに据えて、1950年頃の気分を持ち込んだ。ビキニが一般的になる以前の古風な水着姿を再現。ホルターネックのトップスやブルマー風のホットパンツにひねり返した。スイミングキャップに似たヘッドアクセサリーも添えた。ミッドセンチュリー期の家具や壁紙を連想させるストライプ柄やグラフィカルモチーフで懐かしげな風情に彩った。バスタオル風のスカートや、バスロープっぽいガウンアウターも投入。ビーチサンダルライクな履き物にも海辺のリラクシングなライフスタイルを投影している。レトロな柄と楽観的なカラーパレットがくつろいだムードを呼び込んだ。

 

 SNSでの拡散を意識してファッション表現がアイキャッチーでトリッキーな方向へ急ぐ傾向がある中、パリとミラノの創り手たちは「過剰」のニーズを受け止めながらも、カルチャーやクラフトマンシップといった別のストーリーを用意した。ジェンダーレスの流れに対しても、部分的に相乗りしつつ、たおやかさを融合。マーケティングが幅を利かせるファッションビジネスの現状に、おしゃれの「楽しさ」を打ち出す格好で異議を唱えた。そのポジティブな選択は、ますます予測不能になってきた世の中にあって、ファッションの意味や役割を再確認したデザイナーの気持ちの表れのように思えた。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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