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2017.01.04
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.38】2017年春夏ファッションの6大トレンド
宮田理江のランウェイ解読 Vol.38
2017年春夏のファッションは「おしゃれの楽しさ」をうたい上げる。シルエットで心を躍らせ、色・柄でムードを若返らせる。前シーズンのグラマラス傾向を受け継ぎながら、ガーリー感やトロピカル風味をプラス。不規則なフォルム、意外なディテールなどが着姿にウィットを添える。
◆ジェントリーガーリー
(左から)Chloé 、PROENZA SCHOULER
ロマンティックな花柄をキーモチーフに、初々しく元気な装いが活気づく。でも、甘さや幼さは遠ざけ、大人気分のラブリームードを提案。程々のジェントリーなガーリーが今の落とし所。ストリート風味やユースカルチャーを持ち込むアレンジが遊び慣れた風情のこなれたプリンセス像に導く。全体を彩るのはオプティミスティック(楽観的)な気分。やわらかい着映えのミニ丈ワンピース(イージードレス)や、スイムウエアを思わせるブラトップ(ブラレット)がアイコニックなアイテムに。オフショルダーやウエスト見せを軸にした適度な肌見せの「ヘルシーセクシー」もフレッシュな印象を生む。別テイストとのミックスレイヤードがスイート感をカット。チアフルな色使いが装いにエナジーを注ぎ込む。主役カラーはピンク。くすませたダスティー系が主流に。フローラルになじむイエローやグリーンもナチュラルな華やぎを添える。
◆デコラティブドラマ
(左から)GUCCI 、DOLCE&GABBANA
装飾性を盛り込む傾向は続くが、演出はさらに劇的になり、バリエーションも広がる。基本トーンはグラマラスからロマンティックにシフト。前後左右の不ぞろいを生かしたアシンメトリーがドラマを呼び込む。袖先の広がったベルスリーブ、「X」字シルエットを生むコルセットなどは古風なたたずまい。ラッフルやフリルもクラシカル感を漂わせる。大胆な背中見せはサプライズ度が高い。カットアウトやスラッシュも出番が増える。ランジェリーエッセンスを写し込んだスリップドレスはセンシュアル(官能的)なムード。流れ落ちるフリュイドフォルムや、フィット&フレアのめりはりは流麗な着姿にいざなう。メタリックやレッドがゴージャス感を印象づける。
◆アナザーカントリー
(左から)STELLA McCARTNEY 、Acne Studios
旅に連れ出してもらえるような気分が広がる。南米やアフリカ、アジアの土着カルチャーを、ライトにまとう感覚。そこにカウンターカルチャーやビーチライフが交じり、風土と文化が重層的にミックスされ、ノマド感が忍び込む。トロピカルモチーフ、オリエンタル柄、エスニック模様が地域を特定しないトライバルテイストにいざなう。どこにもない「アナザーカントリー(もうひとつの国)」の風情だ。植物・フルーツ柄、アニマルモチーフがナチュラル感を帯びさせる。キルトやタイダイ、ビーズなど、フォークアートや伝統工芸のエキスも注入。ボヘミアン濃度も上がる。方向感はポジティブで伸びやか。カフタンやウエスタンシャツなど、民族性を帯びたアイテムをボーダーレスに組み合わせる「越境」スタイリングが花開く。
◆キディングバランス
(左から)BALENCIAGA 、MICHAEL KORS
(左から)Maison Margiela 、MOSCHINO
SNSの流れからインスタジェニックで茶目っ気フルなアレンジが盛り上がる。スーパー長袖に代表される「エクストリームシルエット」に続き、ずれ感やウィットを押し出した装いが台頭。「ふざけてる(キディング)?」と言いたくなるほどスリリングなモードの遊びが始まる。左右で異なる仕立て、わざと完成させないアンフィニッシュなどを多用。バスローブ、パジャマ、スイムウエアなどのシーンフリー系、トレンチコート、ライダースジャケットといったシーズンレス系も勢いづく。腰にたっぷりとギャザーを寄せたハイウエストのペーパーバッグ・パンツ。肩を張ったビッグショルダーに、窮屈なナローショルダー。けばけばしいマルチカラー。いたずらっぽいトロンプルイユ(だまし絵)。これらの「くせ者」たちが常識的なバランスを揺さぶる。
◆アーバンアーマー
スポーティーやユーティリティーの先に訪れるのは、自分らしさを表現する実用的な「ユニフォーム」。着心地やリラックス感は重視しながらも、自らの居場所やポリシーを写し出す主張を帯びた「よろい(アーマー)」となる。バイカールックやボマージャケットはシーズンを超えてサマースタイリングとして出現。南カリフォルニア気分を運んでくるサーフウエア、アスリート意識を示すトラックパンツは軽やかでさわやかな着映え。着る人の立場やライフスタイルを印象的に示すのが「制服」の特質だ。バーシティー(大学生風)ジャケットやセーラーパンツも伝統的な「型」を都会的にアレンジ。ポンチョやアノラックはアウトドア気分を象徴する。ストリートとリュクス、機能とモードをねじり合わせる実験が続く。
◆ディテールカーニバル
(左から)MARC JACOBS 、COACH
(左から)J.W.ANDERSON 、N°21
「主役」のシルエットに準じる脇役的位置づけだったディテールがスターの座を狙う。自らカスタマイズする「DIY」のブームを追い風に、ワッペンやリボン、レザーパッチ、アップリケ、スタッズなどの後付け系デコレーションがオンリーワンの愛着をはぐくむ。手仕事ならではのヒューマンなあたたかみも寄り添わせる。大ぶりの外付けポケット、折り目正しいプリーツは着姿に起伏をもたらす。深く切れ込ませたスリットはフェミニンを薫らせる。小技的な工夫では、ドローストリングスやベルトを長く垂らす仕掛けが視線を引き込む。あちこちにノット(結び目)をこしらえたり、ストラップを背中でたすき掛けにしたりといったアレンジも登場。ハンドクラフトの刺繍やレース、ビーズは気品を招き入れる。
これまで柱になってきたジェンダーレスやシーズンレス、シーンフリーはモードの前提条件になり、トレンドは見た目のインパクトを重んじる方向に振れていく。SNS受けを意識して、ややトリッキーなアイデアが前面に出てきてはいるが、下地になっているのは、自在の着こなしを試みる「スポンテニアス(自発的な)」の態度。おしゃれに前向きな「着る側」のモチベーションが押し上げる「楽しさ重視」のトレンドはさらにボルテージを上げていきそうな気配だ。
宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
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