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2017.01.11

売れる理由を探る 2017年小売店のトレンドと注目企業

 小売企業にとっては様々な変化があった激動の2016年。昨年前半にも多くの企業の店舗縮小がありましたが、後半では、「ケネス コール(KENNETH COLE)」がNYの2店舗とオンラインビジネスは継続したものの、残りの全64店舗を閉鎖。20代女性に圧倒的な人気を誇っていた「ナスティ・ギャル(NASTY GAL)」も破産宣告。現在、英国の「Boohoo.com」が買収に名乗りを上げています。年明けは、多くの企業がホリデー商戦の結果を経て、店舗の縮小や、閉鎖、倒産、買収、売却が続々と発表されそうです。縮小プランの検討が噂されるのは、エアロポステール(Aeropostale)、チコズ(chico’s)、フィニッシュライン(FINISH LINE)、メンズウエアハウス(Men’s Wearhouse)、チルドレンズプレイス(The Children’s Place)など。「ケイト スペード(KATE SPADE)」は、ツーリストの減少、割引販売の増加で正規価格での販売が困難なことを理由に苦戦。現在、投資家の間で売却の検討がされているようです。そんな中でも、生き残りをかけ、新しいことにチャレンジする、2017年に注目されている企業とトレンドを見ていきたいと思います。

老舗小売店と新オンラインビジネスがタッグ

 苦戦を強いられている老舗デパートや企業が、若年層に支持されている小売店やECサイトと提携することが、1つの傾向として見られます。ECの強化、客層の若返り、オンラインからオフラインへ誘導する目的を作ることなどで、自社ビジネスの回復を目指しています。

ウォルマート et.comを30億ドルで買収。競合アマゾンに対戦。
ニーマンマーカス レント・ザ・ランウェイのショップインショップを導入。客層の若返り+実店舗への誘導で自社ビジネスの回復を目指す。
HBC フラッシュサイト「ギルト」を買収。Off5thと合併する事で、ノードストロームの「ラック」×「オートルック」の成功例に応戦。
ベッドバス&ビヨンド フラッシュサイト「One Kings Lane」を買収。

*HBC(ハドソンベイズカンパニー)は、サックスフィフスやロード&テイラーの親会社

2017年注目の米国小売業7社

 2016年、アパレル企業の多くが苦戦しましたが、時代とマッチしたマーケティングで消費者の心をがっちりつかみ、成長している企業があります。

ポジティブ広告に反響 アメリカン・イーグル(AE)

 投資会社パイパー・ジェフリー社が昨秋行ったアンケート調査で、高所得者家庭の10代女性が好きなブランド第1位に選出されました。その理由は、姉妹店「エアリー」による、すべての体型の女性を支持する“ボディ・ポジテイブ・キャンペーン”の成果が大きく、メンズよりも婦人のビジネスが好調です。「エアリー」単独でみると、昨年の第2四半期の既存店売り上げは32%増、第3四半期も24%増。以前はエアリーのみの独立店舗がありましたが、現在はAE店舗の中で展開しており、新規顧客の獲得にも成功しています。ランジェリーラインの「ギリーヒックス」を早々に撤廃したアバクロと対照的な結果となっています。苦戦する米国ティーンリテイラーの中でAE社が唯一好調なのは、細々ながらもマルチチャンネルの複合ビジネスを続けてきたことだと伝えらえています。

苦戦するも手堅い支持 ヴィクトリアズ・シークレット(VS)

 若年層は、ナチュラルで心地良い商品を望む傾向にあるため、最も比重を置いていたプッシュアップブラが大苦戦。エアリーでも好調なブラレットやスポーツブラを多品種追加し対応しましたが、構造がシンプルで低価格で作れるため競合店が多く、多数売らなければ従来の売り上げを維持できないという事態に。これまで年に2回のセミアニュアルセールしか行いませんでしたが、ホリデー商戦では、VS史上初の大幅マークダウンで在庫一層を試みました。最大の転機を迎えているVS社ですが、未だ全米のシェアは83.5%を占めています。客層が18~49歳と幅広く、ブランドロイヤリティーを求める客層に支持されていることや、デパートの販売シェア低下にも助けられました。

アスレジャーのパイオニア的存在 ルルレモン

 調査会社NPDグループのスポーツ業界専門アナリストによると、アスレジャーブランドは2,000社以上あり、規模にして970億ドル市場。完全に飽和状態に達している状況ですが、レギンス人気は未だ継続。10代女性のファッショントレンドでは、ルルレモンのレギンスが、依然としてナンバーワンの座をキープしています。昨年12月に発表された四半期の純利益は、投資家の予測を上回る13%増、$544M(5億4,400万ドル)。アスレジャーのパイオニア的ブランドとしてのロイヤリティーは健在といったところです。

セレブ起用で人気再燃 カルバンクライン

 ジャステイン・ビーバーやケンダル・ジェンナー、ベラ・ソーンなどのセレブをマーケティングに起用した「#MyCalvins」キャンペーン戦略で、人気再燃。ブラレットに代表されるコンフォタブルでナチュラルなランジェリーブームにも上手くマッチ、米国のブラビジネスの25~30% を占めるまでに成長しています。昨年、ラフ・シモンズがクリエイティブ・ディレクターーに就任していることからも注目度がアップしています。若年層に支持されるセレブを起用した宣伝で、ロゴを好まないはずのミレニアル層を獲得し見事にヒットした例といえます。

本物志向&透明性で支持拡大 エバレーン

 工場と直接取引することで中間コストを大幅にカットし、生産にかかるコストをすべて透明化したことで急成長のEC特化型ショップです。2016年に発売した「モダン・オックスフォードシューズ」には、発売前に6,500人がウェイティングリストに登録。デザインは至ってシンプルですが、バーニーズNYレベルの品質の商品が適正価格で購入できるとあって、熱烈なファンが存在しています。このECの人気から見えてくることは、ミニマリズムの需要と、品質の高い本物志向の商品を求める客層がいること。Jクルーやバナナ リパブリックは価格と合致しない品質の低下により客離れを起こしており、エバレーンがそのシェアを埋めていると思われます。少量生産で売り切り、希少性を持たせていることも大量生産のファストファッションで育った世代の心をくすぐるようです。そして究極の透明性。その内容には疑問を感じる面もありますが、エアリーのフォトショップを使用しないありのままのモデルの広告が支持され、偽りに対して強い拒否反応を示す昨今の消費者マインドにマッチしています。また、L・Lビーンに代表されるように、100年以上歴史のある老舗ブランドが再燃している現象は、歴史と技術に基づいた本物志向の商品への信頼感であり、エバレーンが使用している工場はいずれもその分野での最高の職人によるものです。成功に導いたキーワードは1つではなく、“ベーシック・高品質・適正価格・少量生産・偽りがない・本物志向”といった複合的な要素があると考えられます。消費者マインドを上手く商品化したビジネスです。

米国2位ブランドに飛躍 アンダーアーマー

 過去2年にわたり、年間30%増を達成。米国ではアディダスを抜き、ナイキに次ぐ2番手のポジションへと急成長しました。今後2年は成長の鈍化を予測しつつも、新たにバスケットボールシューズをはじめとする高額ラインの新フットウエアコレクションをスタート。加えて、昨年の12月には、プロ野球リーグMLB(メジャーリーグベースボール)と10年間契約を集結、全30チームのユニフォームデザイン・企画生産を2020年からスタートすることになりました。スポーツ業界ではまだまだ新しく、競技者にフォーカスした企業でありながら、一般消費者層にもクールなブランドとして注目されています。

デザインラボを新設 アディダス

 昨年、ナイキのホームタウンでもあるオレゴン州ポートランドに、デザインラボをオープン。高額ラインの新デザインや、スタンスミスに代表されるクラシックモデルの再構築を行っています。また、カニエ・ウエストとのパートナー契約により、アディダスの中でモダンファッションラインを展開します。昨年、5番街に、3,158平米の大型店舗をオープン、その存在感を増しています。

 

 苦戦しているブランドから見えてくるもの、好調なブランドから見えてくるものがあります。ここ数年は、複雑な消費者マインドが、ファッショントレンドやそのブランドを支持するきっかけに大きく影響しているのが印象的でした。アバクロンビー&フィッチ社も、クールキッズしか相手にせず、ビッグサイズを展開しないといったエゴイズムが 消費者の反感を買い、ブランド離れという最悪の事態も引き起こしました。これからのアパレルビジネスには、デザイナーの感性やこだわりのファッショントレンドを取り入れた製品というだけでなく、何か消費者の心に訴える、プラスαのアイデイアが必要なのかもしれません。

■ ケネス コール http://www.kennethcole.com/

■ ナスティ・ギャル http://www.nastygal.com/

■ boohoo.com/ http://www.boohoo.com/


 

 

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