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2018.07.26

プレイタイム一強は変わらず 日本ブランドを集めたショールームがマレ地区でスタート パリ・キッズ2019年春夏シーズン

プレイタイムの会場

 24回目を迎えた子供服・マタニティーの合同展「プレイタイム・パリ(playtime paris)」は、今シーズンも出展者が増加。前シーズンより、もう一つのトレードショー「キッド(kid)」が無くなったことにより、この1年でプレイタイム・パリ一強が固まった格好だ。一方でキッドの主催者の一人が新たに日本ブランドを集めたショールーム「フロム・ジャパン・ウィズ・ラブ(FROM JAPAN WITH LOVE)」をマレ地区でスタートさせた。プレイタイム・パリは6月30日から7月2日の3日間、フロム・ジャパン・ウィズ・ラブは、1日多い6月29日~7月2日だった。日本からは両展示会ともに、それぞれ6ブランドが出展した。

新たに始めた「プレイタイム・オンライン」のデモ

プレイタイム「ニューナウ」のコーナー

 パリ東部郊外、ヴァンセンヌの森にあるパルク・フローラル見本市会場で開かれたプレイタイムには、前年同期比18ブランド増の538ブランド(うちフランス以外が385)が出展し、106ブランドが初出展だった。来場者数は64ヶ国・地域から5,479人で前年同期比5%減。昨年の春夏展が0.03%減だったことを考えるとやや減少幅が広がった格好だ。内訳はフランス国内が43.3%、海外が56.7%と前回とほぼ変わらず、この4年は海外が国内を上回っている。フランス以外の欧州からは1.5ポイント下がって41.4%、アジアは0.6ポイント減って6.7%。欧州域外の順位は昨年と全く同じで米国、韓国、中国、日本、ロシアの順だった。日本からの来場者は80人弱という事になる。4回目となるクリエーターを集めたコーナー『ニューナウ(NEW NOW)』も継続して設置され、パリの大手ECサイトでセーブルバビロンに店舗を持つ『スモーレイブル (Smallable)』とのコラボレーション企画として12ブランドが出展した。

フクフクガーゼ

 フェセル(FICELLE)は毎年、春夏展のみの参加で10回目の出展。「おもてなしセレクション」を受賞したシックスレイヤー(6重)のガーゼ「フクフクガーゼ(fuku fuku gauze)」の特徴をパネルにして興味をそそるようにディスプレイし臨んだ。赤ちゃんが使うガーゼの人形や定番のブランケットなども展示。大人用半纏は7,500円(参考小売価格・税別/以下同)、ブランケット(90×110センチ) 4,000~5,000円、スリーパー3,600~4,200円など。台湾と中国にディストリビューターを持ち、ニューヨーク、ドイツ、ベルギー、カナダなど毎回10件ほどの取引先を得ているそうだ。

「ナオミイトウ」のブース

 また3シーズン目となるイラストレーターの水彩画を使った同社の「ナオミイトウ(NAOMI ITO)」は今季、「自然の尊厳へのオマージュ」をテーマに水、山、虹など自然をモチーフにして、神秘的な世界を表現。新色にはコバルトブルーを用い、七宝とスカートの共布を使ったネックレスもアーティストとの協業でディスプレイした。ブルーが鮮やかなサマードレスは6,000円、ジャカードのパンツは5,500円。

「タゴ」のブース

 9回目の出展となる「タゴ(tago)」のテーマは「ガーデン」で、花や蝶を散りばめたが、デザイナーが「企画しているうちに海が恋しくなってボーダーを入れてしまった」ともう1ライン増やしたことを語ってくれた。星と船のプリントをあしらったボーダーのデラベジャージワンピースは1万9,200円。ジャックプレベールの詩をプリントしたマドラスのコットンパンツは、1万1,000円。既存はロシア、イタリア、モナコ、サウジアラビア、カリフォルニアなど8件、新規もサウジアラビア、レバノン、ニューヨーク、中国など8件ほどの予定。

「アーチ&ライン」のブース

 「アーチ&ライン(ARCH&LINE)」は8回目の出展。スタッフ本人が着られるかを考えながら企画したものも多く、子供用のみの可愛いもの以外はすべて大人サイズも展開しており、「ミニミー」の流行にフィットしている。デザインのベースはトラディショナルでありながら、シルエットを今風にしつつ、短長繊維の複合が生地の軸となるなど素材押しが奏功している様子だ。男女児同素材で異なるアイテムの反応が良く、特にTシャツや短パンなどが売れ筋となった。ナイロンオックス(小松精錬のコンブ)を使ったモッズコートは、1万6,000円。シャリ感と光沢感のあるナイロン×ラミー糸のラグランスリーブ・ドリズラージャケットは1万2,000円。既存がカナダ、イタリア、ベルギー、フランス、中国など約25件あり、新規はイタリア、サウジアラビア、ドイツなど約10件を獲得する予定だ。また英国のエージェントとの契約が決まったという。

「ヌヌフォルム」のブース

 「ヌヌフォルム(nunuforme)」は、5回目の出展。袖口に大きくフリルを付けたスリーブブラウスは8,900円、ネイビーのポインテッドパンツは7,400円。前身頃にタックを摘まんだカーキのスクエアパッチワンピースは9,500円。イタリア、クウェート、サウジアラビアなどの既存に加え新規のイタリア、米国などから反応があり、米国はショールームとの契約が決まった。

ロシア「マムズ・オブ・シックス」のブース

 海外からの出展者では、大人のトレンドを取り入れた注目ブランドもある。

 ロシアの「マムズ・オブ・シックス(MUM OF SIX)」は、6人の子供を持つ母親がスタートし、ブランド名そのままになった。PVCを随所にあしらい、子供服らしからぬ素材使いが特徴。紙素材とPVCのヨットパーカーは100ユーロ(FOB/以下同)、綿・PVCのスカートは60ユーロで日本未上陸。

「ミカエラ・バーガー」のブース

 パリの「ミカエラ・バーガー(MICHAELA BUERGER)」は、12年にウィメンズのブランドとしてスタートし、既に日本にも取引先を持つが、16年から始めた子供服はまだ日本に販売されていない。手編みの擬人化されたパンダや猫、ペンギン、サメ、ドラゴンなど動物たちの楽しい仕草のアップリケをトレーナーやワンピースの好みの場所に付けられるセミオーダー服。切り替えのカットソーワンピースは50ユーロ。

プレイタイム代表のセバスチャン・ド・ユッテン(撮影:Karel Balas)

 プレイタイムのセバスチャン・ド・ユッテン代表は、現在のマーケットについて「トランジットしている時期で、違う場所のどこに行くか分からない」といった混とんとした状況にあると分析。ただし、「実際に触れられる展示会はとても重要だ。一方でデジタルもまだ十分ではない。1つの道具としては、とても重要でフィジカライゼーション(物体化)に利用するという考え方もある」とデジタルを活用したプラットフォームの可能性を示唆した。同社は先シーズンから新たなデジタルショールーム「プレイタイム・オンライン」を立ち上げ、46ヶ国340人のバイヤー登録を得てスタートしており、子供服業界では先鞭を着けている立場といえる。一方で「世界はグローバル化していくがグーグルやアップルのように大きなエコノミーとは違う道がある。『私たちがしたいことをしていく』というエコノミー、すなわちパーソナル・ヒューマン・エコノミーだ。クオリティーの高さや人と人を繋ぐ、或いはストーリー、クラフトマンシップといったテーマに基づくパーソナルカスタマーリレーションが重要になってくる」とも述べ、同展の大きな方向性を語った。東京展(8月21~23日)については「たくさんのブランドから続けてほしいと要望があり、会場も恵比寿に変更し、バイヤーとブランドのマッチングに注力して、もっとビジネス寄りのものにし、新しい形として再生させていく」と抱負を語った。

マレ地区で開かれたショールーム「フロム・ジャパン・ウィズ・ラブ」には、日本から6ブランドが参加

「フランキーグロウ」のブース

「フランキーグロウ」(左)と「ハウル・オブ・ワンダー」

 「フランキーグロウ(frankygrow)」はキッドから1年振りの出展。「ここではない何処か、自分は今ここに居るが、ここではない」という言葉で今季のテーマを説明した。流行とは無縁の独特の空気感を現しているそうだ。またグラフィックデザイナーの神山隆二とテキスタイルのコラボを行い、蛍光イエロー×ベージュ×薄いピンク、モノトーンで3版のプリントを施したシリーズや風合いが良く、柔らかく染め上がると言われる「東炊き」で製品染めしたシリーズも。一方、前述の神山氏がディレクションした環境やアウトドアがテーマとなる男児の新ブランド「ハウル・オブ・ワンダー(HOWL OF WONDER)」も立ち上げた。日本環境設計の再生ポリエステル(ブリング)を使ったカットソー中心のブランドだ。フランキーの綿のジャケットコートは、1万4,500~1万5,800円(参考小売価格・税別/以下同)、ハウルの7分袖ロングTシャツは、5,200~5,700円。オーストリア、ドバイ、欧州各国やボンマルシェにも見てもらえたという。

 

「グリ」のブース

 ブランドとしては4シーズン目の「グリ(GRIS)」が初の海外進出を果たした。メンズとウィメンズのパターン・OEMの会社で、子供服のオリジナルブランドを立ち上げた。「大人でもここまでやっていない棘のある洋服」と言われるそうだ。パーツの細かさと多さが特徴で、デビューからインサイドアウトのテクニックを使っており、「根本を覆す」という考え方を子供にも持ってほしいとの願いも込めている。この定番のクラシックラインは3年間着られる事が条件で、ボタン位置や裾の折り返しで幅と丈を調整できるようにしている。また洗われることで風合いや味が出るループコットン素材で長く着てほしいと企画している。このクラシックラインのブラウンのロングコートは、6万円前後、ピンタックに縫い糸を垂らしたオレンジのタックドレスは、1万6,800円。オーストリア、イタリアなどから受注した。

「イースト・エンド・ハイランダーズ」のブース

 キッドの時から継続出展し、前シーズンはフィス(FITH)と合同ショールームを開いたノーザンスカイ(NORTHERN SKY)の「イースト・エンド・ハイランダーズ(EAST END HIGHLANDERS)」は、従来のトラディショナルなものに対してアーバンスポーツラインを強化したが、特に袖に文字が入ったロングTシャツなど新しいものを求めているバイヤーには反応が良かったという。レトロな色合いのトラックジャケットは1万5,000円、ゆったりとしたシルエットのテーパードパンツは、1万3,500円。近年、老舗の勢いがなくなってきていると感じており、一方で5年位の店が元気なのだが、売上げ規模が老舗ほど行かない点が悩みの種だそうだ。あまり多くはないが中東が好調で、中国は倍々ゲームという状況だ。

「フィス」のブース

「ゴー・トゥ・ハリウッド」のブース

 前シーズンからノーザンスカイによるサポートでパリ進出を果たした子供服メーカー、フィスは、「フィス(FITH)」と「ゴー・トゥ・ハリウッド(GO TO HOLLYWOOD)」の2ブランドで参加した。フィスはオッケージョンの打ち出しを強化し、高級志向の百貨店などに照準を当てたラインも出し、白い花をアップリケしたブラウスドレスやタキシードスーツも披露した。

「ザ・パーク・ショップ」

 初出展の「ザ・パーク・ショップ(THE PARK SHOP)」は、「公園で遊ぶ」がテーマ。乗って遊べるツールボックスやスケボーまで揃えた子供軸のライフスタイルブランドだ。手描きのグラフィティーデニムジャケット(9,800円)やシャツが注目された。

フロム・ジャパン・ウィズ・ラブ (FJ)の会場

 「フロム・ジャパン・ウィズ・ラブ」を主催するユメ・アディダさんは、「マレ地区でメンズやウィメンズの時のように複合ブランドのショールームがいくつも開かれている形を目指している」という。「ショールームは、(トレードショーのように)多くのブランドに埋もれたくないというニーズを捉えており、ゆっくり見てもらえる点が魅力」と話す。またマレ地区で開催したことの相乗効果として、メンズやウィメンズのプレコレに訪れているバイヤーが来場した点も挙げた。次シーズンは「メゾン・エ・オブジェ」とも絡められる早めの日程に拡大し、「将来的には1週間にしたい」と抱負を語った。

 来場者数5,000人(秋冬は7,000人)を超える圧倒的な影響力を保持したトレードショーと、少ないながらゆったりと見てもらう複合ブランドショールームの2軸で展開されるパリのキッズトレードビジネス。それぞれに分がありつつも、全ての課題に応えられる訳ではない。まずは、両展合わせて12の日本ブランドが参加したことは、少しだが前進と言える。メンズ・ウィメンズのように、あちらこちらで日本ブランドのプレゼンテーションが開かれるようになるために、何が必要なのか。海外進出に出遅れた日本のキッズ業界の巻き返しに期待したい。次回のプレイタイム・パリは2019年1月26~28日に開催予定。


 

 

久保 雅裕(くぼ・まさひろ)
アナログフィルター『ジュルナル・クボッチ』編集長

 

ファッションジャーナリスト・ファッションビジネスコンサルタント。繊研新聞社に22年間在籍。『senken h』を立ち上げ、アッシュ編集室長・パリ支局長を務めるとともに、子供服団体の事務局長、IFF・プラグインなど展示会事業も担当し、2012年に退社。

大手セレクトショップのマーケティングディレクターを経て、2013年からウェブメディア『Journal Cubocci』を運営。複数のメディアに執筆・寄稿している。杉野服飾大学特任教授の傍ら、コンサルティングや講演活動を行っている。また別会社で、パリに出展するブランドのサポートや日本ブランドの合同ポップアップストア、国内合同展の企画なども行い、日本のクリエーター支援をライフワークとして活動している。

 

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