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2025.04.06
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.105】抗(あらが)う心、自分エンパワーメント 2025-26年秋冬・東京コレクション

写真左から「チカ キサダ」「ハイク」「テルマ」「フェティコ」
「楽天ファッション・ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」(通称、東京コレクション/以下、東コレ)の熱量が一段と高まってきた。クリエーションの成熟に加え、デザイナーマインドに骨太さや社会認識が強まっている。2025年3月に発表された2025-26年秋冬コレクションのウィメンズでは、強さとしなやかさを兼ね備えた女性像が相次いで打ち出された。一言で言い表せば、「抗(あらが)う心」。目立ったコレクション(ウィメンズのみ)をリポートする。
◆チカ キサダ(Chika Kisada)


圧倒的な強みを持つバレエ表現に、スポーティーさやタフ感を織り込んで、「柔軟な鎧」をまとった反骨レディーを呼び覚ました。バレエ×パンクの基本線に、ロマンティックでエッジィな切り口をもたらしたのは、ファッションドールのバービー人形。「あなたは何にだってなれる」というバービーのメッセージを追い風に、バリエーションを拡張。トレンチコートを短め丈ドレスライクにリモデル。フライトジャケットも持ち込んだり、ボリュームの起伏を大きくして、動感をアップ。インディペンデントな女性像を際立たせた。
◆フェティコ(FETICO)


タイトめなボディーコンシャスやフィット&フレアのシルエットで、ボディーの曲線美を引き出した。ボンデージカルチャーとオートクチュールを交差。レザーのハーネスやベルトをあちこちにあしらった。黒のチョーカーも緊縛イメージを宿す。クラシカルなムードを強め、素肌の露出は控えめ。テーラードスーツも見せた。レザーやベロアといったつやめき素材でムードを深めている。身体の造形美を引き立てるボンデージクチュールが、新たな境地を切り開いた。
◆ホウガ(HOUGA)


Courtesy of HOUGA/Photo by Koji Shimamura
普段使いしやすいドレッシーな装いが提案された。ダークファンタジーのエッセンスが加わり、ロマンティックでありながらもどこか謎めいた雰囲気。フラワーコサージュ風フリルを配したドレスが高揚感に誘い、バルーンスカートでさらに華やいだ気分をまとわせる。トレンチコート風ショートアウター、チェック柄シャツ、ふんわりスカートのようなずらしコーディネートを用意した。特別な日向けのスペシャルライン「ホウガ バンケット(HOUGA Banquet)」がデビュー。クラス感の漂うドレスピースがさらに厚みを増した。
◆ハイク(HYKE)


Courtesy of HYKE/Photo by Jun Okada (bNm)
ミリタリーと洗練の掛け算を一段と練り上げている。ブラウン系を軸に据えて、穏やかなトーンでまとめ上げた。トレンチコートはクロップド丈ジャケットに変形。フープイヤリングやロンググローブを添えて、ドレッシーに整えている。レディーライクなケープ風ニットは正面の身頃はくり抜かれ、シャツとレイヤード。スカートの両サイドにどっさり連ねたロングフリンジが躍る。フライトジャケットにはもこもこのボア素材を部分的に配して異素材ミックスに。ワークウエアやアウトドアの風味も加えて、ユーティリティーエレガンスを深掘りした。
◆タエ アシダ(TAE ASHIDA)


終幕に向かってクチュール度と高揚感を高めていくというオーソドックスなショー構成で、本格感を印象付けた。装いのトーンはしなやかで凜々しい。マスキュリンを自然に写し込んだロングコートは端正なシルエット。ブランケットコートにはマフラー風フリンジをあしらった。横長のバッグでは多様な持ち方を提案。シャツ・セットアップは軽やかでエアリー。つややかでリュクスなドレスは本気のドレスアップに誘う。手の込んだディテールと丁寧な仕立てが別格のクラス感をまとわせていた。
◆ハルノブムラタ(HARUNOBUMURATA)


女性レーシングドライバーの先駆けから着想を得て、インダストリアル(工業的)感を帯びた装いを送り出した。モータースポーツに特有の硬質さ、スピード感、タフさなどを織り込んでいる。オイルっぽい質感を帯びたレザー調の素材感を帯びたウエアはワークウエアに通じる。強みのドレープ表現がカッティングの流麗さを引き立てた。光を受ける角度に応じて見え具合の変わるファブリックが所作の美を印象付ける。さまざまな着映えするドレスをいくつも送り出し、タフでしなやかなイメージを際立たせていた。
◆テルマ(TELMA)


Courtesy of Japan Fashion Week Organization
ダークファンタジーや強さを兼ね備えたミステリアスなムードを立ちのぼらせた。正統派のテーラードジャケットやパンツスーツを軸に据えつつ、ひねりを加えている。まばゆい星形がキーモチーフとなり、ワンピースを埋め尽くした。メタリックなきらめきビジュウはあちこちにあしらわれ、ロンググローブにも光輝を招き入れている。ファーやレザーで質感に幅を持たせた。スーパー高襟やチョーカー、もふもふバッグ、ハイソックスなどがまとまりを揺さぶる。確かな技術を裏付けに、表現領域を広げてみせた。
◆ピリングス(pillings)


Courtesy of Japan Fashion Week Organization
デザイナー自身が育った団地を思い描いて、温和でノスタルジックなルックをそろえた。持ち味のニット表現は技術面でもさらに深化。ブランド名の「毛玉」をいっぱいこしらえたり、縮絨加工を多用したり。しわやこぶ、たるみなどを使ってニットの表情にいびつな深みを持たせている。裏地があふれ出たかのような、ウィットフルなディテールが朗らか。整った「きれいさ」から離れるアプローチが人肌のぬくもりをもたらしていた。
◆ケイスケ ヨシダ(KEISUKEYOSHIDA)


10年の節目を迎えて、持ち味のナード感を濃くした。不穏なムードを漂わせ、ウィットフルに仕上げている。スカートはランジェリースリップをひっくり返したかのよう。コートには実家のじゅうたん模様を写し込んだ。私的な美意識を持ち込む、ブランドの原点回帰が懐かしげな雰囲気を呼び込んだ。ハイヒールにバックパックといった不似合い系の組み合わせを多用。エレガンスと町場感をあえて融け合わせない不ぞろいの美学を奏でている。
◆ハトラ(HATRA)


ブランド創設から15年目で初のランウェイショーはSFやテクノロジーのテイストに包まれた。オプティカルアート風のプリント柄や、つややかな質感がインダストリアルでクールなたたずまい。バンドゥー型のブラトップに同柄のコートを重ね、優雅なセットアップスタイルに。貴婦人のようなロンググローブに大人ドレッシーな風情を託した。スタイリングでノイズを奏でた。きらめきを帯びた未来・宇宙的なテイストに、落ち感やボリュームを加えて、デジタルエフォートレスな装いを示していた。
◆サトルササキ(SATORU SASAKI)


抽象画家のマーク・ロスコから着想を得て、アート感を帯びたコレクションにまとめ上げた。濃い赤やブルー、オレンジなどの、ロスコ絵画に通じる鮮やかな色使いがルックを彩る。ループ編みのハンドニットが陰影を宿した。大胆なカッティングを採用。ジャケットは背中側をくり抜き、袖の異素材切り換えや、着丈の前後アシンメトリーで動感を引き出した。絵の具を置くパレットのモチーフを盛り込んで茶目っ気をのぞかせている。
◆ベイシックス(BASICKS)


スポーツテイストをパンクにねじって、ファニーな気持ちも溶け合わせた。根っこに見え隠れするのは違和感や反骨心。ルールや一体感の象徴的なユニフォームをウィットフルに再解釈している。サッカーユニフォーム風のタンクトップはアシンメトリー仕立て。袖を通さないバックレスのシャツはボディーの前面に吊っている。トラックパンツはベロア風素材でドレッシーに昇華。野球ユニフォームにはブランドロゴを架空球団名のようにプリント。見慣れたイメージに、疑いのまなざしを差し込んでみせた。
◆ヴィヴィアーノ(VIVIANO)


Courtesy of VIVIANO/Photo by Shun Mizuno
デコラティブが復活する流れを物語るかのような、マキシマリズム・クチュールの装いを打ち出した。ヴィンテージやテーラードなどが交わらせて、複雑にムードの入り組んだカオス的なマリアージュに導いている。ダブルブレストのボアジャケットにはふわふわのチュールスカートを合わせた。レディーライクなツイード生地のコートにスポーティーな2本線ハイソックスを添えるようなずらしを仕掛けている。スタイリングの方程式は、リアルクローズ×ドレッシー。特大襟やロング・ボウタイのデフォルメも効いていた。
◆ノントーキョー(NON TOKYO)


Courtesy of Japan Fashion Week Organization
競馬場に集う下町ギャンブラーを着想源に、「原宿ポップ」と呼ばれた、往年の東コレに通じるプレイフルな装いを試した。キーアイテムはフィッシングベストとウエストポーチ。ガーリー感を盛り込んで、一般にはイケていないと見られがちな競馬場ルックをファニーに読み換えた。「ガテン」系のジャンパーや、アポロキャップ、おじさんスラックスなどもキュートにねじり返している。程よくノスタルジックな雰囲気が漂う。アッパー部分はスニーカーで、下側半分はパンプスというスニーカー・ハイヒールが足元にもいたずらっぽさを呼び込んでいた。
◆リブノブヒコ(RIV NOBUHIKO)


Courtesy of Japan Fashion Week Organization
ブランドを立ち上げて以来、初のランウェイショーで強い印象を残した。「Wild Luxury」をコンセプトに選んで、日常にフィットするクチュールを提案している。繊細さと強さという二面性にフォーカス。花柄やチュール素材でフェミニン感を漂わせつつ、マニッシュなテーラードジャケットも用意した。スリップドレスやロングベールが優雅に揺れ、キャップを合わせたハズシのスタイリングがアクセントに。スーパーフレアのスカート裾をハンドルで吊り上げるギミックも見せた。
◆ティート トウキョウ(tiit tokyo)


Courtesy of Japan Fashion Week Organization
ハンサムフェミニンの掛け合わせで二面性を映し出した。ダークファンタジーの演出を取り入れて、ミステリアスな空気を漂わせている。両袖を裁ち落としたかのようなテーラードジャケット、指先まで隠す長袖シャツは細長いシルエットを際立たせる。セットアップが多彩で、ベストとフレアパンツ、セーターとショートパンツなどが組み合わせの幅を広げた。ベロア調の生地で仕立てたロングドレス、シルキーな質感のジップアップ・ブルゾンはつややかで艶感をまとっていた。
◆タン(TAN)


ニット主体のブランドが創設から10年で、ブランド初のランウェイショーを開いた。多彩なレイヤードがニット表現の奥深さを証明した。着丈の短いケープやビスチェを重ねて、重層的に見せるレイヤードが味わい深い。毛足の短いもふもふ素材や、つやめいた生地などの異素材をマリアージュ。ニット特有の風合いを引き立てている。パステルトーンの濃淡が響き合う。ボディーを斜めに横切るアイテムや、髪をくるむヘッドアクセサリーはアジアエスニックの風情。穏やかな質感のニットから、芯の強いイメージも引き出していた。
今回の東コレでは、強さと反骨心を備えた女性像が押し出された。大人志向が強まり、表現も成熟を重ねてきた東コレは新たなステージを迎えつつあるようにも見える。着る人に高揚感をもたらし、自分エンパワーメントに導く今の流れは、クリエーターそれぞれが「我が道を行く」ような足取りが頼もしくすがすがしい。
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宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
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